ヘルパンギーナってどんな病気?大人の症状や手足口病との違い

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ヘルパンギーナは乳幼児に流行する病気で、口の中に水疱ができる感染症です。ウイルスを原因とする感染症です。乳幼児に多く見られますが、大人も発症することがあります。ここではヘルパンギーナを取り上げ、手足口病との違いや合併症などについて解説します。

ヘルパンギーナとは

ヘルパンギーナは乳幼児に流行するウイルス感染症です。突然の発熱と口腔内のアフタを認める病気です。

原因となるウイルス

原因となるウイルスは一つではありませんが、多くの場合はコクサッキーウイルスAによる感染症です。コクサッキーウイルスとは、エンテロウイルス属というウイルスの仲間に属するウイルスで、さまざまな種類が含まれています。

「エンテロ」というのは腸管を意味して、エンテロウイルス属は口に感染し、咽頭と腸管の粘膜で増殖するという特徴を持ちます。多くのウイルスが仲間におり、名前もそれぞれ複雑につけられ、そして、たびたび分類が変更されてきたため、本によってウイルスの名前が変わっていることもあります。

コクサッキーウイルスというのはやや古い呼び方になります。エンテロウイルスの中でも脊椎動物に対して症状を呈するものを総称する名前としてコクサッキーという名前がつけられていましたが、その後エンテロウイルスAと名前が改められています。

しかし、ヘルパンギーナの原因としてはコクサッキーウイルスということが広く周知されているため、コクサッキーウイルスによる感染症として記載されることが今でも多くなっているのです。

エンテロウイルスの仲間はRNAウイルスに分類されます。これは、RNAという遺伝子の構造体を持つウイルスということを示しています。細菌は、自分自身で細胞の膜を持ち、その中にタンパク質を合成する構造や、エネルギーを産生する構造などを含み、単一の生物として生きることができます。しかしウイルスは細菌とは違い、膜を持ちません。自分自身を生きながらえさせたり増殖したりする機能を自分自身では持たないのです。

ウイルスは、動物の体の中に入ると動物の体の細胞に入り込みます。すると、その細胞の中にあるタンパク質を作る構造を利用して、自分自身のRNAからさまざまなタンパク質を合成し、そして自分自身を複製します。複製されたウイルス自体は細胞から出て行き、他の細胞に感染したり、飛沫など動物が産生する体液などに乗って他の動物へと渡り、そこでまた感染したりして増殖を繰り返します。

RNAウイルスの特徴として、感染するとすぐに細胞の中でさまざまな物質の合成が始まるという特徴があります。そのため、感染すると症状が比較的早く出やすいといわれています。

流行する時期

ヘルパンギーナは夏から秋にかけて広がりやすいと言われています。しかし、ここ最近では流行のピークが冬に移動してきており、原因が調べられているところです

主な症状

ヘルパンギーナの症状は主に2つで、発熱と口腔内の水疱と潰瘍になります。

まず発熱ですが、多くの場合突然に起こる39度を超える発熱が特徴です。そしてほぼ同時かそれから少し遅れて口の中に水疱や潰瘍が現れます。

口の中の病変は少し特徴的で、軟口蓋、口蓋垂、咽頭に水疱ができます。つまり、口の奥の方に水疱ができるのが特徴です。歯の裏側など、手前の方にはあまりできません。また、両側に水疱ができることも特徴になります。

この水疱は触ると非常に痛く、特に子どもの場合は痛みのためにミルクや水分をなかなか飲まなくなります。それに伴って脱水症を引き起こすこともよくあるので注意が必要です。なお、ヘルパンギーナの場合水疱は口以外の他の場所にはあまり見られません。

症状の経過としては、発熱から数日で熱が引きます。口腔内の水疱も1週間ほどで引いてきます。

主な治療法

コクサッキーウイルスなどのウイルスに対しては、ウイルスを駆除する薬はなく、種々の症状に対する治療を行う対症療法のみが行われます。基本的には自分自身の免疫に頼って治癒を待つことになります。

例えば熱が高い場合は頭部や頸部の冷却をする事で体温を下げてあげます。また、口が痛くて水分が取れず、脱水となってしまっている子に対しては点滴を行ったり、痛み止めを内服(もしくは経直腸投与)してから水分を取らせるなどして水分補給を行います。

ヘルパンギーナと手足口病の違い

ヘルパンギーナと手足口病は、どちらもエンテロウイルス属による感染症なので、症状が似通っています。好発年齢も乳幼児に多いというのも似通っています。しかし、いくつもの相違点が見られます。

まず、病名から分かるように手足口病は手、足、口に水疱が見られます。しかし口の中の水疱は前方にできやすく、奥にできやすいヘルパンギーナとは分布が違います。また、手や足の水疱はヘルパンギーナでは見られません。

発熱は、ヘルパンギーナに特徴的で、前述の通り39度を超える発熱を認めます。しかし手足口病の場合、発熱はあまりありません。

ヘルパンギーナの合併症

ヘルパンギーナは基本的には熱が引いて口の中の水疱も引いてしまえば軽快します。しかし稀に、血液にウイルスが入り込むことで合併症を起こします。

特に重篤になるのが髄膜炎です。髄膜というのは脳や脊髄を包む膜のことです。この膜に感染することで炎症が起こり、髄膜炎となります。脳や脊髄の近くですから、炎症が脳や脊髄に進展することで後遺症が残ってしまうこともあります。

また、ヘルパンギーナに限らず乳幼児が39℃以上の発熱をきたすと、熱性痙攣を起こすことがあります。熱性痙攣は短時間で痙攣が終了した場合は特に後遺症を残しませんが、長い時間痙攣が続くと後遺症が残る場合もあります。

大人が感染すると症状が重くなる?

ここまでヘルパンギーナは乳幼児の感染症と説明してきましたが、感染した子どもの看護をしていたり、集団生活する子どもと生活を共にしたりすると、稀に大人に感染することがあります。

大人の場合、ウイルスに感染するとウイルスに対する免疫反応が強く起こるため症状がより重篤になる場合があります。

具体的には発熱が39℃を超えてくるのは同じですが、これに伴って頭痛や倦怠感、関節痛などの症状が出やすくなります。また、熱が持続する期間も比較的長いとされ、なかなか解熱しないところも大人の感染の悩ましい点です。

ヘルパンギーナの子どもを看護する場合は、よく手を洗い、マスクをつけて接するなど、基本的な感染対策を行うことが重要です。


<執筆・監修>

郷正憲先生プロフィール画像

徳島赤十字病院
麻酔科  郷正憲 医師

麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。
麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。
本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。
「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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