アルツハイマー型認知症の症状の特徴と進行の仕方
認知症ではさまざまな要因により、脳が萎縮し、ダメージを受けることで認知機能が低下してしまいます。
ここではアルツハイマー型認知症の症状や進行の仕方について解説します。
目次
アルツハイマー型認知症の症状とは
認知症の症状には中核症状と周辺症状があり、発症から段階的に症状が進行していきます。
中核症状とは
中核症状とは、脳が萎縮しダメージを受けることで現れる認知症特有の症状です。
脳の細胞が死ぬと脳の働きが低下し、これにより直接的に起こる症状として記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能障害、言語障害、失行・失認などの認知機能の障害が挙げられます。
認知症の中核症状は日常生活に支障をきたすほか、認知症の進行とともに症状が悪化していきます。
周辺症状(BPSD)とは
周辺症状とは、中核症状に加えて、本人の性格や生活環境が影響することで現れる症状のことです。
周辺症状としては、被害妄想や徘徊、暴力・暴言、無為・無関心、幻覚、暴食などが挙げられます。
アルツハイマー型認知症の進行は早い?
アルツハイマー型認知症の病変は、症状が出現する前から起きています。徐々に進行していき、やっと症状が出ても、すぐに重大な影響を及ぼすわけではありません。
記憶障害に始まり、年単位で症状はゆっくりと進行していきます。そのために、認知症だと気付くのが遅れ、治療の開始も遅くなってしまうことがあります。
アルツハイマー型認知症の進行に伴う症状の変化
認知症の症状は初期・中期・後期の3段階に分けられます。それぞれの段階について見ていきましょう。
初期の症状
初期症状は発症から1~3年程度の期間に多い症状で、次のようなものがあります。
・何度も同じことを言う(数分の間隔で同じ話に戻る)
・直前のことを忘れる(近時の出来事がすっぽり失われる)
・ものとられ妄想がある(自分で片付けた場所がわからなくなり、身近な人を疑う)
・趣味、日課への無関心(興味を持っていたことや日課に関心がなくなる)
・作り話をする(もの忘れによる失敗を取り繕うため作り話をする)
初期段階の特徴は、進行性の記憶障害であり、日常生活に支障が少なく、症状が目立ちません。そのため、身近な人でなければ気付きにくく、本人や周囲の人々につらい思いをさせることがあります。
中期の症状
中期の症状には次のようなものがあります。
・見当識障害がある(場所、時間などがわからなくなり、季節感も失われる)
・徘徊・妄想が増える(目的なく歩いて外出し、夜間に妄想がみられる)
・家事の手順が分からなくなる(買い物、料理の段取りができなくなる)
・失語がある(言葉の意味がわからなくなり、意味のある言葉が話せなくなる)
・日常生活に介助が必要となる(食事、入浴、着替えが自分でできなくなる)
・不潔行為がある(失禁など非衛生的になり、社会的に脱抑制行動がみられる)
このように、行動・心理症状が特徴となります。初期〜中期にかけて、本人は日常的にできていたことができなくなり、周囲から責められると、自信や自尊心が傷つけられてしまいます。
しかし、言語能力の低下も伴っているのでつらい気持ちをはっきりと伝えられず、無気力や抑うつなどの二次的な症状につながりやすくなります。身体機能に問題がなくても、徘徊などの行動・心理症状が強く出ます。
後期の症状
後期の症状には次のようなものがあります。
・家族の顔が分からなくなる
・表情が乏しくなる(表情が失われ反応がなくなる)
・会話がまったくできない(コミュニケーション能力が失われ、意識疎通ができなくなる)
・尿、便の失禁が常態化する(尿意、便意を訴えられなくなり、放尿などが起こる)
・寝たきりになる(歩行、座位が保てなくなる)
後期になると上記のような症状がみられ、寝たきりとなっていきます。身体能力の低下による転倒や拘縮の予防、食事や水分不足に対する栄養支援、嚥下障害からの誤嚥性肺炎など、最後の時に向けて医療支援の必要性も大きくなっていきます。
発症後の平均寿命について
認知症になってから、その後の余命は5~12年程度といわれています。ただし、症状の進行には個人差があります。
そのため、アルツハイマー型認知症になったから余命何年というわけではなく、人によって異なってきます。基本的には症状の進行に伴って、脳や身体の障害が進んでいきます。
いかがでしたでしょうか。アルツハイマー型認知症の症状について詳しく見てきました。アルツハイマー型認知症は、認知症の中で55%を占める病気であり、日本人の死因の10位に入る疾患です。現状、アルツハイマー型認知症を改善させる根本的治療法は見つかっておらず、進行をある程度遅らせる治療があるのみとなります。
しかし、早期発見できれば、本人や家族にとっても心の準備ができ、支援の幅も広がります。症状の進行はゆっくりであるため、本人・家族とも話し合いながら、病気と付き合っていきましょう。
<執筆・監修>
九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師
高血圧、頭痛、脳卒中などの治療に取り組む。日本脳神経外科学会専門医。