くも膜下出血の原因になる未破裂脳動脈瘤の検査と治療
未破裂脳動脈瘤はくも膜下出血の原因になります。未破裂脳動脈瘤が発見された場合は、経過観察または治療を行います。
ここでは未破裂脳動脈瘤の検査と診断、治療について解説します。
くも膜下出血の原因になる未破裂脳動脈瘤
くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤とはどのようなものでしょうか?
脳動脈瘤とは脳動脈の壁にできた瘤(こぶ)のように膨らんだ部分のことです。見つかった時点で動脈瘤から出血(破裂)の兆候がない状態のことを未破裂脳動脈瘤といいます。脳ドックなどで頭部MRI検査を行うと、日本人では約5%程度の人に見つかるといわれています。
未破裂脳動脈瘤が破裂する危険性は、動脈瘤の部位、大きさ、形などによって異なりますが、おおよそ年間約0.7~1%程度と考えられています。
動脈瘤の大きさが5mm以下の小さいものや、頭蓋骨の底の部分にあるものは、破裂する危険性は低いとされています。一方で、大きなものや形が不整なものは破裂する危険性が高いと考えられています。
未破裂脳動脈瘤の検査と診断
未破裂脳動脈瘤の検査の中で侵襲が低いものとしては頭部MRI検査があります。経過観察の方は、何回も撮っていく必要があるので、頭部MRIで経過をみていくことが多いです。
脳動脈瘤の形状や正確な大きさを調べる場合は、CTA(造影剤を用いたCT)を行います。手術や脳血管内治療をする場合はCTAをすることで、動脈瘤の形状や大きさ、小さな血管が動脈瘤の近くにあるかどうかなどが詳しくわかります。
さらに詳しい検査としては、足の付け根からカテーテルを脳血管に導引して造影剤で詳しくみる血管造影という方法があります。
未破裂脳動脈瘤の治療
未破裂脳動脈瘤に対しては経過観察を行う場合、開頭手術または血管内治療を行う場合があります。
経過観察
動脈瘤が発見されたら、すぐに治療するというわけではありません。動脈瘤が小さい場合(3mm以下)、または合併症などが重症で手術を行うリスクが高い場合は、経過観察を行います。
およそ数か月から1年毎にMRI検査などの画像診断を行い、未破裂脳動脈瘤のサイズや形状が変化していないか確認をします。もしサイズや形状に変化がみられた場合は、手術を考慮します。
また、高血圧治療、禁煙、大量飲酒など破裂のリスクとなりうる要因の回避を徹底します。リスクがあると動脈瘤が小さくても経過観察中に破裂することがあります。
開頭手術
開頭手術は未破裂脳動脈瘤の破裂を予防するための最も確実な方法になります。
手術は全身麻酔で行います。髪を刈るのはごく一部のみです。皮膚を切開して頭蓋骨の一部を開放し、顕微鏡手術によって脳動脈瘤の根本にクリップをかけて、脳動脈瘤への血流を遮断します。
ただし、治療によって小さな血管がクリップされた場合に脳梗塞などが出現するリスクがあるのと、傷の痛みもあります。治療に要する入院期間も長く、約2週間かかります。治療後は特に日常生活に制限はなく、車の運転なども可能です。
血管内治療
血管内治療では、大腿の付け根から挿入したカテーテルをレントゲンを見ながら脳動脈瘤内に誘導します。そして、脳動脈瘤の内部にカテーテルからプラチナ製のコイルを送りこむことで、脳動脈瘤内の血流を遮断します。
入院期間は数日間と短くて済み、皮膚を切ったりすることはないため、身体への負担も小さい治療となります。
一見すると開頭手術よりも血管内治療の方が良さそうに見えますが、脳動脈瘤内にコイルを100%詰めることは不可能であり、およそ20~30%となります。血流が滞ることで脳動脈瘤内に血栓ができて、脳動脈瘤へ血液が行かなくなるのを期待します。
治療を受けた後は、抗血小板薬(血をサラサラにする薬)を飲んでいかなければならず、脳動脈瘤内にできた血栓が脳内の動脈にとんでしまうと脳梗塞になるリスクもあります。そのため、治療を受けたらそれで安心というわけではなく、その後綿密に経過をみていく必要があります。
また、重い合併症の確率は開頭手術と大きく変わりはありません。
開頭手術か血管内治療かはどのように判断するのか?
開頭手術、血管内治療どちらか選択できるというわけではありません。それぞれの治療で得意、不得意があります。
まず、動脈瘤のできている部位が脳表に近い場合、動脈瘤が小さい場合、すでに動脈瘤内に血栓がある場合などは、開頭手術が適しています。
しかし、脳の深い部分(脳底動脈、内頸動脈の近い部分)は手術の難易度が上がり、合併症を起こすリスクも高くなります。そうした深部の部分は血管内治療が適しているといえます。
開頭手術か血管内治療か、どちらの治療を行うかは年齢、脳動脈瘤の部位、形や全身状態などを総合的に判断して選択します。
いかがでしたでしょうか。未破裂脳動脈瘤は見つかるとすごく不安ですよね。経過観察すべきか治療すべきかは、リスクも踏まえた上での総合的な判断で決まります。
小さいから安心というわけでもなく、破裂のリスクを一つでも減らして少しでもくも膜下出血にならない予防をされることをおすすめします。
<執筆・監修>
九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師
高血圧、頭痛、脳卒中などの治療に取り組む。日本脳神経外科学会専門医。