鼠径部のしこりの原因は?鼠径ヘルニアなどの疾患について解説
鼠径ヘルニアは、一般的には「脱腸」とも言われていて、中年以降の男性や子どもに多く、放置すると徐々に病変が大きくなることがあります。
鼠径部のしこりにはさまざまな原因が考えられますが、鼠径ヘルニアもそのひとつです。ここでは鼠径ヘルニアをはじめとする鼠径部のしこりの原因について解説します。
鼠径部のしこりの原因になる鼠径ヘルニア
鼠径(そけい)ヘルニアとは、鼠径部(足の付け根あたり)に生じるヘルニアの総称です。
ヘルニアは体の組織や臓器が本来あるべき部位からはみ出した状態を指します。
鼠径ヘルニアでは、腸や腸を覆う脂肪組織、卵巣、膀胱などが腹壁に生じた欠損部を通して飛び出すことが知られていて、一般的には「脱腸」と呼ばれています。腹部に生じるヘルニアの約80%は鼠径ヘルニアと言われています。
外鼠径ヘルニアの場合には、解剖学的な理由から男性に多く発生し、大腿ヘルニアは女性に多く発症すると考えられています。
鼠径ヘルニアはあらゆる年齢で起こり得る病気ですが、子どもと高齢者に多くみられる傾向があり、特に男性に多く発生します。
子どもと大人の鼠径ヘルニアの傾向
鼠径ヘルニアの原因には、先天性(生まれつき)、および後天性(生まれた後に起こる)の要素が考えられていて、子どもに生じる鼠径ヘルニアのほとんどが先天性、大人に生じる鼠径ヘルニアの多くは加齢、あるいは生活習慣など後天性のファクターによって発症します。
子どもの鼠径ヘルニアの多くは生後1年以内に発症します。
特に、子どもの鼠径ヘルニアの場合は、腹膜の出っ張りである腹膜鞘状突起(胎児が生まれる前に、腹膜の一部が鼠径部に突出することで生じる小さな袋状の突起)という構造が鼠径部に残存していることが原因と考えられています。
この腹膜鞘状突起は、通常では出生前に自然に閉鎖しますが、出生後も閉鎖せずに残った状態で、過剰な腹圧などによって腹膜鞘状突起の内部に内臓が入り込むことで鼠径ヘルニアを発症すると言われています。
成人の鼠径ヘルニアの原因は、主に加齢に伴って腹壁が脆弱になることであり、腹壁部分が弱くなると咳嗽や重いものを持って腹部に圧力がかかることによって腹圧が上昇して内臓が飛び出すようになります。
鼠径ヘルニアの症状
鼠径ヘルニアには通常、外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアの3種類が存在し、鼠径部のどの部分にヘルニアが発生するかによって、分類されています。
鼠径ヘルニアでは、内臓の脱出所見に伴って鼠径部に膨らみができて、鼠径部の違和感や不快感、痛みなどの症状が出現します。
立っているときや腹部に力を加えた際に、鼠径部に膨らみができ、不快感や違和感、あるいは痛みが出現します。横になると圧が低下して内容物が腹部内に自然に戻るので鼠径部の膨らみや違和感が消失します。
鼠径ヘルニアは初期症状であれば痛みなどはありませんが、初期症状を放置すると病状が進行する恐れがあります。
立位時や腹部に力が入って加圧された際に、鼠径部の皮膚の下から柔らかい腫れが出て、その腫大部を押さえたときに簡単に引っ込むようであれば初期症状と考えられます。
ところが、柔らかかった腫れが急に硬くなり、押さえても引っ込まなくなれば、嵌頓(かんとん)という状態を起こして、鼠径部の強い痛みや嘔吐症状などが出現し、緊急手術が必要になることもあります。
注意が必要な嵌頓とは
鼠径ヘルニアは、内臓などの組織が腹圧などの影響で脱出することで鼠径部が膨らみ、時に飛び出した内臓が鼠径部に間隙にはまり込んで元に戻らなくなることがあります。
この状態を「ヘルニア嵌頓」と呼んでいて、腸閉塞や腸管壊死など合併症を起こすことがあるため注意が必要です。
一般的に、腸閉塞では、口から摂取した食べ物や消化液の流れが、腸のなかで閉塞して滞ってしまうため。腹痛や嘔吐などの症状が現れます。
多くの場合は、重い荷物を持った際など腹圧がかかったときにヘルニア内容物が飛び出して、仰向けに安静にするとふくらみが引っ込みますが、放置するとヘルニア門が次第に大きくなっていき、内臓がはまりこんで元に戻らない状態となることが考えられます。
腸管などヘルニア内容物が嵌頓すると、稀に腸管を栄養する血流が途絶えて腸閉塞や腸の壊死が起こり、腹部違和感や嘔吐、発熱、鼠径部の強い痛みなどの症状が現れて、重症になると緊急手術が必要となります。
鼠径部のしこりの原因になるその他の疾患
鼠径部のしこりはこれまで見てきた鼠径ヘルニアの他にも原因となる疾患があります。
子宮内膜症
鼠径部のしこりの原因となる疾患の一つとして、子宮内膜症が挙げられます。
子宮内膜症とは、本来であれば、子宮の内腔に存在する子宮内膜組織に類似する組織が、子宮以外のところで発育する病気であり、性交痛や排便痛、不妊の原因となることもあります。
鼠径部など子宮以外の部位にできた内膜組織が女性ホルモンの影響を受けて月経の様に出血を繰り返して、炎症を惹起して、鼠径部の痛みや硬結と呼ばれる硬いしこりが鼠径部に認められることもあります。
子宮内膜症の発症頻度は、月経のある25~44歳の女性の約10%程度にみられ、子宮や卵巣周囲の腹腔内に病変が発生しますが、食道・肺・尿管・大腸・鼠径部・膀胱・腟などに発生することも見受けられます。
特に、鼠径部リンパ節に子宮内膜組織に類似する組織が発育した場合には、鼠径部のしこりの原因となる可能性があります。
感染症
鼠径部のしこりの原因となる病気のひとつが、「リンパ管炎」という病気であり、細菌などの病原微生物がリンパ管に入り込んで感染することにより起こる炎症のことを意味します。
鼠径部に痛みが伴う場合には、鼠径部に位置するリンパ節組織が細菌感染などを契機にして炎症を引き起こして腫れていることが考えられます。
リンパ管炎の主な症状は、感染した皮膚部位から鼠径部や腋窩部などのリンパ節に向かって伸びる赤い線状の所見が出現することもあります。
皮膚の粉瘤や嚢胞
鼠径部の痛みやしこり、できものを認めた際には、皮膚の粉瘤や嚢胞などの病変を疑うこともあります。
鼠径部から陰部にかけての領域には、分泌腺が多く、角質が肥厚して老廃物が溜まりやすく、生体内で異物反応や感染を引き起こすことがあります。
特に、鼠径部周囲の皮膚は薄くて周りの組織に炎症が波及しやすいため、小さな粉瘤でも大きく腫れて痛みを伴い、場合によっては手術による除去処置が必要になることがあります。
鼠径部の粉瘤や嚢胞が、繰り返して何度も炎症を起こすと、皮膚の破壊が進み、より老廃物を溜め込みやすくなり、炎症を起こして鼠径部のしこりの原因となることがあります。
まとめ
これまで、鼠径部のしこりの原因、鼠径ヘルニアなどの疾患を中心に解説してきました。
鼠径部のしこりや痛みを症状として認められる病気は、鼠径ヘルニアやリンパ管炎、子宮内膜症、粉瘤や嚢胞などが挙げられます。
鼠径ヘルニアは、腸管や脂肪など腹腔内容物が、腹壁に生じた脆弱な欠損部を通じて飛び出す状態を指しており、左右の太腿の付け根部分に発生します。
鼠径ヘルニアの代表的な症状は、立ち上がった場合や腹圧を加えた場合に足の付け根部分がふくらみ、不快感や痛みが発生するというものです。そして、腸管がヘルニア門にはまり込み壊死する、あるいは腸閉塞を合併すると緊急的な手術が必要になります。
いずれの病気も放置すれば症状が悪化して、日常生活や仕事など社会生活に支障を来たす可能性がありますので、鼠径部にしこりや痛みがある場合は、外科や産婦人科など専門医療機関を受診しましょう。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。