体に力が入らない「脱力感」とは?考えられる病気を解説

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手に力が入らずに物を落としてしまったり、足に力が入らずに階段をあがるのに苦労したりといった経験はないでしょうか。このように体に力が入らない状態を「脱力感」と表現することがあります。

ここでは脱力感を取り上げ、どのような原因が考えられるのか詳しく見ていきましょう。

体に力が入らない「脱力感」とは?

脱力感とは、体に力が入らずに力が抜けたような感覚を指します。

脱力感があると、何もする気が起こらないなどやる気にも影響します。例えば、仕事のパフォーマンスの低下や家事、食事など普段の生活もできなくなることがあります。

脱力感を自覚する状況は人によってさまざまです。

主に、寝起きに力が入らず起きられない人もいれば、体が重いと慢性的に感じる場合もあります。

例えば、手・腕に力が入らず物を落とす、足に力が入らずふらつく、歩きにくい、体に力が入らないなどは脱力感と言うことができます。

患者さんの中には、腕がだるく感じて一時的に手に力が入らなくなる、片手だけ力が入らずにペンを持って字が書けなくなる、急に体の力が抜けるなどの症状を訴える場合もあります。

体に力が入らなくなる病気の一例

膝の痛みを訴える女性

体に力が入らなくなる原因はいくつも考えられます。ここからは代表的なものを見ていきましょう。

自律神経の乱れ

脱力感はストレスなどによる自律神経の乱れによっても出現する症状です。

自律神経は、人が無意識のうちに体の臓器の働きをコントロールしてくれる神経ですが、自律神経はストレスの影響を受けやすいといわれています。

ストレスを受けると交感神経が活発になるため、血流の低下を引き起こして脱力感の症状が認められることがあります。

自律神経の乱れは、ストレス以外にも生活習慣の乱れが影響しますので、日々の生活習慣を見直して、自分に合ったストレス解消法やリラック方法でストレスを溜め込まないことが重要となります。

特に、自律神経失調症は、ストレスや生活習慣の乱れによって自律神経が乱れ、体や心にさまざまな不調があらわれます。

代表的な症状は脱力感以外にも、倦怠感、慢性的な疲労、頭痛、不安感、焦り、意欲の低下などの症状があります。

専門医療機関での精密検査によって、考えられる病気がそれぞれ除外されて、鑑別診断されることが多いです。

血流の低下

血流の低下も脱力感の原因のひとつとなります。

通常、血流が低下することに伴って、筋肉の血流が不足すると、正常に筋肉が収縮せずに思うように体を動かすことができなくなります。

血流の低下は睡眠不足や疲労によっても起こるため、脱力感を感じた時は十分な休息や睡眠を確保することが必要となります。

慢性的な運動不足も血行不良の原因となるため、普段から運動が足りていないと感じる人は、適度な運動で筋肉を動かして全身の血液循環を良好にすることが重要です。

ギラン・バレー症候群

ギラン・バレー症候群は、末梢神経が障害されることによって、手足の脱力やしびれなどの症状が引き起こされる病気です。

ギラン・バレー症候群の症状の現れ方や重症度には個人差があります。

一般的には、下痢・風邪症状や発熱などの感染症症状が生じて1~4週間後に手足の力が入りにくくなっていきます。

典型的には、足の力が入りにくくなり、徐々に腕にも脱力が広がっていき、階段の上り下りができないなどの症状が出現します。

私たちの神経には、脳や脊髄といった中枢神経とそこから分岐して全身に分布していく末梢神経が存在します。

末梢神経はさらに、運動に関わる運動神経・感覚に関わる感覚神経・身体の機能を調節する自律神経に分類されます。

ギラン・バレー症候群はこれらの神経に異常が生じることによって発症すると考えられています。特に末梢神経に異常が生じる原因は、ウイルスや細菌による感染を契機に起こる免疫反応が自身の末梢神経を攻撃することによるものです。

ギラン・バレー症候群を発症した患者さんの3人に2人は、発症の1~3週間前にカンピロバクター、サイトメガロウイルス、EBウイルスなどの感染症にかかった既往があるといわれています。

例えば、カンピロバクター腸炎後に起こるギラン・バレー症候群では、この細菌に対する抗体が自身の末梢神経を攻撃することによって発症します。

ギラン・バレー症候群は、特別な治療を行わなくても自然に症状が軽快していくケースが多いです。

ただし、時に重症化する場合も散見されるため、発症した場合はできるだけ早い段階で専門治療を受けることが重要です。

発症率は10万人あたり1~2人と比較的珍しい病気ですが、小児から高齢者まで全ての年代で発症する可能性があります。

一般的に、これらの症状は上下肢に現れますが重症なケースでは、顔の筋肉や目を動かす筋肉、物の飲み込みに関わる筋肉にも麻痺が生じることがあります。

場合によっては、呼吸に関わる筋肉が麻痺して呼吸困難に陥ることもありますし、自律神経のダメージが強いケースでは、脱力・しびれの症状以外にも頻脈や血圧変動などを合併することもあります。

頸椎症

頚椎症は首の骨や周囲の組織が加齢の変化に伴い、症状が出現してくる病気です。

頚椎は首の部分に存在しており、7個の骨が靭帯や椎間板などによって連結されていて、頭のほうから順番に第1頚椎(環椎)・第2頚椎(軸椎)で上位頚椎、第3〜第4頚椎が下位頚椎と呼ばれています。

頚椎の主な役割は、脊髄を守り、頭や腕を支えて、身体を動かすことです。

特に、脊髄は手足を動かすなどの指令を送る重要な神経ですので、脊髄を保護する役割は言うまでもなく非常に重要です。

頚椎症に伴って、単純に出現する症状として特徴的なのは、首周囲の痛みですが、頚椎症の病状が進行すると脊髄や末梢神経に影響が出て、手足の痺れや脱力感、歩行障害など、さまざまな症状が認められます。

頚椎症が進行すると、排尿障害など後遺症が残る危険性がありますので、早期より適切な治療を受けることが大切です。

脳の病気

脱力感症状を呈する原因のひとつに脳神経伝達システムの異常が考えられます。

通常、人体は脳から発生した信号が神経を通って筋肉を動かしています。

ところが、この脳神経伝達のシステム経路で何らかの障害があると、筋肉に十分に信号が伝わらずに体に力が入らなくなることがあります。

脱力症状や手足のしびれを伴う場合は、脳梗塞や脳卒中、てんかんなど脳疾患の可能性が否定できませんので、気になる症状があるときは脳神経外科など早めに専門医療機関を受診して相談しましょう。

まとめ

これまで、体に力が入らない「脱力感」に関連して、考えられる病気などを中心に解説してきました。

脱力感とは、体に力が入らず、力が抜けたような感覚をあらわしています。

脱力感から何もできずにいると、「自分は怠けているだけではないか」と自分を責めてしまうことがありますが、脱力感は気力の問題だけではなく、脳の疾患や神経伝達系異常など重大な病気が隠れていることもあります。

普段から、脱力感を呈する原因をある程度知っておくことは大切ですし、瞬間的な脱力感や手足のしびれが伴う場合は、できるだけ早く内科や脳神経外科など専門の医療施設を受診しましょう。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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