人参(にんじん)の詳しい生薬解説

漢方事典

別名:ジンセン・御種人参(おたねにんじん)高麗人参(こうらいにんじん)・朝鮮人参(ちょうせんにんじん)・薬用人参(やくようにんじん)・吉林参(きつりんじん)/おたねにんじん

朝鮮半島、中国東北部を原産とするウコギ科の多年草、オタネニンジン(㊥人参Panaxginseng)の根を用います。『神農本草経』に収載されている上薬の一つで、根が人の形に似ていることから人参といわれ、古くから不老長寿、万病薬として珍重されていました。現在、野生の人参は極めてまれです。ときに中国東北部の吉林省や朝鮮で発見され、野山参(やさんじん)といわれ非常に高価です。

日本には天平時代に渤海国からの貢献品として初めて伝えられました。日本では高麗人参とか、朝鮮人参などと呼ばれ、江戸時代には非常に高価な薬であり、偽物や粗悪品が出回りました。徳川幕府は事態の改善をはかるため、国内での栽培を奨励しました。1728年、田村藍水らの努力により日光の御薬園で栽培に成功し、その人参の種子が各藩に分与されたことからオタネニンジン(御種人参)の名がつきました。

現在でも長野県の丸子、福島県の会津若松、島根県の大根島などで栽培されています。学名はパナックス・ジンセンといい、パナックスとはすべてを治療する万能薬という意味であり、ジンセンは中国の発音によります。栽培品では播種後4~6年の根を用います。オタネニンジンと類似した植物として日本ではトチバニンジンP.japonicus(生薬名:竹節人参:ちくせつにんじん)、北アメリカではアメリカニンジンP.quinquefolium(生薬名:西洋参:せいようじん)、中国南部ではサンシチニンジンP.notoginseng(生薬名:三七:さんしち)が知られています。近年、中国で人参の代用品として用いられています。党参(とうじん)はキキョウ科の植物の根です。ちなみに野菜のニンジンはセリ科の植物で、中国では人参といわずに紅蘿葡といいます。

人参は部位や修治により様々な名称があります。掘り出して水洗いしたままの生の人参を水参(すいさん)といい、薬用酒の原料として用います。細根を除いて皮を剥がずにそのまま乾燥したものを生干人参(きぼしにんじん)、細根を除いて85℃の湯に10分間つけて乾燥したものを御種人参(おたねにんじん)、湯通しの後に周皮を剥いで乾燥したものを白参(はくさん)といいます。

一方、切り落とされた細根を乾燥したものを鬚人参(ひげにんじん)あるいは毛人参(けにんじん)といいます。また、せいろで2~4時間蒸した後に熱風乾燥し、赤褐色になったものを紅参(こうじん)といいます。さらに湯通しや紅参を作るときに使った熱湯を煮つめたエキスを参精(さんせい)といいます。一般に、播種後4~5年目に間引きしたものは白参や湯通し人参などに加工され、6年間育成したものは紅参に加工されます。

成分には人参サポニンとしてジンセノシドRo、Ra~Rhなどが報告されており、そのほかパナキシノール、βエレメン、ゲルマニウムなどが含まれます。ジンセノシドなどによる薬理作用としてタンパク質、DNA、脂質などの合成促進作用、抗疲労、抗ストレス作用、強壮作用、降圧作用、血糖降下作用、認知症改善効果など数多くの研究結果が報告されています。

漢方では代表的な補気薬であり、元気を補い、脾胃を健やかにし、神経を安定させ、津液を生じる効能があります。ただし、湯本求真の指摘するように「人参は万能の神薬に非ず」であり、一般に高血圧や実熱証のときには使用すべきではありません。→紅参・竹節人参・党参・西洋参・三七(人参・朝鮮人参)

①補気作用

疲労や衰弱、体力の低下に用います。急性の出血性ショックなどで脈は微弱となり、手足が冷えて顔面蒼白のときには人参を単独で投与します(独参湯)。体力が衰え、疲労しやすいときや慢性の虚弱体質には黄耆・白朮などと配合します(補中益気湯)。夏まけなどで倦怠感が強く、下痢や発汗のみられるときには黄耆・五味子などと配合します(清暑益気湯)。

大病後や術後などで体力の衰えたときには黄耆・熟地黄などと配合します(十全大補湯)。虚弱体質者などの風邪の初期で倦怠感の強いときには蘇葉・葛根などと配合します(参蘇飲)。人参には補肺作用もあり、慢性的な喘息や肺気腫などの呼吸困難に蛤蚧や胡桃肉などと配合します。

②健脾作用

胃腸虚弱や消化不良に用います。

『薬徴』には「心下痞硬を主治する」とあります。消化不良で上腹部が痞えて苦しく、食欲不振、下痢のみられるときには茯苓・白朮などと配合します(四君子湯・六君子湯)。下痢が続くときには白朮・山薬・扁豆などと配合します(参苓白朮散)。胃に水液が貯留(胃内停水)してむかつきや膨満感のみられるときには茯苓・陳皮などと配合します(茯苓飲)。

③安神作用

神経衰弱や疲労による動悸、不眠に用います。抑うつ症や無力症、インポテンツなどに用います。体力が低下して疲れやすく、精神が不安定となって動悸や不眠、健忘などのみられるときには当帰・竜眼肉・酸棗仁などと配合します(帰脾湯)。

④止渇作用

糖尿病の口渇や熱病による脱水症状に用います。糖尿病や高熱のために激しく口が渇くときには石膏・知母・硬米などと配合します(白虎加人参湯)。熱性疾患で発汗が多くて口渇が強く、脱水症状のみられるときは麦門冬・五味子などと配合します(生脈散)。慢性気管支炎などで咽喉の乾燥感があり、咳嗽が強くて痰の少ないときには麦門冬・半夏などと配合します(麦門冬湯)。

処方用名

人参・野山人参・野山参・園参・養参・吉林参・遼東参・遼参・朝鮮人参・朝鮮参・高麗参・別直参・生晒参・紅参・大力参・石桂参・白参・糖参・白糖参・移山参・人参鬚・参鬚尖・参鬚・鬚参・ニンジン

基原

ウコギ科AraliaceaeのオタネニンジンPanaxginsengC.A.Meyerの根。加工調製法の違いにより種々の異なった生薬名を有します。

性味

甘・微苦、微温

帰経

肺・脾

効能と応用

方剤例

補気固脱

①独参湯

大病・久病・大出血・激しい吐瀉などで元気が虛衰して生じるショック状態で脈が微を呈するときに、単味を大量に濃煎して服用します。

②参附湯

亡陽で四肢の冷え・自汗などを呈するときは、附子・乾姜などと使用します。

補脾気

①四君子湯・異功散・参苓白朮散

脾気虚による元気がない・疲れやすい・食欲不振・四肢無力・泥状~水様便などの症候に、白朮・茯苓・炙甘草などと用います。

②補中益気湯

気虚下陥による内臓下垂・子宮下垂・脱肛・慢性の下痢などの症侯に、黄耆・柴胡・升麻などと使用します。

益肺気

①人参蛤蚧散・人参胡桃湯・補肺湯

肺気虚による呼吸困難・咳嗽・息ぎれ(動くと増悪する)・自汗などの症候に、蛤蚧・胡桃肉・五味子などと用います。

生津止渇

①白虎加人参湯・竹葉石膏湯

熱盛の気津両傷で高熱・口渇・多汗・元気がない・脈が大で無力などを呈するときに、石膏・知母などと用います。

②生脈散・加減復脈湯・炙甘草湯・清暑益気湯

気津両傷による元気がない・息ぎれ・口渇・皮膚の乾燥・脈が細で無力などの症候に、麦門冬・五味子などと用います。

③麦門冬飲子

消渇証の口渇・多尿に、生地黄・麦門冬・天花粉・山薬などと使用します。

安神益智

帰脾湯・安神定志丸

気血不足による心神不安の不眠・動悸・健忘・不安感などの症候に、竜眼肉・茯神・遠志などと使用します。

その他

血虚に対し補血薬と用いて益気生血し、陽虛に対し補陽薬と使用して益気壮陽し、補血・壮陽の効果を強めます。

正虚の表証や裏実正虚に、解表薬や攻裏薬とともに少量を使用して、扶正祛邪します。

臨床使用の要点

人参は甘・微苦・微温で中和の性を稟(う)け、脾肺の気を補い、生化の源である脾気と一身の気を主る肺気を充盈することにより、一身の気を旺盛にし、大補元気の効能をもちます。元気が充盈すると、益血生津し安神し智恵を増すので、生津止渇・安神益智にも働きます。それゆえ、虚労内傷に対する第一の要薬であり、気血津液の不足すべてに使用でき、脾気虚の倦怠無力・食少吐瀉、肺気不足の気短喘促・脈虚自汗、心神不安の失眠多夢・驚悸健忘、津液虧耗の口乾消渇などに有効です。また、すべての大病・久病・大出血・大吐瀉による元気虚衰の虚極欲脱・脈微欲絶に対し、もっとも主要な薬物です。

参考

中国では、産地や加工方法の違いにより、人参は以下のように区別されており、効能がやや異なっています。

野生品が野山人参(野山参)で補益力がすぐれ、栽培品が園参(養参)で効能は劣りますが、現在用いられているのはほとんど園参です。主として吉林・遼寧省などで産するので吉林参・遼東参・遼参といい、朝鮮産を朝鮮人参(朝鮮参・高麗参・別直参)とよびます。

直接日光に晒して干したものを生晒参、氷砂糖汁につけたのち晒し干しにしたものを白参(糖参・白糖参)、蒸したのち晒し干ししたものを紅参、鬚根や加工の過程で出るクズ品を参鬚(人参鬚・参鬚尖・鬚参)といいます。生晒参・紅参は効能が良好で、白参はやや劣り、参鬚はさらに劣ります。

日本では周皮を去った生晒参を白参とよんでいます。

用量

3~9g、大量で15~30g、煎服。粉末を呑服するときは、1回1~2g。

使用上の注意

①一般に補剤には量を少なく、救急用には大量を用います。虚弱者で人参の調補が必要なときでも、5~7日に1回服用すればよいです。人参は高価であるところから、救急以外には党参で代用すればよいです。

②長時間弱火で別に煎じた煎汁を、単独であるいは他薬の煎汁に混ぜて服用します。

③大出血のショックなどに救急的に使用しますが、抵抗力を増して生命を救うのが目的であり、止血の手段であると考えてはなりません。危急状態を乗りきったなら、出血の根本治療に切りかえるべきです。

④陰虚陽亢の骨蒸潮熱・肺熱の痰多気急咳嗽・肝陽上亢の頭眩目赤・火鬱内熱などには禁忌です。
⑤藜芦に反します。五霊脂を畏ります。皂莢を忌みます。

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