腎梗塞とは?原因になる疾患と検査・治療法
腎梗塞とは、腎動脈に血管が詰まり血管が閉塞してしまう病気であり、突然発症する腹痛や背部痛、それに伴う悪心、嘔吐、発熱などの症状が見受けられます。ここでは腎梗塞の症状の特徴や原因になる疾患、治療法について解説します。
腎梗塞とは
腎梗塞は何らかの理由で腎臓の太い動脈が詰まる病気です。腎動脈主幹部やその分枝が何らかの原因により閉塞して、虚血や低酸素状態によって腎組織が傷害を受けます。その頻度は救急外来受診者の0.01%前後、あるいは側腹部痛を訴える患者の約2%と報告されています。
腎梗塞を発症する患者さんの年齢は60歳前後であり、やや男性に多いと言われており、塞栓による腎梗塞の場合は左側が右側より多く、凝固能亢進が原因となる場合には両側性に起こりやすいという報告もあります。
腎梗塞では、腎動脈、その他の分岐した周囲の動脈の閉塞により、腎組織への血流が遮断されて閉塞した血管の腎区域に従ってくさび状の梗塞や壊死を引き起こした病態となっています。
腎梗塞の症状
腎梗塞は、側腹部の痛みや腰痛の原因となることが知られています。急に強い症状が出現するケースもあれば、無症状の場合もあります。
有症状例では、主に腹痛、悪寒、発熱、嘔吐などの症状が出現し、時に血尿や尿量の低下もみられますし、腎ホルモンが分泌されることに伴って血圧が高値になることが指摘されています。
突然発症の側腹部痛、腰痛、悪心、嘔吐、発熱などの症状を認めた場合には、腎梗塞を疑う必要があります。
痛みが生じるメカニズム
腎臓は腎被膜に包まれており、腎梗塞では腎組織自体に浮腫が生じ、被膜が外側に引き伸ばされることで痛みが生じると考えられていて、特に梗塞範囲が広い部位に及ぶと強い痛みを感じると言われています。
また、腎梗塞では腎血流が遮断されて、壊死した組織は炎症も起こしているために発熱症状を認める場合がありますが、小さな範囲の腎梗塞では発熱しないことも多く、万が一にも発熱している際には梗塞の範囲は比較的広いと想定されます。
痛み以外の症状
腎梗塞では腎組織が壊死することで尿の濾過機能が低下して、本来であれば尿から排泄されるはずの尿素窒素などの毒素が濾過しきれずに血中に残って、毒素が血中を循環するために嘔気や悪心が引き起こされます。
また、腎実質の損傷による腹痛が強くなると、それに伴って自律神経に関連する症状が出現することもあり、悪心や冷汗などの症状が出現することもあります。
およそ、半分弱の症例で血尿を認めるとも言われており、血液検査では白血球増多、LDH上昇などの所見を認めることもあります。
腎実質が梗塞を起こし、腎梗塞自体が血管病変のために、壊死した組織から出血して血尿を認めると考えられており、血尿自体は顕微鏡的血尿の場合もありますし、肉眼的血尿の場合も見受けられます。
腎梗塞の原因
腎梗塞の原因としては次のようなものが考えられます。
心房細動などの心疾患
腎梗塞の発症原因としては、主に心房細動などの不整脈、心臓弁膜症などの心臓疾患、心臓手術による寒栓症が原因として挙げられます。
腎梗塞を発症させる原因としては、塞栓性(血栓などが飛んできて動脈が詰まる)、血栓性(腎動脈に生じた血栓や動脈硬化などで動脈が狭窄する)、外傷性などが考えられます。
特に、血栓症としては動脈硬化症、大動脈解離、腹部大動脈、結節性多発動脈炎、全身性エリテマトーデス(英語略称:SLE)、抗リン脂質抗体症候群などの基礎疾患に伴って生じると考えられています。
腎梗塞は、主または分枝腎動脈に塞栓性梗塞が生じる病態であり、外傷や不整脈などに伴う血栓症などが原因となりますが、不整脈である心房細動に併発する塞栓性閉塞による発症頻度が最も高いと考えられています。
塞栓性の場合には、心臓や上流の静脈から流れてきた塞栓子によるもの、あるいは心房細動や心臓弁膜症、感染性心内膜炎、心腔内血栓の遊離によるものなどが想定されます。
心房細動など血栓症リスクが高いケースにおいて、急激に側腹部や背部の痛みを訴える、あるいは急激な血圧上昇を認める場合には、その原因疾患として腎梗塞を考慮する必要があります。
腎動脈解離
左右の腎臓に血液を供給している動脈やその分枝が解離すると、血管が徐々に狭くなって狭窄を引き起こす、あるいは突然血管が詰まって閉塞することがあります。
腎動脈は2本存在しており、それぞれ右左の腎臓に血液を供給している役割を担い、これら2本の腎動脈は多数の細い動脈に枝分かれしています。
脂肪性物質の沈着(動脈硬化)や線維性物質の形成(線維筋性異形成)によって、腎動脈の内側を覆う膜(内膜)が裂けて解離を引き起こすことで、血流が突然妨げられることもあります。
そのため、たとえ腎動脈に血栓ができなくても、腎動脈が解離して著しく狭窄を引き起こすことで腎閉塞を発症することがあり、腎動脈が解離する結果として腎不全や高血圧になる可能性が懸念されています。
外傷
腎茎部損傷などの外傷性疾患や血管造影時におけるカテーテル、ガイドワイヤー操作が原因となって腎梗塞が発症することも考えられます。
腎損傷は有意な腹部外傷を負った患者の約10%程度で認められ、腎臓は泌尿生殖器の中で一般的な外傷に伴って最も損傷を受けやすい臓器であると言われています。腎損傷の多くは交通事故や転落事故、あるいは他者からの暴行などに起因します。
腎損傷は重症度に応じて5つのgradeに分類されており、最も軽症であるGrade1は被膜下血腫および(または)腎挫傷を指します。最も重症であるGrade5においては活動性出血を伴う腎破砕または腎血流遮断、主要な腎血管の裂傷や引き抜き損傷を指します。
血管炎
血管炎の一種である結節性多発動脈炎は、中血管炎に分類されていて、大血管炎より発症が急であり、炎症性動脈瘤や狭窄を伴う中小動脈の壊死性動脈炎という病態によって支配領域の壊死を伴いやすいと考えられています。
強い炎症症状とともに、侵される血管の領域によって全身の臓器に様々な症状を呈することが知られており、腎臓レベルでは、腎梗塞を始めとして、腎性高血圧や虚血に伴う急性腎不全や慢性腎不全などの合併症が引き起こされる可能性があります。
血液検査では、CRPなど蛋白質の上昇、慢性炎症に伴う貧血など一般的な炎症所見を認めることがあり、血管造影検査にて、腎臓や肝臓、腸間膜動脈などの血管壁が不整になって、血管狭窄像を合併することもあります。
また、ANCA関連血管炎とは、ANCAという自己免疫抗体が原因となって、腎梗塞を含めて全身の細小動脈や毛細血管に炎症を来す疾患群であり、ANCAの種類によって全身に出現する症状が異なることが判明しています。
腎梗塞の検査方法
腎梗塞が疑われるときには、採血検査をして、白血球やLDH、肝臓の酵素(AST、ALT)やクレアチニン(Cre)が上昇しているかどうかを調べます。
また、尿検査で、血尿や蛋白尿が陽性かどうかを調べる、あるいは不整脈が腎梗塞の発症原因になることも多いため、心電図検査も必須となります。
腹部の画像検査も有用であり、造影CT、MRI検査、シンチグラフィー検査など、腎臓脈を評価するために必要な検査と考えられます。
腎梗塞に伴う塞栓症の場合は、発症から診断までの時間が短いほど予後が良好です。
腎梗塞の治療法
腎梗塞の治療法について見てみましょう。
薬物治療
腎梗塞の診断がつき次第、原則として入院治療が必要です。
患者さんを安静にし、早期から血栓溶解薬や抗凝固薬など薬物治療を用います。
血栓塞栓性疾患の全ての患者において、ヘパリン静脈内投与による抗凝固療法が、禁忌の場合を除いて必要であるといわれています。
外科的な侵襲などの治療計画がない場合は、経口ワルファリンによる長期の抗凝固療法をヘパリンと同時に開始することが検討されます。
適応を有する患者例においては、非ビタミンK阻害経口抗凝固薬(例えば、ダビガトランやアピキサバン、リバーロキサバンなど)を検討することができます。
抗凝固療法自体を少なくとも6~12か月継続すべきであり、血栓塞栓症を繰り返す患者さんや凝固亢進性疾患の患者さんには無期限に継続する場合もあります。
カテーテル治療
腎梗塞を発症してから数時間であれば、カテーテルによる局所血栓溶解やステントなどによる血管形成術、血栓吸引などの治療が有効的と考えられています。
腎梗塞を含む腎血栓塞栓性疾患は、基本的に抗凝固療法、血栓溶解薬、外科的またはカテーテルによる塞栓除去術の併用で治療しますが、特に症状出現後3時間以内にカテーテル治療を行えば、腎機能が改善する可能性が高いといわれています。
腎梗塞を発症後、3時間以内に受診した患者さんでは、静脈内または局所動脈内注射による血栓溶解療法(例:ストレプトキナーゼ、アルテプラーゼ)が有益となる場合があります。
ただし、完全な状態回復が得られることは少なく、腎臓以外での塞栓形成や心臓病など併存する基礎疾患のために、早期および後期死亡率は高いと考えられています。
外科治療
血管の開存性を回復するための手術は、血栓溶解療法に比べ死亡率が高く、腎機能の回復に関する利益はないと考えられていますが、外傷性腎動脈血栓症患者においては、手術治療は特に最初の数時間以内に行われるのであれば好ましい治療法であると考えられています。
一方で、非外傷性の重症腎不全患者が4~6週間の薬物療法によっても機能を回復しない場合は、外科的血行再建術(塞栓除去術)を検討する場合がありますが、ごくわずかの症例のみで有用であるといわれています。
まとめ
これまで、腎梗塞とはどのような病気か、その症状の特徴と原因になる疾患、治療法などを中心に解説してきました。
腎梗塞は主に心房細動や腎動脈解離、外傷や血管炎などの原因によって、腎動脈の血流が遮断、あるいは減少することによって発症すると考えられています。症状としては腹痛や背部痛、それに伴う悪心、嘔吐、発熱などが挙げられます。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。