石膏(せっこう)の詳しい生薬説明

漢方事典

天然の硫酸塩類鉱物、セッコウの鉱石を用います。日本でもわずかに産しますが、専ら湖北・湖南・山東省を主産地とする中国から輸入しています。石膏は白ないし灰白色の光沢のある結晶塊で、主として含水硫酸カルシウムCaSO4・2H2Oからなります。石膏の鉱石には軟石膏(なんせっこう)と硬石膏(こうせっこう)とがあり、軟石膏には繊維石膏と雪花石膏とがあります。

薬用にはおもに繊維石膏が用いられ、雪花石膏は彫刻材として用いられます。硬石膏は無水硫酸カルシウムの結晶ですが、正倉院薬物にある石膏は硬石膏であり、古代にはこの硬石膏を石膏として使用していたと考えられています。かつて理石(りせき)、長石(ちょうせき)、方解石(ほうかいせき)と呼ばれた生薬に関して、今日では理石は繊維石膏、長石や方解石は硬石膏のこととされています。石膏は110~120℃くらいで数時間焼くと結晶水が半減して白い粉末になりますが、これを焼石膏(しょうせっこう)といいます。この加熱には湿式と乾式とがあり、焼石膏はそれぞれα半水石膏とβ半水石膏に区別されます。

いずれも水を加えると固まる性質があり、β半水石膏は整形外科で固定に用いるギプスに、α半水石膏は歯科の印象採得に利用されます。さらに200℃で加熱し過ぎると結晶水が全部なくなり、無水石膏(生薬名:煅石膏[だんせっこう])となります。この粉末を押し固めたものがチョークです。天然の石膏には硫酸カルシウムのほか、SiO2、MgO.Al2O3、Fe2O3などが含まれています。薬理実験では解熱、止渇、利尿作用などが報告されていますが、石膏は難溶性であり、大量に用いなければ解熱作用は発現しないといわれています。

詳細は不明ですが、胃酸によってイオン化されたCa2++や微量に含まれる夾雑物の作用が推測されています。漢方では清熱・止渇・除煩の効能があり、熱性疾患にみられる高熱や煩躁、口渇、咽痛、譫妄のほか、炎症性の浮腫、瘙痒感、歯痛などにも用います。日本漢方では陽明病期の裏熱証、中国医学では肺胃における気分の実熱証の要薬です。石膏の1日の常用量は10~20gですが、症状に応じて100g以上用いることもあります。なお煅石膏は火傷や湿疹の分泌を抑え、皮膚潰瘍を収斂する作用があります。

①清熱作用

熱性疾患や炎症に用います。熱性疾患で高熱や口渇、煩躁、譫妄、発汗、顔面紅潮などの症状には知母・甘草などと配合します(白虎湯)。敗血症や脳炎などによる高熱、頭痛、咽痛、煩躁、出血症状、痙攣などには犀角・生地黄などと配合します(清瘟敗毒湯)。熱性病の後に微熱が続き、呼吸困難、煩躁などのみられるときには竹葉・麦門冬などと配合します(竹葉石膏湯)。

気管支炎や喘息など肺熱証にみられる咳嗽には麻黄・杏仁などと配合します(麻杏甘石湯)。歯槽膿漏や口内炎などの胃熱証には知母・麦門冬などと配合します(玉女煎)。アトピー性皮膚炎で瘙痒感の強いときには苦参・蝉退などと配合します(消風散)。糖尿病などによる口渇、多飲には知母・人参などと配合します(白虎加人参湯)。

②利水作用

急性腎炎などによる浮腫や炎症性の腫脹に用います。腎炎などの熱性疾患による浮腫やリウマチなどによる関節の腫脹に麻黄・蒼朮などと配合します(越婢加朮湯)。心不全などによる浮腫や呼吸困難には防已・桂枝などと配合します(木防己湯)。

処方用名

石膏・生石膏・煅石膏・熟石膏・セッコウ

基原

含水硫酸カルシウム鉱石。組成はほぼCaSO4・2H2Oです。

性味

辛・甘・大寒

帰経

肺・胃

効能と応用

方剤例

清気分実熱(清熱降火・除煩止渇)

①白虎湯

外感熱病の気分証で高熱・煩躁・口渇があり水分を欲します。汗が出る・脈が洪大などを呈するときに、知母・甘草などと用います。

②清瘟敗毒飲・化斑湯

気分証に血熱をともなった気血両燔で紫黒色の斑疹を生じたときは、犀角・生地黄・牡丹皮などと使用します。

③竹葉石膏湯

気分証の回復期の余熱未清で胸苦しい・口乾・舌質が紅・舌苔が少ないなどを呈するときは、竹葉・麦門冬などと用います。

清肺熱

麻杏甘石湯

肺熱の呼吸促迫・咳嗽・胸苦しい・口渇などの症候に、麻黄・杏仁などと使用します。

清胃火

①清胃散

胃火熾盛による頭痛・歯痛・歯齦の腫脹疼痛・口内炎などに、黄連・升麻・牡丹皮・白芷・細辛などと用います。

②玉女煎

陰虚の胃火上炎による歯痛・頭痛には、熟地黄・麦門冬・牛膝などと使用します。

生肌斂瘡

創傷・潰瘍・熱傷などの肉芽新生が悪く瘡口がふさがらないときに、煅石膏の粉末を外用します。

臨床使用の要点

石膏は辛甘・大寒で、肺・胃二経に入り、甘寒で生津し辛で透発し大寒で清熱し、清熱瀉火するとともに散熱し、外は肌表の熱を透発し内は肺胃の熱を清し、退熱生津により除煩止渇するので、肺胃ニ経の気分実熱に対する要薬です。それゆえ、外感熱病の気分実熱による高熱汗出・煩渇引飲・脈象洪大、肺熱の気急鼻搧・上気喘咳・胃火熾盛の頭痛・歯齦腫痛・口舌生瘡などに、非常に有効です。気血両燔の高熱・神昏譫語・発斑発疹にも、清熱涼血薬とともに用い、透熱転気して涼血散瘀・化斑退疹を助けることができます。

火煅に研末して外用すると生肌斂瘡・収湿の効能があり、湿疹瘡瘍・潰瘍などに有効です。

参考

生用(生石膏)すると清熱瀉火に、煅(や)いて用いる(煅石膏・熟石膏)と生肌斂瘡に働きます。

用量

15~60g、大量で120g、煎服。

使用上の注意

①内服の場合は生石膏を粉砕して先煎し、徐々に温服します。外用には煅いて粉末にし、散布します。

②大寒で質が重いので、実熱以外には使用してはなりません。

③胃寒食少には禁忌です。

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