完治する?再感染することも?梅毒の症状と検査・治療方法
近年梅毒の患者が急激に増加しているというニュースを聞かれた方も多いと思います。
2022年頃から患者数も増加し、女性の患者数も増加しています。自分も梅毒にかかったのではないかと気になる方もいらっしゃるでしょう。ここでは梅毒の症状や検査方法について解説します。
目次
梅毒とは
梅毒とはどのようなものなのでしょうか。まずはそこから解説していきましょう。
梅毒の原因菌
梅毒の原因となるのは、スピロヘータという種類に属する梅毒トレポネーマです。感染症は細菌、ウイルス、真菌に分類されますが、梅毒トレポネーマはその中でも細菌の一種です。
スピロヘータというのは細菌の中でも比較的珍しい構造をしていて、らせん状の形をしています。菌体をねじるようにして活発に運動しています。しかし活動性の一方で、温度変化や乾燥、消毒薬や抗菌薬に弱く、体外に出るとすぐに死んでしまう弱い菌でもあります。
スピロヘータにもいくつかの種類がありますが、その中でも人に感染して病原性を持つのは梅毒トレポネーマだけです。
抗菌薬への耐性も急増の一因に
梅毒はもともと西インド諸島の付近にのみ存在する感染症でしたが、大航海時代に人の動きが活発となるのに合わせて世界中に広がりました。一時は感染すると治らない病気として非常に恐れられていましたが、抗菌薬が開発されると同時に感染者数は激減しました。
しかしその後、様々な性感染症が広がりを見せます。その中でもHIVは免疫力を低下させるため、他の感染症との混合感染を引き起こしやすく、梅毒も例外ではありません。そのため、HIVの広がりに伴って梅毒の感染も増加しています。
梅毒の感染が広がっているもう一つの理由は、抗菌薬への耐性がついてきていることが挙げられます。梅毒には最も基本的な抗生物質であるペニシリンが効果的でしたが、現在の梅毒ではペニシリンの効果が弱くなってしまい、様々な抗生物質に対する耐性ができてしまっていることから治療が難しくなっています。
そのため、近年急増してきており、問題となっているのです。
先天梅毒と後天梅毒
梅毒の感染経路にはおもに3種類あります。一番多いのが性感染症です。他には垂直感染、血液感染というルートがあります。
垂直感染というのはあまり聞き慣れない言葉かと思いますが、母体から胎児や新生児に感染が広がることを言います。胎盤を通じて胎児に感染する場合、お産の時に産道で感染する場合、産後に授乳で感染する場合などを垂直感染と言います。梅毒の場合には、胎盤経由で感染する場合と、お産の際に産道で感染するのが感染経路となります。
このように、母児感染によって感染が成立し、子どもが感染する梅毒を先天梅毒と言います。
先天梅毒は、主に3種類に分かれます。1つ目は胎児梅毒です。妊婦が感染している場合、妊娠後期の主に妊娠5か月以降に胎内で感染し、多くは死産となります。
2つ目が乳児梅毒で、産道感染が主な原因です。後述の第三期梅毒に相当する症状を呈し、仮性麻痺などを引き起こします。
3つ目が、同じように垂直感染した梅毒が体内に残り続け、学童期以降に第三期梅毒に相当する症状を呈するものです。この場合、歯牙の異常、角膜炎、難聴の3徴候が現れることが多くなります。
一方で、先天性梅毒とは異なり、産後に感染するものを後天性梅毒と言います。血液感染もあるとはいいますが、非常に稀で、実際にはほとんどおこっていないと言われています。針刺しなどでも起こると言われていましたが、今のところ針刺しでの感染はなく、後天的な感染は実際には性感染症のみといってもいいほどです。
女性の患者が増えている?
前述の通り、近年梅毒の感染者が急増しています。特に20代から30代の女性の感染が急激に増加していると言われており、注意が必要です。
性感染症ですから、性行為によって感染します。不特定多数との性行為は非常にリスクが高いです。また、原因の一つと言われているのが外国人観光客の増加です。コロナ感染流行前は非常に多くの外国人が日本を訪れていましたが、梅毒保有者も多かったといわれています。そしてそのような観光客が日本の風俗店を利用し、風俗店で梅毒患者が増加した可能性も考えられています。
いずれにしても国内での増加も顕著ですから、特に女性は感染した状態で妊娠すると、前述のように子どもが先天性梅毒になってしまう可能性がありますので注意が必要です。
梅毒の症状の特徴は?
梅毒ではどのような症状が出るのでしょうか。
梅毒の症状は4つの時期に分かれています。それぞれ第一期から第四期と呼ばれています。
梅毒は、性交渉のあと約3週間の第一次潜伏期を経てから症状が出始めます。ここから第一期が始まります。
第一期の症状
第一期梅毒は、感染後約3か月までみられる症状をいいます。性感染症として粘膜や皮膚のちいさな傷口から侵入し、その場所で増殖して初期病変を作ります。これが第一期の症状になります。
具体的には陰茎や陰唇に小路、無痛性の硬結となります。これを初期硬結と言います。硬結はやがて潰瘍となって硬性下疳と呼ばれています。かためのじゅくじゅくした病変です。
またそれに並行して鼠径部のリンパ節が無痛性に腫脹します。
これらの病変の中には梅毒トレポネーマの菌が大量に検出されますが、次第に免疫によって消失していきます。おおむね1か月ぐらいで第一期の症状は消失しますが、一部は体内に潜んでいます。
第二期の症状
体内に潜んでいた梅毒トレポネーマが再度増殖を開始しておこるのが第二期の症状です。だいたい感染後3か月後から、3年後程度の時期におこるのが第二期です。
第二期の特徴は、体の中に潜んでいた梅毒トレポネーマが血流に乗って体中に広がって、体のさまざまな場所で症状を起こすことにあります。
第二期の最初は頭痛、発熱、倦怠感など風邪のような症状から始まります。これは梅毒トレポネーマが血液中に存在するため、免疫が反応することによっておこってくる症状です。
全身に広がった結果、全身のリンパ節腫脹がおこるほか、皮膚には梅毒疹と呼ばれる皮疹が散在します。また、陰部などの柔らかい部分には盛り上がった丘疹が出現し、扁平コンジローマと言われます。他にも、手掌や足底など、皮膚が分厚い部分はボロボロと皮がむけます。これを梅毒性乾癬と呼びます。
また、頭部では脱毛がおこります。この脱毛はまとまった場所に起こるのではなく、虫食いのようにちいさな脱毛が複数おこるのが特徴です。
これらの症状が出ているとき、体の免疫は非常に強い免疫応答を起こします。それによって、リンパ節腫脹以外の症状はだいたい3か月程度で消失します。しかし、梅毒トレポネーマは非常に強い細菌ですので、再発を繰り返します。
第三期の症状
第三期は、第二期が終わった後のだいたい感染3年後から10年後頃におこってきます。
梅毒トレポネーマの感染に対しては全身の免疫が反応しますが、おおよそ30%の確率で完全に退治できません。このような場合におこってくるのが第三期です。
この第三期におこってくるのは、梅毒トレポネーマが体内で活動できないように閉じ込める反応です。免疫細胞は梅毒トレポネーマを取り囲んで、皮膚や粘膜、肝臓、骨などにゴム種という塊を作ります。
第四期の症状
免疫系によって梅毒トレポネーマを押さえ込んでも、中枢神経系に梅毒が与えたダメージは大きく、約10年後以降になると中枢神経系の変性を来します。これによって麻痺や脊髄ろうと呼ばれる症状が起こってきます。
これを第四期といい、寝たきりになってしまうことがほとんどです。
これに前後して、大動脈系の異常も起こりえます。大動脈瘤や大動脈炎によって、突然死のリスクも上昇します。
梅毒の検査方法
梅毒の検査方法はさまざまあります。
先ずは現在感染が成立していると考えられる場合、その場所から採取した検体を顕微鏡で観察して梅毒トレポネーマを見つける方法があります。特に特別な染色を行うことで菌が見えやすくなり、検出感度が上昇します。
一方で、菌を直接採取できないような第二期以降の場合は、血清学的検査を行います。この方法は複数あります。
まず行われるのが脂質抗原法です。STSと呼ばれます。STSは感染後、だいたい4週間程度で陽性になってきます。しかしこの方法は、偽陽性となる確率も高いです。
そのため、他の方法として梅毒トレポネーマ血球凝集法(TPHA)という方法も取られます。これは、梅毒に対する抗体を検出するための方法です。偽陽性はほとんどありませんが、だいたい感染後6週間程度たたないと陽性にならないこと、一度感染すると一生陽性になってしまうことが問題となります。
そのため、これら2種類の検査を組み合わせて診断するのが基本となります。
梅毒の治療に関するよくある疑問
梅毒の治療に関するよくある質問についてお答えします。
梅毒に効く薬はある?
梅毒は細菌の感染症ですから抗生物質で治療します。特にペニシリン系と呼ばれる抗生物質がよく使用されます。
梅毒の治療はステージによって異なります。症状が軽度な第1期や第2期で発見された場合には、内服薬による治療が行われます。
近年では持続性ペニシリン筋注製剤が使用されることが増えてきています。これは2021年1月に日本国内で承認された薬です。薬自体は比較的前からあり、世界的には標準治療薬として使用されていましたが、日本国内でも使えるようになったと考えるといいです。この薬は、感染から1年以内であれば、1回投与するだけで治療ができます。
内服薬として使用されることが多いのが、サワシリンという薬です。ペニシリン系の薬になります。この薬は、梅毒の最も外側の防御壁である細胞壁の合成を妨げることによって、菌の増殖を抑えて治療します。1日3回から4回服用し、7日間服用すると治療ができます。
ペニシリンにアレルギーがある場合には、テトラサイクリン系と呼ばれる抗生物質やマクロライド系と呼ばれる抗生物質が使用されます。
第3期や先天梅毒、神経梅毒など重症であったり、内服ができないような状態の場合には、点滴の抗生物質が使用されます。作用機序は内服薬と基本的に変わりはなく、10日間から2週間程度使用されます。
完治したかどうかの判断方法は?
一般的には治療してから6か月の間に定期的に血液検査を受けて、様々な症状がないことを確認した上で、完治したと判断します。血液検査では抗体の数値を見ます。
梅毒の感染中は症状が出たり消えたりするために、症状がないことを見て完治と判断するわけではありません。必ず、検査で確認する必要があります。
一度治った後に再感染することはある?
一部の感染症では、一度感染すると体が免疫で記憶して、二度とその感染症にかからない場合があります。
しかし、梅毒に関しては新たに感染することによって再発する可能性があります。
放置した場合の深刻な合併症は?
症状がなくなったからと言って治療せずに放置すると、体の中に梅毒の細菌が残ってしまいます。そのような状態で放置すると、数年後に第3期の梅毒の発症につながり、内臓や神経系に深刻な合併症を起こすことがあります。
例えば心臓に梅毒が入り込むと、弁膜症や心筋症などの心臓病変を引き起こします。神経系に感染した場合には、脳や脊髄に影響を与えて、神経学的な症状、すなわち麻痺や痙攣、認知機能の障害などが現れる場合があります。