スポーツで起きやすい舟状骨骨折…気づかずに放置すると偽関節に!?
舟状骨骨折という骨折があります。手の骨折ですが、治りにくく、放置すると偽関節となり手に運動障害の後遺症が残ってしまうこともあります。ここでは舟状骨骨折をはじめとする手の痛みの原因について解説します。
目次
舟状骨とは
舟状骨とは、手の甲を構成する骨の一つです。
手の骨は非常に精密な構造をしています。まず、親指から小指までの根元に、指を支える為の中手骨という骨がそれぞれの指の根元にあります。この骨は指の骨を支える働きの他に、指に向かう腱の土台としての役割も担っています。
一方で、前腕は橈骨と尺骨という二本の骨で支えられています。
指側の中手骨、前腕側の橈骨と尺骨の間に存在するのが手根骨という骨です。手根骨は一つの骨でできているのではなく、全部で8つの骨で構成されています。一つの骨ではなく複数の骨が並んでいる事で、手を自由に折り曲げることができるようになっているのです。
8つの骨を細かく見ていくと、まず4個が中手骨側に並んでいます。親指側から順に大菱形骨、小菱形骨、有頭骨、有鈎骨の4つです。そして、その4個より前腕側に並んでいるのが同じく親指側から順に舟状骨、月状骨、三角骨、豆状骨です。
舟状骨は、手の表面から触れることもできます。手のひら側からみたとき、横に走る手相があると思いますが、まさにそのライン上、一番親指に近い当たりで触れるのが舟状骨です。
舟状骨骨折の症状
舟状骨骨折は、手根骨の骨折のなかでも最も多くおこりやすいものです。ほとんどの場合は、手の平をついて倒れたときに骨折を起こします。
症状としては、手首から手掌にかけての範囲で、腫れや痛みを感じます。表面に赤みを見る事もあります。触ったり動かしたりしたら痛く、単純な打撲とはやはり痛みの度合いも違います。
しかし、実は手根骨の付近はそれぞれが靱帯で強く固定されているため、ちいさな骨折であればあまり動かない事があります。骨折の痛みというのは触ったときの痛みはもちろんですが、骨折部を中心に骨がそれぞれ動く事で互いに刺激し合って痛みを感じます。そのため、あまり骨同士が動かない状態であれば、骨折の痛みというのはあまり感じないのです。
ですので、小さい骨折であれば、少し強めの打撲の痛みと考えてしまうことがあり、骨折と思わず医療機関を受診しないこともあります。また、ちいさな骨ですから、医療機関でレントゲンを撮っても見逃してしまうことがあり、医師の間でも注意すべき骨折として認識されています。
若者のスポーツで起きやすい舟状骨骨折
舟状骨骨折が見られるのは、主に若年者と高齢者に分かれます。
若年者の場合には、多くの場合は何らかの競技中に、後ろ向きに転倒して手をついた時に骨折します。前腕からの力が手の真ん中に強くかかることによって、手の真ん中の舟状骨が骨折してしまうのです。
また、他に多い年代としては高齢者になります。高齢者も基本的には同じように手をつくことによって骨折が起こります。ただ若年者と違い、ふらついたりつまずいたりし転倒することが多いです。他には、交通事故で骨折することもあります。
受傷する時には手首をひねることがほとんどですから、痛みの場所もあいまって捻挫と間違われることもしばしばあります。診断のためには身体所見だけではなく、レントゲンなどを併用する必要があります。
放置すると偽関節になることも
偽関節というのは、骨折をした後に骨がじゅうぶんにくっつくことなく治癒してしまい、ゆがんだ状態で固定されてしまったり、固定が不じゅうぶんで周りを動かすと骨折部を中心に骨がその都度ゆがんでしまったりする状態を言います。痛みもありますし、特に手の動きは精密なものですから手根骨の部分で偽関節がおこってしまうと手の動きが制限されたり、精密な動きができなくなってしまったりします。
そしてやっかいなことに、舟状骨は手根骨のなかでも骨折が起こりやすい骨であるのに、レントゲン撮影をしても見逃しやすい骨でもあり、偽関節になりやすい骨なのです。
舟状骨はまず形が骨折しやすい形をしています。丸い形であれば骨折しにくいのですが、Lの字に屈曲した形をしています。そのため、腰部と呼ばれる屈曲している部分に力がかかりやすく骨折しやすくなります。
さらに、骨折をしてしまった後も、L字の両側から力がかかりやすく、少し手を動かしただけでそれぞれの骨片が動かされてしまい、骨折面が安定せず常に動いてしまい、なかなか接着ができない状態となってしまいます。
さらに、血流も偽関節を構成しやすい血流となっています。骨折をしたときには修復が行われます。修復のためには血流がじゅうぶんある事が必要なのですが、舟状骨のところは血流の末端であり、血流が乏しい部分になります。骨折によって血管が圧迫され、さらに血流が悪化する場合があり、より治りにくくなってしまうのです。
このように舟状骨骨折は適切に固定、治療を行わないと偽関節になりやすいので、舟状骨の部分が不自然に痛い場合は病院を受診するようにしましょう。
舟状骨骨折の診断
舟状骨骨折の診断は、まずは問診と圧迫による痛みを確認することによって行われます。舟状骨骨折を疑った時には、解剖学的カギタバコ入れと呼ばれる親指の付け根のくぼんだ場所を押してみることによって確認します。舟状骨ではこの場所の圧痛が確認できます。
骨折が疑われる場合はレントゲン撮影を行います。とはいえ、非常に小さな骨が複雑に入り組んでいる手のレントゲン写真は、なかなか骨折線がわからないこともあります。そのため通常の正面からの撮影と横からの撮影だけではなく、斜めであったり、特殊な角度からの撮影が必要となります。
ただし、どれだけレントゲン撮影を適切に行っても、受傷した当初は骨折線がわからないことがあります。数日経ってから撮影し直すことによって、骨折線がはっきりしてきてレントゲンで確認できるようになることがあります。
より感度が高い検査としてCTやMRI検査を行うこともあります。
舟状骨骨折の治療法
舟状骨骨折を診断された場合にはどのように治療するのでしょうか。
保存療法
舟状骨骨折は、非常に小さい場所の骨折になりますから、大きく動くことがありません。そのため、あまり転位も認めることがありませんから、保存療法を行うことで元の場所のまま安定することも多くあります。
基本的にはギブスによる固定が行われます。なお、レントゲンなどではっきりと骨折がわからなくても、身体所見によって骨折の可能性が否定できない場合には、念のためにギブス固定を行うことがほとんどです。というのは、固定をしないまま放置すると、だんだんと骨折線が開いてきて、偽関節になることがあるからです。
手術療法
保存療法でもなかなか骨がくっつかない場合や、大きく転位している場合には手術を行い、ネジで固定することがあります。手術自体は30分程度で終わるもので、麻酔も伝達麻酔で行うことがほとんどです。全身麻酔は必要としないことが多いです。
また偽関節になった場合には、骨を削って別の場所から骨を移植してくる大掛かりな手術が必要です。
他にもある手の痛みの原因
手が痛い場合に、舟状骨骨折以外にどのような病気が考えられるのでしょうか。鑑別疾患について簡単に触れておきましょう。
ドケルバン病
ドケルバン病とは、親指を伸ばそうとする腱と、その腱を支える腱鞘との間におこる炎症です。
腱というのは筋肉と骨を繋ぐ構造物で、筋肉が収縮して引っ張られることで骨を動かします。しかし、何も固定されずただ単に引っ張って骨を動かすと腱は浮いてしまって別の場所に動いてしまいます。それを防ぐために、腱が通る部分の骨には腱鞘というトンネル状の構造が存在します。トンネルの中を腱が通行するため、腱が引っ張られても腱はその場所にとどまり、またしっかりと固定されているわけではないため腱を引っ張るとその力が骨にダイレクトに伝わるのです。
しかし、腱と腱鞘の間に摩擦がかかり続けると、だんだんと炎症が起こってきます。これが親指の付け根で起こるのがドケルバン病です。
ドケルバン病になると、特に手首を小指側に動かしたときに親指の付け根に痛みを感じます。妊娠中や産後、更年期の女性に多く診られる病気です。治療としては基本的には保存療法として、腱をなるべく動かないように固定するだけで軽快することが多いですが、それでもなかなか治らない場合には腱鞘を切開する手術などが行われます。
キーンベック病
キーンベック病とは、手根骨のなかでも月状骨がつぶれてしまう病気です。月状骨は先ほど出てきたように、手根骨のなかでも前腕側の列の真ん中にある骨です。強い力がかかり続ける場所にある骨といえます。
手をよく使う仕事をしていると、力が月状骨にかかり続けることでだんだんと疲労骨折を起こし、つぶれていきます。ちょうど腰の骨に力がかかって圧迫骨折をするようなものです。
月状骨がつぶれていくと痛みが強くなり、変形も出てきますから、早いうちに治療を開始する必要があります。
TFCC損傷
TFCCとは、三角線維軟骨複合体の略称です。手首のなかでも小指側にある、軟骨や線維からなる構造です。具体的には橈骨と尺骨を繋ぐ靱帯を中心として、橈骨尺骨と手根骨の間にある軟骨、それらを固定するための靱帯などで構成されています。
TFCCは元々、手首の中でも小指側の安定性を支える構造物として働いています。また、手首を回すような運動をしたときに、力が一部にかかりすぎないように力を分散する役割もあります。
手首を繰り返しねじるような運動を続けたり、外傷を受けたり、年齢を重ねることでだんだんとダメージが蓄積し、痛みが出てきます。これがTFCC損傷です。
軽症であればサポーターを装着して手首を安定化させ、炎症が治まるのを待ちます。しかし強い炎症が起こっている場合には、医療機関で適切な治療を受ける必要があります。