癜風(でんぷう)や脂漏性皮膚炎の原因になるマラセチア菌とは

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マラセチア菌、癜風(でんぷう)と聞いて、どのようなものかすぐに思い当たる人は少ないかもしれません。どちらも聞き慣れない名前ですが、時折みられる肌トラブルと、その原因となる菌の名前です。どのようなものなのか解説しましょう。

マラセチア菌とは

真菌をルーペで見る女性医師

マラセチア菌というのは現在14種類が確認されている真菌の一種です。別名をピチロスポルムと言います。真菌というのはカビの一種で、細菌とは区別されます。

細菌と真菌の違い

細菌と真菌の違いについて確認しておきましょう。

細菌というのは、一つの細胞からなる生物です。人間の細胞とは異なり、染色体であるDNAが細胞の中にむき出しで存在します。人間の細胞は細胞の中に核という存在があり、その中にDNAがしまわれていますから、DNAがむき出しの細胞である細菌はさまざまな刺激に対して非常に弱い構造をしていると言えます。このような構造を持つ生物を原核生物と言います。

一方で、真菌は人間の細胞と同じようにDNAが核の中に収納されています。さらに人間の細胞と同じように、細胞の中には小胞体、ミトコンドリアといった細胞の機能を保つための構造が存在します。

真菌と人の細胞の異なる点として細胞壁があります。細胞を取り囲む壁が、人の細胞は他の細胞と接して互いに影響し合ったり、血液中からさまざまな物質を取り込んだりするために薄い細胞膜を持っています。一方で、真菌は細胞膜自体が外界との障壁になっていますから、非常に頑丈な細胞膜を持っています。

このような構造の違いから、細菌に対する抗生物質と、真菌に対する抗真菌薬は作用が大きく異なります。抗生物質はDNAの複製をとめたり、弱い細胞膜を壊したりする作用を持っています。しかし、そのような物質は核によってDNAが守られている真菌にはうまく作用しません。

さらに、抗真菌薬を作ろうとすると人の細胞と同じような構造が多いため、真菌を倒すような薬は人間の細胞にも大きな影響を与えてしまいます。そのため、抗真菌薬は非常に種類が少なく、効果は弱めで効果が出るまでに時間がかかってしまうものが多くなっています。なお、抗真菌薬の多くは細胞壁が非常に強いという特徴を捉えて、細胞壁を作る機構を阻害する事で効果を発揮します。

マラセチア菌とは

マラセチア菌は真菌の一種です。先に説明した通り14種類確認されていますが、そのうちMalassezia globosaおよびMalassezia restrictaという2種類は人の皮膚から検出され、皮膚に常に存在する皮膚常在菌の一種と考えられています。

マラセチア菌は人間の皮膚の皮脂を好んで摂取し、生息しています。皮膚と言ってもどこにでも存在するわけではなく、主に毛穴に生息しています。皮脂は毛穴から分泌されますから、必然的に多く生息するというわけです。

普通の肌環境ではマラセチア菌は増殖することなく静かにしていますが、何らかの原因で皮脂が多くなるとそれを栄養とするマラセチア菌も増殖し、皮膚に感染症をきたしてしまうのです。

マラセチア菌による肌トラブル

首や胸元を気にする女性

では、マラセチア菌による肌トラブルにはどのようなものがあるのでしょうか。

癜風(でんぷう)

癜風は、成年から中年頃の多汗症の方に生じる皮膚炎です。首や胸、背部、脇などに多く、汗が増える夏にひどくなり、冬には軽快するということを繰り返します。

皮疹はおもに2種類がみられます。1種類目が米粒から指先ぐらいの大きさの灰白色の色素斑が多数診られる白色癜風です。一見すると色素が抜けているだけのようにも見える病変です。一方で、もう1種類の皮疹というのが褐色になる黒色癜風です。こちらも、一見すると色素がついただけのような皮膚です。

このように、色が変わっただけに見える病変ですが、落屑といういわば垢がたまったような状態になっています。そのため、指や物差しなど固いものでこすると容易にパラパラと皮膚の垢が落ちてきます。

これだけ皮膚に異常があると、かゆみがあるのではないかと思うかもしれませんが、意外と自覚症状はほとんどありません。そのため放置してしまう場合もありますが、放置すると炎症を引き起こしたり、皮膚色の変化が激しくなったりすることがあるので治療が必要です。

脂漏性皮膚炎

脂漏性皮膚炎というのは、頭皮や顔面といった皮脂腺が多い部分にできる病変です。垢のようなものがパラパラと落ちる赤みを帯びた病変、すなわち落屑性紅斑を認めます。とくにマラセチアが特異的にこの病気を引き起こすわけではなく、多様な種類の皮膚常在菌によって引き起こされます。

しかし多様な菌が関わるとは言え、背景を構成するのはマラセチア菌によって作られた肌環境だと言われています。マラセチアはリパーゼという酵素を分泌して皮脂を分解して取り込み栄養としますが、その分解された産物が皮膚に付着し続けていると炎症を引き起こしてしまいます。

炎症が起こると皮膚に熱感や発赤が出現し、かゆみを伴います。

身体ニキビ

ニキビというと多くの場合は顔面に出現しますが、体幹部にも同じようにニキビができるものを身体ニキビと呼びます。身体ニキビはほとんどの場合、マラセチア菌が毛包に増殖することでおこってくるもので、マラセチア毛包炎と呼ばれます。

特徴的なのはマラセチア菌の状態です。前述の通りマラセチア菌は真菌ですが、真菌というのは菌糸という形態と酵母という形態を取ります。菌糸の方が活発に活動をしている状態で、酵母型は安定した状態ともいえます。

マラセチア毛包炎の部分を取ってきて顕微鏡で観察すると、この酵母型のマラセチア菌を認めることが多くあります。酵母型は表面から真菌薬を使用してもなかなか薬が浸透せず治りが悪いですが、内服の抗真菌薬を使用すると真菌内に容易に吸収され、効果が高くなります。

ニキビが体中にできている場合にはマラセチア毛包炎を疑って早めに皮膚科を受診することが勧められます。

抗真菌薬による治療

治療薬

前述の通り、マラセチアは真菌ですから、マラセチアの感染症が疑われる場合には抗真菌薬を使用します。

癜風や脂漏性皮膚炎の場合は、菌糸型のマラセチア菌ですから外用の抗真菌薬がよく効きます。ただ範囲が広いので抗真菌薬の軟膏よりも、クリームやシャンプー、ボディーソープなど広い範囲に抗真菌薬を広がらせることができるものが効果的です。

一方でマラセチア毛包炎の場合は前述の通り内服の方が効果的です。

ただ、外用薬も内服薬も、真菌の構造が身体の細胞に似ていることから強力なものは存在せず、だんだんと真菌を活動できなくする程度の薬しかありません。薬を使用してすぐに効果が出るというものではなく、しばらく治療に時間がかかることが多くあります。

マラセチア菌の増殖を防ぐには?

マラセチア菌による感染症が引き起こされてしまった場合や、マラセチア菌感染症を予防するためには皮膚を清潔に保つ事が重要です。

前述の通り、マラセチア菌は皮脂が多いと増殖をします。そのため、じゅうぶんに身体を洗わない状態でいると皮脂が増殖し、マラセチア菌の増殖をきたしてしまいます。また、既に感染症の症状が出ている場合もマラセチア菌が増殖してしまっていますから、きれいに洗うことでさらなる悪化を防ぎ、治療効果を高めることができます。

また、毛包炎だけではなく癜風や脂漏性皮膚炎の場合でも、薬効のあるシャンプーやボディーソープを使用する事で薬剤の効果を手助けすることができます。気になる症状のある方は皮膚科で相談の上で使用をするようにしてください。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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