スマホの持ち方が悪いと腱鞘炎に…ばね指、ド・ケルバン病の特徴
スマホの使いすぎで指が痛くなる人が近年多くなっているようです。このような指の痛みの原因として多いのは腱鞘炎です。ここでは腱鞘炎で痛みが生じるメカニズムや治療法について解説します。
目次
手首と指の構造
指の痛みについて解説する前に、手首と指の構造について確認しておきましょう。
関節を動かすのは筋肉です。しかし指は特殊な構造をしています。というのは、力こぶである上腕二頭筋をみると分かるように、筋肉は収縮すると太くなります。もし指の部分に筋肉が多くついていれば、指を動かす毎に筋肉が太くなってしまい、指がスムーズに動かせなくなってしまうでしょう。
指を曲げ伸ばしする筋肉は指にはついていないのです。指を曲げ伸ばしする筋肉はおもに前腕の部分にあります。指を伸ばす筋肉は前腕の背側(手の甲側)、指を曲げる筋肉は前腕の掌側(手のひら側)に存在します。
腱の付着部位
そして筋肉からは長い腱が伸びます。腱は頑丈なロープのようなもので、手首の手前辺りから手首を通り、手のひらや手の甲を通って指の骨に付着します。
腱が指に付着している場所にも非常に精巧な作りが関与しています。指は単に曲げ伸ばしするだけではなく、親指以外の指は2か所の関節をそれぞれ動かす事で精巧な動きができるようになっています。それを可能にしているのが腱の付着部位です。
指を屈曲させる筋肉は浅指屈筋、深指屈筋という2つの筋肉からなっています。浅指屈筋から出た腱は手掌を通り指に至ると、指の先端から二番目の骨(中節骨)に、Yの字に付着します。一方で、深指屈筋から出た腱は指まで至ると、浅指屈筋の腱が作ったYの字の股の間を通過して、指の先端の骨(末節骨)に付着します。
指を伸ばす筋肉は浅指伸筋、深指伸筋といって、これらも同じように指の背側(手の甲側)でそれぞれ中節骨、末節骨に付着しています。
このような構造をしている事で、腱が骨から離れることなく、指がスムーズに動くようにできているのです。
なお、親指と小指はさらに複雑な動きをしますから、筋肉の付着する数も方向も非常に多く、特に親指は前後左右あらゆる方向に曲げられるようになっています。
腱と腱鞘
さて、このように複雑な動きを可能にしている腱ですが、腱が前後への動きはスムーズにできなければならない一方で、左右に自由自在に動いてしまうととんでもない方向に指が動いてしまったり、腱が絡まったりしてしまいますから、腱は各所で骨に固定されています。
固定とは言っても、完全にべったりと固定してしまったら腱は動かなくなってしまいます。そのため、固定する場所では固定のための腱が、指に至る腱が通過するトンネルを作るように存在しています。この腱によって作られるトンネルのことを腱鞘と言います。
腱は腱鞘によって指や手掌、手背の部分でももちろん固定されているのですが、手首の部分では腱だけではなく動脈、静脈、神経など様々な構造が集中しています。そのため、固定する構造も非常に細かくできています。手首の部分ではストローが何本も並んだように腱が作られていて、そのストローそれぞれの中を腱や神経が独立して通過しているのです。
腱鞘炎で痛みが生じるメカニズム
腱鞘炎とは、腱鞘に起こる炎症のことです。指などを使用しすぎると、腱と腱鞘の間に摩擦が起こり、だんだんとダメージを受ける結果、炎症を起こしてしまうのです。炎症は損傷した組織を修復するために起こる反応です。では、炎症によってどのような症状が起こってくるのでしょうか。
腱鞘炎が起こるとまず感じる症状が痛みです。
人の皮膚、腱、筋肉などには痛みを感じるセンサーがあります。手を思いっきりたたいたり、打撲したりといった外からの強い力が加わるとセンサーが反応して痛みを感じます。
しかし一方で、少しの外力では触ったことは感じるものの、痛みとしては感じません。ある一定以上の力がセンサーに加わると痛みを感じるようにできているのです。このある一定の力のことを疼痛閾値(とうつうしきいち)と言って、疼痛閾値より弱い外力では痛みを感じず、疼痛閾値より強い外力では痛みを感じるようになります。
この疼痛閾値ですが、炎症が起こると下がるようにできています。つまり、弱い外力を与えただけでも痛いと感じるようになります。
皮膚や腱などの組織がダメージを受け、損傷すると、修復のために炎症が起こることは先に説明しました。しかしそのような修復をしている場所は非常に脆弱ですから、外力が加わるとなかなか修復できなくなってしまいます。そのため、炎症が起こった場所は触られただけでも痛みを感じて接触を避けるようにできているのです。
ですので、腱鞘炎が起こると疼痛閾値が低下しているため、触っただけでも、あるいは触らなくても少し動かす、あるいは何もしなくても痛みを感じるようになるのです。
スマホで指が痛いのは腱鞘炎の可能性も
スマホを使っていて手や指が痛い場合、どこかで炎症が起きていることが考えられます。特に指を細かく動かすスマホの操作は手首や指の腱に負担を与えやすく、腱鞘に炎症が起こりやすくなります。
スマホの操作など指を細かく動かす作業によって起こってくる腱鞘炎として、ばね指とド・ケルバン病の2つを紹介しましょう。
ばね指
ばね指は腱鞘炎の特殊な型です。指を伸ばすときに、バネのように「ビヨンッ」と勢いよく動いてしまうことからこの名前がつきました。
先ほど、腱や腱鞘の構造については解説しましたが、ばね指の指では腱の一部分に炎症によって膨らみができてしまっています。この膨らみが腱鞘に引っかかり、さらに強い力を加えると腱鞘を通過することによって勢いよく動きます。
ばね指はどの指にも起こりますが、腱と腱鞘の摩擦がより多い親指、中指、薬指に多いです。
ばね指は安静にして修復が進み、炎症が治まると自然に治癒する場合がありますが、放置してさらに炎症がひどくなると指が固まってしまい、拘縮と呼ばれる状態になってしまいます。拘縮すると治療が難しくなるため、ばね指かもしれないと思ったら早期に治療を開始しましょう。
ド・ケルバン病
スマホの使用で近年増加している病気です。特にスマホをスクロールする時に痛みを感じる場合にはこの病気の可能性が高くなります。また、ものをつかむときにも痛みを感じ得ます。
ド・ケルバン病では、手首が動かしにくくなり、手首の親指側に腫脹が起こります。つまり、炎症が起こっているわけです。特に親指を広げる運動や手首をそらす運動で痛みが強くなります。
この症状は、手首にある腱鞘に炎症が起こることで起こります。手を背屈させる状態で長い期間使用する事で手首の腱鞘が損傷を起こし、炎症を起こしてしまいます。
また、親指を動かす事に特化した短母指伸筋の負担も原因となります。さらに特徴的なのが、小指でスマホを支えていると、親指側の手首により負担がかかってしまい、炎症が起こりやすくなってしまいます。
指の腱鞘炎の治療
このような腱鞘炎が起こってしまった場合、どのような治療がなされるのでしょうか。
まず基本的な概念として、動かしすぎたことによって炎症が起こっているため、患部を安静にすることが大前提となります。なるべく動かさないようにすることで炎症の沈静化を待ちます。
特に手首を少し動かしただけでも痛みを生じる場合は強い炎症が起こっていると考えられるため、サポーターを装用するなどして動かないように固定します。
その上で、対症療法として痛み止めの内服や、患部の冷却がすすめられます。
ばね指など、腱の変形が病態に関わっている場合は手術を行う場合もあります。ステロイド注射で痛みを和らげるとともに、炎症を抑える治療も行われる場合があります。
スマホの正しい持ち方と悪い持ち方
スマホを持つことで腱鞘炎になるのなら、どのように持てば腱鞘炎になりにくいのでしょうか。
正しい持ち方
スマホは以前に比べて大きくなりました。片手で持って片手で操作できるだけの重さを超えてしまっているという人もいます。それだけ重いものですから、両手で持って両手で操作をするのが最も適しています。
操作も両手でするのが理想的です。片方の手に力が加わり続けないことが良い状態と考えます。
もし両手で持つのが大変な場合には、片手でしっかりとホールドして、もう片方の指で操作をするというのもいい方法です。ただこの場合、持っている方の手に力がかかり続けますから、できれば手を交代しながらするのがいいでしょう。
悪い持ち方
スマホの持ち方で、悪い持ち方は小指で支える持ち方です。小指を使って支えると、小指にスマホ自体の重さが大きく加わってきます。それによってテキストサム損傷と呼ばれるような変形が起こってくることもありますし、小指を支えようとして手首に力の負担がかかり、腱鞘炎がひどくなる場合があります。
両手で持つ時にも小指を使わないように気をつけた方がいいですが、片手で持つ時はより一層小指を使わないように気をつけた方がいいです。片手で持てばそれだけ小指にかかる負担は大きくなります。
片手で持っている場合、小指で支えなかったとしてもスマホを支える指には負担がかかってきます。特に最近のスマホは大きくなっていますから、長時間重いスマホを支えることで、手首に負担がかかることが考えられます。特に持った状態で片手で操作すると、指にも負担がかかりますから、片手で持ち、片手で操作することは避けた方がいいです。
他にもあるスマホによるトラブル
腱鞘炎の他にもスマホのよくない使い方によって起こってくるトラブルがあります。
スマホ首
首や肩のコリがほぐれなかったり、頭が重苦しかったりという症状はないでしょうか。それはスマートフォンを使いすぎることによって、首に負担がかかることで起こるストレートネックの症状かもしれません。
もともと首には、胸鎖乳突筋という大きな筋肉があります。この筋肉は、耳の後ろと鎖骨をつなぐ筋肉です。この筋肉によって、首は支えられて、自由な方向に動かすことができます。
しかし、スマートフォンを見る体勢を取り続けると、頭が前傾し、首は頭の重さを支えなければならなくなります。筋肉が収縮した状態が続き、だんだんと首の位置が変化してきます。
短時間であれば、骨の位置関係が変わるようなことはありませんが、長時間にわたって首が前に傾いた状態を支え続けると、首の骨の位置関係が変わってきます。もともとはカーブをするように連なっている首の骨が、まっすぐに並ぶようになってしまうのです。これがストレートネックです。
骨がまっすぐになると、胸鎖乳突筋は収縮した状態をずっと続け、カチカチに硬くなります。これによって首の後ろや肩の辺りに重苦しい凝りのような症状が出てくるのです。
スマートフォンを使う時には、なるべく前屈しすぎないようにしましょう。
スマホ老眼
スマートフォンを使いすぎることは、目にも影響してきます。目はもともと、近くの方を見たり遠くの方を見たりということを可能にするために、水晶体というカメラのレンズと同じような役割を持った組織が存在しています。
この水晶体は、光を屈折して物を像として見えるようにする働きを持っており、上下に引っ張られることで厚さを変化させ、屈折率を変化させます。それによって、近くを見たり遠くを見たりといった調節をします。
しかし、スマホなど近くにあるものを長時間見続けることで、水晶体が筋肉によって引っ張られた状態が続きます。これによって、だんだんと硬くなり、筋肉の働きも弱くなり、遠くのものを見ようと思ってもピント調節が困難になります。スマホから目を離した時に、遠くのものがぼやけて見えます。これをスマホ老眼と呼んでいます。
対応策としては、長時間画面を見続けることを避けて、時々遠くを見るようにして目を休めることが大事です。