ムーンフェイスとは?ステロイドの働きと副作用

ステロイドは膠原病などの治療に効果を発揮する一方で、副作用も非常に多く、投与には慎重になる必要がある薬です。副作用の中には、ムーンフェイスというものもあります。ここではステロイドの効果や、さまざまな副作用について解説します。
ステロイドの効果

ステロイドは、ステロイド骨格という特有の化学構造をした物質の総称です。構造的には、脂質に分類されるもので、体の中でもコレステロールを原料として合成されます。
コレステロールから合成されたステロイドは、ホルモンとして働きます。ステロイド構造を持つホルモンを、ステロイドホルモンと言います。
ステロイドホルモンには性ホルモンとして女性ホルモンや男性ホルモンがあります。その他にはグルココルチコイドとも呼ばれる糖質コルチコイド、ミネラルコルチコイドとも呼ばれる鉱質コルチコイドなどがあります。
性ホルモンは卵巣や精巣などの性腺で合成されます。グルココルチコイドやミネラルコルチコイドは副腎という、腎臓のすぐ上にある臓器で合成されます。
そして、薬で使用されるステロイドは、この中でもグルココルチコイドに非常によく似た構造をした薬になります。体内に投与されることによって、グルココルチコイドと同じ作用をもたらします。
ステロイドの薬を使用する病気は、様々にあります。例えば、グルココルチコイドの分泌量が何らかの原因で減少している時に、それを補充するために使用することもあります
中でも多いのは、何らかの原因で免疫が異常に活性化している時に、それを抑えるために使用する場合です。特に膠原病という、自己免疫疾患のうちの一部を占める病気に対してよく使用されます。
膠原病の原因ははっきり分かっていませんが、何らかの原因で免疫反応が自分の体に対して反応してしまうことによって、様々な症状が出てきます。また、それに伴って炎症反応が起こってくることによって、発熱や痛みなどの症状も発生してきます。
ステロイドはこのような免疫反応や炎症を抑えることによって、治療効果を得られます。
しかし、一方で、普通の状態よりもグルココルチコイドの分量が多くなりますから、元々グルココルチコイドが持っている様々な作用が増強され、副作用として出てくるのです。
ステロイドによるムーンフェイスとは

ステロイドの副作用の中で、最も外表面に出てきやすい症状にムーンフェイスがあります。ムーンフェイスというのは、まるで満月のようにまんまるな顔になることを意味します。
このムーンフェイスは中心性肥満と呼ばれる、体の体格の異常の一部として現れてくるもので、前述のグルココルチコイドの作用によって起こってきます。
グルココルチコイドは、体の中の血糖値を上昇させる作用があります。これは、ホルモンの作用によって今すぐに使えるエネルギーが必要だという状況になり、糖が作られるからです。糖分を作る原材料は、主に筋肉です。筋肉のタンパク質を分解してアミノ酸にし、アミノ酸を分解することによって糖を産生します。
一方で、血糖値の上昇は、インスリンというホルモンの分泌を促進させます。インスリンは血液中の糖分を細胞の中に取り込ませる作用を持っているホルモンです。特に脂肪細胞の表面上にインスリンが結合する部分が多くあるため、脂肪がどんどんと成長していきます。
四肢の筋肉がだんだんと減少し、一方で体の中心部の脂肪がどんどんと増えることによって、体の中心部分だけが肥大していく状況になります。これを中心性肥満といい、中心性肥満の顔面の症状をムーンフェイスと呼ぶのです。
膠原病の状態が悪い時にはステロイドを多く使用する必要があります。そうなると、中心性肥満やムーンフェイスの症状もひどくなります。
ステロイドのその他の副作用

ステロイドの副作用には他にも様々なものがあります。
易感染症
ステロイドを使用すると感染症にかかりやすくなります。これは、免疫細胞の作用を抑制することによるものです。自己免疫疾患の治療効果と表裏の副作用と言えるでしょう。
具体的には、細胞性免疫として働いているT細胞からのインターフェロンという物質や、インターロイキンという物質の分泌を抑制したり、マクロファージという細胞のインターロインを分泌する作用を抑制したり、ヘルパーT細胞やB細胞といった液性免疫を司る細胞からの抗体の産生を抑制したりすることによって、免疫が抑制されます。
感染症の発生リスクは、元々の病気の状態にも関わってきますが、それ以外に合併している病気や、患者さんの状態、ステロイドの投与量や投与期間などによって決まってきます。一般に、ステロイドを多く長く使用するほど、感染症にかかりやすくなると言われています。
骨粗鬆症
ステロイドを使用すると、骨粗鬆症が進行します。
骨は分解と合成を常に続けることによって、新しい骨に生まれ変わり続けています。しかしステロイドを使用すると、骨を作る作用が弱くなり、一方で骨を分解する作用の方が強くなり、骨が脆くなってしまいます。
具体的には、骨を作る骨芽細胞の数が減少して骨を作れなくなってしまう一方で、骨を分解する細胞がより細胞分裂して活性化されることによって、骨の分解が進みます。
また直接的な作用だけではなく、他のホルモンの作用や、カルシウムの代謝に関わることによっても骨粗鬆症は進行します。
ステロイドが上昇すると性腺ホルモンの分泌量が低下します。性腺ホルモンは骨が分解されるのを抑制する作用があるのですが、これが減少することによって、骨粗鬆症の進行を助長します。
また、骨の合成にはカルシウムが必須です。ステロイドは腸管に作用して、カルシウムの吸収量を低下させます。また腎臓では、尿を作る時に一度カルシウムを尿に排出して、必要な分量を再吸収することによって血液中のカルシウム濃度を保っていますが、ステロイドの使用によって、このカルシウムの再吸収が低下します。
ステロイドを長期間使用している人は、骨折に注意が必要です。
高血圧
ステロイドを使用すると、血圧が上昇することがあります。これは、体の中のステロイドホルモンの種類に関わっています。副腎から分泌されるステロイドには、グルココルチコイドだけではなく、ミネラルコルチコイドがあります。
別のホルモンではありますが、もともとの構造が共通していることもあり、それぞれのホルモンの作用には近しいところがあります。そのため、ステロイドの薬を投与すると、ミネラルコルチコイドの作用も少し出てくるのです。
ミネラルコルチコイドは、体の中に水分を保つ作用を持っています。水分が体内に多く貯留すると、むくみが出てきたり、血圧が高くなったりします。
消化性潰瘍
ステロイドを使用すると、胃潰瘍や十二指腸潰瘍ができることがあります。
もともと、胃や十二指腸は消化液によって、自分自身が消化されてしまわないように、粘膜から防御因子を分泌しています。ステロイドを使用すると、この防御因子の分泌が阻害されるため胃や十二指腸は消化液にさらされます。
特にこれは、NSAIDsと呼ばれる分類の痛み止めと併用することによって起こりやすいとされています。
精神症状
ステロイドの内服によって、精神症状が出ることがあります。多いのは睡眠障害です。他には、気分が異常に高揚したり、反対に落ち込んだりすることもあります。ステロイドの副作用によるうつ症状もありますから、鑑別は非常に難しいです。