気胸の種類の違いと、重症度による治療方法の違い
胸が痛いとき、心臓や肺が痛いのではないかと思う人も多いでしょう。しかし実際は、肺自体は痛みを感じる臓器ではありません。肺を覆っている胸膜という膜が痛みを感じます。
そして、気胸という病気は胸膜を刺激するので痛みを感じます。気胸という言葉は聞いたことがある人も多いかと思いますが、実際どのような病気で、どのように痛みを感じるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
目次
胸はどのような構造で、どのように呼吸をしているのか
気胸によってどのようにして痛みを感じるのかについて解説する前に、胸腔がどのような構造になっていてどのような仕組みで呼吸をしているのかについて確認しておきましょう。
胸の構造
胸の中には様々な臓器が存在します。真ん中辺りには大動脈、上大静脈、食道などが有り、真ん中から左寄りにかけて心臓が存在します。そしてその両脇に肺があります。人体模型や、人体解剖の図で見たことがあると思いますが、胸の中には生きるために必要な、非常に重要な臓器があります。
これらの臓器が非常に大切なことから、胸は後ろは脊椎、横から前にかけては肋骨によって頑丈に守られています。このように骨によって守られた胸の中のことを胸腔といい、胸腔の中は一つの空間として存在します。胸腔の中でも真ん中辺りの食道や大動脈、心臓が存在する部分を縦隔といい、胸腔を左右に分割しています。それぞれ左右の胸腔内には肺が存在します。
胸腔の構造
縦隔の中には臓器が存在しており、独立してそれぞれの働きをしています。しかし、肺は非常に脆弱な臓器で、自分自身で動くことはできません。肺は肺胞という小さな風船が無数に集まった構造をしています。
肺胞の壁には弾性線維という線維が存在し、この線維は引き延ばされると短くなろうとする性質があるため、肺は自分自身の力でしぼもうとしています。しかし、自分の力で膨らむことはできないのです。
肺を膨らませるのは、胸腔の仕事です。肺は胸膜という膜で包まれています。肺の表面の胸膜を、臓側胸膜と言います。一方で、胸腔の内側も胸膜という膜で覆われています。この胸膜を壁側胸膜と言います。臓側胸膜と壁側胸膜の間には、胸水という水が少量存在し、この水が表面張力を発揮することで臓側胸膜と壁側胸膜を付着させています。
これにより、肺は自分自身が持っている弾性力によってしぼもうとする力と、外側から胸腔にくっつこうとする力が拮抗することによって、膨らんだ状態を維持するのです。
人は呼吸のために胸腔を動かします。吸気の際には胸郭が広がり、胸腔内が陰圧となります。そうすると、肺は胸膜に引っ張られて外向きに引っ張られることで肺が膨らみ、息を吸うことができます。一方で、呼気の場合には胸腔が外に広がろうとする力が弱まるため、肺は自分自身の力でしぼもうとするため、どんどんしぼんで肺の中の空気を吐き出します。
気胸による痛みの特徴
肺は胸膜に包まれ、そして胸壁と胸水によってくっつけられることによって呼吸が成立していることが分かりました。では、気胸とはどのような状態なのでしょうか。
気胸とは
気胸とは、簡単に言えば肺に穴が空いてしまった状態となります。空気を貯める肺に穴が空いてしまいますから、穴から空気が漏れます。漏れた空気は肺の外、胸腔の中にたまっていきます。
ここで思い出して欲しいのは、胸腔の中には胸水がたまっているということです。胸水が表面張力によって壁側胸膜と臓側胸膜を接着することで、胸腔が動いたときに肺も動くことで呼吸ができるのでした。
しかし気胸になると胸水しかなかった空間に空気が入り込みますから、表面張力が無くなってしまいます。そのため、胸壁と肺が離れてしまい、胸壁が動いても肺が動かなくなってしまうのです。
また、肺は外向きに引っ張られて膨らむことができない一方、自分自身はしぼむ力を持っていますから、どんどんしぼんでしまいます。そのため、レントゲンで見るとしぼんだ肺が見られ、ひどく強くしぼむともはや塊となった肺が見える様になってしまうのです。
痛みの特徴
このように肺がしぼんでしまう気胸ですが、自覚症状としては痛みがあります。
前述のように、肺自体は痛みを感じない組織です。一方で、胸膜には痛みを感じるセンサーがあります。気胸になると、胸膜が異常に引っ張られて痛みを感じるようになります。
痛みの特徴としては、鋭い痛みです。気胸が起こった瞬間、しぼみ始めるために痛みを感じます。
また、しぼんだ後も、呼吸に合わせて肺はわずかながら動きますから、その動きに合わせて痛みを感じます。
気胸の種類
気胸は肺に穴が空く病気ですが、穴が空く原因によって次のように分類されます。
自然気胸
自然気胸は若く痩せた背の高い男性に多く見られます。
なぜ起こるのかというと、体が成長するに従って胸腔がどんどん大きくなる一方で、肺の成長がそれに追いつかず、胸腔に引っ張られる力が強くなります。そのため、ある時不意に肺が破れてしまうのです。
自然気胸の場合は、特に他に痛みを感じる事がないので、より胸の痛みが強いと感じる傾向があります。
また、気胸になりやすい体型のため、一度治療を受けても再度発症する可能性も高くなります。
外傷性気胸
外傷性気胸はその名の通り、外傷によって胸に強い外力が加わって起こる気胸です。胸腔外から刃物などで刺されて直接肺が傷つけられることもありますし、交通外傷など胸腔にダメージがなくても強く胸が圧迫されることで破裂するように肺が破れてしまうこともあります。
好発年齢は、加齢に伴って肺が弱くなってくる高齢者に多くなってきます。
外傷性気胸は外傷の程度によってかなり気胸の程度が違うため、経過については個人差が大きくなります。
月経随伴性気胸
月経随伴性気胸は、月経の時期に気胸が周期的に起こることを言います。月経のある若年女性に多くなります。
この気胸の原因は、子宮内膜症です。子宮内膜症とは、子宮内膜と同じ成分が体の子宮内膜以外の場所に存在することで起こります。月経前には女性ホルモンによってそれらの内膜組織は成長していきます。しかし月経が起こるときにはホルモンの作用で子宮内膜は壊れていきます。
月経随伴性気胸の場合、子宮内膜が肺の表面にできています。そのため、月経が起こると肺の表面の子宮内膜組織が損傷することで肺も同時に破れ、気胸が起こってきます。
このタイプの気胸の場合、損傷を受けて空気が漏れる穴は比較的小さいですから、治療を行わなくても自然に修復されて治っていくことが多いという特徴があります。
ブラ・ブレブによる気胸
先ほど説明した通り、肺は小さな肺胞という風船が集まってできた臓器です。しかし、加齢や喫煙によって肺胞の壁が損傷を受けると、肺胞と肺胞の間の壁がなくなってしまい、つながってしまいます。
肺胞壁の損傷はどのような場所でも起こりえますが、稀に非常に弱い肺胞壁が集まっている部分があります。このような場所は、肺胞の壁が次々と損傷を受け、一つの大きな風船の塊になっていってしまいます。このように肺胞がつながることで大きな肺胞となり、目で見ても風船のようになった場所のことをブラと言います。
また、ブラが複数集まり、ブドウのようになっている状態の場所をブレブと言います。
ブラやブレブはそのでき方から分かるように、非常にもろい組織です。ですので、ある時その場所が破れて気胸を引き起こします。
一応は外傷や月経に関係なく起こってくる気胸ですので、自然気胸に分類されることもありますが、肺胞のダメージがたまってきた高齢になってから発症することも多いため、若い男性に多い自然気胸とは異なるイメージになるため、特別に別途分類することがあります。
気胸の治療法
気胸の治療法について見てみましょう。
胸腔開放、脱気
気胸の場合、肺の外の胸腔内に空気がたまってしまう状態ですので、針を刺したり、メスで胸に穴を空けたりすることで空気を抜く事になります。
また、穴を空けるだけではすぐに閉じてしまいますから、胸腔ドレーンといって、柔らかいストローのようなものを挿入して固定します。
これにより、空気が脱気され、肺がだんだんと膨らみます。うまくいけばこれだけで胸壁に肺がくっつくことで穴が塞がり、数日後にはドレーンを抜去する事が可能になります。
手術
胸腔ドレーンを入れても空気が持続的に出る場合や、気胸を繰り返す場合には手術が行われます。
多いのは、ブラが損傷した場合の気胸です。この場合は穴が大きく空いていることが多いですから、手術でブラを切除してしまわないとなかなか治らないことが多くなります。
また、若年で気胸を繰り返す場合には、胸膜補強術といって、肺の表面にシートを貼り付けて破れにくくする方法や、手術の際に血液を採取し、その血液中から一部の成分を取りだして胸腔内に散布することで肺と胸腔がくっつきやすくするような治療を行います。
気胸の重症度の違いと治療
気胸には重症度があります。それぞれどのような違いがあり、どのように治療をするのでしょうか。
軽度気胸の特徴と治療
気胸の重症度は、レントゲンによって判断します。軽度の気胸とは、レントゲン検査をした時に、肺の一番上の部分が鎖骨より上にとどまっている状態を言います。気胸がひどくなると肺がしぼんできて、先端がだんだんと低い位置に下がってくるのですが、軽症の場合にはそこまで下がってこず、ほとんど肺は膨らんだ状態と言えます。
あまりに肺のしぼみが少ない状態だと、レントゲンではほとんどわからないことがあります。症状から気胸を疑うのにレントゲンで異常がないような場合には、CT検査をすることによって、確定診断を行うことがあります。CT検査は、気胸があるかどうかの判断をするのはもちろん、気胸の原因となる肺の膨らみであるブラがあるかどうかの確認にも使用されます。
軽症の状態ですと、症状としては痛みを感じるぐらいで、息苦しさなどを感じることはまずありません。痛みとしては、特に呼吸に合わせて痛みが強くなったり弱くなったりするというのが特徴的になります。
このぐらいの状態ですと、治療としては経過観察になります。自然と肺に開いた穴がふさがってくるのを待ちます。痛みがあれば、痛み止めを内服することで対処します。一定期間を置いて外来で胸部レントゲン検査を行います。
後述する中等度や高度の気胸ように胸に針を刺して空気を抜く治療も行う場合がありますが、軽度の場合には肺の周りのスペースが狭いため、針を刺すことで肺を傷つけてしまう可能性が高くなりますから、あまり行いません。
また、肺が萎んでいることによって肺に開いた穴が閉じていることもあります。肺が膨らむことによって、閉じていた肺の穴が再開通する可能性があれば、針を刺すような治療は行わない方がいいと言えるでしょう。
経過観察を続けることで、漏れていた空気は自然に血液に溶けて消失し、肺は膨らみます。だいたい1週間から3週間程度で元に戻ると言われています。
ただし、軽症でも痛みが強い場合や、呼吸困難の症状がある場合には、念のために入院しておいた方がよいでしょう。
中等度気胸の特徴と治療
中等度の気胸とは、レントゲン写真を見た時に、肺の先端が鎖骨より下にある状態を言います。
中等度の場合には、胸腔ドレナージを行います。胸の中に針を刺して空気を抜き、ドレーンと呼ばれるチューブを留置することによって、持続的に肺の外の空気を吸い出すことによって肺が膨らむのを助けます。
チューブの先端は、入院している場合には持続的に陰圧で吸引する機械に接続することによって、様子を見ます。出てくる空気の量によっては、陰圧をかけずに様子を見ることもあります。
外来で様子を見ることもできます。出てくる空気の量が少ないことが条件です。この場合には、チューブの先端にバッグを装着することによって対応します。
肺が膨らんで、空気の漏れがなくなったらチューブを抜去します。その後もレントゲンで検査をし、再発がなければ治療終了となります。
チューブを入れても空気の漏出が止まらない場合には、穴を塞ぐ手術が必要になることが多いです。
高度気胸の特徴と治療
高度の気胸は、レントゲン検査で肺の虚脱が著しいものを言います。
治療方法は中等度とほとんど変わりません。チューブを挿入して様子を見、必要に応じて手術をすることになります。
注意をしなければならないのは、重症の場合には空気を抜く速度が早すぎると、肺が再度膨張する時に肺水腫という状態になってしまうことがあることです。人工呼吸も必要になる危険な状態になりますので、ゆっくり空気を抜く必要があります。
緊張性気胸
緊張性気胸は、胸腔内の圧が上がって他の臓器にも影響が出てしまう状態です。
肺が破れてつぶれてしまうとそれだけでも呼吸が障害されますが、命に関わるほどの低酸素になる事はありません。つぶれてしまっても、呼吸運動にともなって少しは肺が膨らんだりしぼんだりして酸素の取り込みは続けられるからです。
しかし、気胸の中でも特殊な破れ方をしてしまうと、空気が肺から外に漏れ出すけれども肺の中には戻ってこないという状態になってしまいます。こうなると、吸った空気がどんどんと胸腔に漏れ出してしまい、胸腔のなかの圧が上昇してしまいます。
これが顕著になるのが、気胸を起こしているときの人工呼吸です。人工呼吸は圧をかけて空気を送り込むことですから、肺から胸腔へと空気が漏れ出してしまうことがあるのです。
このように胸腔内の圧力が上がっていってしまうと、肺はもちろん、心臓や血管もどんどん圧迫されてしまい、血流も阻害されてしまいます。最終的には心停止に至ってしまいます。
緊張性気胸は速やかに治療が必要です。