新薬も登場?アルツハイマー病治療薬の効果と副作用

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認知症とは、脳の神経細胞が徐々に脱落することによって、脳の処理機能が低下する病気です。しかし、この神経細胞を再生させたり修復する薬というものは発明されていません。

それでは、認知症の薬は何をするのでしょうか? アルツハイマー病における薬物療法の目的は、認知症の進行をゆるやかにすることです。ここではアルツハイマー病に関する治療薬について詳しくみていきましょう。

アセチルコリンエステラーゼ阻害薬

アルツハイマー病の脳では、アセチルコリンという神経伝達物質が減少しています。神経伝達物質が減少すると脳のネットワークがうまく働かなくなってしまいます。

アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、アセチルコリンが分解されないように働き、脳の中でアセチルコリンが減るのを防ぎます。現在認可されているのは、アリセプト、レミニール、イクセロンパッチとリバスタッチの3種類となります。

アリセプトの特徴と副作用

平成11年に発売された、最も古い治療薬となります。抑うつや自発性低下に対する改善効果が得られます。3mgから開始し、通常用量は5mgです。重症の場合は10mgに増量します。

形状としては、水がなくても口の中で溶ける口腔内崩壊錠、細粒やドライシロップ剤、ゼリー剤などさまざまな種類があります。服用は1日1回で、朝でも夜でもかまいません。

副作用には嘔気・嘔吐、食欲不振、下痢、興奮・イライラがあります。

レミニールの特徴と副作用

平成23年に発売され、アルツハイマー病の進行を食い止めるほか、周辺症状の緩和に効果があります。普通の錠剤の他に、口腔内崩壊錠、内用液があります。朝と夜に1日2回内服する薬で、4mgを2回内服から始めて、最大で12mgを1日2回まで増量できます。

副作用には嘔気、食欲不振、めまい、下痢があり、薬の量を増減したときに現れやすいです。

イクセロンパッチ、リバスタッチの特徴と副作用

これもレミニールと同じく平成23年に発売されています。特徴としては、他の薬剤と違って、貼付剤であることです。嚥下障害や薬を飲むのを嫌がる人でも、貼付剤であればうまくいく場合があります。4.5mg、9mg、13.5mg、18mgがあり、徐々に増量していきます。

副作用としては、貼付剤であるため皮膚のかぶれ・かゆみ、嘔吐があります。

NMDA受容体拮抗薬

NMDA受容体というのは、グルタミン酸という神経伝達物質の受容体ですが、アルツハイマー病では脳の中でグルタミン酸の働きが乱れ、神経細胞が障害されたり神経の情報が障害されたりします。

このNMDA受容体拮抗薬はグルタミンの働きを抑えることによって、神経伝達を整えたり、神経細胞を保護する可能性があります。興奮・攻撃性に対する抑制効果が得られ、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬との併用も可能です。

メマリーの特徴と副作用

興奮・攻撃性を抑え、気持ちを穏やかにしてくれる働きがあります。ただ穏やかになりすぎて、活気がなくなったりすることもあり、その場合は減量や中止が必要となります。

副作用としては、めまい、便秘、体重減少があります。

新しいアルツハイマー治療薬「アデュカヌマブ」とは

2021年6月に米食品医薬品局(FDA)で18年ぶりに迅速承認されたのが新しいアルツハイマー治療薬であるアデュカヌマブです。この薬はBiogen社と日本のエーザイ社が共同開発したものになります。

アルツハイマー病の原因と考えられる老人斑を、脳から取り除くことを目的として開発され、アルツハイマー病の原因に働きかけて進行を抑える疾患修復薬として期待されています。

しかし、臨床試験の最終段階で、有効性を証明できる見込みがないと判断されて、臨床試験は2019年3月に中止されました。しかし、その後も被験者での投与を続け、新たな解析をしたところ、アデュカヌマブを高用量投与した群では、臨床症状の悪化を有意に抑制して、脳の中のアミロイドβが59~71%減少したという結果が得られました。

そのため、今後さらなるランダム化比較試験を実施して臨床的な有用性を確認することを条件として販売が承認されました。2030年までに有効性が確認されなければ承認は取り下げられることになります。

日本では承認されていない

FDAでは条件付き承認されましたが、日本ではどうなのでしょうか。日本においては、今後実施される適切なデザインの臨床試験の成績等に基づき、有効性と安全性について再検討し、結果に応じて再度審議するという「継続審議」となりました。

つまり、承認されなかったのです。アデュカヌマブには、アミロイド関連画像異常という脳浮腫や脳微小出血などの副作用も報告されているため、リスクよりもベネフィットが上回るとはいい切れないと判断したものと考えられます。今後追加研究がなされ、臨床的な有用性が確認できれば、日本でも承認される日が来るかもしれません。

いかがでしたでしょうか。アルツハイマー病に対する治療薬に関して見ていきました。現在利用できる治療薬は進行を抑える薬であり、改善を望むものではありません。そのため、副作用と効果をみながら薬の増減を検討していかなければなりません。新薬も開発されており、今後疾患そのものを修復してくれる治療薬の登場が期待されています。


<執筆・監修>

九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師

高血圧、頭痛、脳卒中などの治療に取り組む。日本脳神経外科学会専門医。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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