風邪とインフルエンザの違いと、薬についてのよくある疑問

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インフルエンザの流行が警戒されています。ここではインフルエンザの種類や風邪との違い、合併症などについて詳しく解説します。

インフルエンザと風邪の違い

インフルエンザというと、カゼに比べて強い症状がでるもの、と言った印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、風邪とインフルエンザは原因が異なり、症状も大きく異なる場合がありますので、気をつけなければなりません。どのような違いがあるのでしょうか。

呼吸器感染症の全体像

まず風邪から紹介しましょう。

風邪もインフルエンザも、いずれも気道に感染を起こす感染症です。気道は主に二つに分かれており、声帯よりも口や鼻よりの方を上気道、声帯よりも肺の側を下気道と言います。

上気道、下気道の分類は解剖学的に場所が違うと言うだけではなく、感染症学としても非常に重要な違いがあります。というのは、上気道には感染症を引き起こす微生物があっても大きな問題は無いのですが、下気道には微生物があってはならないのです。

上気道は口や鼻とつながっている事からも分かるとおり、食物も通過しますから細菌やウイルスは非常に多く存在します。しかし、それらの細菌やウイルスは体の免疫が強く働いているため、なかなか人の細胞にとりつくことができず、感染が成立することはなかなかありません。

しかし、ある程度人の免疫力が低下したり、非常に感染力が強い微生物がやってきたりしたときには感染してしまい、症状が起こります。

一方で、下気道は基本的には無菌です。食物が通ることもなく、空気のみが通過する場所ですから、微生物が入ってくることが少ないです。

そんな下気道にも空気に乗って微生物や異物が入ってきてしまうときがあります。それに対抗するため、気管や気管支の内側粘膜には線毛という構造があります。この線毛は自力で動く事が出来、常に粘膜に付着した物質を上気道の方へ押しやる運動をしています。

このようにして、下気道では微生物が入ったとしてもすぐに追い出すことで重要臓器である肺に微生物がやってこないように守っているのです。

風邪症候群

風邪症候群は、上気道にウイルスが感染することによっておこります。前述の通り体の免疫力が低下した場合や、強い感染源が体に入ってきたときに感染が成立します。

感染源となる微生物のほとんど(約80%)はウイルスです。このウイルスの中にはライノウイルス、コロナウイルス(新型以外のコロナウイルスも含みます)、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルスなどが含まれます。他にもクラミジア、マイコプラズマなどの微生物が原因となることもあります。

症状としては一般的な鼻水、のどの痛み、くしゃみ、咳などです。くしゃみや咳は下気道に入り込んできた微生物を外に排出するために発生します。前述の線毛の運動と合わせることで、下気道に感染が成立することはほとんどありません。

鼻水やのどの症状は、その場所に微生物が生着してしまい、感染が成立することでおこります。微生物に対抗するために体が反応し、免疫が活発化します。免疫が活発化すると炎症反応が起こります。

炎症反応が起こると、その場所のいたみや発赤がおこりますから、のどの痛みが出現します。また、炎症が起こると炎症物質が血液中に分泌されますから、全身で発熱するほか、頭痛や倦怠感がおこってきます。

免疫が活性化すると熱が出てくるのは、免疫をさらに活性化するためです。免疫細胞は、37℃よりも38℃ぐらいで活発に活動ができるようになります。ですから、免疫を最大限強くするために体を発熱させることで微生物に対抗しようとするのです。

これらの反応は、微生物が死滅してからもしばらくは組織の修復のために継続しますから、数日症状が続くこともあります。しかし、ある程度経つと自然に軽快していきます。

インフルエンザ

インフルエンザは、上記の様な風邪症状を起こすウイルスの一種です。風邪症状で終わることも多いのですが、それ以上に症状が強く、免疫力が弱い人に取っては上気道以外の感染症状を引き起こすこともあるために特別視されています。

特に特徴的なのは発熱の強さです。ほとんどの場合で38度以上の発熱を来します。それに伴って悪寒、頭痛、筋肉痛、関節痛、全身倦怠感が出現します。もちろん上気道症状である咽頭痛や鼻汁も見られます。

これらの症状の強さに加え、前述の通り上気道以外の部分にも感染を起こすことがあります。命に関わることもあるため、他の人に感染させないようにも注意されています。

インフルエンザの種類

インフルエンザはRNAウイルスというウイルスに分類されるウイルスです。ウイルスの粒子の中にある各蛋白の違いから、A型、B型、C型に分類されます。このうち、C型は構造や性状がA型やB型とかなり異なり、感染しても無症状の事もあるぐらい症状が軽く、流行することがほとんど無いためあまり重視されていません。

A型とB型の表面には、感染増殖に必要な構造物である赤血球凝集素(HA)と、ノイラミニダーゼ(NA)という二種類の蛋白があります。ウイルスのイラストで、表面に何本も生えている棒のようなものとして表現される部分です。

B型はそれぞれ一種類しかないのですが、A型の場合はこのHAが16種類、NAが9種類もある事が分かっています。このHAとNAの組み合わせによって感染力や特徴が変わってきます。

ひと昔前にH5N1型が感染拡大して問題になりましたが、これはHAが5型、NAが1型のインフルエンザウイルスという事です。このように、毎年異なる組み合わせのインフルエンザが広がり得ますから、予想並びに予防が難しくなっているのです。

インフルエンザの合併症

インフルエンザは風邪症状を起こすだけではなく、次のような合併症を引き起こすことがあります。

熱性けいれん

熱性けいれんは、発熱に伴ってけいれんを起こすものです。特に新生児から乳児に多くなっています。

この熱性けいれんは特にインフルエンザだから起こるというわけではありません。何らかの原因で高熱を起こしたときに、それに伴ってけいれんをするものです。インフルエンザでは熱が非常に高くなりますから、熱性けいれんを起こしやすいのです。

熱性けいれん自体は単純型であれば5分以内にけいれんは終了し、予後も良好です。稀に長時間けいれんが続いたり、全身ではなく一部分だけがけいれんしたりする複雑型熱性けいれんもあり、この場合は後に重症化する可能性があるために注意が必要です。

肺炎

インフルエンザの合併症で、高齢者に多くおこるのが肺炎です。前述の通り、下気道はウイルスが侵入してくると排出しようとする機能が備わっていますが、その仕組みを超えてどんどんとウイルスが侵入してきたり、高齢者のように免疫システムが弱っていたりすると、肺にインフルエンザウイルスがやってきて増殖し、肺炎を起こします。

また、インフルエンザの際の肺炎はインフルエンザウイルスのみによる肺炎もありますが、インフルエンザによって体が弱ったところに他の細菌などがやってきて感染が成立する肺炎もあります。混合する場合もありますので、治療に難渋することもあり、元々の全身状態によっては命に関わる場合もあります。

インフルエンザ脳炎

インフルエンザ脳炎というのは、インフルエンザウイルスが血液中に侵入し、血流に乗って脳にいたってそこで増殖することでおこる脳炎です。けいれんを起こすこともありますが、後述のRye症候群を引き起こさなければそこまで重症化する事は無く、軽快することが多くなります。

多いのは免疫がまだ未熟な小児です。小児の場合は中耳炎や、クループという上気道の強い炎症症状を伴う場合があります。

Rye症候群

Rye症候群は、インフルエンザ脳症に加えて肝障害が起こり、脳が腫れてしまう重篤な状態です。インフルエンザ脳炎の時にアスピリンを使用する事で起こりやすいとされています。ですので、インフルエンザの際に小児にはアスピリンを中心とした一部の解熱薬は使用しないことにしています。

Rye症候群は進行が早く、予後が不良ですからまずは予防することが非常に重要です。解熱薬は自己判断で使用するのではなく、病院で相談して処方してもらってください。

その他

前述の通り、種々の主な感染症状に加えて他の感染症状が起こる事があります。

例えば、小児の場合にはのどから耳管を通って中耳にウイルスが移行し、中耳炎を起こすことがあります。肺炎まで至らずとも、気管支炎を起こし、咳や痰が長引く事もあります。

このように、単なる風邪ではおこらないような症状が多く起こりえますので、インフルエンザの予防には十分気をつけましょう。

薬についてのよくある疑問

インフルエンザの薬に関するよくある疑問とその回答を確認しましょう。

抗生物質の効果は期待できる? 

風邪を引くと抗生物質が処方されることがあります。ともすると、インフルエンザにも抗生物質が効くのではないかという風に考えるのではないでしょうか。

しかし、インフルエンザに対して抗生物質は効果がありません。

そもそも抗生物質というのは細菌に対する薬です。人体に感染する微生物は大きく分けて3つに分かれます。細菌とウイルスと真菌です。このうち、抗生物質は細菌のみに効果があります。一方でインフルエンザは、インフルエンザウイルスとも言うように、ウイルスの感染症です。ウイルスに対して抗生物質は効果がありません。

一般的な風邪に関しても、抗生物質は不適当である場合がほとんどです。風邪の場合も、ライノウイルスやエンテロウイルス、新型ではないコロナウイルスなど、ウイルスによって症状が引き起こされます。細菌が感染していることはないことが多いですので、まずは抗生物質なしで治療するのが原則です。

細菌感染症であると考えられる場合には抗生物質を処方します。扁桃腺が腫れている場合であるとか、ウイルス性ではないと考えられる肺炎を起こしている場合には、なかなか自分自身の免疫だけでは対処は困難ですので、抗生物質が使用されます。

あるいは、一般的なウイルス感染症と考えられる場合でも、なかなか治らなかったり、思った以上に症状が重症だったりする場合には、細菌感染症を合併しているのではないかと考えて、抗生物質が処方されることもあります。

インフルエンザの場合は市販薬を避けるべき? 

インフルエンザの場合には市販薬を避けるべきという噂もありますが、一部の市販薬は使用可能です。ではどのような薬が適当で、どのような薬が不適当なのでしょうか。

まず、原則として、インフルエンザの時にはNSAIDsと呼ばれる種類の解熱鎮痛薬は使用してはなりません。ライ症候群という病気を発症してしまうからです。そのため、多くの解熱鎮痛薬は使用できませんし、一般的な風邪薬もNSAIDsを含んでいる場合がありますから使用しない方が賢明です。

一方で、アセトアミノフェンという解熱鎮痛薬は使用可能です。市販薬でも、アセトアミノフェンのみが配合されている解熱鎮痛薬が発売されていますから、そのような薬が使用可能と考えていいでしょう。自分で判断することに不安を感じるようなら、病院で処方を受けた方が賢明です。 

風邪には使えない?抗インフルエンザ薬とは

抗生物質はインフルエンザには使用できませんが、インフルエンザには抗インフルエンザ薬というものがあります。これはインフルエンザ専用の治療薬ですので、風邪には使えません。

抗生物質というのは、細菌が人とは違う細胞の壁の作り方をしていることから、その壁を作るのを阻害する薬を作ることで、細菌がそれ以上増殖しない、そして場合によっては細菌自体の数を減らす効果を期待しています。

一方でウイルスというのは、ウイルス単体で存在することはできません。人をはじめとした動物に感染して、細胞に寄生することで増殖を繰り返しています。

インフルエンザウイルスは、人に感染すると、細胞の中に入り込み、そこで増殖します。増殖したウイルスは細胞から抜け出ることで外に出てきて、他の細胞に感染したり、あるいは飛沫などによって他の人に感染したりすることを繰り返します。

抗インフルエンザ薬は、このようなインフルエンザの感染サイクルのどこかを阻害することによって、ウイルスの増殖をストップさせます。最も多いのは、ウイルスが細胞から出てくるところを阻害する薬です。

この細胞から出てくる時にウイルス表面に発現する構造は、ウイルスによって異なります。ですので、抗インフルエンザ薬は、インフルエンザ専用の薬となります。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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