高血圧の危険数値はどれくらい?発症リスクが高まる病気と予防法

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サイレントキラーという言葉があります。病気に対していわれるときは、自覚のないまま病状が悪化して死に至る、といった意味合いがあります。高血圧はサイレントキラーと呼ばれています。

高血圧は約4300万人が罹患していると推定される身近な病気です。60代の男女でともに6割、70代では男性が約8割、女性が約7割も高血圧であり、年をとるにつれて高血圧の可能性が高くなります。

しかし、厚生労働省の調査によると、高血圧で治療を受けているのはたったの1000万人程度です。実に4人に3人もの人が、高血圧に対する治療をしていないということになります。症状が現れないので放っておく、という人も多いのではないでしょうか。ここでは高血圧のリスクや危険数値について詳しく見ていきましょう。

血圧の基準値と危険数値

診察室における高血圧の診断基準は、上の血圧(収縮期血圧)が140mmHg以上、下の血圧(拡張期血圧)が90mmHg以上となります。この上の血圧、下の血圧のどちらか一方でも基準値を超えていれば高血圧となります。

リスクが高まる血圧の危険数値はどれくらい?

高血圧の程度によってI〜III度に分類されます。140〜159/90〜99mmHg がI度高血圧、 160〜179/100〜109mmHgがII度高血圧、180/110mmHg以上がIII度高血圧とされています。

血圧が高くなればなるほどリスクが高まりますが、I度高血圧であってもすでに臓器障害が起きている人もいます。そのため、高血圧となれば治療が必要となってきます。

高血圧で発症リスクが高まる病気

高血圧は脳、腎臓、心臓などの病気のリスクを高めることが知られています。

脳血管障害

高血圧となると、脳卒中すなわち脳卒中や脳梗塞、くも膜下出血等の発症リスクが高くなります。上の血圧が120mmHg未満かつ下の血圧が80mmHg未満の場合に比べて、上の血圧が140または下の血圧が90以上の場合、脳卒中の発症率が約3倍も高くなります。

さらに上の血圧が180または下の血圧が110以上のIII度高血圧となると、約8倍も発症率が高くなります。実際に救急搬送される脳卒中のほとんどが高血圧であり、正常血圧であることは非常にまれです。それほど高血圧と脳卒中は密接に関係しています。

腎障害

高血圧となると、脳卒中だけではなく腎障害となる発症率も上がります。腎臓は血液をろ過して、体内の老廃物や余分な水分を尿として排出するという働きを円滑に行うために血圧を一定に保っています。

しかし、高血圧による動脈硬化が進行して動脈の血流が低下すると腎臓機能も低下するため、余分な水分や塩分を適切に排泄できなくなります。体内の液量が増加すれば、その分心臓の負担が増えるので血圧が上がるという悪循環につながります。

腎臓の血管が動脈硬化を起こして、腎機能が低下した状態を腎硬化症といいます。豊富な血流が必要となる糸球体(毛細血管の塊)で血液の流れが悪くなると、次第に糸球体が硬化していくため、老廃物のろ過が行えなくなり、慢性腎不全に至ります。

血圧が120/80mmHg未満の人を基準にすると、男性の場合140/90mmHg以上の高血圧の人は8倍、血圧180/110mmHg以上とIII度高血圧の場合は17倍も末期腎不全になる割合が高くなることがわかります。女性の場合についても、140/90mmHg以上の場合2倍、180/110mmHg以上の場合は8倍も発症率が高まります。

心臓病

高血圧は血液を送り出す心臓への負担も高くなります。心臓へ負荷がかかることで以下のような疾患の発症リスクが高くなります。

心肥大

高血圧になると、血管が硬くなってきます。全身に血液を送り出す心臓はその圧に対抗して血液を送ろうとするため、次第に筋肉がつきます。これが心肥大という状態です。心肥大になると、心不全や狭心症、心筋梗塞などの合併症の頻度が増加します。

心不全

心臓の働きが低下して血液の循環がうまくいかなくなり、全身の臓器が必要とする血液を十分に送り出せなくなった状態のことです。また、血流を保つため、血液を溜め込む(うっ滯)が起こるようになります。その結果、足や顔などのむくみ、動く時の息切れ、動悸などの症状が現れます。

狭心症(心筋梗塞)

心臓の動脈が狭くなって心臓に十分な血液を送れなくなることで、急に胸が締め付けられるような痛みが現れます。血管が完全に詰まるわけではないので症状は一時的です。この状態を狭心症と言います。この心臓の動脈が完全に詰まると、心筋(心臓の筋肉)が壊死して心筋梗塞となります。全身に血液を送るポンプ機能が低下するため、我慢できないほどの胸の痛み、ショック状態(血圧低下)、動悸・冷や汗などが現れ、重篤な不整脈になって心停止や、ときには心破裂を起こすこともあります。

閉塞性動脈硬化症

動脈硬化により足の血管が細くなったり、詰まったりすることで十分な血流が保てなくなり、引き起こされる病気です。歩行時の足のしびれや痛み、冷感を感じたり、休み休みでないと歩けなくなります(間欠性跛行)。進行すると安静にしているときにも症状が現れ、閉塞した部分の血管を人工血管にするなどの治療をしないと、足の切断が必要となることもあります。

高血圧の予防法

高血圧には日々の生活習慣が大きく影響します。生活習慣を見直すことで予防も可能ということです。予防法について詳しく見ていきましょう。

食事を工夫して減塩する

塩分は1日6グラム未満が目標となります。カップラーメンには5〜6グラムの塩分が含まれており、1杯食べるだけで1日の塩分量を摂取してしまうことになります。麺類の汁を残せば2〜3グラムは減塩できます。

外食や加工食品には多くの食塩が含まれていることが多いので、なるべく控えるようにしましょう。野菜や果物を積極的にとることをおすすめします。

運動を取り入れる

軽い運動は血行を良くし、肥満防止にもつながります。無酸素運動(息を止めて行う運動)よりも、散歩やジョギングなどの軽い有酸素運動(十分に酸素を取り込みながら行う運動)を行うとよいでしょう。目安は1日30分程度となります。

飲酒・喫煙

飲酒は、男性では1日あたり日本酒なら1合、ビール中瓶なら1本、ウイスキーの水割りならシングル2杯、女性ではその半分程度が適量となります。禁酒するに越したことはありませんが、禁酒しなければならないというわけではありません。

酒のつまみは大抵塩分が高いので、高血圧の方がお酒を飲むときはつまみを控えるよう気をつけましょう。

喫煙は百害あって一利なしです。喫煙していても利益は何もありません。自身の健康を考えるのであれば禁煙しましょう。

ストレス対策

几帳面な人ほどストレスを受けやすく、高血圧傾向です。うまく発散できる方法を見つけていきましょう。十分な睡眠をとって、心にゆとりを持ちましょう。

健診を受ける

高血圧は自覚症状がありません。血圧を気にして毎日測る方は問題ありませんが、普段血圧を気にしていなければ、毎年健診をきちんと受けることをおすすめします。健診で行う心電図や眼底検査、血圧測定などで高血圧の診断や高血圧による長期の影響がわかることがあるからです。

特定保健指導を利用する

肥満でリスクが2つ以上ある場合、特定保健指導の対象となります。特定保健指導を受けることで自身の食生活や生活習慣の見直しができます。自身での生活習慣の修正が難しい場合は、特定保健指導を受けることも一つの手段です。

高血圧の予防法について見てきましたが、高血圧と診断された方は病院を受診して降圧薬を内服しながら生活習慣改善を目指すことをおすすめします。生活習慣改善の結果はすぐには現れません。長期継続していくことで目に見えてくるものです。

降圧薬を内服していないと、その間高血圧が放置されてしまいます。体に負担をかけまいと生活習慣を改善しているはずなのに、高血圧で体に負担をかけてしまうことになるのです。また、自分で努力しているからといって勝手に降圧薬を中断することにはリスクを伴います。必ず医師に相談するようにしましょう。


<執筆・監修>

九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師

高血圧、頭痛、脳卒中などの治療に取り組む。日本脳神経外科学会専門医。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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