脂肪腫(リポーマ)の特徴とガングリオンなどの似た病気との違い

脂肪腫という腫瘍があります。皮下腫瘍の一種で、ぶよぶよと柔らかいのが特徴です。良性の腫瘍ですが、できてしまうと不安に思われる方もいらっしゃるでしょう。ここでは脂肪腫の特徴とよく似た病気との違いについて解説します。
脂肪腫(リポーマ)とは

脂肪腫は脂肪細胞が分裂を続けて腫瘍化したものです。脂肪腫は良性なので、その場所で細胞分裂を続けて塊を作るだけで、周囲の組織に浸潤したり血管などを通って遠隔地に転位したりといった悪性腫瘍のような徴候はありません。
皮下腫瘍にはさまざまな種類がありますが、この脂肪腫が皮下腫瘍のなかでも最も多いものとなっています。
通常、触っても痛みはなく、皮下になにかぶよぶよとした塊を触れるのが特徴です。だいたい1cmから10cm程度までの大きさで見られます。
脂肪腫が発生する原因はよくわかっていません。ただ、肥満や高脂血症、糖尿病を持っている人にできやすいという傾向があることは分かっています。また、外傷の後に傷跡の深いところに脂肪腫ができることがあります。
脂肪腫の種類
繊維脂肪腫は一般的に脂肪腫と呼ばれる脂肪腫で、脂肪腫自体の表面が被膜で覆われています。そのため、手術で摘出しようとすると皮膜の部分でつるっときれいに取れることが多い脂肪腫になります。
血管脂肪腫は、血管を抱き込んだ形で存在する脂肪腫です。稀に痛みを感じることがある脂肪腫です。それぞれは小さいですが、多発することが多くあります。
筋脂肪腫は、筋肉の中に発生する脂肪腫です。筋肉の中ですから、比較的深い部分に存在するのが特徴です。また、被膜が不明瞭なことが多いため、切除がなかなか難しいと言う特徴もあります。
びまん性脂肪腫は乳幼児によく発生する稀な疾患です。びまん性というのは病変が比較的均等に広がっているという意味ですので、発生部分は一部にとどまらず、体中色々な場所に脂肪腫ができます。しかも皮下だけではなく筋肉や内臓にも脂肪腫ができるという特徴を持っています
良性対称性脂肪腫は、その名の通り左右対称に脂肪腫ができるものです。原因ははっきり分かっていませんが、アルコールを多飲することで見られることが多くなっています。
いずれにしても自然に消えることはまずありません。切除しなくても害になることはあまりありませんが、美容的な意味や気になるからという理由で摘出する場合が多くなっています。
脂肪腫ができる場所

脂肪腫ができるのは正常な脂肪細胞が存在する部位のどこにでもできますが、多いのは体幹部です。特に背中に大きなものができることが多くあります。他には肩、首にも発生します。
体幹部に続いて多いのは上肢や下肢で、特に脂肪が多い大腿部や上腕部にできることが多くなっています。
脂肪腫に症状はある?
基本的には柔らかい腫瘍に触れるという以外には症状がありません。しかし稀に、腫瘍が隣接する神経を圧迫することでしびれ等の症状をきたすことがあります。それでも痛みなどの症状は基本的にありませんので、そうした症状が見られる場合は脂肪腫以外の病気を疑うことになります。
鑑別が必要なよく似た病気

脂肪腫と鑑別が必要な似たような病気について確認しておきましょう。
粉瘤(アテローム)
粉瘤は皮下に発生した袋状の組織に垢や皮脂がたまったものです。良性の皮下腫瘍として分類されますが、細胞が腫瘍性に増殖したものでは無い点が大きな特徴となります。
粉瘤がある部分は皮膚がドーム状に隆起し、盛り上がって見えます。よく診ると中心部にちいさな黒い穴があります。ここが皮下の袋状の組織の入り口です。ここから皮脂などが入り込み、たまることで粉瘤は大きくなります。
中にたまったものが変性することによってだんだんと悪臭を発することもあります。また、炎症を引き起こして痛みを伴うこともあります。そのため、粉瘤ができた場合には早めに治療をすることが多いです。
粉瘤は自然に消滅することはなく、切開して摘出する治療を行います。粉瘤を少しでも取りこぼしてしまうと残った部分に再度異物が貯留して粉瘤ができてしまう場合があるため、正確に取りこぼしなく切除することが必要となります。
外骨腫
こちらは皮下の腫瘍ではなく、骨の腫瘍です。原発性骨腫瘍の中で最も多い骨腫瘍です。骨の端の部分に角のような形で骨が造成し、腫瘍となるものです。表面が軟骨で覆われているため、骨軟骨腫とも呼ばれています。
多くの場合は10代の若いときに発覚します。自覚症状として何かが触れるという場合もありますが、レントゲンを撮影したときに偶然映り込むこともあります。
放置しても特に問題無いことも多いですが、大きくなりすぎると痛みの原因となったり、関節可動の邪魔になったりとなる場合がありますので、そのような場合は手術を行います。
稀に悪性化することもありますから、成長期であれば年に1回から2回程度、レントゲンを撮影して変化がないか観察します。
脂肪肉腫
脂肪肉腫は脂肪腫と同じく脂肪細胞から発生する腫瘍ですが、こちらは悪性腫瘍です。脂肪細胞が無秩序に増殖し、周囲の組織に浸潤していきます。遠隔転移も起こし、がんの一種と言えます。
脂肪肉腫は中年期以降に発生します。初期は脂肪腫と同じように痛みがあまりないのですが、周囲の組織との境目がはっきりしないという特徴から、触ったときに辺縁がはっきりと分からないという特徴があります。
また、悪性腫瘍では分裂速度も非常に速く、細胞分裂をして短期間で大きくなってしまいます。何かおかしいと思った際には早期に病院を受診しましょう。
ガングリオン
ガングリオンは、手足の関節の近くによくできるモコッとしたこぶ状の腫瘍です。中にはゼリー状の物質が詰まっています。基本的には良性の腫瘍ですが、ごくまれに悪性化するものもあります。
何からできているかというと、関節包や腱鞘が袋状の構造となり、その中に関節の中の液体である滑液がたまることによってできてきます。滑液がたまりながらだんだんと固まることによってゼリーのような形になってくるのです。
よくできる場所としては手首の甲や足や足首、手首の母指側の掌側の関節包などです。大きさは米粒大の時もありますし、ピンポン玉ぐらいにまで大きくなることもあります。
触ると痛みが出る時もありますが、基本的には痛みはありません。ただし、近くの神経を圧迫することによって、神経痛を起こしてくることも時々あります。神経の損傷の影響により、筋力の低下をきたすこともまれにあります。
経過を見ていると自然に消えることもありますので、治療が必要なく様子を見るだけでもいい場合も多いです。ただし、最初から固くなっている場合などには、なかなか消えないことが多いため、治療を行うこともあります。
治療の内容としては、まずは注射器を用いて内部のゼリー状の液体を取り除くことから始めます。これだけで症状が改善することもよくあります。それでも、再び中に液体がたまることは時々ありますので、そのような場合には袋状の構造自体を手術で摘出する場合があります。
滑液包炎
滑液包は、関節と骨の間にある小さな袋状の組織で、中には少量の滑液という液体が入っています。この液体が入っていることによって、関節は摩擦を可能な限り少なくスムーズに動かすことができます。
滑液包炎は、滑液包に炎症が起こることを言います。運動などで特定の部位を繰り返し動かしたり、ぶつけたりすることによって炎症が起こってきます。炎症が起こると、反応性に水分が貯留することによって、コブ状に腫れてきます。
滑液包炎がよく起こってくるのは、肩関節です。他に肘や膝などにもよく見られます。
脂肪腫などと違い、炎症が起こっていますので、触ると痛いという特徴があります。そのため治療は、痛みを抑えることから始まります。抗炎症薬などを使用することによって痛みを抑え、炎症が収まるのを待ちます。この間に、炎症が起こったのと同じような活動をすると、さらに炎症がひどくなってしまいますから、同じような動作を繰り返さないような工夫が必要です。
神経鞘腫
神経鞘腫は末梢神経から発生する良性の腫瘍で、皮下組織や筋肉内に発生します。筋肉内に発生した場合には、かなり大きくならないと症状が見られないことも多いですが、皮下の浅いところに発生すると早いうちからこぶのような膨らみを認めます。
症状としては、浅いところの場合はこぶができるだけのことが多いですが、深いところの場合はしびれや痛みなどの症状が生じることがあります。
基本的にはゆっくりと大きくなっていくか、ある程度の大きさになったらそれ以上大きくならないことが多いです。しかし、稀に短期間で大きくなることもあります。このような場合には、早期に手術をした方がいい場合が多いです。
遺伝も関係?脂肪腫ができやすい人

一般に脂肪腫はどのような人にもできますが、稀に脂肪腫がたくさんできる遺伝病があります。
家族性多発性脂肪手掌は、周囲の組織と癒着のない脂肪腫ができる病気です。ただし、数が非常に多く、数百個できる人もいるほどです。
プロテウス症候群は、表皮母斑、血管腫、脊柱側彎症などのさまざまな症状が起こる病気で、脂肪腫ができることがあります。
ドロローサ脂肪症という症候群は、体幹と四肢に痛みを伴う脂肪腫が複数できる病気です。精神疾患を有する閉経後の女性に多く見られるという特徴があります。
他にもマデルング病、ガードナー症候群、多発性内分泌腫瘍1型、カウデン症候群などで脂肪腫が見られます。
こうした家族性に発生する遺伝病以外で、脂肪腫ができやすい傾向にある遺伝についてははっきり分かっていません。前述のように、生活習慣が関与している可能性が考えられています。