【生薬解説】丁字(ちょうじ)とは

漢方事典

別名:丁子(ちょうじ)、丁香(ちょうこう)・クローブ

インドネシアやマレーシア、東アフリカなどで栽培されているフトモモ科のチョウジ(㊥丁香)の蕾を用います。

果実は母丁香(ぼちょうこう)といい、また古代中国では果実の形が鶏の舌に似ているとして鶏舌香(けいぜつこう)とも呼ばれていました。
チョウジ(丁字)という名前の由来は蕾の形が釘に似ているためであり、英語のクローブも仏語のクルー(釘)に由来します。
チョウジはインドネシアのモルッカ諸島原産で18世紀までモルッカの特産でしたが、現在では東アフリカ(ザンジバル)の生産が90%を占めています。
また香料として紀元前よりインドやヨーロッパにまで知られ、今日、スパイスとして肉料理やケーキ、ブディングなどによく用いられています。
かつて日本では女性の使っていた「びんつけ油」の匂いも丁字であり、現在でも石鹸や整髪料に広く使われています。
インドネシアでは丁字入りのタバコも有名です(クレテック)。

丁字を水蒸気蒸留して得られた精油を丁字油といい、成分としてオイゲノールやチャピコール、フムレン、カリオフェレンなどが含まれています。
オイゲノールには殺菌・防腐のほか、鎮静・鎮痙作用なども認められています。
またオイゲノールは口腔内殺菌や虫歯の鎮痛にも用いられています(今治水)。
オイゲノールをアルカリと熱を加えて異性化させた後に酸化すると香料のバニリンが得られます。

漢方では温裏・健胃・止嘔・補陽の効能があり、おもに芳香性健胃薬として用います。
たとえば胃腸が冷えたために生じる嘔吐、下痢、腹痛や消化不良に茯苓・半夏などと配合します(丁香茯苓湯)。
また吃逆(しゃっくり)には柿蒂などと配合して用います(丁香柿蒂湯)。
中国では古くから口臭を消すために口に含む習慣があり、口中清涼剤の仁丹にも配合されています。
また多くの家庭薬の薬香料としてチョウジ末やチョウジ油、オイゲノール、バニリンの名で配合されています。
母丁香には芳香はありませんが、同じく温裏の効能があり、嘔吐、腹痛、ヘルニア口臭などに用います(クローブ)。

処方用名

丁香・公丁香・丁字・丁子・チョウジ

基原

フトモモ科MyrtaceaeのチョウジノキSyzygiumaromaticumMerr.etPerryの花蕾。

性味

辛・温

帰経

肺・胃・脾・腎

効能と応用

方剤例

温中降逆

①柿蒂湯・丁香柿蒂湯
胃寒の吃逆・嘔吐に、柿蒂・人参・半夏生姜などと用います。

②丁香散
脾胃虚寒の食欲がない・食べられない・悪心・嘔吐・下痢などの症候には、砂仁・白朮などと使用します。

下気止痛

丁香棟実丸
奔豚気逆による胸腹疼痛に、五味子・莪朮などと配合して用います。
胃寒の上腹部痛に、半夏・陳皮・白朮などと使用します。
寒疝すなわちヘルニアなどの下腹部疼痛には、附子・川楝子・小茴香などと用います。

温腎助陽

腎陽虚の勃起不全・陰部の冷え・帯下などの症候に、附子・肉桂・小茴香・巴戟天などと用います。

臨床使用の要点

丁香は辛温で特有の芳香をもち、脾胃を温めるとともに壮陽泄肺して逆気を下降します。
それゆえ、虚寒の吃逆に対する要薬であり、また心腹冷痛・奔豚気逆・嘔噦吐瀉・男子陽痿・女子陰冷などにも使用します。

参考

丁香には公丁香・母丁香の2種類があり、公丁香(丁香)はチョウジノキの花蕾で、母丁香は果実です。
母丁香は気味が薄いので、一般には丁香を薬用とします。

用量

1~3g、煎服。

使用上の注意

①温燥であるから熱証には禁忌です。

②鬱金を畏れます。

関連記事