大人は症状が重くなる?手足口病の原因とうつりやすい期間
手足口病は子どもがよく発症する感染症で、発熱の後に手掌、足底、そして口腔内に水疱が多発する病気です。特に口腔内の水疱は非常に痛く、水分も飲めなくなる子がいるような感染症です。
ほとんどは子どもが発症するのですが、時折おとなにも発症します。ここでは手足口病の原因や症状、よくある疑問などについて解説します。
目次
手足口病の原因と症状
手足口病は、ウイルスの感染によって子どもに発熱や皮疹を認める病気です。その特徴について解説します。
子どもに多い夏風邪のひとつ
手足口病は子どもの夏風邪の一種として見られることが多い病気です。夏風邪はウイルスによって引き起こされ、症状もウイルスによって異なります。
手足口病の原因となるウイルスに感染しても全員が発症するわけではなく、70%程度は症状も何もない状態で経過します。約30%の子どもに後述の様な症状が出現します。
ウイルスですから大人にも感染します。しかし、症状が出た手足口病のうち、90%以上は5歳以下の小児に見られるということで、ほとんどが子どもの病気といえるでしょう。
手足口病の原因
手足口病は、コクサッキーウイルスA群(10型・16型) 、もしくはエンテロウイルス71型の感染によって発症する病気です。
これらのウイルスは、ウイルスが口から侵入することで体内に入り、増殖して症状が出現します。くしゃみや咳などの飛沫感染や、ウイルスのついた手で触ったものに手で触れた子どもがその手を口にもっていくなどの接触感染が主です。
一度感染すると体内に免疫が形成されるため、二度目の感染は起こりにくいという特徴があります。そのため、集団生活をして口にウイルスが入りやすく、なおかつまだ感染を起こしたことがないため免疫がなく、感染しやすい子どもの間で流行しやすくなるのです。
手足口病の症状
通常の場合、体内にウイルスが入り込んでから2~3日後に手のひら、足の裏、口の中に水疱を中心とした発疹が多発します。水疱は約2~3mmと小さく、ブツブツがたくさんできるといったイメージです。発熱もほぼ同時か少し先行して見られることがありますが、全例ではなく、また非常に高い熱というわけではありません。
熱でしんどいとか、皮膚が痛いといったはっきりとした症状がない代わりに、子どもにとって非常に苦痛なのが口腔内の病変です。水疱が破れるとそこがしみて強い痛みを感じます。
つばや水を飲み込むだけで口腔内やのどが痛くなるため、脱水から衰弱する場合もあります。しかし基本的には2~3日で軽快し、後遺症を残すこともありません。
しかしごく稀に、ウイルスが中枢神経系に移行することで髄膜炎や脳炎、小脳失調症などを起こすことがあるほか、心筋炎、神経原性肺水腫、急性弛緩性麻痺などの合併症がおこり重篤化することがあります。
薬はないって本当?手足口病の治療
手足口病は前述の通り、ウイルスによる感染症です。感染症と言えば抗生物質を使用するというイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、抗生物質は細菌に対する治療薬です。細菌は一個の細胞が生命体として活動しているもので、人体に感染して細胞分裂をすることで増殖します。多くの抗生物質は細菌が細胞分裂するのを阻害することで効果を発揮するものです。
しかしウイルスは細菌とは違い、細胞としての形をしていません。ウイルス自体は非常に小さいもので、人体に感染すると人の細胞の中に入り込みます。そして人の細胞を利用して自分自身と同じ構造物をどんどん作り出し、人の細胞から外に出るという機序で増殖します。
よくある抗ウイルス薬は、ウイルスが細胞から出てくるのを阻害することでウイルスの増殖を抑制します。しかし、ウイルスの構造はそれぞれで大きく異なるため、各々のウイルスに対して用意された薬しか効果がありません。
例えばインフルエンザや、ヘルペスなどのウイルスには抗ウイルス薬が存在しますが、コクサッキーウイルスやエンテロウイルスに対する抗ウイルス薬はありません。
手足口病の対症療法
手足口病の治療はウイルスの増殖を抑えたり、ウイルス自体を攻撃したりするような薬剤はないため、ウイルスによって起こる症状を抑える治療のみになります。このような治療を対症療法といいます。
具体的に手足口病に行われる対症療法は、熱があまりに高くしんどそうな時には解熱薬を使用したり、口が痛くて水分が取れない場合には点滴によって水分を補充したり、痛み止めを使用したりします。
もちろん、家庭でも様子見をすることができます。しかし、脱水がひどくなると点滴をする必要があります。例えばぐったりしている、活気がない、舌が乾いているなどの症状は強い脱水を疑いますから、医療機関の受診が必要です。
手足口病のよくある疑問
ここからは手足口病に関するよくある疑問に回答していきます。
大人が感染すると症状が重くなる?
先に述べたとおり、手足口病の感染のほとんどは小児です。しかし、過去に手足口病に感染したことのない大人は原因ウイルスに対する免疫を持って居らず、小児から感染することがあります。また、原因ウイルスは一種類ではありませんから、過去に手足口病を発症したことがあっても再度発症することもあります。
このように大人に発症した場合、ウイルスに対する免疫を体が持っていないため、ウイルスの増殖は非常に活発に起こります。
大人の手足口病の場合、子どもに比べて皮疹の症状が強くなるという特徴があります。また、関節痛や筋肉痛、全身倦怠感などの症状が起こることもあり、全身症状も子どもより強いことが多くなります。
一方で、大人でも口内炎程度の口腔内病変が出現するだけで終わる人もいます。
潜伏期間とは?
手足口病の潜伏期間は1~3日といわれます。潜伏期間というのは、ウイルスが体内に侵入してから、症状が出現するまでの時間をいいます。
ウイルスによって増殖のスピードや、そのウイルスに対する免疫反応の起こりやすさが異なりますから、潜伏期間はウイルスによってまちまちなのです。
不顕性感染とは?
不顕性感染というのは、感染は起こしているけれども症状がない状態をいいます。
体の中にウイルスが入ってきて、細胞に感染を起こすと体は免疫反応を起こします。しかし、ウイルス自体が非常に少ない場合や、ウイルスの毒性が弱い場合、体の免疫があまり反応しない場合は、ウイルスが増殖していても体の反応があまり起こらず、症状が出ないことがあります。
しかしこのような場合でも細胞の中でウイルスが増殖していることがあります。このとき、体外へウイルスが出ることがあれば、他の人への感染につながります。このような状態を不顕性感染といいます。
不顕性感染の場合、自分自身は症状がなくても、ウイルスを増殖させて他の人に感染させる可能性があるので注意が必要です。
うつりやすい期間は?
手足口病は感染してからしばらくは、他人に感染することはあまりありません。しかし、症状が出現してから1週間ぐらい、ちょうど症状が治まるまでの期間は他の人へ感染しやすい期間とされています。
また症状が治まっても、1か月程度は細々とウイルスを排出していると考えられ、他の人に感染させる可能性があるといわれています。
発疹が消えない…痕は残る?
手足口病の発疹は、完全に消退するといわれています。他の全身症状に比べて発疹が長く残ることも多くありますが、しばらくすれば消失します。ただし発疹をひっかいたり、強くかきむしったりすると傷跡が残ることがあります。
手足口病を予防するには?
手足口病は先ほど説明した通り、口から感染してきます。そのため手洗いうがいという基本的な感染対策が最も有効です。また、感染した人は他の人にうつす可能性があるので保育園や幼稚園などに登園しないことも重要になります。
<執筆・監修>
徳島赤十字病院
麻酔科 郷正憲 医師
麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。
麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。
本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。
「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」