クラッシュ症候群・コンパートメント症候群とは?原因と対応方法

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クラッシュ症候群は昔からある言葉ですが、阪神・淡路大震災をきっかけに広く知られることとなりました。ここではクラッシュ症候群について原因や対応方法を含め、詳しく見ていきましょう。

クラッシュ症候群とは

クラッシュ症候群は挫滅症候群とも言われます。1995年1月17日に起こった阪神・淡路大震災でがれきに埋まった状態からの救出後に状態が急変し、死亡または重篤な症状を引き起こすという事例によって知られるようになりました。

倒壊した家屋のがれきなど重量物によって動脈や静脈の環流が遮断された状態で長時間経過すると、救出された直後は何も症状がなくても数時間後にクラッシュ症候群を発症することがあります。

2時間以上にわたり腰、腕、下腿などががれきの下敷き状態であり、軽度の筋肉痛や手足のしびれ、脱力感などの症状がある場合や、尿に血が混じり、茶色の尿が出たり、尿の量が減っている場合にはクラッシュ症候群になっている可能性があります。

クラッシュ症候群の原因

担架の手配

クラッシュ症候群は、事故や災害により家屋や車体などの重量物による長時間の圧迫が原因となります。重量物に2〜4時間以上挟まれると発生すると言われており、長時間の同じ姿勢となることで、圧迫されている部位の末梢にある筋肉細胞の細胞膜が障害されます。

これによって、筋細胞の内容物であるタンパク質であるクレアチニンキナーゼ、ミオグロビン、カリウムなどの毒性の高い物質が遊離します。これを横紋筋融解症といい、血液中に混入することで毒性の高い物質が蓄積されていくのです。

このままの状態では局所に停滞しているだけになりますが、圧迫されていた部分が救助によって解放されると、血流の再開から血流に沿って急激に毒性の高い物質が全身へ広がります。

また、血流の再開に伴い流入した血液中の水分が、血管の内皮細胞によって血管外へ急速に漏出することになります。これにより、急激な下肢の腫脹と全身の循環障害によって血圧の低下をきたしてしまいます。

さらに、循環障害やミオグロビン血症によって近位尿細管の細胞障害を生じ、障害された細胞の成分によって尿細管の閉塞を引き起こします。急性腎不全を発症することで高カリウム血症が悪化して腎不全が進行し、高濃度のカリウムによって心室細動などの致死性不整脈や心不全を引き起こし、劇症の場合には死に至ることもあります。

また、挫滅組織の浮腫の程度によっては、脱水症状から腎障害をともなうこともあります。

クラッシュ症候群とコンパートメント症候群

トリアージと救急車

クラッシュ症候群は、前述したように臀部や腕、下肢などを長時間圧迫されることで起こります。障害されている筋量が多くなると、ミオグロビン尿や高カリウム血症を生じやすくなります。上肢より下肢の圧迫の場合、1肢よりも2肢の損傷の場合に発症のリスクが高くなります。

さらに、圧迫部位が下肢の場合には、極度の腫脹によってコンパートメント症候群を発症することがあります。コンパートメント症候群は、血腫の形成や筋肉の腫脹によって筋膜や骨、骨間膜に囲まれた内圧が上昇し、筋や神経などの末梢の循環が障害される病態です。

早期に除圧を行わない場合には、神経麻痺や筋壊死によって重篤な四肢の機能障害を伴います。

特に、脛骨外側前面、前腕で起こりやすく、四肢の腫脹や激しい疼痛、しびれなどの症状が現れ、内圧が30mmHg以上で発症するリスクが高くなると言われています。ほとんどの場合、動脈圧を超えることがないため、損傷部位での末梢の動脈拍動を触知することが可能です。腫れて血行が阻害されると筋肉が壊死してしまいます。

クラッシュ症候群への対応方法

レスキュー隊

倒壊家屋などの下敷きになって長時間体を挟まれた人をむやみに助け出すのは危険です。まずは早急にレスキュー隊と救急隊を呼びましょう。また、倒壊物や体を動かさず挟まっている状態のまま、飲める範囲で大量(1L以上)の水を飲ませましょう。

そうすることで血中毒素(カリウムやミオグロビン)の濃度を下げてくれます。挟まれた部位より心臓に近い、腕や足の付け根を幅3cm以上の布で縛り、有害物質が心臓・腎臓へ到達するのを防ぎましょう。そして、救助後は、一刻も早い高次医療が必要なため、直ちに血液透析ができる災害拠点病院などへ搬送しましょう。心配蘇生などの救命法は、残念ながらクラッシュ症候群の根本処置とはなりません。

いかがでしたでしょうか。人が挟まれていたら何とかして助け出そうとすると思います。しかし、その際には特に注意が必要で、挟まれているのを解除することで逆に死に至る可能性があります。まずは、救助隊を呼んで待ちましょう。むやみに体を動かして圧迫を解除しないように気をつけましょう。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

プロフィール

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