【生薬解説】当帰(とうき)とは

漢方事典

別名:ドンクアイ(DongQuai)・/とうき(当帰)・チャイニーズ・アンゼリカ

日本では奈良県や北海道で栽培されているセリ科の多年草、トウキA.acutilobaの根を用います。
日本の本州中部より北の山地にはミヤマトウキvar、iwatensisが自生しており、日本で栽培されているのはこの栽培種のトウキ(㊥日本当帰・東当帰)です。
中国産のものはカラトウキ(㊥当帰A.sinensis)といわれ種類が異なっています。

日本で栽培されている当帰には、昔から吉野地方で栽培されてきた大和当帰(やまととうき・別名:大深当帰:おおぶかとうき)と昭和になって北海道で作られた北海当帰(ほっかいとうき)の二種類があります。
品質は大和当帰、収量は北海当帰が優れているため、現在では北海当帰が多く出回っていますが、交配種も多く栽培されています。
当帰には甘味のある甘当帰系と辛味のある辛当帰系があり、大和当帰は甘当帰系ですが、北海当帰や中国産・韓国産は辛当帰系といわれています。

日本では根の全体、すなわち全当帰(ぜんとうき)を用いますが、中国では根の頭部を当帰頭(とうきとう)、主根部を当帰身(とうきしん)、支根部を当帰尾(とうきび)あるいは当帰鬚(とうきしゅ)として区別することもあります。
日本薬局方では中国産のカラトウキは除外していますが、近年では日本のトウキを中国や韓国で栽培加工した生薬も日本で流通しています。

根には精油成分としてリグスチライド、サフロール、ブチリデンフタライド、そのほかクマリン誘導体のベルガプテン、ファルカリノール、脂肪酸などが含まれています。
薬理作用として鎮痛・消炎作用や中枢系や循環器に対する効果が報告されていますが、漢方で重視されている作用は明らかではありません。

漢方では補血・活血・調経・潤腸の効能があり、月経不順、虚弱体質(血虚)、腹痛、腹腔内腫瘤、打撲傷、しびれ、皮膚化膿症、便秘などに用います。
当帰は婦人科領域の主薬であり、また「血中の気薬」ともいわれ、非常に多くの処方に配合されています。
中国医学では帰頭は補血、帰身は養血、帰尾は破血、全当帰には活血の効能があるといわれていますが、日本では区別することは少ないでしょう。
また中国では当帰の味を甘・辛としているが、日本産の大和当帰には辛味がほとんどありません。
近年、米国のハーバリストは当帰のことを”DongQuai”とか、”Chineseangelica”と呼んで、月経不順や月経前症候群、更年期障害などの治療に用いています。
一方、西洋ではアンゼリカA.archangelicaが婦人病などの治療に用いられています。(アンゼリカ)

①調経作用

月経異常や妊娠・出産時の異常などに用います。
月経不順の治療の基本薬として川芎・芍薬・地黄を配合します(四物湯)。
無月経や不妊症には人参・牡丹皮などと配合して使用します(温経湯)。
妊娠時の性器出血などの異常出血には阿膠・艾葉などと配合します(芎帰膠艾湯)。
出産後の月経障害や女性の虚弱体質には香附子・益母草などと合わせて用います(芎帰調血飲)。
更年期障害などの諸症状には柴胡・牡丹皮などと配合します(加味逍遙散)。
手足が冷える血の道症には桂枝・木通などを加えて使用します(当帰四逆加呉茱萸生姜湯)。

②補血作用

体力の衰えや皮膚の乾燥に用います。
病後などによる栄養障害(血虚)の治療の基本となるのが当帰・芍薬・川芎・地黄から構成される四物湯です。
さらに術後などで気虚もみられる体力低下には人参・黄耆などと配合します(十全大補湯)。
結核などで盗汗が長く続くときには黄耆・黄柏などを加えて用います(当帰六黄湯)。
傷が化膿して治りが悪いときには黄耆・人参などと配合します(千金内托散)。
老人性皮膚瘙痒症など乾燥傾向にある皮膚疾患には防風・荊芥などと合わせて用います(当帰飲子)。
火傷や褥瘡などに紫根などと配合して外用します(紫雲膏)。

③止痛作用

腹痛や筋肉痛、関節痛などに用います。
冷えが原因の女性の腹痛には桂枝・芍薬などと配合します(当帰建中湯)。
狭心症などで胸痛が背部に放散するときには半夏・乾姜などを加えて配合します(当帰湯)。
リウマチなどで関節が腫れて痛むときには麻黄・薏苡仁などと配合します(薏苡仁湯)。
神経痛などで上下肢が痛むときには羗活・威霊仙などと配合して用います(疎経活血湯)。

④潤腸作用

便を軟らかくして便通をよくする効果があるので、高齢者などにみられる乾燥性の便秘に大黄・麻子仁などと配合します(潤腸湯)。
痔の疼痛や脱肛などには柴胡・升麻などと配合します(乙字湯)。

処方用名

当帰・全当帰・西当帰・当帰身・当帰尾・当帰鬚・酒当帰・土炒当帰・トウキ

基原

セリ科UmbelliferaeのAngelicasinensisDielsの根。
根頭部を帰頭、主根部を当帰身(帰身)、支根を当帰尾(帰尾・当帰鬚)、帰身・帰尾を含めたものを全当帰といいます。

日本産は日本野生の同属植物ニホントウキA.acutilobaKitagawaを栽培化したもので、現在日本市場の主流を占めます。

性味

甘・辛・苦・温

帰経

心・肝・脾

効能と応用

方剤例

補血調経

①四物湯・当帰芍薬散
血虛による顔色につやがない・頭のふらつき・めまい・目がかすむ・動悸・月経不順・月経痛などの症候に、熟地黄・白芍・川芎などと用います。

②当帰補血湯・八珍湯・十全大補湯・帰脾湯・人参養栄湯
多量の出血の後、あるいは気虚をともなうときは、補気の黄耆・人参などを配合して生血を強めます。

③当帰生姜羊肉湯・当帰建中湯
虚寒の腹痛・冷えなどをともなうときも、桂枝・生姜などと使用します。

活血行気・止痛

①桃紅四物湯・過期飲・血府逐瘀湯・膈下逐瘀湯・少腹逐瘀湯・生化湯
気滞血瘀の疼痛・腹腔内腫瘤などに、桃仁・紅花・川芎・赤芍・牡丹皮などと用います。

②活絡効霊丹・復元活血湯・通導散・折衝飲
打撲外傷による腫脹・疼痛にも、乳香・没薬・桃仁・紅花などと使用します。

③蠲痺(けんぴ)湯・疎経活血湯・独活寄生湯・大防風湯・薏苡仁湯
痺証のしびれ痛みにも、羗活・独活・防風などと用います。

④仙方活命飲癰疽瘡瘍(皮膚化膿症)にも、金銀花・赤芍・牡丹皮・穿山甲などと使用します。

潤腸通便

潤腸丸・潤腸湯
腸燥便秘に、麻子仁・生首烏・桃仁・杏仁などと用います。

臨床使用の要点

当帰は甘補・辛散・苦泄・温通し、辛香善走するので「血中の気薬」ともいわれ、補血活血・行気止痛の効能をもち、心・肝・脾に入ります。
心は血を主り、肝は血を蔵し、脾は統血するので、血病の要品であり、血虚血滞を問わず主薬として用い、婦人科の良薬です。
婦女の月経不調・経閉・痛経および胎前(妊娠中)・産後の諸病に常用します。
このほか、癰疽瘡瘍には消腫止痛・排膿生肌に、瘀血作痛・跌打損傷には行瘀止痛に、虚寒腹痛には補血散寒止痛に、痺痛麻痺には活血散寒に、血虚萎黄には養血補虚にそれぞれ働きます。
また、潤腸通便の効能をもつので腸燥便秘にも有効です。
すなわち、血虚血滞によるすべての病証に使用でき、血分有寒に最適です。

参考

補血には当帰身(帰身)を、活血には当帰尾(当帰鬚・帰尾)を、和血には全当帰(当帰・西当帰)を、それぞれ使用するのがよいでしょう。
また、補血には辛味を取り去った土炒当帰、潤腸には生当帰、通経活血には酒炒した当帰(酒当帰)をそれぞれ用います。

用量

6~15g、煎服。

使用上の注意

湿盛中満・大便泄瀉・崩漏過多には禁忌です。

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