老ける?太るって本当?卵巣摘出と子宮全摘出術のよくある疑問

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卵巣摘出が必要になる病気はいくつもあります。卵巣摘出を行った場合、体にさまざまな影響が出ます。妊娠や体型に影響が出るのではないか、見た目が老けるのではないか、など気になっている方も多いのではないでしょうか。ここでは卵巣を摘出した場合の影響について解説します。

卵巣摘出とは

卵巣は骨盤の中に存在する臓器で、女性が子どもを作ることができるように卵子を作ります。卵子を作る以外に、さまざまなホルモンを作る臓器でもあるため、摘出すると全身に影響が出ます。

卵巣と子宮の役割の違い

子どもを産むための女性特有の臓器には卵巣と子宮があります。子宮も卵巣も骨盤の中にあります。

子宮は膣からつながっていて、左右に卵管という卵子を通す管を持った臓器です。子宮は左右からさまざまな靱帯で固定されており、腹腔というお腹の中の空間よりさらに低い場所に位置しています。

一方、卵巣は左右1個ずつ、合計2個体内に存在します。卵巣は子宮との間に固有卵巣索と呼ばれる靱帯で繋がれている状態で、腹腔の中に存在します。卵巣からは2か月に1回、卵子が放出されます。左右1対ずつの卵子から、毎月交代交代に卵子が放出されるため、体としては毎月卵子が放出されていることになります。

卵巣から、一度腹腔内に放出された卵子は、子宮から左右に伸びた卵管から子宮の中に入ります。この経過の中で精子と受精した場合、受精卵として子宮の壁に着床し、子宮の中で胎児が育っていきます。

子宮は受精卵が着床しやすいように、子宮壁が成長しては剥がれ落ちるということを繰り返します。受精卵がやってくる頃、すなわち卵巣から卵子が排卵される数日後に最も着床しやすい状態になるように調節され、その時期を過ぎると子宮壁は剥がれ落ちます。これが月経です。

子宮壁をそのように調節させるために、卵巣からはホルモンが分泌されます。卵巣から分泌されるのはエストロゲン、プロゲステロンという2種類のホルモンで、それぞれ子宮に作用するほか、全身のさまざまな場所に影響を及ぼします。

卵巣を摘出するケース

上記の様に、卵巣は卵子を放出するだけではなく、ホルモンを分泌する重要な臓器です。しかし、種々の理由で卵巣を摘出しなければならない場合があります。

多くあるのは、卵巣嚢腫という良性の腫瘍が卵巣にできる場合です。嚢腫は良性ではありますが、内部に液体を含んでおり、非常に大きくなることがあります。ある程度大きくなると、固有卵巣索を軸にぐるっとねじれてしまう、卵巣嚢腫茎捻転という状態になることがあり、手術を必要とします。

嚢腫が大きくなっている場合は、捻転をしていなくても今後捻転する可能性や巨大化して他の臓器に影響を及ぼす可能性があるため、手術が行われます。手術は、若くて卵巣機能がじゅうんぶんに残っていると考えられる場合には、卵巣から卵巣嚢腫を剥がし取る卵巣嚢腫摘出術が行われます。年齢を重ね、すでに卵巣の機能がないと考えられる場合は、卵巣を卵管とともに摘出する手術も行われます。

卵巣嚢腫茎捻転の場合も、できる限り卵巣の温存を試みます。しかし捻転してから時間が経ってしまい、卵巣が壊死してしまっている場合には卵巣ごと摘出する場合もあります。

悪性腫瘍の場合は卵巣を摘出します。卵巣の悪性腫瘍は周囲への広がりが大きいため、骨盤内の内臓の多くを取らなくてはいけないことが多くなります。

このような理由で卵巣を摘出する場合があります。注意していただきたいのは、不妊化手術として卵巣摘出することはまずないということです。卵巣は前述のとおり、ホルモンを分泌する器官でもありますから、摘出するとホルモンの欠乏症状が出現します。不妊化手術では一般に卵管結紮(けっさつ)といって、卵管の中を卵子が通れないようにする手術が行われます。

子宮全摘出術と卵巣の関係

子宮イラスト

子宮と卵巣は接しており、子宮を全摘する場合に卵巣を取ることもあります。どのような場合に卵巣を取るのでしょうか。

子宮全摘出術とは

子宮全摘術には、子宮のみを摘出する手術と、子宮やその周りの組織、臓器もひとまとめにして摘出する手術とがあります。

子宮のみを摘出する手術は子宮筋腫や子宮内膜症、子宮腺筋症、ごく初期の子宮癌の場合などです。

例えば子宮筋腫の場合、子宮を全て取ることによって子宮筋腫はできなくなり、根治が望めます。もし子宮を残したい場合には子宮筋腫のみをくりぬく手術を選択できる場合も多いのですが、その場合は再発のリスクがあります。そのため、妊娠の予定がない場合や妊娠可能年齢を超えたと考えられる場合には子宮をそのまま取る子宮全摘術が選択される場合があります。

子宮内膜症や子宮腺筋症も、お腹の痛みを主訴に治療を希望される方が多くいます。子宮筋腫のようにくりぬくような手術はできませんから、同じように妊娠予定がない、あるいは妊娠可能年齢を超えたと考えられる場合に子宮全摘術を行います。

卵巣を残す場合と摘出する場合

子宮全摘術を行う場合、卵巣を残す場合と摘出する場合があります。卵巣を摘出する場合としては、子宮頸がんや子宮体癌などの進行期である場合が挙げられます。卵巣を残すことでその卵巣に癌が再発してしまうリスクがあるため、卵巣も一度に摘出します。

一方、良性疾患の場合には卵巣を摘出しない選択があります。と言うのも、子宮筋腫や子宮腺筋症、子宮内膜症の症状があるときには、卵巣から卵巣ホルモンが分泌されていることがほとんどです。そのため卵巣を取ってしまうと急激に卵巣ホルモンの値が低下してしまいます。更年期障害の症状が出現し、体調に異変を来してしまう可能性があります。そのために卵巣を残す選択をするのです。

予防的卵巣摘出術のメリットとデメリット

卵巣の機能が残っている場合でも、通常であれば卵巣を取らない子宮全摘術の場合でも、一度に卵巣を摘出する場合があります。これを予防的卵巣摘出術と言います。

目的は、癌の予防です。機能しなくなった卵巣は体内に残り続け、そこに癌が発生する可能性があります。そのため子宮の手術をするときに一緒に摘出することで癌の予防につなげます。

予防的卵巣摘出術にはデメリットもあります。卵巣からは卵巣ホルモンが分泌されていますから、更年期障害の症状が出るほかに、骨量が減少するというデメリットがあります。自然に閉経するより卵巣切除の方が、骨量減少が大きく、骨粗鬆症になりやすいという報告があります。

また、45歳未満で卵巣を摘出した人は卵巣を残した人よりも冠動脈疾患や心血管系疾患にかかる確率が高くなる、摘出によって脳卒中などの疾患にかかりやすくなるという報告もあります。

そのため、予防的卵巣摘出術の実施件数は近年減少してきています。近親者が卵巣癌になったなどの遺伝的素因がある場合には摘出した方がよい可能性が高いですが、そうでなければ安易に切除しない方がいいのではないかという意見が多くなっています。

卵巣摘出についてのよくある疑問

卵巣摘出によってどのような影響が現れるのでしょうか。ここでは、よくある疑問について回答していきます。

更年期症状が出る?

更年期障害とは、卵巣から分泌されるエストロゲンの分泌量が低下する事による体のさまざまな不調です。特に閉経の前後は、卵巣以外からのホルモン分泌への移行が十分に進んでおらず、症状が多くなります。

月経異常やのぼせ、ほてり、発汗のような自律神経異常に加えて、倦怠感や抑うつ感、イライラ感、不眠などの症状が出現します。

卵巣から分泌されるホルモンが減少することによって更年期障害が起こる訳ですから、卵巣を摘出した場合にも同様の症状が起こります。

しかし、片方だけの卵巣を摘出した場合は、もう片方の卵巣からのホルモン分泌が維持されるため、強い更年期障害の症状はあまりみられません。

両方の卵巣を摘出した場合にはホルモンの分泌量が大きく減るため、更年期障害の症状が出現しやすくなります。このような場合は、ホルモンを補充することで症状が緩やかになります。

妊娠への影響は?

卵巣は卵子を放出する器官ですから、両側の卵巣を摘出すると卵子は放出されなくなり、妊娠はできなくなります。しかし、片方の卵巣摘出だけであればもう片方の卵巣からの卵子の放出が維持されるため、妊娠は可能です。

ただし、片方の卵巣からは2か月に1回しか卵子が出てきませんから、妊娠できる機会が減ってしまいます。また、片方でも卵巣を摘出した直後はホルモンの量が不足し、体内バランスが崩れます。妊娠しにくい体内状況になり、しばらく妊娠が難しくなることがあります。

太りやすい?

卵巣から分泌されるホルモンであるエストロゲンは、体内ではLDL-コレステロールを低下させたり、骨量を維持したりする作用があります。そのため、エストロゲンの分泌量が低下する更年期以降には、徐々に骨密度が低下して骨折をしやすくなりますし、コレステロール値が上昇したり、肥満になりやすくなったりします。

卵巣を両側摘出した場合には更年期と同じ状態になりますから、肥満になりやすいといえるでしょう。一方、片側のみの摘出であればもう片方の卵巣からのエストロゲンが分泌されるため、影響は小さくなります。

老けるって本当?

前述の通り、卵巣を摘出するとエストロゲンの分泌に影響が出ます。もし両側摘出した場合にはエストロゲンの分泌がかなり少なくなりますが、このこと自体が明確に老化を促すとは考えにくいのではないでしょうか。片側のみの摘出であればさらに影響は小さくなります。

更年期症状に対する治療

更年期障害は卵巣から分泌されるホルモンの分泌が減少することが原因ですから、根本的な治療はホルモンの補充になります。ピルと同じ成分ではありますが、用量が異なります。

特に両側の卵巣を摘出した場合は、突然ホルモンの分泌がなくなってしまいますから、体の各所に急激な変化が現れやすくなります。それを防ぐためにホルモンの補充が卵巣摘出直後から行われるのが一般的です。

また、更年期障害によって起こるさまざまな症状に対する対症療法も行われます。例えば、骨密度が低下している場合はカルシウム製剤や、骨を丈夫にする薬剤の内服が行われます。精神症状が強い場合には、そうした症状を緩和する薬剤などが使用されます。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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