再発しないって本当?風疹の症状の特徴と重症化リスク
風疹は小児期の予防接種でワクチンを接種しますから、皆さん名前はよく聞いたことがあると思います。
発疹と発熱を特徴とする病気ということはよく知られていますが、実は風疹はそれ以外にもさまざまな臨床症状を呈する病気で、重症化することもある怖い病気でもあります。ここでは風疹の症状やリスクについて解説します。
目次
風疹とは
風疹とは、風疹ウイルスが感染することによっておこる病気です。風疹は麻疹(はしか)に似た発疹を呈し、麻疹より短い期間で症状が消失することから「三日はしか」とも呼ばれます。
風疹ウイルスは飛沫感染によって人から人へと感染が広がります。飛沫感染というのは、ウイルスを含んだ唾液や喀痰などのちいさな粒が、口や鼻から侵入することで感染が成立することをいいます。
口や鼻から侵入しますので、まず感染がおこるのは主に口や鼻、のどといった上気道になります。粘膜や近くのリンパ節に付着したウイルスが増殖した後、血液中に入り込み、全身症状をきたします。
風疹の症状の特徴をチェック
風疹ウイルスが血液中に入り込み、全身へと至ると、さまざまな症状を呈します。しかし、風疹ウイルスは麻疹を引き起こす麻疹ウイルスや流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)を引き起こすムンプスウイルスに比較して感染力が弱いため、症状は比較的軽く、また症状が全く出ない人も25%程度いるといわれています。
症状を呈するのは、体にウイルスが侵入してきてから2~3週ぐらいあとと、長い潜伏期を経たあとに発疹から現れます。その後か、もしくはほぼ同時に発熱がおこります。
また、発熱に先行してリンパ節の腫れが見られることも多くあります。風疹の症状を詳しく見てみましょう。
発疹
前述の通り、多くの場合最初か発熱とほぼ同時に現れる症状です。発疹は顔面から始まり、その後体幹部、四肢へと広がっていくのが特徴です。
また、発疹自体を見てみると、1つ1つの発疹は単独で存在し、他の発疹と癒合、すなわち2つ以上の発疹が重なって見えることが少ないという特徴があります。
また、発疹は3日程度で消失し、跡を残しません。
この発疹が出ている時期が最も他の人への感染力が強い時期となっていますから、注意が必要です。
発熱・せき・鼻水
発疹に前後して、37~38℃程度の発熱が見られます。39℃を超えるような高熱は稀です。
発熱に合わせて頭痛、咽頭痛、咳、鼻汁といった一般的な風邪のような症状が見られます。このような風邪のような症状は発熱や発疹に先行して起こることもあり、風邪だと思っていたら突然熱が出て発疹が出る、といった経過をたどることも多くあります。
この咽頭痛や咳、鼻汁といった症状は、上気道症状と呼ばれます。一般的に上気道でウイルスが増殖しているときにそれを排出しようとする体の防衛反応です。
ウイルスが体に入ってきて増殖をしているときに症状が出てきますので、発熱や発疹といった全身症状に先行してこのような上気道症状が起こってくることがあるのです。
リンパ節の腫れ
前述の通り、風疹ウイルスは上気道だけではなくリンパ節でも増殖します。そのため、ウイルスが増殖しているリンパ節が腫大し、体の表面から触っただけでも分かるぐらい大きくなることがあります。
風疹のときに体表から触ってわかるリンパ節としては、後頭部を中心とした頸部のリンパ節が中心です。
リンパ節での増殖の後に血液中にウイルスが流出しますから、発熱や発疹といった全身症状よりも前にリンパ節の腫れはおこってきます。
関節痛
風疹の症状の1つに関節痛があります。一般に風疹の15~50%に起こるといわれています。症状としては、インフルエンザのときに見られるような体の節々が痛む、といった程度です。
関節炎は小児での風疹例にはあまりおこらず、成人女性に多いという特徴があります。
この関節炎は関節破壊などの後遺症が起こることはほとんど無く、他の症状の軽快に伴って自然に軽快していきます。
風疹の重症化リスク
風疹の中でも重症化してくるものとして、特徴的な合併症の発症があります。
急性脳炎
1つ目の合併症が、急性脳炎です。急性脳炎は脳に風疹ウイルスが感染することで起こってくるものです。風疹による脳炎は風疹感染全体の0.02%程度に起こるといわれており、また年長児の感染時に多いといわれています。
普通の風疹でも頭痛は起こりますが、非常に強い頭痛とともに、意識の混濁や行動の変容などの脳炎症状が起こってきます。
脳炎は後遺症を残して非常に重篤な経過をたどる病気であることが多いのですが、風疹による脳炎は比較的軽症で済み、症状が起こっている際におこるさまざまな合併症、症状に適切に対処すれば後遺症を残すことは少なく、予後は良好といえます。
特発性血小板減少性紫斑病
もうひとつの風疹の合併症に、特発性血小板減少性紫斑病があります。これは血液中の血小板が異常な反応を起こした免疫細胞によって破壊されてしまう病気です。
血小板は出血を止める役割を担っている血液成分ですから、血小板が破壊され減少することで出血が止まりにくくなり、皮下出血などが起こりやすくなってしまいます。皮下血腫のことを医学的に紫斑といいますから、血小板減少性紫斑病と呼ぶのです。
特発性血小板減少性紫斑病は風疹全体の0.03%に認められ、主に年少児に多いという傾向があります。
特発性血小板減少性紫斑病は生涯にわたって治療をしなければならない病気の場合もありますが、風疹によって合併した場合には風疹の軽快とともに紫斑病自体も軽快していきます。
出血による合併症が起こらないように慎重に経過を見ることで、特に後遺症を残すことも無く軽快することがほとんどです。
風疹は再発しないという思い込みは危険?
風疹は一度感染すると免疫を獲得し、再びかかることはないと言われています。しかし、一度感染したと思っていても、再度風疹を発症することもあります。どのような場合でしょうか。
獲得した免疫が弱まることも
確かに一度風疹にかかると、体の中に免疫が形成されて、再度かかることはあまりありません。まれに、抗体が全くできないような場合もありますが、例外と考えていいでしょう。
そのような例外を除くと、体内に抗体は産生されます。しかしその抗体は、年月とともにだんだんと減っていき、体の中の免疫の記憶は失われていくのではないかと言われています。
昔、一度風疹や麻疹に感染すると再び感染することはないと言われていたのは、一度感染して免疫ができた後も、周りで風疹や麻疹がたびたび流行することによって、体がその都度ウイルスに接していたからではないかと考えられています。ウイルスに接することによって、体の中の免疫の記憶が惹起され、より強い免疫へと生まれ変わっていくのです。
しかし、現在ではワクチンのおかげで流行はほとんど起こらなくなっています。そのため、ウイルスに接することが非常に稀となり、少しずつ免疫が低下していき、再度感染することもあると考えられています。
麻疹などの別の病気を風疹と誤解していることも
皮疹と発熱をきたす病気は風疹だけではありません。麻疹もそうですし、伝染性紅斑、手足口病、猩紅熱といった感染症や、川崎病や薬疹などといった病気によっても、皮疹と発熱をきたします。
それぞれ皮疹の形や熱の出方は典型的なものはありますが、全てがそのパターンに収まるわけではありません。少しの熱の出方の違いなどで風疹ではないかと思われて経過を見ることもあります。風疹自体は症状から診断することがほとんどですのでこのようなことが起こります。
さらに風疹かかるのは子供の時ですから、親の記憶が曖昧になり、本当は風疹にかかっていなかったのにかかっていたと勘違いすることもあります。
ワクチンであれば風疹に対する免疫ができていると母子手帳にも記載され確認できますが、感染の記憶に頼ると間違えることもあります。
免疫を確認できる抗体検査
風疹にかかったかどうかわからないのであれば、抗体検査をするのがおすすめです。検査をすれば、抗体があるかどうかだけではなく、どの程度抗体があるかが分かります。抗体の量が減ってきていることも分かりますので、不安でしたら一度検査しておくといいでしょう。
抗体検査には主に2種類あります。HI法とEIA法です。
HI法
HI法では、8の倍数で結果が示されます。結果が8倍未満の場合には抗体がないと考えられます。8倍や16倍であれば、抗体はあるけれども感染を抑制するには十分ではない分量と考えられます。32倍以上であれば感染が予防できる十分な免疫があります。256倍以上になっていると、感染して間もないことが考えられるため、別の検査が用いられます。
EIA法
EIA法は血液中の抗体の濃度を示す検査法です。陰性であれば抗体はありません。EIA価が8から45の間であれば抗体は不十分であり、それ以上であれば十分と診断されます。
これらの検査結果は、感染した後だけでなく、ワクチンの後でも同じように結果が出てきますので、ワクチンの効果が十分発揮されているかどうかの検査にも利用できます。
妊娠中の感染は要注意
風疹は子どもの病気として認識されていますが、小児期に感染したことがなく、かつワクチンも接種していない場合、あるいはワクチンを接種したにも関わらずうまく免疫がつかなかった場合などには大人にも感染します。
大人が風疹に感染した場合、小児よりも免疫反応が強く出ることで発熱や関節痛が強く出る場合があります。また、脳炎や血小板減少性紫斑病がおこった際にはより重篤化しやすいので、注意が必要です。
さらに注意が必要なのは妊娠中の感染です。
妊婦が感染すると、成人ですから風疹の症状が強く出るという問題があるだけではなく、胎児に影響が出てしまいます。母体の血液中を流れるウイルスが胎盤、臍帯を通して胎児に感染してしまいます。
特に妊娠20週までの胎児は体のさまざまな器官が作られる大事な時期ですが、この時期に感染してしまうとその器官形成が阻害され、さまざまな奇形ができてしまいます。この奇形を合わせて先天性風疹症候群といい、眼症状、心奇形、内耳異常の3つはよくおこる症状として、3大症状と呼ばれています。
眼症状としては白内障が多く見られる他、網膜症や小眼球症があります。心疾患としては動脈管開存、心室中隔欠損、肺動脈狭窄などがあり、出生後に手術が必要となることがあります。内耳異常は難聴を呈します。
また、出生後にもウイルスが体のなかに居続け、約半年後までウイルスを排出し続けることもあり、周りの人に感染を引き起こすこともあります。
このように、妊婦が風疹に感染すると非常に大変なことになりますから、妊娠した女性に対しては風疹の抗体があるかを検査することが普通です。
また、妊婦の近くで風疹を疑う症状がある人がいる場合にはすぐに隔離をするなど、感染しないように徹底的な対策を行うことがすすめられます。