せん妄の種類と症状…認知症とうつ病との違いは?

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せん妄という言葉を聞いたことはありますか?ご家族でせん妄を経験された方もいるかもしれません。せん妄は早期にケアすることが大切です。ここではせん妄を取り上げ、その種類や症状、予防法について解説します。

せん妄の原因

せん妄は何らかの内科疾患や脳神経疾患の影響によって一定の精神症状を呈する場合に診断されます。一般病院の入院患者では10~30%程度に発生すると言われています。せん妄は準備因子、直接因子、促進因子の3つが影響しあうことで発症します。

準備因子

準備因子は、その人がもともと持っている、せん妄になりやすいとされる要因を言います。高齢であることや認知症を発症していること、ADLが低下している状態、せん妄の既往症、アルコールの大量摂取などが挙げられます。

直接因子

直接因子は、脳の機能に悪影響を与える直接的な出来事や環境の変化のことを言います。手術をしたり、せん妄が副作用としてある薬(モルヒネ塩酸塩水化合物などのオピオイド系鎮痛剤)の投薬や、脱水症状、腎・肝不全などが挙げられます。

促進因子

促進因子は、対象の人が置かれる環境や社会心理、コントロールの効かない状況を言います。入院や施設への入居、痛みや苦痛などにより感じるストレスなどが挙げられます。

せん妄の種類

せん妄は大きく分けて3種類に分類できます。過活動型、低活動型、混合型せん妄です。

過活動型せん妄

過活動型は、落ち着きがなくなるタイプのせん妄です。興奮、幻覚、妄想、夜間徘徊があり、転倒、点滴抜去などがみられます。過活動型せん妄の症状は、認知症の症状とよく似ています。そのため、認知症と間違われることも少なくありません。引越しや入院などの環境の変化をきっかけに現れることがあり、高齢者にみられやすいタイプです。

低活動型せん妄

低活動型せん妄は、極端に元気がなくなるタイプです。無気力、無表情、傾眠傾向が見られます。低活動型せん妄は、過活動型ほど異常な行動が目立たないため、発見が遅れやすいのが特徴です。症状がうつ病によく似ているため、うつ病と診断されてしまうこともしばしばあります。

混合型せん妄

混合型せん妄は、過活動型と低活動型の両方の症状があらわれるタイプです。一般的には24時間以内に症状が変動します。

せん妄の症状

せん妄が発生すると5つの精神症状が出現します。一つずつ詳しく見ていきましょう。

睡眠・覚醒リズムの障害

不眠や昼夜逆転などの睡眠障害を発症します。夜に眠れず、周囲を警戒した状態になる一方、昼間には過剰な眠気によりウトウトとしたりします。

寝ているのか起きているのか曖昧な覚醒レベルの状態であり、起きていても半分寝ているような意識がもうろうとした状態になったり、睡眠状態なのにもかかわらず無意識に動き回ったりします。

幻覚・妄想

実際にはいない虫や蛇やネズミなどが見えたり、実際にはいないのに人が見えて監視しているなどの発言がみられ、視覚に関する症状が現れることが多いとされます。

また、認知症などにもみられるように点滴や注射、投薬などの医療行為が悪い薬を入れられているといった被害妄想を抱きます。事実と異なるにもかかわらず、本人は幻覚や妄想を事実として捉えてしまっており、対応が難しい症状です。

見当識・記憶障害

見当識とは時間・場所・人物などについて物事に見当をつけるという能力のことです。この見当識障害が起きると、時間の感覚や今いる場所がわからなくなったり、自分に話しかけている人が誰かということが理解できなくなったりします。

また、せん妄状態になると記憶力にも影響が出ます。住み慣れた自宅や施設でも一時的にせん妄状態になって見当識・記憶障害が起きてしまえば、同様の症状が発生します。

情動・気分の障害

喜怒哀楽の感情が不安定となり、突然怒り出す・泣き出す・笑い出すといった感情失禁が起きやすくなります。また、何事にもやる気が起きなくなって活動性が低下したり、逆に突然異常に行動的になったりするため人が変わってしまったような状態となります。

この情動・気分の障害に見当識・記憶障害が併発すると、膀胱留置カテーテル、点滴、経管栄養チューブなどを自己抜去するといった直情的な行動を起こしてしまう危険性があります。

神経障害

発汗や頻脈といった神経障害が現れる可能性があります。また、アルコールを原因としたせん妄の場合には手の震えもよく見られます。

せん妄と認知症やうつ病との違い

せん妄は認知症やうつ病とどのような違いがあるのでしょうか?

認知症との違い

認知症とせん妄は別の病態です。せん妄の症状に幻覚や妄想、落ち着きがないことが挙げられます。これらは認知症の症状にみられる見当識障害と似た部分が多く、間違われる場合があります。

認知症と比較したときにせん妄には意識障害がある、急激に発症する、1日の中でも症状に波があり、夕刻〜夜間に悪化することが多いといった特徴があり、症状は数時間〜数日持続します。

うつ病との違い

せん妄は、認知症と同じくうつ病でも似たような症状が出現するため混同されやすいです。せん妄との大きな違いとしては、うつ病は急激に発症することはなく何かを契機に徐々に症状が進行すること、思考内容が自責的であること、不眠・早朝覚醒などが挙げられます。せん妄は数時間〜数日なのに対して、うつ病は持続期間が数週間〜数か月続きます。

せん妄の予防方法

せん妄の基本的な予防方法を確認しておきましょう。

生活習慣を整える

日中はしっかりと起きて陽の光を浴びて活動する、夜はしっかりと眠るといった規則正しい生活リズムを作ることが必要となります。

薬剤のコントロール

薬の服用が必要な場合は、適切なタイミングで必要な量だけ服用するよう、家族がコントロールすることが望まれます。せん妄を引き起こす可能性がある薬もあり、投与には注意が必要です。また、急に中止することでせん妄を引き起こす薬もあります。自己判断で服用を中止したりせず、主治医に相談するようにしましょう。

快適な生活環境をつくる

不安を和らげてストレスをつくらないことが最も重要となります。なじみのある環境を整え急激な変化を避けましょう。また、見当識を維持していけるように場所をわかりやすくしておくなどの対応も大切です。

せん妄が現れた場合の対応方法

せん妄が起こったらまずは専門医療機関を受診しましょう。原因となるものがある場合は、薬や点滴による薬物療法が行われます。

情動・睡眠障害を抑えるために抗精神病薬や鎮静薬が使用される場合もあります。この薬物療法と並行して環境調整を行うことが大切です。転倒や階段からの転落、困った行動によって他者に影響を及ぼすリスクがあるためです。

入院中であれば極力静かで余計な刺激が入らないような環境を作ります。また、転倒や転落を防ぐために離床センサーをつけたり、巡回を強化して見守っていきます。時間の感覚を持ってもらうために室内の照明や彩光を工夫したり、時計を置いたりすることも有効です。

いかがでしたでしょうか。入院したら人が変わったように暴れ出したりすることも珍しくありません。家族に話すとそんな人じゃないのにと話す方も多いです。こうしたことは環境の変化によって誰にでも起こりえます。せん妄は早期に発見してケアすることで症状を和らげられることがあります。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

プロフィール

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