汗疹の種類と治し方…ベビーパウダーやワセリンは使っていい?

お悩み

汗疹とは、いわゆる「あせも」のことです。汗疹は非常に良くある皮膚トラブルです。子どもに多く見られ、汗疹がかゆくて困った思い出がある方も少なくないでしょう。また、子育て中で子どもがまさに汗疹で悩んでいる、という方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、汗疹の種類や治し方について解説します。

汗疹のメカニズム

汗疹とは、「汗が正常に排出されないことによって起こる発疹」のことです。汗は普通、皮膚にある汗腺という汗を分泌する組織から、皮膚に分泌されています。

しかしこの汗の流れが何らかの理由で詰まってしまうと、汗を皮膚表面に分泌することができなくなり、汗腺の中に汗がたまります。すると汗腺の周りが炎症を起こし、赤いブツブツができてしまうのです。

特に肘の内側や膝の内側は、肘や膝を曲げることによって皮膚と皮膚が密着し、お互いに汗の出口を塞いで汗疹ができやすくなってしまうのです。

もう一方のよく診られる汗による皮疹として、汗かぶれがあります。汗かぶれは汗が正常に皮膚に分泌されるのですが、汗によってふやけた皮膚が汗そのものや衣類に触れることで接触性皮膚炎を来したものをいいます。

汗自体には塩分やアンモニアなどの肌を傷害する物質が含まれていますから、アトピーなど皮膚が弱い人は軽い刺激でも汗の刺激と相まって皮膚にダメージが与えられてしまうのです。

汗疹ができやすい条件

汗疹の原因には複数のものがあり、それぞれ単独ではなく互いに影響して重なり合うことで

汗疹を発症し、また状態が悪くなっていきます。

元々アトピー素因がある人や、汗腺の密度が高い人は皮膚にダメージを受けやすくなります。また、汗をかきやすい人も、汗疹はできやすくなります。乳幼児は汗腺が多く、また体温調節のために汗を多くかくため、汗疹ができやすくなります。

これらの基礎条件を持っている人が、運動をしたり高温多湿環境にいたりすることでたくさんの汗をかいたり、塵やほこりが多く皮膚について汗腺を塞いだりしてしまうような環境下に置かれると容易に汗疹を形成してしまいます。

汗疹の種類と症状

汗疹には複数の種類があります。どのような種類があるのか見てみましょう。

水晶様汗疹

水晶様汗疹は、皮膚の浅い部分に生じる汗疹を指します。このような汗疹は、皮膚の表面を観察するとちいさな透明の水疱が複数見られます。皮膚表面近くで汗が行き場を失い、汗腺が膨らむことによって水疱を形成しているように見えるのです。

この場合、表皮のすぐ近くなので容易に汗は皮膚表面に出てくることができるため、炎症はあまり起きず、かゆみやヒリヒリした症状はないことが多いです。水晶様汗疹は乳幼児に多い汗疹です。

紅色汗疹

紅色汗疹は、ちいさな赤い水疱が複数生じるもので、「あせも」といえばこの汗疹を指すことが多いです。水晶様汗疹よりやや深い箇所に汗がたまることでできる汗疹で、膨らみが皮膚を通して見られ、また炎症をよく起こすため赤い色に見えます。

深い位置にあるのでなかなか汗が排泄されず、炎症を起こしやすいことが特徴で、かゆみをよく起こします。また、皮膚自体のダメージもあるため、汗をかくことで皮膚の表面にヒリヒリとした痛みを感じることも少なくありません。

水晶様皮疹ではあまり起こらないのですが、紅色汗疹であれば深い層での汗の貯留で感染を起こし得ますから、そのまま皮膚の深い層の細菌感染症に進展する可能性があり、早めの対処が必要です。

深在性汗疹

深在性汗疹とは、その名の通り深い場所で汗が詰まることで起こる汗疹です。ブツブツができるというよりは、皮膚全体がすこし盛り上がったように見えるのが特徴です。

深い場所ですから炎症が起こっても原因となった汗がなかなか出ていかないため、強い炎症が起こりやすく、痛みが強かったり、長い間治りにくかったりといったやっかいな症状を引き起こします。

また、この状態では汗があまり分泌されずに体温調節にも影響を与えてしまい、熱中症になりやすくなります。

乳児や幼児の汗疹の治し方

成人であれば、汗が出たらすぐに拭き取ったりシャワーをしたりすることである程度汗疹を抑えることができます。

しかし乳児や幼児は自分自身で汗の処理をすることがなかなかできないだけではなく、皮膚の溝も深く、もともとの汗の分泌も多いため、より汗疹になりやすく、治りにくい環境がそろっているといえます。

乳児や幼児の汗疹の治し方について見てみましょう。

薬の種類

汗疹の対策といえば塗り薬です。塗り薬には以下のような種類があります。

軟膏タイプ

ワセリンなどをベースに、ややしっかりと患部をカバーするために作られた薬剤です。刺激は少なく、皮膚を保護することに長けています。しかしベタベタするのが難点で、体中に塗ると不快感が強くなります。

クリームタイプ

油脂と水を界面活性剤で混合したもので、軟膏に比べて広がりがよく、ベタつきにくくなります。

ローションタイプ

水やアルコールなどの液体をベースにして作られています。クリームよりさらに皮膚に広がりやすく、塗りやすいのですが、汗や水ですぐに流れ落ちてしまいます。

スプレータイプ

こちらも水やアルコールをベースにして造られているため、サッパリと使用できます。しかしやはり汗や水で流れ落ちてしまいやすいという欠点があります。

薬の有効成分

それぞれの種類の剤形に、さまざまな有効成分が配合されて製品ができています。では、どのような成分が汗疹には効果があるのでしょうか。

ステロイド

まずは副腎皮質ホルモン(ステロイド)です。ステロイドは皮膚に塗ることで強力に炎症を抑えることができるため、赤みを帯びた皮疹はステロイドの使用であっという間に改善することが多く見られます。

しかしステロイドを塗りすぎるとそのせいで皮膚が薄くなったり、逆に皮膚炎を起こしたりするなどの副作用が起こります。ステロイドの使用は赤みを帯びて炎症が強く起こっている時のみにするべきです。

グリチルリチン

同じように抗炎症作用を持っている薬剤として、グリチルリチンがあります。これは漢方薬の甘草に含まれる成分です。グリチルリチンを塗布すると、炎症を起こす白血球の一種である好酸球の働きを抑えて炎症反応を抑えます。

ジフェンヒドラミン

ジフェンヒドラミンはヒスタミンという物質の伝達をブロックする薬剤です。ヒスタミンはかゆみの情報を伝える伝達物質ですから、その伝達がブロックされることでかゆみが抑えられます。

また、ヒスタミンは炎症が起こっている場所の毛細血管を拡張させる作用もありますから、ジフェンヒドラミンの使用で毛細血管の拡張を抑えることができます。

亜鉛華(酸化亜鉛)

亜鉛華(酸化亜鉛)は、じゅくじゅくした皮膚に使用することで皮膚を乾燥させます。皮膚がふやけた状態を改善し、かゆみを抑えます。

この他にも、局所麻酔成分のある成分やビタミンなどを配合した製品が発売されていますが、主には上記の成分が含まれていますので、自分自身の症状に合わせて薬を選ぶとよいでしょう。

薬の選び方

薬を選ぶときは、まずは汗疹が起こっている場所や症状の強さを確認しましょう。肘や膝の内側など、皮膚と皮膚がすれるような場所の汗疹であれば、軟膏がおすすめです。

このような場所では汗がよく出ますから、汗で流れにくい軟膏が向いています。一方で、腹部や背部、手足などは、範囲が広くベタついてしまうと困るのでクリームが向いているでしょう。

体毛が多い場所にはローションかスプレーなど、塗りやすさを重視して選べば良いと思います。

薬の剤形がある程度決まったら、次に汗疹の状態を確認しましょう。かゆみが強く、ひっかき傷ができているような場合や、赤く腫れているような場合は炎症が強い状態が想定されますから、短期間ステロイドの軟膏を使用することも検討します。

一方で、皮膚には特に異常が見られないか、見られても極軽度の場合はジフェンヒドラミンやグリチルリチンが含まれた薬剤を選びましょう。

汗が非常に多く、じくじくしている場合は亜鉛華がよい選択肢となりますが、白色粉末状の薬なので白のこりしやすいことに注意が必要です。

赤ちゃんにベビーパウダーやワセリンは使っていい?

ベビーパウダーは、タルカムパウダーとも呼ばれるパウダーで、鉱石とデンプンからできた製剤です。

微細な粒子の塊で、皮膚に塗ることで毛細管現象により水分を吸い上げた上で、デンプンにより適切な湿度を保ちます。また、鉱石によって皮膚表面をなめらかにします。ただ単に水分を吸い取るだけではなく適切な水分量に保ち、皮膚同士の摩擦を少なくすることができます。

乳幼児でも使用可能で、おむつかぶれが起こった陰部など、薬をあまり使用したくないような場所にも向いています。ただし、あまり厚く塗りすぎるとダマになってしまって汗腺を塞いでしまい、より悪化させてしまうことがあるので注意が必要です。汗が多いときに薄く使用し、入浴やシャワーのときにはしっかりと洗い流しましょう。

ワセリンは、石油から得た炭化水素類から生成したものです。皮膚に対して特に影響を与えることなく、水分が皮膚から蒸発することを防ぎます。また、外部からの刺激を抑える効果があります。

ですので、皮膚がじゅくじゅくしていたり、怪我をして表皮の下の層が露出していたりする場合に塗ることで、皮膚の浸潤状態を保ち、また外部からの刺激を抑えて痛みを抑える効果があります。汗疹がひどくなって触ると痛いときによく使用され、赤ちゃんにも安心して使用できます。

悪化または長引く場合は病院へ

汗疹は清潔にして薬を塗っていればすぐに良くなることが多いのですが、中には良くならない場合もあります。そのような場合には、処方される塗布剤を使用する必要がある場合もあります。

また、汗疹と思っていたら別の病気だったということもありますから、市販薬で対応して皮膚を清潔に保っていても悪化したり長引いたりする場合は、病院の受診をおすすめします。

汗疹ができたときの予防・ホームケア

肌を適切にケアすることで汗疹をできにくくしたり、できてしまった汗疹の治りをよくしたりすることができます。

汗をかいたらシャワーを浴びる

汗をかいたらシャワーを浴びるという方法は非常に有効です。汗の中には皮膚を刺激する物質も含まれていますから、放置すると皮膚炎を起こしてしまう場合があります。

また、自然に乾燥してしまうと、汗が乾くと同時に皮脂も失われてしまい、カサカサの肌になってしまいます。するとさらに汗疹がひどくなってしまったり、他の皮膚症状につながる可能性があります。

汗をかいたときにはなるべくシャワーを浴びて汗を洗い流すのがよいでしょう。シャワーを浴びた後はしっかりと水分を拭き取って、保湿効果のあるクリームやローションで皮膚の水分を保持することも大切です。

通気性のいい服を着る

汗をかくことももちろん汗疹を悪化させますが、汗がそのまま残ってしまうことも皮膚への刺激になり、汗疹を悪化させます。

通気性のよい服を着ることで体感温度を下げて汗の量を減らし、汗疹を改善させる効果があるほか、かいた汗を適切に蒸発させて肌への刺激を抑えます。

ただし、乾燥のしすぎは皮膚へのダメージが大きくなりますから、適切に保湿剤を使用すると良いでしょう。

肌のケアをしっかりと行う

汗だけではなく、水仕事をした後にしっかりと拭き取らずそのまま自然乾燥させると皮膚のダメージが蓄積してしまいます。肌の状態が悪くなってから治療を行ってもなかなか効果が得られないので、普段から肌のケアをしっかり行うようにしましょう。

クリームやローションなどの保湿剤を、よくあせもができる場所や乾燥しやすい場所にしっかり塗ることは有効な予防法です。肌の状態を悪化させ食生活の乱れやストレスにも注意して、トラブルが起きにくい健康的な肌を守りましょう。


<執筆・監修>

郷正憲先生プロフィール画像

徳島赤十字病院
麻酔科  郷正憲 医師

麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。
麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。
本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。
「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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