変形性股関節症の進行度による症状の変化と治療法
変形性股関節症は加齢に伴って股関節の軟骨が摩耗し、骨に刺激が加わる事で発症してくる進行性の病気です。ここではそんな変形性股関節症の進行にともなう症状の変化と、治療法について解説します。
目次
変形性股関節症の進行度による症状の変化
変形性股関節症の進行度は軟骨や骨の状態によって4つの段階に分けられ、それぞれ前股関節症、初期、進行期、末期と分類されています。
大まかに変形性股関節症の進行を解説すると、まず骨と骨の間に存在する軟骨が、長年の摩耗によってだんだんとすり減ってきます。すり減った量が多くなってくると、軟骨の下にある骨にもダメージが蓄積し、変形が出てきます。このような軟骨や骨の状態によって時期が分類されます。
前股関節症
前股関節症の時期には、軟骨もまだすり減っていないか、わずかにすり減っているぐらいの段階です。この段階では、レントゲンを撮影すると関節の状態にはほとんど異常は無いのですが、よく見ると臼蓋形成不全という状態を認めることが多いです。
臼蓋形成不全は女性に多くみられるもので、生まれつき股関節の骨盤側の部分が不十分な構造をしている事によって、軟骨がダメージを受けやすい構造をしているのです。前股関節症の時期にはレントゲンでこの状態を確認することができます。
また、軟骨はレントゲンでは写りませんから、軟骨が存在する分、骨と骨の間にスペースが確認できるのもこの時期の特徴です。
初期
初期の股関節症の時期になると、レントゲンを撮影すると軟骨がすり減ってきている影響から関節のスペース(関節裂隙と言います)がわずかに狭小化してきている様子が見られます。
また、骨にも圧力がかかっていた影響から変化が見られます。骨は圧力がかかると変性し、より硬い状態へと変化していきます。レントゲンを撮影しても骨が硬くなってきているのが分かり、関節に接する辺りの骨が白っぽく見えるようになります。一方でこの時期は骨の形が変わっている状態はあまり見られません。
進行期
進行期の股関節症になると、大腿骨の骨頭部や骨盤の臼蓋の部分に骨棘というものを認めます。骨棘というのは骨のトゲのことで、圧力がかかり続ける事によって骨が過形成を起こし、出っ張ってきます。
また、関節裂隙は明らかに狭小化しています。初期の時期に見られた骨の硬化も更に強く見られる時期になります。一方で、硬化した更に下の部分の骨は反対に吸収されてしまい、骨に穴が空いたような骨嚢胞が見られるようになってきます。
末期
末期の股関節症になると、関節裂隙はほぼ消失し、大腿骨も臼蓋も変形が高度になります。関節としての運動がほとんどできない状態となってしまいます。
変形性股関節症の保存療法
では、変形性股関節症はどのように治療するのでしょうか。先ずは手術以外の保存療法について解説します。
運動療法
保存療法でまず行われるのが運動療法です。変形性股関節症は日々の生活によって股関節に負荷がかかり、だんだんと進行してくる病気ですから激しい運動をしてしまうと関節の摩耗が進行してしまいます。しかし、適切な運動を行う事は股関節の変形を和らげることができるため、推奨されます。
具体的には、歩行や片足立ちを安定させる外転筋などの股関節周囲の筋肉を鍛えることが運動療法の目的となります。このような筋肉は、関節への負担や衝撃を和らげる役割があるため、鍛えることで痛みを軽減させたり症状を進行させにくくさせたりする効果があります。
負荷をかけ過ぎないように、寝た状態や座った状態で膝を曲げ伸ばしする運動などによって筋力を鍛えます。プールでの歩行は重力による股関節の負担を軽減させ、関節に負担がかかりづらい状態で行える運動療法です。
運動療法を行うと変形性股関節症の進行を遅らせることができるほか、将来手術を行ったときに術後の回復が早まるといった利点もあります。
温熱療法
前述の通り、変形性股関節症の場合は筋肉がある事で衝撃を和らげます。しかし筋肉が硬くなっているとそのような効果が期待できなくなってしまいます。
そこで行うのが温熱療法です。温熱療法は股関節周囲の筋肉を温めることで股関節の血行をよくし、周辺の筋肉をほぐすことで痛みを和らげます。クッション性を高めることで症状の進行を抑える効果もありますし、現在進行形で起こっている痛みを緩和する効果もあります。
ただし、急激に痛みが強くなっている場合には炎症が起こっていると考えられます。炎症が起こっているときに温めるとかえって炎症がひどくなり、痛みも症状の進行もひどくなってしまう可能性がありますから、このような場合は実施しません。
装具療法
変形性股関節症の場合、股関節への負担を減らすことが重要です。杖やサポーターなどを使用する事でできるだけ股関節に負担がかからないようにするのが装具療法です。
特に変形性股関節症の初期から中期程度の、変形が少ない状態の時に使用する事で、変形性股関節症の進行の抑制とともに痛みの緩和に役立ちます。
薬物療法
変形性股関節症の状態を改善させる薬物療法はありません。薬物療法が行われるのは進行の抑制と、現在ある痛みの緩和のためです。
外用薬は、痛み止めを塗る事で痛みを抑えるために使用されます。炎症を抑える塗り薬や貼り薬を使用します。
内服薬は、炎症を抑える効果のある非ステロイド抗炎症薬がよく使用されます。ただし、副作用も多くありますので、痛みがある時にピンポイントで使用するのがポイントになります。常に痛みがあるような場合にはアセトアミノフェンという薬の定期内服も行います。
関節内注射は、関節機能改善剤の注射と、ステロイド注射の2種類があります。関節機能改善剤は、関節の動きをなめらかにするヒアルロン酸と、消炎鎮痛薬が結合した薬剤です。この薬剤を注射することで痛みを抑えつつ、関節の動きをなめらかにすることで可能な限り関節が摩耗するのを防ぎます。
ステロイドの注射は炎症を抑えるために行われます。痛みが非常に強いときなどに行われます。
変形性股関節症の手術療法
変形性股関節症の根本的治療は手術療法になります。手術療法には骨きり術・棚形成術、人工股関節置換術があります。
骨きり術・棚形成術(たなけいせいじゅつ)
この手術は、元々の関節を残しつつ、変形した股関節の形成を行う手術です。特に臼蓋形成不全患者に対して行われます。
臼蓋形成不全患者は、形成不全のせいで股関節に不均衡に力がかかってしまう状態になっています。そこで手術で関節を形成することで正しく力が股関節にかかるようにし、変形性股関節症の進行が起こりにくい状態にします。
人工股関節置換術
変形した関節を人工の関節に置き換える手術です。病状が進行した場合でも、手術をすることで痛みがかなり緩和し、姿勢が改善し歩行が楽になります。現在、日本では年間約7万例を超える手術が行われています。
手術後は、関節自体が関節包と呼ばれる組織で包まれていないため、大きく股関節を屈曲すると股関節脱臼を起こしてしまう可能性があります。また、耐用年数が20年程度と言われており、あまり早期に手術をすると耐用年数を超えてしまうことがあるため、進行具合や年齢を考慮して手術をするのが一般的です。
手術後のリハビリが大切
骨きり術・棚形成術、人工股関節置換術のいずれの場合も、手術の後にはリハビリを行います。手術の後にしばらく歩行しない状態が続くと、その間に筋力が低下し、動けなくなってしまうリスクがあるのです。
そのため、これらの手術の後には積極的なリハビリが必要となります。手術前よりも関節の状態は良くなっていますが、筋力や関節可動域の改善には時間が必要です。多くの方が積極的にリハビリを行って早期に退院し、その後も自宅や通院でのリハビリを継続しています。