夜に子供の咳が止まらない原因と軽減する方法

お悩み

寒い季節は風邪がはやりやすく、空気も乾燥しているため咳が起こりやすくなります。特に夜間に咳が止まらないような場合は対処に困ってしまうことでしょう。休息して治そうにも咳のせいでなかなか眠れないことも多く、難儀なものです。ここでは、夜に子供の咳が止まらなくなる原因や軽減する方法について解説します。

夜に咳が出るメカニズム

夜に咳が出て困る人は多いのですが、そもそもなぜ夜に咳が出るのでしょうか。咳のメカニズムから見ていきましょう。

咳が出るメカニズム

咳がどのようにおこっているのかを順に見ていきましょう。咳というのは、咳反射とも呼ばれ、一連の動作が順におこっていく事で発生する症状になります。

咳反射の始まりは、まず短い吸気によって息を吸い込みます。すると、一端声門が閉鎖しますが、その後急激に胸の中の圧力が上昇します。その直後に声門が開くことで、一気に胸の中の空気を押し出します。

この勢いよく空気を押し出すのに伴って、気道内に存在するウイルスや細菌、異物などを口腔へと押し出そうとするのが咳になります。つまり、咳は肺や気管の防衛反応となります。

咳を引き起こすのは、喉頭、気管、気管支粘膜などが検知する刺激です。この刺激が脳の延髄という場所にある咳中枢に至ります。すると、咳中枢は咳をさせなければならないとして咳を起こすときに動作する筋肉へ至る神経にそれぞれ動作をするように命令を伝え、一気に咳が起こります。

咳の種類

咳には大きく2種類がある事もここで説明しておきましょう。その2種類とは、湿性咳嗽と乾性咳嗽です。ようは湿った咳と乾いた咳という分類です。

まずは湿性咳嗽です。湿性咳嗽とは、痰などの気管からの分泌物を伴っており、この分泌物を排出するための咳になります。このような分泌物は気道で過剰に産生されています。これは気道で何らかの炎症が起こっていることを示唆する所見になります。

一方で乾性咳嗽については、痰をほとんど伴いません。そのため、気道以外に原因がある、または炎症が起こっていない気道の異常があることを示唆します。

これらを見分けるだけで原因となる病気はある程度推察が可能となるのです。

夜に咳が増えるメカニズム

夜に咳が増えるメカニズムについては、以下のようなものが考えられます。

・自律神経系が副交感神経優位になるため
・冷気や乾燥によって気管支に対する刺激が増加するため

まず自律神経系です。自律神経系は交感神経と副交感神経とからなっており、それぞれ体のアクセル・ブレーキのように活動をオンオフしている神経です。交感神経優位なときは副交感神経が弱まり、副交感神経優位な場合には交感神経が弱まります。

寝ているときには、体を休めようとしますから副交感神経が優位になります。すると、副交感神経が優位なときには気管支が狭くなって咳が出やすくなるほか、咳中枢が活発化されやすくなるため咳が増えてきます。

環境要因としては、冷気や乾燥が原因となります。気道粘膜は冷えた空気が当たったり、乾燥したりすると刺激に敏感になりますから、ちょっとした刺激でも咳が起こってしまうようになります。

このように、寝ている間には自律神経の影響や環境要因によって咳が起こりやすくなるのです。

夜に子供の咳が止まらない原因

では、夜に子どもの咳が止まらなくなった場合にはどのような原因、病気が考えられるのでしょうか。

空気の乾燥

まずは空気の乾燥です。前述の通り、夜の寒く乾燥した空気環境は気管や気管支への刺激が強くおこりやすく、咳が出やすくなってしまいます。

元々風邪を引いて気管支粘膜が弱まっている場合はもちろん、そうでなくても乾燥した空気によって咳をしやすくなり、咳が止まらなくなってしまうこともあります。

風邪・新型コロナウイルス感染症・インフルエンザなど

風邪や新型コロナウイルス感染症、インフルエンザ感染症では主症状のうちの一つに咳があります。

これらの感染症は上気道に感染しやすく、一部は声門を通過して気管や気管支にも付着します。感染によって炎症が起こりますから、対処しようとして咳が多く出ます。

咳は微生物を排泄しようとする体の防衛反応でもありますから、出てきた飛沫には原因となるウイルスや細菌が多く含まれています。これらの飛沫は他の人への感染源となりますから、十分に対策をする必要があります。

基本的には細菌やウイルスが排泄された後も炎症が残っていますから、咳はしばらく残りますが、気道粘膜の修復に伴ってだんだんと治まってきます。

気管支喘息

子どもの咳の原因として、気管支喘息は見逃せません。気管支喘息はアレルギーによる病気です。

もともと呼吸に伴って気管支にはさまざまな物質が入り込んできます。それらの物質は気管支粘膜の表面に付着しても特に何も反応することなく、線毛という構造物の働きによって口の方へと押し出されて排出されてしまいます。

しかし、普通であれば特に反応しないような物質でも気管支の粘膜に触れることでアレルギー反応が起こり、その場所に炎症を引き起こしてしまうことがあります。これが気管支喘息の始まりです。炎症が起こりますから、多くの分泌物が産生され、咳によって排出されます。

しかし喘息はそれだけでは治まりません。異物による刺激によって炎症が繰り返されると、気管支粘膜はだんだんと肥厚して固くなっていきます。これをリモデリングと言います。

リモデリングがおこった気管支粘膜は非常に過敏に反応するようになり、少しの刺激でも咳をしてしまいます。乾いた咳が続き、気管支が狭窄しますから呼吸苦の症状も出やすくなってしまうのです。

子どもの場合はここまで進行していることは稀ですから、湿性の咳嗽(がいそう)が中心の咳になります。昼間は活発に活動し交感神経が活性化しているほか、種々の咳を抑えるようなホルモンが分泌されているため症状が比較的軽快しますが、夜寝ようとするとそうしたホルモンも減少し、副交感神経優位となりますから咳が出やすくなってしまいます。

マイコプラズマ感染

マイコプラズマは、ウイルスと細菌の両方の特徴を持った微生物です。この微生物に感染することで風邪のような症状を発症します。

熱やのどの痛み、鼻水がある一方で、乾いた咳が頑固に続くという特徴が挙げられます。最初は普通の風邪のような咳ですが、だんだんと乾いた咳が止まらなくなってくる場合、マイコプラズマの感染を疑います。

寝ているときや乾燥しているときに咳がひどくなる傾向があり、夜は咳のせいで眠れないことも多々あります。座っていると咳が軽減することがあるので、座って寝ることもある程です。

学生の間で流行することが多いのですが、時折子どもにも感染して流行します。以前は夏期オリンピックの開催年に流行し、最近ではその傾向が崩れてさまざまな時期に感染することがあります。

普通の風邪と違い感染は非常に頑固で、特定の抗生物質を内服して治療を行います。

アレルギー

アレルギーというと非常に幅が広いのですが、さまざまな物質が気道や他の経路で体に入ることで体が反応して咳が続く場合があります。

夜寝る時には、日中ではあまり触れないものに体が触れます。

・カビ
・細菌
・花粉
・ダニや、その死骸・糞など
・ハウスダスト

などです。

これらが寝具に付着していたり、床に落ちていたりすると、寝ることによって吸入してしまうことがあります。

抗アレルギー薬の内服も対処法のひとつではありますが、まずはアレルゲンが体内に入らないようにしっかりと掃除や洗濯を行い、可能であれば布団をこまめに干す等の一般的なアレルギー対策を行うことが大切です。

夜の子供の咳を軽減するには?

夜中の咳にはさまざまな原因があります。夜になって副交感神経が活性化することを止めることはできませんから、種々の原因を排除すること、そして乾燥や冷感を防ぐことが咳の対策となります。

特に乾燥対策、冷感対策は全ての咳嗽に対する対処として最も基本的な対策となります。

加湿器による加湿が効果的ではありますが、加湿器がないような場合には濡れたバスタオルを干しておくだけでも効果はあります。エアコンを使用する場合はエアコンの風が当たるところに加湿器、あるいは濡れたタオルをおくとより効果的でしょう。

病気が原因の咳に対しては適切な治療が必要になります。熱があれば風邪やインフルエンザ、新型コロナウイルス感染症を疑って診察、治療を受けると思います。これらの病気は熱が下がってもなかなか咳が治まらないケースがありますが、それでも経過を見ていればだんだんと軽快してきます。

一方で、マイコプラズマであれば熱はそこまででもないのにだんだんと咳が強くなりますから、何かおかしいと感じたときは病院を受診して診察を受けると良いでしょう。

また、アレルギーなどによる咳の可能性もありますから、部屋の換気、洗濯などの環境整備をはじめ、必要であれば空気清浄機の使用なども検討しましょう。

咳止めの使用も考慮されますが、咳は元々体から異物を排除するための防衛反応です。医師の診断無く咳止めを使用すると病気の治りが悪くなってしまう可能性があります。まずは種々の対処をして、改善しなければ病院を受診することをオススメします。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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