ストレスによる胸の痛みの治し方と、真ん中が痛いときの病気

お悩み

強いストレスを感じると胸の痛みや、動悸、息切れなどの症状が現れます。不安や緊張、ストレスなどによって生じる心臓の不調のことを心臓神経症といいます。

ここではストレスによって生じる胸の痛みのメカニズムや対処法を紹介します。また、心因性ではなく、なんらかの病気によって胸が痛くなるケースについても見てみましょう。

ストレスが心臓の不調につながるメカニズム

自律神経のバランス

ストレスが原因で心臓の不調を感じるとき、その仕組みには自律神経が関係しています。

自律神経は、体温や代謝、心臓を含めた様々な臓器の動きをコントロールする働きがあり、交感神経と副交感神経によって活発な状態とリラックスしている状態とのバランスを保っています。この自律神経強はストレスを感じると、そのバランスが崩れることがあります。

例えば、強いストレスを感じていると、交感神経が働きすぎている状態が続き、心拍数や脈拍が高めの状態が保たれてしまいます。

通常はここで副交感神経が働き、正常値に段々と戻っていくはずですが、交感神経が優位になり心拍などが元に戻らなければ、徐々に心臓にも負担が増えていき、その負担の蓄積が、違和感や痛みに繋がり、自覚症状として現れる場合があります。

ストレスによる胸の痛みの症状

ストレスによる心臓の不調には、動悸(どうき)、息切れや不整脈などがあります。

動悸・息切れ

心臓の機能には異常がないにもかかわらず、胸の痛みや動悸、息苦しさなど、心臓病のような症状が出る状態を心臓神経症と言います。

心臓神経症は、心臓の病気というよりは、ストレスや不安、緊張などによって引き起こされる心因性の病気であるため、命に関わるようなことはありませんが、当該患者にとってはとてもつらい症状です。

場合によっては、「心臓が止まってしまうのでは」という極度の不安や恐れが、さらに症状を悪化させてしまうケースもあります。

また、動悸や息切れといった症状は狭心症や心筋梗塞などの心臓の病気でも出現する症状のため、注意が必要です。

不整脈

心臓がドキドキする拍動を感じられる状態では、脈が速い頻脈、脈が遅い徐脈、脈が不規則になるという3種類に分けられていて、こうした拍動の異常は、まとめて「不整脈」と呼ばれています。

動悸症状や不整脈が気になった場合には脈を確認しましょう。

通常、手首関節の少し下に、指で軽く触れただけで拍動を感じる場所があり、そこで脈拍を測ります。

拍動を感じる場所に人差し指・中指・薬指の3本を揃えた指先を軽く当てて、1分間の脈拍を測り、繰り返し測定を実施すると要領よくコツをつかむことができ、それからはいつでも簡単に脈拍を確かめることができます。

動悸の原因には、疾患、薬の副作用、脱水、飲酒などがあり、さらに日々のストレスや緊張、過労や睡眠不足などで生じることもあります。

医療機関では、不整脈を自覚している方に対する問診で、症状の内容やはじめて起こった時期、症状の変化、起こるきっかけ、基礎疾患の有無や飲んでいる薬などについてくわしく聞いて診断につなげます。

軽い動悸・息切れの治し方

ストレスに伴う動悸や息切れに対して、基本的には日々の生活において質の高い睡眠を確保して日常的に規則正しい生活を送り、適宜ストレス発散に努めることが大切です。

過重なストレスなどが契機となって軽い動悸や息切れを自覚する際には、過労が原因となって症状を自覚している可能性もあります。規則正しい生活を送り、ときどき深呼吸やリラックスをして、こまめにストレス解消を図るなどセルフケアに努めましょう。

胸の真ん中が痛いときに考えられる病気

胸の真ん中が痛いときはストレスだけが原因とは限りません。狭心症や気胸といった病気が原因になっていることがあります。

狭心症

狭心症は、心臓の筋肉組織に重要な酸素成分や栄養要素を供給する冠動脈という血管の血流が悪くなることで起こります。

冠動脈の内側に微小な血栓やコレステロール成分が貯留することで血管の内径が狭くなり、心臓に十分な栄養分を供給できなくなることで胸痛症状や胸の圧迫感が出現します。

狭心症の原因はほとんどが動脈硬化であることが知られており、加齢に伴って誰にでも発症する可能性があります。

気胸

自然気胸の発症は、肺の表面にできたブラ(のう胞)の破裂や、外傷などがきっかけとなります。それにより臓側胸膜という身体の生体部位が損傷されて、肺実質内部の空気成分が肺の外部の空間である胸腔内に漏出することで発症します。

自然気胸は軽症例であれば特別な治療は必要とせずに安静を保持して経過観察することによって自然と状態が改善することが多いです。

重症度が高い場合には、胸腔ドレナージ処置を施行されるケースが多く、腋窩ラインに沿って胸腔ドレーンという管を挿入して胸腔内に存在する余分な空気成分を体外に排出します。

気胸は放置すれば命にかかわる病気であり、比較的緊急性が高い疾患ですので、症状を自覚した際にはなるべく迅速に呼吸器外科のある専門医療機関を受診しましょう。

気胸が重症化して緊張性気胸という状態を認めて同様にショック状態に陥る場合には、一刻の猶予も許されず、緊急的に胸腔ドレナージ処置を実施する必要があります。

急いで病院を受診した方がよいケース

胸の奥がチクチクと痛む症状で考えられる原因疾患のひとつとして、急性心筋梗塞が挙げられます。

心筋梗塞を引き起こすとされている主な要因としては、高血圧、肥満、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、ストレス、喫煙、家族歴などが挙げられます。

心筋梗塞は、主要な症状として急に胸に激痛が起こり、胸に締めつけられるような圧迫感を覚える危険な心臓の病気であることが知られています。

また、胸痛症状を呈して、急いで病院を受診する必要がある疾患の一つとして、急性大動脈解離もあります。

急性大動脈解離は、大動脈の内膜に亀裂が入り、裂けた部分に血液が入り大動脈に平行して血管が剥がれて二層構造になってしまう救急疾患です。

大動脈解離の主な発症原因は、動脈硬化や糖尿病、高血圧、喫煙、脂質異常症、ストレス、不規則な生活習慣、マルファン(Marfan)症候群を始めとする先天的な遺伝性疾患などによって大動脈の壁が劣化して脆弱化することと考えられています。

大動脈解離は女性より男性で3倍多く発症し、人種別では黒人、特にアフリカ系アメリカ人に多く、アジア人の罹患率は高くはありません。

大動脈解離の発症者の約4分の3が40~70歳の年齢層であり、大動脈解離の発症は、夏場より冬場に多い傾向があり、夜よりも日中、特に午前6時から12時くらいの時間帯に発症するケースが多く見受けられます。

まとめ

これまで、ストレスによる胸の痛みの治し方と、真ん中が痛いときの病気などを中心に解説してきました。

ストレスが原因の心臓の違和感は、生活習慣の改善で徐々に軽減していく可能性が高いですが、必要に応じて心療内科等で医師の診察を受けるとより楽になるかもしれません。

また、胸部違和感や動悸、息切れなどの症状が、狭心症や気胸など命に関わる病気の症状と非常に似ていることもあるため、不安が強い場合には、一度専門医療機関を受診して、心臓の検査をしてみることをおすすめします。

今回の情報が参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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