背中の痛みは膵臓の病気?膵炎・膵がんの痛みの特徴と痛む場所

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膵臓という臓器は腹部のやや背中側に位置しており、胃の後ろ側に存在します。背中の痛みは骨や筋肉の異常だけでなく、膵臓の病気が原因となっていることがあります。

膵臓がん、急性膵炎、慢性膵炎といった膵臓の病気にはそれぞれ症状の特徴があります。ここでは背中の痛みをはじめとする、膵臓の病気の症状について解説します。

膵臓の場所と働き

膵臓は、みぞおちの少し下、胃の後ろ側にある細長い臓器です。

主に、胃、小腸(十二指腸)、肝臓、脾臓(ひぞう)に囲まれて左右に横たわっていて、その長さは15〜20cm、厚みは2cmほどで薄黄色を呈しています。

膵臓の主な働きは、「膵液」という消化液を分泌して食べ物の消化を助ける「外分泌機能」、あるいはインスリンなどのホルモンを分泌して血糖値を一定濃度に調整する「内分泌機能」を有しています。

膵臓全体を3等分したうちの身体の右側を膵頭部、身体の左側を膵尾部、そして中央部位を膵体部と呼んでいます。

膵臓の病気の痛みの強さと、痛む場所の違い

膵臓の周辺部が痛い、あるいは背中が痛む症状が続く場合には、膵臓がん、急性膵炎や慢性膵炎など膵臓に関連している病気が疑われます。

背中が痛くなったと共に最近になって胃腸の調子が悪く、上部内視鏡検査なども実施したが異常が認められない場合には、膵臓病に罹患している可能性を考慮する必要があります。

膵臓がんの症状

膵臓がんとは、膵臓に発生する悪性腫瘍のことです。背中に痛みを感じる場合、もしかすると膵臓が悪いために痛みが引き起こされている可能性があります。

膵臓は腹膜より後ろ側(背中側)に存在することから、腎臓や尿管などと同様に後腹膜臓器に分類されます。

例えば、尿管結石を発症したときや腎臓領域の炎症が起こった際にも背部周囲に痛みを呈することが多いように、後腹膜臓器である膵臓に異常病変が生じた場合には自然と背中に痛み症状を自覚するようになります。

膵臓がんでは、膵臓内部の膵管と呼ばれる通り道が癌病変部によって閉塞を起こして、膵臓領域に炎症所見が惹起されて背中が痛くなることがあります。

膵臓がんの場合には、がん自体の進行が早い一方で、初期の段階ではほとんど有意な症状が出現せずに自覚症状が乏しく早期での発見が難しいがん疾患の一つです。

早期に膵臓がんが偶然発見された症例のなかで、約2割は自覚症状が無かったという調査研究もありますが、がんの病状が進行すると背部痛に加えて食欲低下、体重減少、黄疸などの所見が認められ、糖尿病を合併するケースも少なくありません。

急性膵炎の症状

急性膵炎は、膵臓関連酵素が過剰に分泌される場合、あるいはがん病変などの存在によって膵液が膵管を通れずに渋滞を引き起こして膵臓そのものを消化して炎症を引き起こす状態を指しています。

急性膵炎に罹患した際には、みぞおちの痛み、背部痛などの症状を自覚するだけでなく、重症化すれば多臓器不全や膵臓壊死部の細菌感染が合併するなどによって死に至ることもあります。

基本的には、膵臓の炎症程度にかかわらず、緊急に入院が必要です。軽度であれば絶飲食および点滴投与などによって重篤な膵機能の障害を認めずに治癒することが期待できます。膵臓周囲部に壊死や感染が生じる場合には手術治療などが必要になります。

慢性膵炎の症状

慢性膵炎とは、中年層に多く認められる病気であり、長期に及んで膵臓の炎症が何かしらの原因によって継続することで、食べ物の消化、およびインスリンを始めとするホルモン分泌などが十分に機能しなくなる状態を指しています。

急性膵炎と同様に、膵液の流れが慢性的に滞っていることで膵細胞が破壊されるに伴って、膵臓が線維化して硬化する、あるいは膵石が生じるなどが認められます。

慢性膵炎になると、基本的に元通りの状態に完治する可能性は低く、病気が徐々に進行していきます。

慢性膵炎を引き起こす原因としては、長期間のアルコール過剰摂取、過労やストレス、胆石などが挙げられます。

強い腹痛が繰り返される段階での治療策としては、膵臓の炎症による痛み症状を和らげる鎮痛薬使用、あるいは内視鏡を用いて膵管の狭窄部を解消するステント留置などの処置方法が考えられます。

痛み以外にもある? 膵臓がんの症状の特徴

膵臓がんは背中の痛み以外にも、黄疸、糖尿病、食欲不振や体重減少などを伴います。

黄疸

膵臓がんが認められて病状が悪化すると出現する症状として、背中の痛み以外に黄疸が挙げられます。黄疸になれば、全身の皮膚や眼球粘膜部が黄色くなって、掻痒感を伴う症状を自覚します。

膵臓がんが存在することによって、膵臓を通過する胆管が閉塞を引き起こして、胆管を流れている胆汁成分が血液や全身に逆流する結果として、「黄疸」所見が認められます。

糖尿病

明確な原因は判明していませんが、膵臓がんの発症には糖尿病との関連性が指摘されています。

膵臓は、食物の消化に必要な消化酵素を含有する膵液を作成して十二指腸方向に送り出す機能に加え、血糖値を下げるインスリンや血糖値を上げるグルカゴンなどのホルモンを分泌して血糖を調節する機能を担っています。

膵臓がんの存在によって膵管が圧迫されて二次性に膵炎を起こして糖尿病に罹患することも考えられ、膵臓の働きが低下することで血糖がうまく調整されずに血糖値が高く推移する、あるいは血糖値が大きく変動して低血糖に陥って意識障害を呈する場合もあります。

食欲不振・体重減少

膵臓がんには、背部痛以外に食欲不振や体重減少などの症状が出現する場合があります。

膵臓がんは、膵臓から十二指腸に分泌される消化液が通る膵管に形成されることが多く、悪性度の高い腫瘍性疾患として認識されており、がんの進行に伴って食欲が低下して体重が減少する所見が認められます。

膵臓がんは他臓器に転移しやすく進行も早い悪性腫瘍であり、一般的にはがんが進展すると日々の生活において食思不振を自覚して、腹部が張ると共に胃腸が不調に陥って食事を十分に摂取できなくなって体重減少につながります。

神経浸潤・神経障害性疼痛によって生じる痛みとは

膵臓の周囲には多くの神経が分布しており、そこに膵がんが浸潤(しんじゅん)するとさまざまな症状が現れます。また、神経障害性疼痛は、神経、脊髄、または脳の損傷や機能障害によって起こる痛みのことを指し、がんの神経浸潤によっても生じます。

神経浸潤とは

神経浸潤は、病理学者が神経に付着した腫瘍細胞を説明するために主に病理学的に使用されている名称です。

神経は、ニューロンと呼ばれる細胞のグループで構成された長いワイヤーのようなものであり、神経は全身に見られて、体と脳の間で情報(体温、圧力、痛みなど)を送る役割を果たしています。

腫瘍細胞は神経を介して、周囲の組織に広がる可能性があるため、神経周囲への浸潤は重要な所見となり、これにより、治療後に腫瘍が再成長するリスクが高まります。

神経障害性疼痛とは

神経障害性疼痛の原因としては、例えば、腫瘍、 椎間板破裂(腰痛または脚に広がる痛みを引き起こす)、または手首の神経の圧迫(手根管症候群を引き起こす)によるものなど神経圧迫によって引き起こされます。

また、全身に影響を及ぼす病気(糖尿病など)で起こることもあれば、体の一部に影響を及ぼす病気(帯状疱疹など)に伴って神経が損傷されることで引き起こされる場合もあります。

脳と脊髄が痛みの信号を処理する過程の異常または妨害によって、神経障害性疼痛を認める場合もあって、幻肢痛、 帯状疱疹後神経痛(帯状疱疹の後に起きる痛み)、複合性局所疼痛症候群においては、痛みの信号を処理する過程に異常が生じています。

神経障害性疼痛がきっかけで、不安や抑うつに陥ることもあり、不安や抑うつの症状に伴い、痛みがさらに悪化することがあります。

神経障害性疼痛は、手術の後、例えば乳房の除去(乳房切除術)または肺の手術(開胸手術)の後に生じることもあります。

神経障害性疼痛では、灼熱痛またはチクチク感を感じたり、触覚や低温に過敏になったりする症状が見受けられることが多く、神経系が痛みに敏感な構造に変わってしまい、痛みの原因がなくなった後も長い間痛みが続きます。

代表的な治療方法は、薬剤(痛み止め、抗うつ薬、抗てんかん薬など)、理学療法や作業療法、必要であれば手術、脊髄または神経への神経ブロックなどが挙げられます。

多くの場合、神経障害性疼痛の治療は薬剤の使用から開始し、不安や抑うつなど、痛みにつながりうる心理的要因があれば、それらを対象に最初から治療にあたります。

まとめ

これまで膵臓の病気の症状の特徴などを中心に解説してきました。

膵臓はちょうど体の中心に位置しているおたまじゃくし形の臓器であり、その位置は胃の後ろ側(背側)にあります。

膵臓がんに伴って背部痛などの症状を自覚することもあるので、他の疾患の可能性も考えながら膵臓に関連する検査を進めていく必要があるといえます。

膵臓周囲のみぞおちや腹部、あるいは背部が痛むとともに、万が一黄疸や食欲不振、体重減少、糖尿病の合併などを認めた際には、膵臓がんを含む膵臓関連疾患が疑われます。

心配な症状がある場合や不安を感じる際には、消化器内科などの専門医療機関を受診することをおすすめします。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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