咳き込み嘔吐とは?咳をしすぎて吐きそうになる原因と対処法

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多くの咳症状の患者さんを診察していると、激しく咳き込むことで嗚咽が出て、嘔吐してしまった(嘔吐しかけた)という咳き込み嘔吐の状態をよく目の当たりにします。

特に、小さい子どもが咳き込んで吐くことはよくあり、心配ない場合も多いのですが、激しい咳が続いているなら、喘息、クループ症候群、マイコプラズマ肺炎など呼吸器疾患の可能性もあります。

ここでは咳き込み嘔吐の原因と対処法について見てみましょう。

咳き込み嘔吐とは

小さい子どもなどが咳き込んで吐くことは珍しくなく、激しい咳が続くと、胃が刺激されて吐き気が起こり、嘔吐することがあります。

この現象を「咳き込み嘔吐」といい、喘息やマイコプラズマ肺炎、あるいは感染性胃腸炎やクループ症候群など、咳症状が強く出る病気の際に起こりやすくなります。

心配のない場合も多いですが、ひどい咳が治らずにいる場合は、風邪以外の疾患が隠れている可能性が考えられます。

特に、乳幼児期は大人と比べて、食道と胃の繋ぎ目が緩いため、咳によって腹圧が上がったり食後に横になったりするだけでも、胃の内容物が食道に逆流しやすく、大人と比べて乳幼児は、咳き込んだ時に吐きやすい傾向があります。

また、この現象は、成長するとともに少しずつ減っていくといわれています。

咳き込んで嘔吐する病気

次に挙げる病気では咳き込み嘔吐が起こることがあります。

感染性胃腸炎

感染性胃腸炎には、大きくウイルス性胃腸炎と細菌性胃腸炎に分類されていて、多くの病原体が感染性胃腸炎の原因となっています。

感染性胃腸炎は、ノロウイルスやロタウイルス、大腸菌など、ウイルスや細菌の感染によって引き起こされる病気であり、主な症状としては、嘔吐、下痢、腹痛、発熱などがあり、咳や鼻水など、風邪のような症状に伴って嘔吐することもあります。

治療は、症状を和らげる対症療法が中心で、脱水を防ぐための水分補給も重要となります。

喘息

喘息は、気道が慢性的な炎症を起こすことによって、咳や息苦しさが現れる病気であり、特に夜間や早朝に症状が悪化しやすく、激しい咳が続いて嘔吐することもあります。

喘息の原因は、ダニなどのアレルギーによるものと、ストレスや呼吸器感染症などアレルギー以外のものがあります。

代表的な治療方法としては、吸入ステロイド薬や気管支拡張薬を用いた治療があります。また、アレルギーの原因となる物質を取り除くなど、生活の中から悪化の原因を減らす対策も重要です。

マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマに感染すると、咳や息苦しさなどの呼吸器症状を呈する以外にも皮疹、手足の運動障害、腎機能低下、関節痛など様々な臨床症状をもたらす危険性が懸念されています。

感染前後の潜伏期間は数週間程度と考えられており、飛沫感染や接触感染など比較的濃厚な接触がリスクファクターとなり、学校環境や家族内で感染が広がっていきます。

飛沫感染は、感染者の唾や唾液を体内に取り込むことによる感染です。接触感染は、感染者が普段使用していた物品を共有することによる感染です。

医療機関における主な治療法は抗菌薬の内服であり、咳症状は長引きやすく、数日程度で回復する場合もあれば、1か月以上かかるケースもあります。

クループ症候群

クループとは、ウイルス感染症により発生する気管と喉頭の炎症であり、咳症状、および高いキューキューという呼吸音(吸気性喘鳴)が起こり、ときに息を吸う(吸気)のが難しくなります。

特に、生後6か月~3歳くらいの子どもに多く見られる疾患であり、初期では犬やオットセイの鳴き声に似た咳や、声枯れ(嗄声:させい)といった症状が起こります。

病状が進行するにつれて「ゼーゼー」と鳴る呼吸音や陥没呼吸(呼吸する度に鎖骨の上・肋骨の下がくぼむ状態)、呼吸困難といった症状が起こり、咳がひどくなると吐き気や嘔吐を伴うこともあります。

クループ症候群の原因としては、ウイルス感染が大部分でパラインフルエンザウイルス1型・2型による喉頭気管気管支炎が多く認められます。

また、高熱と重篤な呼吸困難を伴い、急激な経過をとるインフルエンザ桿菌などによる喉頭蓋炎を発症することもあります。

それ以外にも、アレルギーにより喉頭の入口にむくみがおきたもの(声門浮腫)、あるいは異物(ピーナッツなど)や腫瘍などによる機械的な閉塞によってクループ症候群を起こす場合もあります。

咳をしすぎて吐きそうなときの対処法

咳がひどく、吐いてしまった際には、少しずつ食事を摂取すると、嘔吐しにくくなりますし、夜間に空気が乾燥している時は加湿する、あるいは水分補給で喉の乾燥を予防するなどの対策が有効的です。

また、嘔吐物がのどに詰まらないように、寝るときは顔を横に向けるとよいです。バスタオルを背中に当てると、より安心です。

感染性胃腸炎の疑いがある場合には、嘔吐物は正しく消毒して処理することが重要です。

実際の処理方法としては、次亜塩素酸ナトリウム濃度0.1%の液を含ませた新聞紙や布で嘔吐物を覆い、内側から外側に向かって拭き取ります(次亜塩素酸ナトリウムの代わりに、家庭用の塩素系漂白剤を使うこともできます)。

次に、ペーパータオルで嘔吐物を幅広く覆い、同量程度の1000ppmの消毒液をかけた後に、外側から内側に向けてヘラなどを使って嘔吐物を取り除きます。処理した嘔吐物は、2重にしたビニール袋に入れて廃棄しましょう。

嘔気が治まったら、水分を補給して脱水症状を予防しましょう。嘔気や嘔吐症状がまだ残っているうちに水分を摂ると、すぐに吐いてしまう恐れがあるので、ひと口ずつ、ゆっくりと水分をとるように意識しましょう。

まとめ

これまで、咳き込み嘔吐とはどのような症状か、咳をしすぎて吐きそうになる原因と対処法などを中心に解説してきました。

症状が軽度の場合には、自宅でできる対処法を実践し、心配な場合は、呼吸器内科や小児科など専門医療機関の受診を検討してください。

また、激しい咳が続いて吐いてしまう場合は、感染性胃腸炎の可能性なども考えられますので、症状が悪化している際には、消化器内科の受診も検討しましょう。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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