アルコールで腹痛や下痢が起こるメカニズムと急性膵炎・慢性膵炎

アルコールと腹痛 アイキャッチ
お悩み

アルコールの大量摂取は潰瘍や出血性のただれを引き起こし、腹痛の原因になることがあります。

また、急性膵炎は、何らかの原因で膵臓が炎症を起こしてしまう病気であり、その原因としては、アルコールの摂取・胆石症などが挙げられます。

ここではアルコールで腹痛や下痢が起こるメカニズムを取り上げ、なかでも急性膵炎・慢性膵炎について詳しく解説します。

アルコールで腹痛や下痢が起こるメカニズム

並んだカクテル

アルコールの摂取によって腹痛や下痢が起こるのはなぜでしょうか。

アルコールによる腹痛

アルコールと胃・十二指腸 摂取するアルコールが大量・高濃度なると、胃酸による自己消化を防ぐ胃の粘膜防御機構が壊れて、直接的に胃粘膜障害(血流障害)がおこるなどして、浅い潰瘍や出血性のただれ(びらん)が多発します。

その結果、腹痛や吐血・血便・嘔吐などの症状が現れます。

また、お酒を飲むたびに、お腹が痛む場合には、急性膵炎や慢性膵炎を発症しているかもしれません。これらの膵炎は、アルコールなどが原因で発症することが多い病気です。

アルコールによる下痢

アルコールを大量に摂取すると、水分や電解質(ナトリウム・クロル)の腸から体への吸収が悪くなり、水分と電解質の排出量が増えます。さらに糖や脂肪の分解・吸収も低下し、下痢を起こしやすくなります。

また、おつまみには塩分の多いものや甘い味付けのものが多く、これらは浸透圧が高く、水分を取り込む性質があります。腸に残ることで、腸が本来おこなう水分の吸収を妨げ、腸内の水分量が過剰な状態になります。

特に、小腸は食べ物を分解して栄養として体内に吸収する器官でもあります。

約80%のアルコールや食べ物を消化吸収するはずの小腸粘膜の働きが弱まり、十分な消化をできなくなる結果、小腸で消化しきれなかった食べ物などがそのまま大腸へ流れ込むことにつながります。

大腸では、いつもより多い水分量に加えて、小腸で不十分な消化状態の食べ物が合流し大きな負担になり、体外へできるだけ早く排泄しようとして、蠕動運動が活発になることで、下痢の症状を引き起こすと考えられています。

急性膵炎による腹痛の特徴

激しい腹痛を訴える女性

男女ともに比較的中高年に多くみられる急性膵炎は、何らかの原因によって膵臓に炎症が起こってしまう病気です。

急性膵炎を引き起こす原因で最も多いのはアルコールの大量摂取です。

アルコール摂取による膵臓への直接刺激・膵液(消化酵素)の過剰分泌・膵管の狭窄などが主な要因です。

次に多いのは胆石症です。

胆管は胆汁、膵管は膵液をそれぞれ運びますが、十二指腸へと繋がる部分で合流する仕組みになっています。

胆管にできた胆石がその合流部分に詰まると、膵液の流れも悪くなるので、急性膵炎を引き起こしてしまうのです。

アルコール性急性膵炎は男性、胆石性急性膵炎は女性に多いことが分かっています。

その他の原因は、脂質異常症・薬剤性・外傷性・先天性などです。

膵臓は胃の裏側に位置し、血糖調節ホルモン(インスリン・グルカゴン)・膵液の消化酵素を分泌する働きを持っています。

消化酵素には、アミラーゼ(デンプン分解)・リパーゼ(脂肪分解)・トリプシン(タンパク質分解)があり、本来はその消化酵素が膵臓自体を消化しないように安全に機能しています。

しかし、何らかの原因によって正常に機能しなくなると、膵臓の消化酵素は異常に活性化して膵臓そのものを消化(自己消化)してしまう結果、膵臓に炎症が起き、腹痛・吐き気などのさまざまな症状が出現します。

急性膵炎が起こった場合は、絶食して膵臓を休ませ、薬物療法で水分補充・炎症改善・消化酵素分泌抑制などを行います。

重症化すると、炎症は膵臓だけにとどまらずに肺・腎臓・肝臓などへも影響を及ぼす場合があるため、早めに適切な治療を行うことが大切です。

急性膵炎は、女性より男性に多く発症し、その比は約2倍であり、発症年齢では女性70歳代・男性60歳代の方が多いことがわかっています。

症状の特徴

急性膵炎では、「突然始まる激しい腹痛」が特徴で、重症化すると合併症を起こしてショック症状に陥ることもある病気です。

急性膵炎で最も多い症状は、非常に強い上腹部の痛みです。

膵臓は胃の裏側に位置しているため、背中の痛みを訴える方もいます。

食後に痛みが現れる場合もあり、胃痛だと自己判断してしまうケースもあるので注意しましょう。

その他の症状としては、多い順に嘔吐・発熱・食欲低下・腹部の張り・全身のだるさなどがあります。

病状が悪化すると、重症化して周囲の臓器へも炎症が進み、黄疸・意識障害・ショックなどを引き起こして、全身状態悪化の危険もあります。

慢性膵炎による腹痛の特徴

膵炎とアルコール

膵臓は、基本的に膵液を十二指腸に分泌する、あるいは血液中にグルカゴンやインスリンなどのホルモンを分泌する臓器として知られています。

膵液には消化酵素が多く含まれており、食べ物を消化する働きがありますし、インスリンは糖代謝を調節して血糖値を調節する機能を有しています。

慢性膵炎の約7割は、習慣的な飲酒が原因と考えられており、慢性膵炎を罹患した患者さんのなかで、男性のおよそ70%は飲酒が原因である一方で、女性の場合には約30%と言われています。

飲酒による慢性膵炎は女性の方が男性と比べて少ないものの、女性は少量の飲酒でも慢性膵炎に罹患しやすいと指摘されています。

また、遺伝子によって、慢性膵炎になりやすい家系の人もいます。

症状の特徴

慢性膵炎の初期段階における主な自覚症状は腹痛ですが、不思議なことに病状が進展するごとに腹痛症状は軽減される傾向が認められます。

ところが、進行するごとに膵臓機能が低下して、消化不良に伴う下痢症状や体重減少などのサインが出現すると同時に、栄養障害や糖尿病の発症リスクも向上するので十分に注意する必要があります。

膵炎を予防するには?

CARE

急性膵炎を予防するには、膵臓に負担をかけないようにすることが大切です。

アルコールの大量摂取を控える

アルコールの大量摂取は急性膵炎の最も多い原因となっていますので、節度ある飲酒を心がけることが大切となります。

厚生労働省では、「1日平均純アルコールで約20g程度」を「節度ある飲酒」としています。具体的に換算すると、ビール中瓶1本(500ml)・日本酒1合(180ml)・ワイン1杯(120ml)・缶酎ハイ(350ml)です。

また、慢性膵炎の進展を予防するためには、膵炎が急性増悪する頻度をできるだけ抑えることが有効的と考えられており、急性増悪する原因要素を減らす工夫が必要であると言われています。

慢性膵炎の進行を防ぐには禁酒することが非常に重要な観点であり、禁酒することで病状の進行が遅れて疼痛症状が緩和されることに繋がります。

栄養バランスのとれた食事を心がける

脂肪分の多い食べ物・刺激の強い食べ物は膵臓を刺激し、消化酵素の過剰な分泌を促してしまいますので、このような食べ物は避けて、低脂肪・低塩分の食べ物の他、野菜・果物を積極的に摂るようにしてください。

脂質の過剰な摂取は腹痛や背部痛を大いに誘発する可能性が指摘されていますので、疼痛症状を認める際には脂質制限食を摂取することが必要となります。

また、胆石症の診断を受けている方・胆石症の既往がある方は十分に注意し、胆石を除去する必要がある場合は医師の指示に従いましょう。

アルコール性肝炎とは

肝炎ウイルスの種類 アイキャッチ

アルコール摂取に伴う腹痛に関連する疾患として、アルコール性肝炎についても見ておきましょう。アルコール性肝炎は、多量の飲酒を長期間続けることで炎症がおこる病気を指します。

アルコール性肝炎は通常ではアルコールの多量摂取が直接的な原因として知られており、普段から大量に飲酒すればするほど罹患率が上昇します。

また、長期にわたり継続して飲酒習慣を継続していれば、アルコール性肝炎を引き起こす危険性が高いと考えられています。

肝臓のアルコールを分解する機能は生まれ持った遺伝的な要因によって個々に違いがあり、アルデヒド脱水素酵素(ALDH)と呼ばれるアセトアルデヒドを分解する酵素の有無などによって規定されます。

このような飲酒量、飲酒期間、あるいは遺伝的要素以外にも、性差による罹患率の相違も指摘されており、特に女性の場合にはエストロゲンと呼ばれる女性ホルモンの影響で男性よりもアルコール性肝炎が発症しやすいことが周知されています。

また、アルコール性肝炎は慢性的な過剰飲酒によって生じることが知られており、脂肪肝炎をはじめとして急性肝不全、肝硬変、肝がんなど多彩な病型を呈することが報告されています。

アルコール性肝炎の症状の特徴

肝臓は炎症が起きても自覚症状があらわれにくい臓器であるため、肝炎に罹患していても無症状であることも多いです。

一般的には、アルコール性肝炎の病状が進行すると、慢性的な疲労感、発熱、食欲不振、腹部不快感、吐き気、嘔吐、黄疸、腹痛などの症状が出現する場合があります。
これらの症状からも分かるように、肝炎の症状は一般的な風邪症状と似通っているため、肝炎であることに気が付かない場合も少なくありません。

まとめ

これまで、アルコールで腹痛が起こるメカニズムと急性膵炎・慢性膵炎の特徴などを中心に解説してきました。

急性膵炎は、症状を見逃さず、適切な治療を行うことで治る病気ですので、突然の腹部の激痛・吐き気など、当てはまる症状がみられる場合には、すぐに専門医を受診するようにしてください。

また、慢性膵炎の初期段階である代償期の主な症状は腹痛であり、移行期、非代償期と、進行するごとに普通は軽くなる傾向になります。

しかし、進行するごとに膵臓の機能が低下するため、消化不良による下痢や体重減少などの症状が現れます。栄養障害や糖尿病のリスクも高まるので注意が必要です。

いずれの場合でも、軽症のうちに適切な診断と治療によって治癒率も高くなりますが、発見・治療が遅れると重症化する危険が高まります。

早期発見のために、定期的に健康診断・人間ドックなどを受けるのもおすすめです。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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