胃潰瘍の治し方は?止血方法や除菌療法について解説

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胃潰瘍は、胃酸を含む胃液によって消化管粘膜が自己消化されることによって粘膜が損傷する状態です。

胃潰瘍の原因の内、最も多いのはピロリ菌感染によるもので、この他にも非ステロイド系消炎鎮痛剤やアスピリンなどをはじめとする薬剤を長期服用することで発症するものもあります。

ここでは胃潰瘍を発症した際に、病院でどのような治療が行われるのかを解説します。

胃潰瘍の内服薬療法

医療機関などで診察を受けて胃潰瘍が疑われれば、薬剤の内服治療を開始することになります。

胃潰瘍に対して処方される薬物は大きく分類して2種類あります。

一つは胃酸など胃粘膜にとって攻撃因子の作用を抑える効果を有する攻撃因子抑制薬、そしてもう一つは胃粘膜を保護する胃粘液などの防御因子を増強する機能を持つ防御因子増強薬になります。

例えば、攻撃因子抑制薬の代表例としては、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬やH2ブロッカーなどが挙げられます。

通常、胃潰瘍は治癒するまでに数か月程度を必要としますので、腹部症状などが改善したとしても自己判断で処方された治療薬を中断せずに担当医師の指示に従って飲み続けましょう。

また、胃潰瘍を発症する背景に過剰なストレスが関与しているケースでは、ストレスを軽減する薬、抗不安薬、抗うつ薬などが処方されることもあります。

胃潰瘍の除菌療法

胃潰瘍は再発を繰り返して完治困難な病気であると捉えられていましたが、近年では治療薬が開発されて、胃潰瘍の発症にピロリ菌の感染が関与していることが解明されたことも相まって、完治を目指す除菌治療が普及しています。

ピロリ菌に対する除菌治療では、胃酸の分泌を抑制する作用を有する薬剤と、2種類の抗生物質のあわせて3種類の薬物を組み合わせて処方され、これらの3種類の薬剤を一週間服用することで約8割から9割の症例でピロリ菌の完全除菌に成功するといわれています。

ピロリ菌は細菌であるため、抗生剤を使用することで高確率に殺菌することができます。通常では1週間薬を内服するだけでよく、簡便な治療手段となっています。

保険診療では2回まで除菌治療を行うことが可能であり、ピロリ菌が殺菌されて除菌成功したかどうかは、内服終了2か月後以降に尿素呼気試験を行った結果に基づいて判定されます。

また、除菌療法を行う場合にはそれぞれの医療施設の治療方針や個々の状態に応じて、胃の粘膜を保護する薬剤を追加して併用することもあります。

胃潰瘍の止血方法

胃潰瘍の有名な合併症に消化管出血があります。潰瘍病変部の血管が破綻することが出血の原因であり、出血量が多量になればなるほど重症化して生命に危険を及ぼすことになります。

現代では内視鏡(胃カメラ)による止血成功率は9割以上とかなり良好であるため、消化管出血の診断や治療を行う際には消化管内視鏡検査が有効であると考えられています。

内視鏡による止血術の方法には薬剤散布法、局注法、熱凝固法、クリップ法を始めとしていろいろな種類があります。出血源の原因、出血している病変部位、出血量の重症度などによって最適な方法が選択されます。

薬剤散布法

薬剤散布法は、0.1%ボスミン液、トロンビン液、アルギン酸ナトリウム粉末などの止血剤を出血している病変部に直接散布噴霧する方法です。他の内視鏡的止血法の補助的な役割として併用して実施されることが多いです。

びらん性胃炎など急性胃粘膜病変、あるいは胃粘膜の細胞を採取する生検処置を行った後の出血イベントに対して有効とされていますが、露出血管例には無効であると考えられています。

局注法

局注法とは、局注針を用いて薬剤を直接組織内に注入して止血を狙う方法であり、特別な医療機器は不要です。

例えば、純エタノール局注法においては99.5%エタノールの強力な脱水作用によって出血をきたしている責任血管を収縮させて、血管内に血栓が形成されることで止血効果が期待できます。

また、高張食塩水エピネフリン局注法では、エピネフリンの血管収縮作用、高張食塩水によるエピネフリン薬理作用の延長効果を狙って責任血管部に血栓を形成させることによって患部を止血します。

実際の処置では、露出血管部の周囲数か所にこの薬剤を1ml程度注入して出血源の制御ができますし、消化管粘膜などの組織に対する傷害度はエタノールよりも少ないといわれており、比較的安全に使用できる方法となります。

また、フィブリン接着剤を用いることもあります。フィブリンは薬剤そのものによる組織傷害が少なく、止血作用と圧迫効果による止血が可能です。

熱凝固法

熱凝固法とは、露出血管そのものに対して機器を用いて凝固し止血する方法です。

例えば、ヒータープローブと呼ばれる専用機器を使用して、出血源の血管に接するように軽く押し当てて順次患部を焼却(胃潰瘍では25~30Jで約10回焼却が基本)していくことによって血管が平坦化して止血処置が完了します。

高周波焼灼術とは止血鉗子を用いて出血点を焼灼して止血するタイプの熱凝固法であり、4端子凝固子を使用して出血点を押さえ込むように1回につき約数秒間通電することで潰瘍部の血管を焼灼止血できると考えられています。

アルゴンプラズマ凝固法(略称:APC)とはプラズマビームを発生させて止血する効果を期待した熱凝固法であり、電離アルゴンガスにより発生したアルゴンプラズマの作用によって広く浅い出血病変部に対して有効に働くことが知られています。

クリップ法

クリップ法とは、血管をクリップで直接把持して機械的に止血する方法を指します。

血管を直接把持するため、胃粘膜の組織が受ける損傷が最も少なく安全に実施できる治療法です。露出血管を認める、クリップで把持できる病変である、組織が硬化していない、などがクリップ法を実施する際の条件となっています。

ポリープ切除後や粘膜切除後の出血に対して有効に機能する方法であり、クリップ自体にはいくつかの大きさの種類があって患部がソフトな部位ではクリップを大きく開いて把持し、硬い病変部ではクリップを強く押し出して深部で把持するように処置します。

胃潰瘍に伴う消化管出血に対して内視鏡治療は即効的であり効果的であると考えられていますが、まれに止血困難な消化管出血に遭遇した際には、冷静な判断のもとでカテーテルを用いた血管内治療や外科的な緊急手術を実践することもあります。

胃潰瘍を避けるための生活習慣

胃潰瘍を形成する誘因として、塩辛い食べ物や甘みの強い菓子、香辛料などの刺激物、アルコール飲料などの過剰摂取や暴飲暴食といった不規則な生活習慣、そして日々の過労や多大なストレスなどが挙げられます。

特に、食生活に関する生活指導は胃潰瘍を予防するために重要なポイントとなります。

まず、普段から一度に食べる食事量が多くならないように食べ過ぎを回避して、栄養に偏りがないように食事内容を考えて摂取するようにします。

たんぱく質は潰瘍を治療するうえで必要な栄養素であり、脂肪の少ない肉や魚などを取り入れた料理を毎食食べるように心がけます。

牛乳には胃酸を中和する働きがあるといわれており、下痢などの症状無ければ間食などで積極的に摂取するとよいでしょう。

脂肪の多い肉、さつまいも、ごぼう、海藻類などの食物繊維の多い食品は消化しにくいと考えられていますので摂り過ぎないように注意しましょう。

とうがらし、にんにく、わさびなどの香辛料、ニラなどの香味野菜、塩味の強い漬物や塩辛など塩分のリッチな食品は胃粘膜にとって刺激が強いので控えめに摂取するようにしましょう。

空腹時に濃いコ-ヒ-や炭酸飲料などはできる限り避け、極端に熱い味噌汁や冷たい飲料水なども回避するように注意しましょう。

普段から規則正しい生活を送り、食事を摂取する時間が不規則にならないようにして、食事をよく噛んで食べることで消化が促進され、胃にも優しいと考えられます。

適度な運動習慣を実践するのもストレス軽減に有効であり、日常生活で過労をできるだけ回避することも大切です。

まとめ

胃潰瘍に対する止血方法や除菌療法などの治癒手段を中心に解説してきました。

最近では、胃潰瘍に対する治療技術の進歩によって治癒成績は大幅に向上してきました。しかし、病変が再発して症状が再燃することも多く見受けられるため、生活習慣を見直して規則正しい生活を心掛けることが再発防止の観点からも重要です。

特に常日頃からストレスいっぱいの生活を送り、頭痛や腰痛などで痛み止めを乱用して胃潰瘍が疑われる症状を自覚している方、あるいは検診で胃の病変を指摘された方は、病院や診療所を受診することをおすすめします。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。


<執筆・監修>

国家公務員共済組合連合会大手前病院
救急科医長 甲斐沼孟 医師

大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院を経て、令和3年より現職。
消化器外科や心臓血管外科の経験を生かし、現在は救急医学診療を中心とする地域医療に携わり、学会発表や論文執筆などの学術活動にも積極的に取り組む。
日本外科学会専門医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。
「さまざまな病気や健康の悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして微力ながら貢献できれば幸いです」

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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