慢性疼痛を和らげるには?医療用麻薬を含む3種の薬の効果と副作用

薬を持つ男性医師
お悩み

痛みを常に感じることで、日常生活は非常に困難になってきます。慢性疼痛を抱えてる人の悩みは深いでしょう。そんな時に頼りになるのが薬です。慢性疼痛の時にはどのような薬が使用できるのでしょうか。ここでは3種類の薬を取り上げ、それぞれの効果の特徴と副作用について解説します。

慢性疼痛に使われる3種類の薬

痛み止めは様々な種類があります。市販されるものから、病院で処方されるものまであります。では慢性的に痛みがある時にはどのような痛み止めを使っていくのでしょうか。

慢性疼痛がある時に使われる鎮痛薬には、大きく分けて3種類あります。オピオイド鎮痛薬と、非オピオイド鎮痛薬と、鎮痛補助薬です。これらの薬にはそれぞれ特徴があり、得意な痛みの種類、副作用の出方、製剤の形など、様々な要素があります。

薬の選ぶときの考え方

基本的な考え方として、まずは副作用が少なく弱めの薬から使用していきます。その薬を使用した上で、 薬の効果を判定し、不十分であればより強めの薬を使用するという形で薬を選んでいきます。

また薬を単一で使うわけではなく、痛みの状況に応じて複数の薬を併用することもあります。併用することで効果をなるべく強く、一方で副作用はなるべく弱くすることを目指します。

ここからはオピオイド鎮痛薬、非オピオイド鎮痛薬、鎮痛補助薬のそれぞれの特徴を見ていきましょう。

オピオイド鎮痛薬(医療用麻薬)

薬を持つ男性医師

慢性疼痛に対して使用される薬のうち、最も強力と言えるのがオピオイド鎮痛薬です。オピオイド鎮痛薬は、脳や脊髄にあるオピオイド受容体に結合することによって、痛みを和らげる効果を発揮する薬の総称です。簡単に言うと医療用麻薬のことになります。

強オピオイドと弱オピオイド

オピオイドには大きく分けて2種類があります。強オピオイドと弱オピオイドです。

この2つは、天井効果という効果があるかどうかによって分かれています。天井効果というのは、ある薬を効果を求めてどんどんと使用した際に、使用すればするほど効果が得られるのではなく、ある一定量を使用したところで、それ以上効果が出てこないことを指します。強オピオイドは天井効果がなく、使えば使うほど痛み止めの効果が発揮されます。一方で弱オピオイドは天井効果があり、ある一定量を使ったところで、それ以上効果が発揮されないということになります。

それでは強オピオイドばかり使えばいいではないかと考えるかもしれませんが、副作用は強オピオイドの方がより強く出やすくなります。


オピオイドの副作用

オピオイド鎮痛薬の副作用としては、主なものとして消化器症状があります。吐き気や嘔吐、便秘などの、腸の動きが弱まることによって起こってくる症状があります。この消化器症状は、弱オピオイドでも出現しますが、強オピオイドの方がより強く起こってくることがあります。

また、他の重篤な症状として呼吸障害があります。オピオイドの量を多くすると、呼吸の回数がだんだんと減ってきて、ひどい場合には呼吸が止まってしまいます。もちろん命に関わる合併症です。そのため、強オピオイドを使用して増量する時には、注意が必要になってきます。

弱オピオイドは、強オピオイドほど副作用はありませんが、それでも副作用が無視できない薬剤になります。そのため、他の非オピオイド鎮痛薬や鎮痛補助役を使用しても痛みが収まらないような場合に適用になってきます。

強オピオイドは、ほとんどが癌性疼痛に対する鎮痛薬として使用されますが、近年一部の製剤は慢性疼痛にも使用可能になっています。

オピオイドの製剤

痛み止めと言うと飲み薬というイメージがありますが、飲み薬だと飲んだ直後に効果や副作用が強くなり、だんだん弱くなってしまうということがよくあります。特にオピオイドは、オピオイドは血中濃度を一定に保つことが効果を十分に発揮するポイントになります。

そのため、内服することによって摂取する薬は胃や腸の中で徐々に溶けることで一定のスピードで吸収されるように工夫されたものもありますし、肌に貼ることで一定のスピードで吸収されるように工夫された製剤もあります。

非オピオイド鎮痛薬

肘を気にする女性

非オピオイド鎮痛薬は、その名の通りオピオイド以外の鎮痛薬です。大きく分けてNSAIDsとアセトアミノフェンがあります。

NSAIDs

NSAIDsというのは、非ステロイド性消炎鎮痛薬の略で、ステロイド以外の炎症を抑えることによって痛みを抑える鎮痛薬になります。

そもそも痛みというのは、体性痛、内臓痛、神経障害性疼痛に分かれますが、その中でも体性痛というのは、皮膚や筋肉、骨が感じる痛みのことです。この体性痛は炎症によって引き起こされる痛みです。

皮膚や筋肉が傷つくと、それを修復しようとして炎症反応が起こります。白血球などが傷ついた組織に集合し、様々な物質を分泌します。この中にプロスタグランジンという物質があります。プロスタグランジンは、アラキドン酸という物質からシクロオキシゲナーゼという酵素によって合成されます。

プロスタグランジンが増加すると炎症反応が強くなってきます。炎症が強くなると、痛みを感じるセンサーが過敏に反応するようになります。そのため、普段は触っただけでは痛みを感じない場所が、触っただけでも痛みとして感じるようになるのです。

NSAIDsはこのシクロオキシゲナーゼを阻害する薬になります。シクロオキシゲナーゼが阻害されることによって、プロスタグランジンの合成が止まり、それ以上の炎症が抑制されます。これによって痛みを感じにくくなるのです。

NSAIDsの副作用

副作用には、胃粘膜障害と腎障害があります。胃粘膜を保護する成分もシクロオキシゲナーゼによって合成されるため、NSAIDsによって阻害され、胃粘膜が障害されてしまいます。

一部のNSAIDsは炎症に関係するシクロオキシゲナーゼのみを阻害するため、このような胃粘膜障害が起こりにくくなっています。それでも腎臓に対する影響は除外できませんから、もともと腎障害がある人や、 腎障害が起こりやすい高齢者には使いにくい薬といえます。

アセトアミノフェン

アセトアミノフェンは、NSAIDsとは全く違う機序で鎮痛効果を発揮する薬です。実はまだはっきりとアセトアミノフェンの効果については分かっていません。少なくとも脳をはじめとした全身の様々な場所の様々な受容体に作用することによって、包括的に痛みを抑えているようです。

アセトアミノフェンとオピオイドの併用

アセトアミノフェンの特徴として、オピオイドとの相乗効果があります。普通の薬は併用すると、それぞれの能力が合算されて発揮されたり、あるいは減弱されたりします。

しかしアセトアミノフェンはオピオイドと併用すると、相乗効果として、それぞれ単独で使用するよりも非常に強い効果を発揮すると言われています。そのため、アセトアミノフェンとオピオイドをひとまとめにした合剤も発売されています。

アセトアミノフェンの副作用

アセトアミノフェンの副作用として有名なのは肝障害ですが、アセトアミノフェンを非常に大量に摂取しない限り、肝障害が起こってくることはほとんどありません。そのため安全性が非常に高いとされ、高齢者や小児にもよく使用されています。

鎮痛補助薬

鎮痛薬ではなくても、鎮痛効果を発揮する可能性があるとして使用される薬があります。特に慢性疼痛や、神経障害性疼痛など、普通の痛み止めがなかなか効きにくい時に使用されることが多い薬になります。

抗てんかん薬

抗てんかん薬は、てんかんに対する薬です。神経の異常な興奮を抑えることによって、てんかんや痙攣を抑えるのですが、非常に興奮することによって痛みを感じてしまっている神経がある場合にも、神経の興奮を抑えることによって痛みを抑えてくれます。

その作用機序は、神経細胞にあるイオンチャネルや神経伝達物質の受容体と呼ばれる部分に作用することによって、神経細胞の過剰な興奮を抑制するというものです。

血管拡張薬

血管拡張薬は、痛みによって凝り固まって血流が悪くなってしまった場所に作用します。血管を拡張させ血流を良くすることによって、痛みが改善することを期待します。

筋緊張弛緩薬

筋緊張弛緩薬は、筋肉が緊張することによって痛みが生じている場所に作用し、痛みを和らげてくれます。

その他

この他にも、抗不整脈薬も、抗てんかん薬のように神経の興奮を抑制することによって、 痛みを和らげてくれるとされています。

一部の抗うつ薬も鎮痛効果があります。痛みのせいで気分が滅入っていて、心理的に痛みが生じている場合にも効果があるのですが、そうでなくても鎮痛効果があるとされ、使用されます。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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