アルコール摂取で心臓がバクバクする原因と治し方

お悩み

アルコールを摂取したときに心臓がバクバクして心配になったことはありませんか。アルコールには脈拍を上げる作用があります。さらに、動悸症状の背景にいくつかの病気が関係していることもあります。ここではアルコールと動悸症状の関係を取り上げ、アルコールで心臓がバクバクする原因と対処法を紹介します。

アルコール摂取で脈が増えるメカニズム

アルコールアレルギーの症状 アイキャッチ

お酒を飲むと、一時的に血圧が下がって脈拍が上がります。それにはアルコール自体の作用に加えて、分解酵素によってアルコールが変化したアセトアルデヒドという物質が関与しています。

アルコールとアセトアルデヒドには、血管を広げる作用を有しており、血管が拡張すると血圧が下がって、心臓が全身に血液を十分に流そうとすることから脈拍が増加して、動悸がします。

アルコールの心血管系への作用は単純ではありませんが、飲酒後に脈拍は増加するといわれていて、飲酒後の脈拍上昇の機序としては、主に交感神経系の活動亢進によると考えられています。

アルコールにより脈が早くなるメカニズムとしては、アルコールの代謝産物のアセトアルデヒドという物質が交感神経を活性化させて、脈拍数が増加するといわれています。

脈拍が早くなる一方で、血圧はアルコールにより血管が拡張することによって下降します。

脈拍数が上昇する時間は、数時間から長い場合は24時間程度といわれていますので、アルコールを大量に飲んだ場合や連日飲酒した場合は、最大で24時間前後にわたって脈拍数の上昇が持続することになります。

アルコールの代謝産物のアセトアルデヒドに対する処理分解能力には個人差があります。

一般的に、顔がすぐ赤くなる人はアセトアルデヒドの分解能力が低く、そういった場合には、アルコール摂取で脈が早くなりやすく、その状態がより長く続く傾向があります。

アルコールで心臓がバクバクする原因

アルコールによって動悸症状が出る場合、次に挙げるような病気が関係していることがあります。

心房細動

アルコール摂取が心房細動などの頻脈性不整脈のリスクを高めることはよく知られています。

アルコールによる不整脈は大量飲酒後に起こりやすく、交感神経活動亢進やそれに伴う血清カリウム低下が機序として考えられますし、慢性のアルコール摂取による心臓の機能的、あるいは器質的障害も関与するといわれています。

不整脈は、動悸の原因となる代表的な病気の一つです。

脈が遅くなる(徐脈)、脈が速くなる(頻脈)、脈が不規則になる(期外収縮)などを総称して「不整脈」と呼びます。

不整脈の多くは特に治療の必要のないものですが、稀に命にかかわるものもあります。

一部の不整脈、例えば心房細動と期外収縮という2種類の不整脈は、アルコールを飲んだ後に起きやすいといわれています。

「アルコールによって不整脈になる」というわけではなく、元々心房細動という不整脈を持っている場合に「アルコールを飲むことによって不整脈の発作が起きやすくなる」というのが適切な表現となります。

アルコールを飲んだ後にどきどきする動悸症状が、単純にアルコールの代謝産物のアセトアルデヒドによって脈が早くなっているだけなのか、あるいはアルコールを飲むことによって心房細動などの異常な不整脈を起こしているのかを判断するのが重要です。

脈が早くなっただけであれば特に治療は必要ないですし、異常な不整脈を起こしている場合は、特別な治療が必要になることもあります。

「ただの不整脈だろう」と自己判断し、症状を放置するのは大変危険ですので、気になる症状があれば必ず医療機関を受診するようにしましょう。

アルコール性心筋症

心筋症とは、心臓から全身へ血液を送るポンプ機能に障害が起きる病気であり、心筋症の中でも、長期に及ぶアルコールの摂取との関連が指摘されている病気がアルコール性心筋症です。

アルコール性心筋症は、1日80gのアルコールを5年以上飲むことで発症するといわれています。

心筋症の代表的な症状には、動悸や息切れがあり、大量にお酒を長期間飲んでいる人は、このアルコール性心筋症による動悸を自覚している可能性があります。

このように、不整脈の病気以外で、動悸の原因となる心臓の病気として、心臓弁膜症やアルコール性心筋症などが挙げられます。

特に、どきどきする動悸症状とともに胸の痛みや息苦しさ、意識が朦朧とするなどの症状があるときは医療機関を受診するようにしましょう。

フラッシング反応

ビールコップ1杯程度の少量の飲酒によって引き起こされる顔面紅潮・吐き気・動悸・眠気・頭痛などの症状をフラッシング反応と呼んでいます。

主に、2型アルデヒド脱水素酵素の働きが弱い場合に多くみられ、この体質の人々をフラッシャーと呼びます。

フラッシャーの多くは、エタノールからできたアセトアルデヒドの分解が遅いため、アセトアルデヒドが急激に体に貯留することによって、フラッシング反応を引き起こします。

フラッシング反応は不快感を伴うため、一般的にフラッシャーは飲酒量や飲酒頻度を控える傾向にありますが、長年飲んでいると耐性が発生して不快にならずに飲酒できるようになるといわれています。

アルコールによる動悸の治し方

アルコールによる動悸症状が気になる方は飲酒を控え、病気がある場合は病気の治療を進めましょう。

飲酒を控える

まずアルコールを飲むと、ほとんどの不整脈は増えますので、アルコールによって動悸症状を引き起こす場合には、飲酒を控えることをお勧めします。

多少不整脈が増えたとしても、ほとんど体に害のない不整脈であれば心配はありませんが、不整脈や心臓病で入院したことがある場合や不整脈の薬を継続して服用している方は、主治医に適切な飲酒量などを確認しておきましょう。

病気の場合は治療をする

アルコール摂取後に動悸がする際に、心房細動やアルコール性心筋症などの病気と診断された場合には、精密検査や治療をする必要性が高いといえます。

心房細動に対して、最適な検査は24時間の心電図検査(Holter心電図)という検査であり、丸一日心電図のパッチを付けて過ごして、可能ならその際にアルコールを摂取して、動悸を自覚したときの心電図でどういった異常が出ているのかを実際に調べます。

アルコール性心筋症は、アルコールの過剰摂取が原因で、心臓の筋肉に障害が起こる病気であり、心臓壁が薄くなり、収縮力が低下していきます。

一般的に、初期段階では無症状ですが、心臓の筋肉に障害が蓄積し、さらにアルコールを摂取すると、呼吸困難やむくみなどの心不全症状が現れます。

治療として大切なことは禁酒であり、飲酒をやめない限り心臓の障害は進行しますし、重度の心不全になると命に直結して、予後不良になります。適切なタイミングで専門医療機関を受診して相談しましょう。

アルコール性心筋症の場合、禁酒以外は一般的な心不全と同様の治療を行いますし、心機能のチェックには年に1度の心臓超音波検査、数か月に1度の胸部レントゲン検査を実施します。

利尿剤で体内の水分バランスの調整を行って心臓の負担を軽減するとともに、心臓を保護する薬として、ACE阻害薬やβ遮断薬などを併用する場合もあります。

まとめ

これまでアルコール摂取で心臓がバクバクする原因と治し方などを中心に解説してきました。

飲酒後に動悸がして、息苦しくなった経験をしたことがある人もいるでしょう。

飲酒すると、アルコールやその代謝物であるアセトアルデヒドの影響で動悸の症状を感じることがあります。

あまりに動悸症状が頻繁に起こる場合は、アルコール性心筋症、心房細動など病気が隠れている可能性も考えられます。

飲酒に伴う動悸などの症状が継続して、心配や不安を抱える際には、循環器内科など専門クリニックに相談するように心がけましょう。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

プロフィール

関連記事