突然意識を失う「失神」の種類と原因の違い

頭痛やめまいを発症した女性
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突然意識がなくなると、周りの方はびっくりしますよね。数秒後には何事もなかったように意識が回復するものを失神といいます。ここでは失神の種類や原因の違いについて詳しく見ていきましょう。

失神とは

失神とは、一過性に脳の血流が全般的に低下することによって引き起こされる一過性の意識消失のことを指します。失神の場合は、10秒から数分以内に意識は回復します。

意識の回復が遷延する場合は失神ではなく意識障害と言います。目が覚めた後には無症状というのが失神の特徴であり、目が覚めた後も普段より意識がぼんやりしているような場合は、意識障害の可能性が高いです。

失神では意識を失って転倒することが多く、転倒時に受け身を取ることができません。そのため、頭部や顔面に外傷を負う可能性があります。もし失神を起こしたら、すぐに病院を受診して原因を評価することが大切です。

起立性低血圧

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低血圧とは成人で収縮期血圧が100mmHg未満の場合をいいます。起立性低血圧は、寝ている状態から立ち上がったときに、収縮期血圧(最高血圧)が20mmHg以上、拡張期血圧(最低血圧)が10mmHg以上低くなる場合のことを指します。

罹患率は年間1000人に6.2人で、高齢者では約60%の人が似たような経験をすると言われています。

本態性と症候性に分類され、本態性は原因となる病気がないにも関わらず起立性低血圧が起こることを指します。症候性は、糖尿病やパーキンソン病、多系統萎縮症、アルコール依存症、脱水症などの病気が原因となって起立性低血圧が起こることを指します。

まれに潜在的に癌があり、腫瘍に随伴して起立性低血圧が起こることがあります。

検査としては、起立検査を行います。立ち上がった際に血圧が下がらないか、立ち上がってから3分以内に血圧を測って調べます。その他には貧血がないか血液検査をします。

神経調節性失神

神経調節性失神とは、脳への血流が一過性に低下することで生じる失神のひとつです。神経調節性失神では自律神経のバランスが悪くなり脳の血流が途絶える結果、失神に至ります。また、気温が高いと脱水になりやすい上に血管も拡張するため、脳血流が低下しやすく、温かい日や暑い環境下では注意が必要です。

神経調節性失神は原因別に血管迷走神経性失神、状況失神、頸動脈洞症候群の3つに分類されます。

血管迷走神経性失神

長時間立ったままや座ったままの同じ姿勢で仕事をしたり、痛み刺激を受けたり、不眠や肉体的疲労が長く続いたり、精神的恐怖を体験したりすることが誘因となって交感神経が抑制され、血管拡張と迷走神経緊張による徐脈が引き起こり生じる失神です。

血管迷走神経性失神では、血圧の低下と徐脈傾向、発汗やほてり・嘔気・顔面蒼白などの症状を伴う失神を認めます。また、前兆症状として腹部の不快感を認めることもあります。

状況失神

排尿や排便、飲み込む動作など特定の状況において生じる失神を指します。こうした状況で、迷走神経が過剰に働くことになります。

排尿失神

排尿する時に誘発される失神のことであり、立位で排尿する男性に多く、中高年に比較的多いです。飲酒や利尿薬の服用が誘因になり、発症のほとんどが夜間から明け方です。

排便失神

比較的高齢(50~70代)の女性に好発し、切迫した排便や腹痛などの症状を伴うことが多いです。

嚥下性失神

40~70代の中高年に多く、炭酸飲料や水を飲み込む時に誘発されます。食道疾患の合併が多く、心筋梗塞を起こした後に起こりやすいのが特徴です。

咳嗽失神

咳き込む時に誘発される失神のことです。太っている方やがっちりした体格の中年の男性に多く、喫煙者や飲酒している方にも多いのが特徴です。

頸動脈洞症候群

頸動脈洞症候群は中高年の方の原因不明の失神として、時々認められます。ネクタイなど首を絞めるような動作、着替えや運転などの首を伸ばしたり曲げる動作、ヒゲを剃るなどの首の刺激が起こる動作などで誘発されるのが特徴です。

頸動脈洞を圧迫することによって、徐脈、心停止、血圧低下から失神に至ります。男性に多く、心臓の疾患や高血圧を合併することがあります。

心原性失神

青空に浮かぶ心電図をルーペで見る手

心原性失神は心疾患が原因で生じる失神です。心原性失神は突然死の一歩手前であることがあり、見逃してはいけない疾患です。歩行中の失神、横になっている時の失神、前兆のない失神というのが心原性失神を疑う症状です。

心疾患の中でも徐脈性不整脈(房室ブロックや洞機能不全症候群)、心室細動・心室頻拍、ブルガダ症候群、QT延長症候群、心筋症(肥大型心筋症)、弁膜症(大動脈弁狭窄)、大動脈解離などが原因になります。

脳神経疾患

点滴 治療のイメージ

失神とは脳全体の一時的な血流低下であるため、脳神経疾患で失神が起きることは原則的にはありません。てんかんや意識障害の人が失神という訴えで受診することはあります。

原因不明の失神

失神は原因不明なことが少なくありません。神経調節性失神や起立性低血圧は状況が特定的であり、経過から診断が可能なことが多いです。各種の検査を行っても異常が見られない場合は、心原性失神を疑うが確定診断に至らないという状況になります。そのため、原因不明の失神となります。

いかがでしたでしょうか。心原性失神は非心原性失神に比べて突然死の可能性が高く、とりわけ注意が必要です。失神を繰り返すようなら一度医療機関を受診して詳しく検査を受けましょう

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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