うつ病の物忘れと認知症の違いとは?特徴や対処法を解説

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物忘れと聞くと認知症が思い浮かぶかもしれません。うつ病が思い浮かぶ人は少ないのではないでしょうか?

物忘れがあると認知症ではないかと心配になり、実際に脳MRIを希望して病院に来られる方も多いです。しかし、うつ病でも物忘れは生じます。

うつ病というと落ち込んだり、何も楽しめない、死にたいという症状をイメージする方が多いと思います。これらはうつ病の中核となる症状ですが、そうした症状以外にもさまざまな症状が生じます。そのうちの一つが物忘れです。

ここではうつ病の物忘れと認知症との違いについて見ていきましょう。

うつ病で物忘れが激しくなる理由

うつ病によって物忘れが激しくなる理由は主に2つです。

うつ病では集中力が落ちます。この集中力の低下は、うつ病の際によく見られる症状です。そのため、新しい物事を覚えて保持する記銘力が低下します。集中力が低下するので、見聞きしたものが頭に入ってこなくなるのです。

もう一つの理由としては、意欲がなくなることです。記憶したことを思い出す作業も億劫に感じられるため、頭の中に記憶したことが残ってはいても、記憶を取り出せないといったことが起きます。そのため、物忘れをしているように感じられます。

うつ病での物忘れは、上記のように無気力・思考制止といった抑うつ症状が原因となります。

若い方だと特に物忘れの症状が出現すると、心配になると思います。「本当は覚えていられるはずなのに、どうして忘れてしまうのだろう」「頭が悪いから覚えられないのだろうか」などと考えてしまい、さらにうつ病を悪化させてしまうことも少なくありません。

うつ病の物忘れと認知症の違いとは?

うつ病に伴う物忘れと、認知症の物忘れにはどのような違いがあるのか見てみましょう。

うつ病による物忘れの特徴

うつ病による物忘れの特徴は、新しい物事を覚える記銘力が低下する点です。

うつ病は神経伝達物質の減少により、頭の回転が鈍くなります。そのため、考えられない、集中できない、思い出せないという症状が生じます。

入力の間違いやケアレスミス、大切なアポイントを忘れてしまう、人の名前が出てこない、作業の手順を覚えられない、人の話が頭に入ってこないなどの仕事上でのミスが起こります。

日常生活においては、暗証番号を忘れた、財布を忘れた、料理の火を消し忘れた、同じものを買ってしまった、本を読んでも内容が頭に入ってこない、などがあります。うつ病による物忘れは、抗うつ剤を服用することによって徐々に改善してきます。

認知症による物忘れの特徴

認知症の症状の特徴は、物事の記憶そのものが丸ごと抜け落ちてしまう点です。また、昔の出来事を忘れるのではなく、最近起こったことを忘れる傾向が強いとされています。

発症初期の段階で認知機能の低下を自覚することはありますが、認知症による物忘れは徐々に進行していき、自覚症状が薄れていき、不安や気分の落ち込みなどを抱きにくくなっていきます。

うつ病による物忘れと認知症の違い

うつ病による物忘れは、昔や現在のことなど関係なく全体的に忘れる傾向にあります。しかし、認知症による物忘れの場合は、最近のことから忘れていきます。

また、高血圧症や高脂血症、脳梗塞や心筋梗塞などの既往がある人は認知症による物忘れの可能性が高いといえます。

物忘れの症状が進行していくのかどうかをみるのも大切です。進行していくのであれば認知症による物忘れの可能性があります。うつ病に特徴的である気分の落ち込みや意欲低下、食欲低下などのうつ症状があるかどうかをみることで判断できる場合もあります。

高齢者のうつ病とアルツハイマー型認知症の関連

高齢者でもうつ病が発症します。高齢者となると認知症による物忘れなのか、うつ病による物忘れなのかが判断が困難となってきます。

うつ病を原因とする物忘れを仮性認知症といいます。仮性認知症と普通の認知症の違いは、物忘れの自覚があるかどうか、物忘れに対する深刻さがあるか、気分的な落ち込みがあるかなどで判断していきます。

また、仮性認知症は気落ちの落ち込みがあるため、意気消沈に向かうことが多いのに対し、認知症による物忘れは落ち込みがないため、むしろ言動が活発になっていく傾向があります。

仮性認知症からアルツハイマー型認知症への移行

高齢者のうつ病を原因とした仮性認知症は、アルツハイマー型認知症とまったく原因が異なるものの、仮性認知症を放置すると、アルツハイマー型認知症に移行しやすくなることがわかっています。

仮性認知症のうち約3%が1年後に、約12%が2年後に、約50%が3年後に、約89%が8年後に認知症へと移行していくとされています。

仮性認知症の原因は前頭葉の機能不全とされています。前頭葉は加齢による影響を受けやすい部位であり、高齢者の血流量は20代の人と比較すると約20%まで低下しているといわれています。

一方でアルツハイマー型認知症は、短期記憶を司る海馬という組織の機能不全による脳の萎縮を原因としています。

このように原因がまったく異なるにもかかわらず、仮性認知症はアルツハイマー型認知症へと移行してしまうため、早期発見・早期治療を心がける必要があります。

記憶力低下を感じる場合の対処法

うつ病による物忘れは自覚があります。そのため、自分が物忘れをしていると感じることで自責の念を抱き、また忘れるのではないかと思うことでストレスを感じてしまいます。記銘力低下を感じたときは適切に対処する必要があります。対処法について見てみましょう。

疲れたときは頭を休憩させる

健康な人でも勉強を長時間した際や、集中して物事を行なった後は、頭が重く感じたり、ぼーっとしたりすることがあると思います。

うつ病の人は、中枢性疲労といい、普段から脳が疲れやすい状態にあります。頭が疲れてくると集中力が落ちて、何かを覚えることができません。そのため、頭を休めることが必要となってきます。食事中や移動中、就寝前などは、意識してスマホやパソコンなど頭を疲れさせるものを使わずに、ぼーっとして何も考えないで脳を休ませてあげましょう。

考えを紙に書いてまとめる

頭の中が考え事でいっぱいになっていると、集中力が落ちて物忘れが多くなります。そのため、考えを書き出すようにすることが大切になってきます。考えを書き出しておくことで、ひとつひとつの物事に集中しやすくなり、覚えたいことも頭に入ってきやすくなります。

物忘れの症状にストレスを感じすぎないようにする

物忘れは、本人にとって大きなストレスになります。しかし、症状を過度に意識してしまうと、気分の落ち込みを悪化させたり意欲の低下を招いたりします。

そのため、症状にストレスを感じすぎないようにすることが大切になってきます。物忘れが気になる場合は、メモや手帳を持ち歩いて記録に残すのがよいでしょう。忘れてもすぐに確認できるため、物忘れによる自責の念を軽減できます。

趣味でリフレッシュする

うつ病やストレスなどで認知機能が低下しているときは、趣味に没頭したり、ストレスを発散したりするために気晴らしすることが大切です。好きな読書を楽しんだり、お酒や食事をたしなんだり、好きなスポーツで体を動かしたりしましょう。気持ちがリフレッシュできるだけではなく、脳の活性化を促して認知機能の改善を目指せます。

周囲のサポートも必要

認知機能の低下により日常生活に支障をきたす場合は、周囲の家族や職場の親身なサポートが必要となってきます。突然見当識がなくなる恐れがあるというリスクを念頭に置いて見守ってあげることで、自責の念を少しでも軽くすることが可能となります。

ミスに対して責めるのではなく、一緒に改善していけるよう寄り添って解決していきましょう。

医療機関を受診する

認知機能の低下に気づいたら、何よりも先に医療機関で診察してもらうことが大切です。早期治療により、症状の進行を防いだり、物忘れの改善が期待できるからです。

いかがでしたでしょうか。認知機能の低下は、認知症だけではなくうつ病によっても引き起こされます。原因によって症状の特徴は異なりますが、自己判断することは危険ですので、物忘れに不安がある場合は医療機関を受診しましょう。


<執筆・監修>

九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師

高血圧、頭痛、脳卒中などの治療に取り組む。日本脳神経外科学会専門医。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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