ストレスと腸の関係は密接!ストレスが引き起こす腸の病気とは

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中間試験や期末試験のときにストレスがかかって食欲がなくなり、下痢を引き起こす、あるいは体調を悪化することは誰しもが多かれ少なかれ経験したことがあると思います。

適度なストレスはそれを乗り越えたときに達成感をもたらしてくれますし、自信を持つことや成長する糧に繋がることもあります。

一方で、現代社会はストレス社会とも言われており、現代人の体調や腸の状態とストレスは密接な関係にあって、過剰なストレスは心身の不調につながることが判明しています。

ここではストレスと腸の関係や、ストレスによって引き起こされる病気について見ていきましょう。

腸脳相関とは?ストレスと腸の関係

腸は「第二の脳」とも呼ばれるほど独自の神経ネットワークを多数持っており、脳からの指令が無くても活動することが出来ると言われています。

「腸脳相関」とは、生物にとって重要な器官である脳と腸がお互いに影響を及ぼし合うことを意味し、ストレスを感じるとおなかが痛くなって便意をもよおすことも腸脳相関のひとつであると考えられています。

これらの反応は、脳が自律神経を介して、腸にストレスの刺激を伝えるからであり、腸に病原菌が感染すると、脳組織レベルで不安感が増加するとの報告もあります。

また、脳で認識する食欲が消化管から放出されるホルモンと関連していることが示されていることからも、腸の状態が脳の機能に影響を及ぼしていることがわかります。

腸内細菌のバランス

大腸内には腸内細菌が生息しており、腸内細菌は我々の体の働きにさまざまな影響を与えて、健康状態や病気の発症などと密接に関連しています。

全身にとって有益であると考えられる細菌としては、善玉菌である乳酸菌やビフィズス菌である一方で、有害な影響を与える細菌はブドウ球菌やウェルシュ菌などの悪玉菌と呼称されています。

腸内細菌は、上手くバランスを保ちながら共存していて、腸内フローラのバランスが崩れると腹部が張って、便秘や下痢になる、あるいは皮膚が荒れて体調を崩しやすくなるように、ストレスと腸との関係性も注目されています。

脳と腸は自律神経系、内分泌系、免疫系の3つの経路を介して互いに影響を及ぼし合っており、脳から腸への情報伝達と腸から脳への情報シグナルが、一方的ではなく双方向的に影響を及ぼしていると考えられています。

ストレスが関係する腸の病気

ストレスの影響によって発症したり悪化したりする病気には次のものがあります。

過敏性腸症候群

腸管に明らかな炎症や潰瘍などの病変がないのに、腹痛や腹部不快感に下痢や便秘を伴う症状が続く病気を過敏性腸症候群と呼んでいます。

血液検査や内視鏡検査でも顕著な異常が見つからず、日々のストレスで腹部症状が悪化することから心身症のひとつとして認識されています。

腹痛や腹部の不快感、下痢や便秘などをくり返す病気が過敏性腸症候群ですが、これはストレスを受けやすい20〜40歳代に多くみられ、過労や睡眠不足、不規則な食生活や不規則な排便などが誘因になります。

過敏性腸症候群は腹痛や腹部全体の不快感だけでなく下痢や便秘症状を伴う疾患であり、男性では腹痛やお腹の不快感をともなう下痢型、女性では便秘型として出現することが多い傾向があります。

命に直結する致命的な病気ではありませんが、電車の中などトイレのないところでは非常に困るなど生活の質を著しく悪化させるので、患者さんの不安や苦痛は一般的な慢性疾患の中でも大きいと考えられます。

過敏性腸症候群を発症する原因は、はっきりとはわかっていませんが、最近の研究では、何らかのストレスが加わると、ストレスホルモンが脳下垂体から放出されて、その刺激で腸の動きが悪化して、過敏性腸症候群の典型症状が認められることが想定されています。

さらに、こうした作用が繰り返し起こることで腸が刺激に対して「知覚過敏」になり、ほんの少しの痛みやストレスから、脳のストレス反応を惹起するという負のスパイラルに陥ってしまうのです。

潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症や潰瘍を生じる炎症性腸疾患のひとつであり、個々の体質、環境、ストレスなどの要因が複合的に関与して発症すると考えられています。

現在のところ、正確な発症メカニズムや完治できる治療法はいまだに発見されておらず、残念ながら症状の再燃と緩解を何回も繰り返す疾病であると認識されています。

発症年齢は10~20歳代の若年者が多く、国内に約18万人の疾病者がいる難病指定を受けている病気であり、この疾病の症状は個人差が大きく、軽症から重症まで様々です。

多く見受けられる症状再燃のきっかけは、食あたり、過労・ストレスの蓄積、感冒などですが、原因なく再燃することもあって、特に環境が変化する新年度、あるいは秋期から冬期にかけてインフルエンザ感染症の流行期は注意を要します。

個人差はありますが、疾病が緩解すれば、症状の多くは改善して、健康人と同様に普段通りの日常生活を過ごすことができます。

この病気では、身体的、あるいは精神的なストレスで腹痛や下痢などの症状を引き起こすことも否定できず、ストレスは潰瘍性大腸炎を含めてあらゆる病気で症状を悪化させる要因のひとつと言えます。

潰瘍性大腸炎

日常生活におけるストレスが強いと、大腸がんを含めて様々な悪性腫瘍に罹患するリスクが高まることが指摘されています。

ラットによる実験でも、ストレスをかけられて免疫力が低下しているラットは、そうでないラットに比べて明らかにがんの発生率は高くなったと言われています。

同様の所見は、ヒトにも観察されたという報告があり、普段のストレスは飲酒量や喫煙本数の増加、過食など行動面に現れて、このような生活習慣の乱れが生活習慣病の発症や悪化につながって大腸がんの発症リスクを上昇させることも想定されます。

また、ストレスそのものが高血圧や糖尿病の発症リスクを高めるなど生活習慣病の危険因子としても認識されており、これらの慢性疾患はすべて大腸がんの発症に関連するリスクファクターとして捉えられています。

腸の病気の検査と診断

過敏性腸症候群を疑っている際も、正確には大腸の検査をして大腸に炎症などの病変が確実に存在しないことを確認しなければなりません。

下痢や便秘などの症状を認める場合には、大腸がんなど大腸に関連する病気が隠れている可能性がありますので、大腸内視鏡検査を含めて専門医師に相談して精密検査を受けるように心がけましょう。

有意な腹部症状がなくても腸の病気の有無を評価するために、ある程度定期的な内視鏡検査が必要であり、例えば潰瘍性大腸炎の場合にも内視鏡検査を受けることで自分自身の大腸の状態を調査して炎症の程度や病変の拡がりなどを的確に把握できるメリットがあります。

まとめ

これまで、ストレスと腸の関係やストレスが引き起こす腸の病気などを中心に解説してきました。

腸はストレスの影響を受けやすいデリケートな臓器であり、ストレスによって自律神経のバランスが乱れると、腸管機能にも異常を来しますので、ストレスを自分なりに上手に解消することが重要です。

休日などは心を解放して、心身ともにリラックスすると共に、普段から十分な睡眠と休養、バランスの優れた食事、適度な運動を実践するなど、規則正しい生活を心がけて腸の調子を良好に保ちましょう。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。


<執筆・監修>

国家公務員共済組合連合会大手前病院
救急科医長 甲斐沼孟 医師

大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院を経て、令和3年より現職。
消化器外科や心臓血管外科の経験を生かし、現在は救急医学診療を中心とする地域医療に携わり、学会発表や論文執筆などの学術活動にも積極的に取り組む。
日本外科学会専門医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。
「さまざまな病気や健康の悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして微力ながら貢献できれば幸いです」

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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