異汗性湿疹(汗疱)とは? 治るまでの期間の目安と対処法

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異汗性湿疹という病気があります。元々は異汗症と呼ばれる病気で手のひらや手の側面に発生するちいさな水疱で、かゆみを伴う皮疹が、湿疹に移行することで異汗性湿疹と呼ばれるようになります。ここではそんな異汗性湿疹について解説します。

異汗症と異汗性湿疹(汗疱)

異汗性湿疹を解説する前に、先ずは異汗症という病気について解説しましょう。

異汗症というのは、手掌や手の側面、足底に発生する水疱(水ぶくれ)のことを指します。水疱はもともと直径1mm以下のちいさなものです。時折感染を起こし、膿疱になることもあります。

また、水疱自体は少しずつ大きくなり、となりの水疱とくっつき合ってより大きな水疱になることもあります。症状としてはかゆみがある他、時折周囲の発赤をきたす病変です。

この異汗症自体は1~2週間で水疱が固くなり、落屑、すなわちぽろりと落ちることで軽快していきます。しかしまれにこの水疱の周りが炎症を起こし、湿疹となります。このように湿疹となった場合は異所性湿疹と呼ばれます。別名を汗疱と言い、こちらの方がもしかしたらよく伝わる名前かもしれません。

考えられる原因は?

異汗症や異汗性湿疹という病気については原因がはっきり分かっていません。ただし、発症した人は夏ごとに発症しますから、局所の多汗が原因となっているのではないかと言われています。

また、金属アレルギーが検出される場合も多くあるため、接触性皮膚炎との関連も考えられており、原因の究明が進められています。一説には、ニッケルのアレルギーと特に深く関わっており、歯の詰め物などから体内に吸収されたニッケルが汗から分泌されることでアレルギー反応を起こして症状を引き起こしているのではないか、とも言われています。

また、皮膚の脆弱性も原因となると考えられています。アトピー性皮膚炎の場合はアレルギー反応が起こりやすい皮膚であるとともに、皮膚が脆弱ですから刺激に反応しやすく、異汗性湿疹を引き起こしているのではないかと言われています。

少なくとも、異汗症を起こした皮膚を生検して組織学的に見てみると、汗疱と汗腺はつながっていないようで、汗だけが原因ではないことは確かなようです。また、水疱自体は表皮内にできた水疱であるということも汗の関与だけでは説明がつかないことの根拠になっています。

区別はできる?異汗性湿疹と水虫の違い

異汗性湿疹のように皮膚に水疱ができて湿疹に至る病気は種々のものが鑑別対象となります。例えばいわゆる水虫(白癬症)のほか、掌蹠膿疱症、接触性皮膚炎、自家感作性皮膚炎などが原因となります。

外見の特徴としてはいずれも皮膚がぽろぽろ落ちたり、皮膚が発赤したり、水疱ができたりと似たような見た目をきたします。見る人が見れば見た目だけでもある程度鑑別は可能ですが、それでも確定は難しいものです。

少なくとも白癬症に関しては、病変部の皮膚を取ってきてKOHによる処理をした後に顕微鏡で観察すれば原因となる真菌を見る事ができ、すぐに診断が可能です。しかしそれでも、取ってきた皮膚に真菌がいなかったり、自己判断で市販の抗真菌薬を使用したあとだったりすると真菌が検出されずに診断が難しい場合もよくあります。

その他の鑑別疾患は、病歴や細かい皮疹の形状などから鑑別していきます。また、時期や症状の経過の違いなどは有力な鑑別の根拠になります。特に手足以外に病変がある場合には異汗性湿疹ではないと診断がつく場合が多くなります。

このように鑑別をしていくのですが、これらの病気は合併することもあります。これらの皮膚の炎症を起こす疾患は皮膚のバリア機能を低下させますから、さまざまな病気になりやすくなります。異汗性湿疹が続いていると皮膚が弱くなり、通常よりも白癬菌が生着しやすくなり、水虫を合併することもあります。

これらの条件から、一回の診察で確実に診断がつくことは難しく、経過を見ることで診断がつくことのほうが多いと言えます。

無治療で治ることも? 治るまでの期間の目安

軽い炎症程度で収まっている場合は、汗をしっかり拭き取って乾燥した環境を維持することで無治療でもだんだんと症状は治まっていきます。水疱は自然に吸収され、それに伴って炎症も治まってくる事でかゆみなどの自覚症状も軽快していきます。

上記の様に好条件であればだんだんと症状が軽快し、2週間から3週間程度で状態は改善するでしょう。

しかし炎症がひどい場合や、なかなか乾燥環境を維持できない場合は症状が遷延化し、炎症がだんだんとひどくなります。また、白癬症などの他の病気の合併も起こってきますから、しっかりと治療しなければ治らないような状態になってしまうのです。

症状が長期化するときには病院を受診した方が良いでしょう。

異汗性湿疹の対処法

異汗性湿疹と疑われる状態になった場合、まずは乾燥させることを意識しましょう。手にあるのであれば手を洗った後にすぐに拭き取る、足であれば靴下をはいていると蒸れてしまいますから、可能なら裸足で生活、それが無理なら靴下を頻回に履き替えるなどの対策が考えられます。

他の対策としては、入浴後や手洗い後のタオルによる拭き取りは手のひらや甲だけを拭くのではなく、水分が貯留しやすい指の間までしっかりと拭くことを意識した方が良いです。仮に水虫があったとしても、乾燥がよい治療効果を発揮しますから、必ずしっかりと拭くことを意識しましょう。

しかし、前述の通り異汗性湿疹は種々の他の疾患との鑑別が難しい疾患でもあります。乾燥を心がけて数日経過を見ても良くならない、むしろ悪くなる様な状態であれば、他の病気が合併している可能性もあります。

特に赤みを帯びてきて炎症の関与が想定される場合は自然には軽快が難しく、専門的な治療が必要になる可能性が高くなります。数日経っても軽快しない場合は皮膚科を受診しましょう。

また、様子を見ている間も、もし白癬症であれば他人に感染を広げてしまう可能性があります。皮がむけている事に気づいた場合は、異汗性湿疹と思ってもタオルを他の人と共有しない、バスマットを使用した後は交換するなどの感染対策を行っておくと安心でしょう。

炎症がひどくなって赤みを帯びてきた場合には乾燥させるだけではなかなか治癒しないことが多いです。この場合、ステロイド外用薬を使用して炎症を抑える治療が行われます。また、表面の角質を軟化させて皮膚の状態を改善させるために尿素軟膏やヘパリン類似物質含有の保湿剤を使用することがあります。

いずれにしても、治療によって炎症を抑えるだけではなく、原因である皮膚の水疱を抑えるために乾燥を心がける必要があります。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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