採血で気分が悪くなったときの対処法…血管迷走神経反射?注射恐怖症?

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採血をしたときにふーっと気が遠くなるような感じがして気持ち悪くなった経験はあるでしょうか。ここではそんな採血時の気分不良の原因と対処法について解説します。

採血で気持ち悪くなるのはなぜ?

採血をしたときに気分が悪くなるのはなぜなのでしょうか。非常にシンプルに答えを言うと、一過性に脳への血流が減少したことによることが多いです。

一般に、脳への血流が悪くなると、気分不良がおこります。これは内耳における平衡感覚を司る機能が低下するためと考えられています。

耳の奥にある内耳という部分は、平衡感覚を司る部分です。体が傾いたり、向きを変えたりするとセンサーが検知して、それを脳に情報として伝えます。しかし、この内耳の機能が悪くなると、正しい平衡感覚が脳に伝えられず、他の体の情報との不一致から異常を感じてめまい、気分不良が起こります。

では、どのような機序で脳への血流が悪くなるのでしょうか。

自律神経と血流

もともと脳は非常に大事な部位ですから、体は血流を一定に保つように調節する機能を持っています。それが自律神経系です。自律神経は交感神経と副交感神経からなっています。

そして、特に自律神経系が脳への血流に影響するのが血管収縮、拡張作用です。交感神経系が強く働くと血管が収縮します。一方で、副交感神経系が強く働くと血管は拡張します。

この作用がよく現れるのが、寝ているときから立ち上がるときです。このとき、何も血管に作用がなければ、重力に従って下の方である足の方に血液が多く流れてしまいます。しかし、それでは頭への血流がなくなってしまいますから、体は自律神経系による調節を行い、足への血管をコントロールする交感神経が活性化し、血管を収縮させます。これによって、血流が頭に十分保たれるようになるのです。

血管迷走神経反射

この作用が十分に働かなくなるのが立ちくらみです。自律神経の機能がうまく働かなくなっているときに、急に立ち上がると脳への血流が悪くなり、クラクラして気分が悪くなります。

本題の採血の際ですが、この際にも自律神経系の異常が起こります。実は血管というのは刺激に反応して副交感神経が活発に活動してしまうことがあります。これが血管迷走神経反射といいます。

さて、血管迷走神経反射が起こると、副交感神経が活性化します。もともと足などの体の下の方にある血管は交感神経の働きで収縮して脳への血流を維持していたのですが、副交感神経が活性化することで血管が拡張してしまい、血液が足などに多く流れてしまいます。その結果、脳への血流が不十分となり、気分不良が起こってしまうのです。

採血で気持ち悪くなるのを防ぐ対策

血管迷走神経反射の起こりやすさには個人差がありますから、いつも反射が起こって気持ち悪くなるような人もいます。では、そのような反射を起こさないためにはどのような対処をすれば良いのでしょうか。

水分をしっかり補給する

血管迷走神経反射が起こると下肢の方に血流が多く流れてしまい、脳への血流が足りなくなるのでした。ですので、対処法としては全身を巡る血液を多くしてやることで、足に血流が流れても脳への血流が十分確保できるようにすればよいということになります。

水分を採血前に十分摂取しておくと、すこし血管が開くだけで脳への血流が減るようなことはなくなり、血管迷走神経反射の対策になります。

寝不足や不調時は採血を避ける

血管迷走神経反射が起こりやすいのは、自律神経系が不安定になっているときです。特に寝不足や、ストレスが強くかかっている場合に自律神経系は不安定になりやすく、血管迷走神経反射が起こりやすい状態となってしまいます。

また、寝不足や体調不良の際にも自律神経系の調節がなかなかうまくいかないことが多いため、注意が必要です。

自律神経系が不安定になるような寝不足の時、体調が良くないようなときには採血を避けるのが無難です。

心理的な不安や恐怖を取り除く

不安や恐怖を感じているときには、ストレスが多くかかっていますから血管迷走神経反射が起こりやすい環境と言えます。

さらに、ストレスがかかっていると、交感神経系が非常に強く作用しますから、血管収縮が強くかかっている状態となります。このようなときに血管迷走神経反射が起こると、強く収縮していた血管が急に収縮をやめて拡張してしまいますから、より血液が流れやすい状態になってしまいます。

そのため、何もない状態で血管迷走神経反射がおこるよりもより脳への血流が少なくなり、気分不良が起こりやすくなってしまうのです。緊張して交感神経が活性化するような不安や恐怖はない方が、血管迷走神経反射が起こりにくいと言えます。

ただし、採血時にはどうしても緊張してしまうものです。過去に気分不良があったなら余計に怖くなってしまうと思います。そんなときには、次の方法がおすすめです。

横になって採血をしてもらう

普通採血は座ってしてもらうことが多いでしょう。しかしそうすると、足などの血管が反射によって拡張したときに高いところにある頭への血流がじゅうぶんでなくなってしまい、吐き気が起こってしまいます。

そのため、最初から横になって採血をしてもらう事で、足の血管が拡張しても血液がそちらにはあまり流れず、頭の方に多く血液が流れてくれるようになりますから気分不良を避けることができます。

また、横になって採血することは、座って採血をするときに比べてリラックスして採血を受けることができます。横になることで気分不良が起きにくいということを知っていれば安心することができ緊張の緩和につながるでしょう。

採血によって気分不良を起こす方は多いですから、病院としても対処法として横になって採血することを選択肢の1つとして用意しています。ですので、過去に気分不良が起こったのであれば、横になったまま採血をしてもらいたいと伝えれば、多くの病院で対応してくれるでしょう。

採血で気持ち悪くなってしまったときの対処法

上記のような対処を行って、あるいは行うことができなくて、採血をしたときに気持ち悪くなったときにはどのようにすればよいのでしょうか。

吐き気があるから吐き気止め、と思われるかもしれませんが、内耳由来の吐き気には吐き気止めはあまり効きません。また、吐き気は一過性ですから、薬を使用している間に症状が軽快していることも多く、効果はあまりないと言えるでしょう。

症状が起こったときには頭への血流が不足していることが原因ですから、頭への血流を確保するような対処が適切です。具体的には横になり、足を高いところに持ち上げましょう。すこし枕や布団を足の下に入れるだけでも十分です。そのまま15分程度様子を見た後、ゆっくりと立ち上がりましょう。

注意していただきたいのは、横になって症状が治まったからと言ってすぐに立ち上がらないことです。まだこの時点では副交感神経が活性化しており、足の血管は拡張しています。この状態で立ち上がると、やはり血液が足の方に多く流れてしまいますから、めまいや吐き気を起こしてしまうのです。しっかりと時間を取ってからゆっくり起き上がることが重要です。

また、起き上がれたら水分を摂取することも大切です。水分を取って血液量を少しでも増やし、脳への血流をサポートしましょう。

注射恐怖症とは

泣く子供

注射をする前から注射が怖くて仕方が無く、どうしても注射ができないという場合もあるでしょう。このような場合のことを注射恐怖症と総称します。

注射恐怖症は、注射針を見るだけで頻脈になったり、手の震えが出たりと、注射をすることに対して極度に恐怖や不安を感じてしまう状態のことを指します。

誰しも注射の痛みに対して若干の恐怖を抱くのは当然ですが、そのせいでなかなか注射ができなくなり、日常の診療に影響が及ぶこともあるのがこの注射恐怖症です。

子どもに多い注射恐怖症

一般に、注射恐怖症が多いのは子どもです。子どもは病院自体に苦手意識を持っていることが多く、病院で痛い事をされると想像し、治療の意義もよくわかっていないことも多いですので注射に対して恐怖を感じるのも当然です。

注射が怖いことから、病院に行くのにも一苦労、病院についても中々車から降りないということもよくあります。注射の段になると大泣きしたり、暴れてしまったりという事もよくあることです。

多くの方は成長するにつれ、注射が必要という事を理解し、自然と注射恐怖が克服できるものです。それに従って問題無く注射や採血を受けられるようになります。そのため、子どもの頃の注射恐怖症は特に治療介入することはありません。

注射恐怖症の症状

注射恐怖症の人はどのような症状があるのでしょうか。

まず、注射の時に様々な症状が出てきます。注射をするときにめまいが起こったり、気を失ったり、吐き気や不安を覚えたりしてきます。

しかし、それだけにとどまらないことが多いです。注射をする予定がある、今から注射をすると言う事を認識するだけで強い不安を感じたり、パニックになってしまったりします。それがエスカレートすると、必要とされる治療やワクチン接種など、注射に関わる重要なイベントを避けるようになり、必要な治療が受けられずに病気が進行してしまったり、新しく病気にかかってしまったりします。

注射恐怖症になる原因

注射恐怖症になるのにはどのような要因があるのでしょうか。

まずは痛みに対して敏感な人は、注射恐怖症になりやすくなります。痛みを感じやすいために、注射をすることに対して恐怖心を抱きやすくなるのです。

また、注射に限らず何らかのとがったものに対して恐怖を感じる場合にも注射恐怖症になりやすくなります。とがったもので大けがをしたことがある、注射以外のハリで何らかの怪我をしたことがある等の原因で先端恐怖症となり注射に恐怖を感じる場合があります。

また、迷走神経反射を一度起こしたことによって注射に対して恐怖が起こってくる場合もあります。

注射恐怖症の対策

注射恐怖症の対処法は、それぞれの場合によって変わってきます。

例えば採血や注射をした際に迷走神経反射を起こしたことがあるのであれば、寝た状態で注射を受けることによって対処します。痛みが我慢できない場合であれば、表面麻酔のゼリーを使用して注射を行う方法もあります。何らかの原因で注射恐怖症が起こっていると思われる場合には相談するのが良いでしょう。

根本から治療するためには暴露療法という方法もあります。注射や針を刺さないまでも、触れたり、見たりを繰り返す事で針に対する恐怖心を改善していく方法です。

子ども向けには注射をする環境を整えます。これは多くの小児科のある病院で行っている方法ですが、注射をする部屋にキャラクターのグッズを置いたり、他の子の泣き声が聞こえないように離れた環境にしたりといった対策があります。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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