お腹が空いているのに食べたくない、気持ち悪い…原因や受診の目安は?

お悩み

お腹が空いているはずなのに食欲がわかなかったり、無理して食べると気持ち悪くなってしまったりすることがあります。このような症状の背景には、身体的または精神的な疾患が隠れている場合もあります。

ここでは食欲不振や吐き気の症状の原因になる疾患について解説します。

お腹が空いているのに食べたくない・食べると気持ち悪い原因とは?

食欲が低下したり、食事をしたときに気持ち悪くなったりする原因になる疾患には次のものがあります。

暴飲暴食

食べ過ぎは胃もたれを引き起こすよくある原因です。胃の働きを超えるほど食べすぎてしまうと、食べ物が胃に蓄えられている時間が長くなるため、胃もたれや吐き気などの症状が引き起こされやすくなります。

また、アルコールの飲み過ぎに伴って、アセトアルデヒドという有害物質が体内に溜まって吐き気や嘔吐などの症状を引き起こします。

さらに、アルコールそのものも胃に負担をかけることが知られており、アルコールによって胃酸から胃壁を守っている防御因子の働きを阻害したり、胃粘膜の血流を悪くしたりすることで胃もたれや吐き気などを催す場合があります。

逆流性食道炎

胃から食道へ胃酸が逆流する疾患を胃食道逆流症(GERD)と呼び、内視鏡検査で下部食道の粘膜に潰瘍やびらん、ただれなどの障害を認める際には、逆流性食道炎と診断されます。

逆流性食道炎では、胸が焼けつくような症状を訴えることが多く、酸っぱいものが上がってきて食事を摂取するとものがつかえるような自覚を感じることがあります。

逆流性食道炎になると、食欲不振に陥ることもあり、横になると胸のむかむか症状が悪化して、みぞおちから喉元周辺に何ともいえない気持ち悪さが出現して、体重が減少することもあります。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍

胃痛が辛い女性

胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、胃酸で胃や十二指腸の粘膜組織がただれて障害を受けている状態であり、主にヘリコバクター・ピロリ菌の感染、鎮痛薬など薬剤の副作用、過度のアルコール摂取、喫煙、日々の過剰なストレスなどが原因となります。

胃や十二指腸に潰瘍が形成されると、腹部の疼痛症状やみぞおち周囲部の痛み、胸やけ以外にも食欲不振や腹部膨満感などの症状が自覚されます。

胃潰瘍では食事中から食後に胃もたれ、嘔気、嘔吐、食欲不振などの有意症状が出現することが多い一方で、十二指腸潰瘍では空腹時などに腹部が痛むことがよく見受けられます。

つわり

女性が食べると気持ち悪くなって、胃もたれや吐き気を感じる場合には、妊娠していて、つわりに陥っている可能性があります。

妊娠していることに気が付かず胃腸科を受診し、そのまま薬を処方されてしまうことも少なくありませんので注意が必要です。

症状の程度には個人差がありますが、おおむね妊娠5週頃からつわりの症状が現れて、さらに妊娠週数が進むにつれて、胎児によって胃が圧迫されて胃もたれやむかつきを感じることもあります。

過敏性腸症候群

小腸や大腸領域に器質的な異常がないにもかかわらず、腹痛、便秘や下痢などの便通異常が継続する病気を「過敏性腸症候群」といいます。

神経質な場合や生真面目な方など、ストレスを通常よりも受けやすい性格の人に発症しやすい心身症のひとつと考えられています。

過敏性腸症候群の主要な症状としては、便通異常(便秘型・下痢型・交替型)、腹痛、腹部不快感が知られており、排便すると腹痛症状が改善するといった特徴があります。

過敏性腸症候群では体重が顕著に減少することは少ないですが、腹痛や便通異常の症状以外にも吐き気や食欲不振、頭痛、めまい、動悸などの全身的な身体症状、あるいは不眠や不安症状など精神的な不調が出現することもあります。

ストレス

日々の生活において精神的なストレスが続き、悲しみや焦燥感、抑うつ症状などを自覚すると、脳における摂食中枢が鈍くなって食欲不振につながります。また、食べ物を摂取しても味がしない味覚障害などを引き起こすこともあります。

過度なストレスが続くと、ストレスに伴って呼吸や体温、内臓の代謝機能などを調整している自律神経の乱れが原因となって、食欲不振や嘔気症状を自覚することが多くなります。

自律神経は、主に交感神経と副交感神経がバランスを良好に保つことによって成り立っており、過剰なストレスなどの影響によってこれらのバランスが崩れると、さまざまな心身のトラブルを引き起こすことに繋がります。

夜ふかしによる睡眠不足や不規則な食生活も身体の自律神経バランスや日常リズムを乱して、食欲不振の原因になります。

ストレス状況下では交感神経が副交感神経を抑えて優位となり、胃液や胃酸の分泌も抑えられて空腹感も自覚せず、食欲不振や吐き気などの症状を呈します。

いったんストレスから解放されると、安心すると同時に副交感神経が交感神経を抑制して優位となり、消化管の蠕動運動を含めた機能が促進されて、自然と空腹感を覚えるようになります。

うつ病

うつ病は日常生活に強い影響が出るレベルで気分の落ち込みが続き、何事にも意欲や喜びを持つことができなくなる疾患であり、特に不安感や焦燥感などの症状が強く出現します。

「自分は生きていても仕方がない」など自分を責める発言が増え、他にも良く眠れずに不眠に陥る、あるいはめまいや吐き気を訴える場合もあります。

うつ症状が進行すると感情を感じにくくなり、生きている実感が湧かないといったこともあり、さらに病状が悪化した場合には死にたいと考える精神不調を呈することもあります。

また、うつ病ではこれらの精神的な症状のみではなく、身体症状として不眠や食欲低下、頭痛などが生じます。

機能性ディスペプシア

機能性ディスペプシア(FD)とは、胃カメラ検査などで特に病変が見つからないものの、胃の症状がみられる病気です。

機能性ディスペプシアは、胃痛や食欲不振、吐き気などの症状が長期的かつ慢性的に持続しているにもかかわらず、血液検査や上部消化管内視鏡検査を実施してもその直接的な病因となるような異常所見が同定できない病気です。

機能性ディスペプシアを引き起こす原因としては、主に胃の蠕動運動に関する機能障害、内臓の知覚センサーが通常より過敏になっている、あるいは心理的なストレスなどが挙げられます。食べると気持ち悪くなる症状以外にも、ゲップ、横になったときの腹部の苦しさなどが見られます。

食欲がない、気持ち悪いときの食事のコツ

食欲がない、あるいは気持ちが悪い際にはなかなか普段通り食事をする気にならないものです。体に必要な栄養や水分が不足してしまわないように、次に紹介する食事のコツを試してみましょう。

食事の回数を増やす

食事を抜いてしまうと、1日に必要なエネルギーやたんぱく質などの栄養素を補うことが難しくなります。食欲がなくて十分な食事量が摂取できない場合には、1回の食事量を少なくし、1日5食などに細かく分けて、できるだけ食事を摂取するようにしましょう。

お腹が気持ち悪くて食欲がなくても、例えば、朝食、10時の軽食、昼食、3時の軽食、夕食というふうにこまめに食事回数を設定して、少しずつ栄養素を摂取することが重要です。

おなかの調子の悪さや気持ち悪さの原因が暴飲暴食である場合には、まずは胃を休めるとともに、食事を摂るときには、食物繊維や脂肪が少ない食品を選ぶことが大切です。

大根、ニンジンやじゃがいも、かぼちゃなど胃腸にやさしい食品を中心にして、薄味を基本として、茹でる・煮る・蒸す方法で調理するようにしましょう。

鶏ささみ、豆腐、納豆、お粥、雑炊うどんなどの食事メニューを数日続けても気持ち悪さなどの不快感が続く場合には、何らかの病気が隠れている可能性がありますので消化器内科など専門医療機関を受診して相談しましょう。

水分をしっかりとる

水分補給が大事

食べると気持ち悪くなり、食欲不振で食事量が少ない時は、本来食品とともに自然に体内に入る量の水分を、飲み物として摂取しないと脱水状態になってしまいます。いつも以上により多くの水分摂取が必要になってきます。食事が摂取できない時は、水やお茶を積極的に飲む、あるいはゼリーやヨーグルト、プリン、スープなど口に入れやすくさっぱりとしたものを食べることによって、栄養補給と同時に水分補給にもつながります。

無理に食べようとしても困難なときは、不足しがちなビタミン類やミネラル成分などの栄養素をしっかりと確保できるように、栄養補給目的にドリンク剤などを取り入れるのもよいでしょう。

あっさりとした料理や香辛料を使った料理

あっさりとした食品、例えばひんやりとして気軽に食べられるそうめんなどの料理を取り入れてみましょう。

また、酢やレモン汁、梅干しなどを用いて、料理に酸味を効かせるとさっぱりとした味になって食欲不振の際にも食べやすくなり、食欲を刺激する作用も期待できます。

さらに、カレー粉などの香辛料、あるいは大葉やしょうがなどの薬味や香味野菜を取り入れると、胃液の分泌を促進させて食欲増進に繋がります。

病院に行くべきサイン

食欲不振症状は、満腹中枢と摂食中枢のコントロールがうまく制御できなくなる脳の不調、あるいは胃腸を含めた消化器機能の異常などによって起こりやすく、なんらかの病気のサインとなっている可能性もあります。

食欲不振の症状が軽度であれば、ゼリーやお粥など消化の良い食べ物を摂取して数日経過したころに食欲が改善していることもあります。

ただし、数日たっても食欲が改善せずに標準体重より約20%以上痩せた、あるいは嘔吐や腹痛症状など他の身体的不調がみられる場合には、消化器内科など医療機関に相談されることをオススメします。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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