ウイルス性胃腸炎がうつるときの感染経路と予防のポイント

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ウイルス性胃腸炎はノロウイルス、ロタウイルス、サボウイルスをはじめとするウイルスが原因で発症する胃腸炎です。

ここではウイルス性胃腸炎を取り上げ、感染経路や予防法について解説します。

ウイルス性胃腸炎と細菌性胃腸炎の違い

胃腸炎には、大きくウイルス性胃腸炎と細菌性胃腸炎に分類されています。

ウイルス性胃腸炎

ウイルス性胃腸炎とは、ウイルスを原因として発症する胃腸炎のことであり、主な原因となるウイルスとしては、ノロウイルス、ロタウイルス、サボウイルス、アデノウイルス、コロナウイルス、コクサッキーウイルスなどが挙げられます。

こうしたウイルスは、基本的には嘔吐物や下痢便などの中に含まれており、感染者の周囲環境がウイルスによって汚染されることがあります。

環境中に存在するウイルスが手に付着したり食べ物に混入したりすると、手などを介して口の中に運ばれますし、空気に存在するウイルスを吸い込むことで体内に運ばれるなどウイルスに接触することによって感染が成立し、ウイルス性胃腸炎が引き起こされます。

細菌性胃腸炎

細菌性胃腸炎は、主に食べ物から感染し、ウイルス性胃腸炎に比べて症状が強いのが特徴的です。

胃腸症状が悪化する代表的な細菌例として知られているのが、腸管出血性大腸菌(O-157)やカンピロバクターによるものであり、下痢や嘔吐などの消化器症状がひどくなって入院を余儀なくされるケースも存在します。

ウイルス性胃腸炎が疑われる症状

ウイルス性胃腸炎は原因ウイルスが多岐に渡り、ロタウイルスの場合は便が白っぽく変化するなどウイルスによって症状の現れ方が異なると言われていますが、典型的な症状としては、嘔気や嘔吐、下痢などといった消化器に関連したものです。

ウイルス性胃腸炎では、下痢や嘔吐症状に伴って体内の水分が喪失して、食欲低下から十分に水分を摂取できずに脱水状態が進行して、倦怠感や尿量低下などの症状が見受けられることも経験されます。

それ以外にも、特にロタウイルスが乳幼児に感染した場合には、けいれん発作など意識が悪くなる症状を併発することも報告されています。

ウイルス性胃腸炎がうつるときの感染経路

ロタウイルス、ノロウイルス、サポウイルスの感染経路を確認しておきましょう。

ロタウイルスの感染経路

ロタウイルスは、主に乳幼児に急性胃腸炎を引き起こすことで知られるウイルスであり、例年3月から5月にかけて流行し、一度発症すると水様性下痢や嘔吐症状が繰り返して出現し、発熱や腹痛なども往々にして頻繁に認められます。

ロタウイルスによって引き起こされる急性胃腸炎は、主に0歳から6歳前後に罹患しやすく、感染力が強いウイルスであるがゆえに通常では5歳までにほとんどの幼児がロタウイルスに感染すると考えられています。

成人の場合は、ロタウイルスの感染を何度も経験しているため、多くのケースでひどい症状は出現しませんが、乳幼児が発症すると激しい腹部症状が認められることも決して少なくありません。

通常であれば、胃腸症状は1~2週間で自然に治まると考えられています。

ロタウイルスの主な感染経路はヒトとヒトとの間で起こる糞口感染であり、ロタウイルスは特に感染力が極めて高く、ウイルス粒子が10~100個と少数であってもウイルス感染が成立すると考えられています。

また、ロタウイルスは外部環境下でも安定的に生息できるため、汚染された水や食物などを触った手からウイルスが口に入って感染が成立する可能性もあります。

ノロウイルスの感染経路

ノロウイルスは直径30~40nm前後の球形でカップ状のタンパク質の内部に遺伝子が包まれた構造をしています。

ノロウイルスもロタウイルスと同様に、感染伝播する力が強く、100個以下のウイルスが存在するだけでも胃腸炎の症状が出現することがあります。

ノロウイルスによる胃腸炎は、冬季を中心に年間を通して流行すると言われていて、汚染されたカキなどの二枚貝を、生の状態、あるいは十分に加熱せずに摂取した場合などに感染して、嘔気や嘔吐、下痢、腹痛などの症状が現れます。

一般的に、これらの腹部症状は通常であれば1~2日で治まり、85℃~90℃で90秒間以上加熱することによってノロウイルスは感染力を失うと考えられています。

サポウイルスの感染経路

サポウイルスは、ノロウイルスと同様に年間を通して胃腸炎を起こすことが知られており、主な感染経路はこれまでの疫学的調査によるとカキをはじめとした二枚貝の生食やウイルスを保有する調理従事者の関与が強く疑われています。

また、学校や保育園などで、生カキを食べていないのに集団発生する事例があり、サポウイルスが大量に含まれる便や嘔吐物から人の手を介して感染するなど人から人への二次感染する場合も想定されています。

ウイルス性胃腸炎を予防するポイント

ウイルス性胃腸炎は、主に接触感染によって感染が広がりますので、事前に感染が拡大しないように予防策を講じることが重要です。

予防方法としては、徹底した手洗い、次亜塩素酸ナトリウムによる環境の消毒、嘔吐物や排泄物の処理の際のゴム手袋着用、食事の充分な加熱などが具体例として挙げられます。

トイレの後や、調理する際や食事前には、必ず石けんと流水で十分に手を洗うとともに、糞便や嘔吐物を処理する場合には、使い捨て手袋やマスク、エプロンを着用して、処理実施後は石けんと流水を用いてこまめに手を洗ってください。

特に、カキなどの二枚貝を調理するときは、ノロウイルスなどによる胃腸炎を発症しやすいと考えられているため、食材の中心部まで十分に加熱するように意識しましょう。

乳幼児の場合は、衛生概念が乏しく感染が拡大することも少なくありませんし、万が一胃腸炎を発症すると脱水症状を来しやすい側面もあるため、少しずつでも水分を摂取できるよう促進することが肝要です。

もし自分が、ウイルス性胃腸炎に罹患してしまった場合には、周囲の人にうつらないように処理や消毒などの対策を通常以上に積極的に行いましょう。

まとめ

これまで、ウイルス性胃腸炎の感染経路と予防のポイントなどを中心に解説してきました。

感染性胃腸炎の典型的な症状は、下痢、嘔気、嘔吐、腹痛、食欲不振、発熱などが挙げられ、小児では嘔吐、成人では下痢が多いと指摘されています。

一般的には、原因となるウイルスの種類や病原体の量、感染時の体調などによって、食欲不振や悪心程度の軽い症状で自然に治癒する場合もあれば、激しい嘔吐や水様性下痢など強い症状が持続的に認められることもあります。

症状の出現様式には個人差があって、特に小児や高齢者では、下痢によって脱水症状に陥りやすく全身状態が悪化することもあるため、油断は禁物です。

感染性胃腸炎の感染経路は、感染している人から他の人に感染する「接触感染」、あるいは病原体に汚染された食べ物などが口に入ることで人に感染する「経口感染」に大きく分類されます。

接触感染の場合には、下痢や嘔吐物の処理や消毒が不十分な場合に、手指に付着して口から吸い込んで体内に取り込むことで感染しますし、家庭内や集団施設などにおいて感染者との濃厚接触や飛沫から感染が成立する例もあります。

経口感染の場合、ウイルスや細菌に汚染された食べ物を十分に加熱処理せずに摂取する、あるいは感染者が調理した食べ物を食べることでも感染が成立すると考えられています。

自分がウイルス性胃腸炎に感染した際には、周囲の人に感染を伝播しないためにも、便や嘔吐物の処理や触れた物の消毒などを十分に行うことが大切です。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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