生まれつき肋骨が出る病気…漏斗胸の特徴と治療

生まれつき胸の形に異常が見られる人がいます。特に胸の真ん中がへこみ、その周りが突出するような形になっている胸の状態を、漏斗胸と言います。
漏斗胸というのはどのような状態なのでしょうか。ここでは、漏斗胸の特徴や治療法について解説します。
胸郭の構造

漏斗胸を解説する前に、まず胸の形を形作っているのはどのような構造なのかを解説します。
胸を形作っているのは、主に骨と軟骨です。骨は背中側に背骨を有しています。胸椎と呼ばれる脊椎の中でも12個の胸の部分の骨が、胸郭を形作っています。胸椎からはそれぞれ左右一対ずつの肋骨が出ています。肋骨は体の後ろから出て、胸の横側そして前側へと形作っていきます。
もう一つの骨が、胸の正面真ん中を合成している胸骨です。胸の真ん中を触った時に硬く感じるのは胸骨を触っているからです。
胸骨と肋骨の間は、直接関節を作っているのではなく、間に軟骨を介しています。この軟骨のことを、肋軟骨と言います。なお、肋骨は胸椎に合わせて12対存在していますが、そのうち上から7番目までの肋骨は、肋軟骨を介して胸骨に直接連結します。このような肋骨のことを、真肋と言います。
その下の8番目から10番目までは、肋骨に付着する肋軟骨が上の肋軟骨に付着することで、間接的に胸骨に接続しています。このような肋骨を、仮肋と言います。11番目と12番目の肋骨は、軟骨が付着していません。このような肋骨のことを、浮遊肋と言います。
肋骨が直接胸骨と関節を作らないのは、呼吸のためです。呼吸をするためには胸郭が広がったり狭まったりする必要があります。ぴったりとくっついていると全く動かなくなり、呼吸ができなくなってしまいます。ある程度自由に動くことによって、呼吸ができるのです。
胸郭はこのように、骨と軟骨に囲まれた非常に頑丈な鎧をまとった状態です。この中に心臓や肺をはじめとした重要な臓器が入っています。
漏斗胸とは

漏斗胸は、このような胸郭の形が変形していることによって起こってきます。何らかの原因によって、胸の一部分がへこむことで見た目の異常はもちろん、場合によっては中に包まれている臓器の機能異常が起こることもあります。
症状が出るタイミング
症状が出てくるタイミングには、ある程度個人差があります。乳児期にすでに陥没が認められる人もいれば、乳児期にはさほどへこみがなかったのに乳児期を過ぎて幼児になる頃に、あるいは小学校に入学した頃にへこみが目立つようになってくる場合もあります。
発症の頻度としては、おおむね200人から300人に1人と言われています。
漏斗胸の原因
漏斗胸の原因はいくつもあり、どれか1つが正しいというのではなく、様々な原因によって最終的に漏斗胸の形になっていると考えられています。
1つ目は、肋軟骨や肋骨が過剰に成長してしまうという説です。長くなってしまった肋骨や軟骨が、だんだんと内側へと成長することによって、胸がへこむという説になります。
2つ目は、肋軟骨が脆弱なことによって起こってくるという説です。もともと胸の中というのは、呼吸をスムーズに行うために外の気圧に比べて若干陰圧になっています。これを支えているのが胸郭の骨や軟骨です。しかし軟骨が脆弱であると、この陰圧に弱い軟骨が耐えきれず、だんだんと内側へと変形していくのではないかという説です。
漏斗胸による影響
漏斗胸は、見た目に異常があるというだけではなく、圧迫されることにより内臓に影響が起こってくることがあります。特に影響が大きいのが、肺と心臓です。
肺に関しては、十分に広がることができないことから、肺活量の低下が見られます。もちろん漏斗胸の程度によって変わってきますが、ひどい場合には肺活量が同じ年の同じ体格の人に比べて10%から20%程度下がってしまうこともあります。
また心臓に関しても、心臓が十分に広がりきれないことによって、心拍数で代償しようとして頻脈の症状を訴える人もいますし、胸の痛みの症状が出ることもあります。
特に有酸素運動をした時に、早い時間帯に息切れが出てくるといった症状で困っている人が多です。
漏斗胸の治療

漏斗胸の治療には保存療法と、手術治療があります。
保存療法
漏斗胸の手術は侵襲が非常に強く、大掛かりな手術になります。ですので、症状があまりないような状態であれば、保存療法によって手術をせずに経過を見るというのが一般的です。
どのようなことをするかというと、まずは運動療法を行います。水泳などの胸を張って開くような運動などをすることによって肺活量を増やし、胸の形をある程度良くします。見た目の変化はあまりなくても、息切れなどの症状が改善することがあります。
姿勢を正すというのも治療の一つです。漏斗胸の場合、骨格の変形からどうしても猫背になってしまうことが多いです。猫背になると、それだけで胸郭を圧迫しますし、凹みもより目立ってしまいます。そのため、姿勢を正して猫背にならないようにするだけで、見た目にも自覚症状にも効果が出ます。
他には陰圧吸引療法という治療もあります。これは胸の表面から陰圧で胸骨を引っ張ることによって、凹みをなるべく小さくさせるという治療です。手術を必要としませんが、毎日数時間続ける必要があります。器具を購入する必要もありますし、少しハードルが高い治療といえるでしょう。
手術
手術には様々な方法がありますが、現在多く行われているのが、ナス手術という手術です。この手術は、脇の下あたりに3cmから4cmぐらいの皮膚を切開し、そこから金属のバーを挿入し、胸の中に金属のバーを留置することによって、胸骨を内側から押し上げることによって胸の凹みを治療します。
この手術方法だと、出血量も少なく、手術時間も短く、傷も目立たないという利点があるため現在広く行われています。挿入した金属のバーは、1年半から3年後に抜き取るのが一般的です。
他にもある肋骨が突出する先天的な病気

漏斗胸以外にも、肋骨が突出して見える病気は色々あります。その中でも先天的な病気を2つ紹介します。
先天性側弯症
側弯症というのは、背骨が横の方向に歪むことによって体全体の体格が歪んでしまうことを言います。生まれつき歪んでいることもありますが、成長に伴ってだんだんと歪みが大きくなってくることが多いです。背骨が歪むのに伴って、胸郭も歪むことによって肋骨の突出が目立ってきます。
側弯症は、体の成長に大きな影響を及ぼしますから、早い時期からスクリーニングが行われています。小学校で行われる検診の時に、前かがみになって背中を確認する方法などがあります。
側弯がまだ小さい頃に発見された場合には、装具を使用することによって、ある程度改善を期待することができます。側弯がひどくなってから見つかった場合や、装具での改善が認められず進行した場合には手術を行うこともあります。
マルファン症候群
人の体というのは、骨や筋肉、内臓といった構造の中やそれ以外の場所に、それぞれの構造物の間を埋める結合組織というものがあります。
マルファン症候群というのは、その結合組織がもろくなる病気です。様々な臓器を構成する部分が弱くなりますから、色々な症状が出てきます。
例えば、大動脈にも結合組織はあります。結合組織が弱くなってしまうことによって、大動脈の壁が破れやすくなり、大動脈解離や大動脈瘤が起こってくることがあります。
目の異常によって、水晶体の亜脱臼ということが起こってくることもあります。身長は高くなることが特徴的です。また指は細く長くなることが多いです。孤立して発症する場合もありますが、多くの場合には遺伝するため、マルファン症候群の家系というのもあります。有名人としては、アメリカの第16代大統領アブラハム・リンカーンもマルファン症候群であったと言われています。
マルファン症候群では骨や軟骨の形成異常が起こってきます。漏斗胸をはじめとして、胸郭の形の異常も起こってきます。肋骨が突出することも多く、スクリーニングによって見つかることがあります。
マルファン症候群に対しては、根本的な治療というものはありません。それぞれの臓器に対して治療を行うことが必要となります。例えば大動脈瘤ができた場合には、人工血管置換術を行うことがありますし、骨や軟骨の異常に対しても手術によって治療を行うことがあります。