病院は何科?深呼吸で胸が痛くなる原因と痛みの種類

お悩み

深呼吸をすると胸が痛いという症状はありませんか?胸には多くの臓器が入っていますから、何か大きな病気ではないかと不安に思う方もいらっしゃるでしょう。ここでは胸が痛くなるメカニズムや原因について解説します。

さまざまな臓器が関わる胸の痛み

胸には様々な臓器があります。どのような臓器が、どのような症状の原因となってくるのでしょうか。

胸の解剖

胸の解剖を体表上から順番に見ていきましょう。

一番表層にあるのが皮膚です。皮膚は浅い層から順に表皮、真皮、皮下組織という三層構造をしています。この中でも真皮や皮下組織には血管や神経、種々のセンサーなどがあり、皮膚の機能を維持しています。

皮膚の下にあるのが筋肉層です。一番大きいのが大胸筋です。大胸筋以外にも小胸筋や肋間筋など、様々な筋肉が胸の動きをサポートしています。

筋肉層の下には骨があります。胸を構成する骨は左右12対の肋骨です。肋骨は胸部を守る頑丈な盾であるとともに、それ自体が動く事で呼吸を可能にしています。肋骨の動きをサポートするのが種々の筋肉です。特に肋間筋は肋骨と肋骨の間に存在し、肋骨の動きを支えるとともに肋骨と肋骨の間を埋める膜としての役割も担っています。

骨の下にあるのが、胸膜です。胸膜というのは胸部の内臓、特に肺を包む膜のことです。胸膜は二層構造をしていて、筋肉側に張り付いているものと、肺の表面に張り付いているものに分かれます。

この二つの胸膜の間には少量の水が含まれており、この水の表面張力によって二枚の胸膜は張り付いているとともに、摩擦をほとんど生じることなくスムーズに動く事ができるようになっています。

胸膜の下にあるのが様々な内臓です。肺や心臓、食道などの内臓が胸の中には詰め込まれています。

胸の痛みは、これらの構造物のどれかに異常がある可能性を示唆します。

痛みの種類

胸部に限った話しではないのですが、痛みがある場合に重要なのは、その痛みがどのようなものなのかというものです。それによってある程度どのような原因で痛みが起こっているのかを鑑別する事ができます。

まずは痛み方から考えます。

痛みがジンジン、ビリビリしたような痛みの場合、神経障害性疼痛を考えます。これはその名の通り神経自体が痛むことによって起こってくる痛みです。

動いたり、触ったりすると痛みが起こってくる痛みが体性痛になります。この体性痛の場合、痛みの場所もある程度「ここが痛い」と指摘することができるようになります。体性痛は、筋肉や骨、胸膜に損傷や刺激があるときに起こってくる痛みになります。深呼吸という身体の動きによって痛みが起こってくるのであれば、この体性痛である可能性が高いと考えられます。

動きなどに関係なく痛みが起こる場合、内臓痛の可能性があります。内臓痛とは内臓の機能が維持できなくなったときに起こってくる痛みです。胸部では心臓や肺などへの血流が悪くなったり、食道が穿孔したりしたときに起こってくる痛みがこの痛みになります。

これらの場合、基本的には内臓痛ですから痛みは身体の動きに関係ないことがほとんどですが、炎症が胸膜に波及するなどして体性痛が混じってくる事があります。このような場合には深呼吸によって痛みが生じてくる事もあるため注意が必要です。

ほかの痛みのポイントはいくつかあります。

痛みの場所は、どこが痛んでいるのかを推定するのに有用な情報です。先ほど説明したように、痛みの場所がピンポイントであればその場所の体性痛を疑います。

痛みとともにある症状もポイントになります。肺に異常があるのであれば呼吸苦が起こってくる場合がありますし、胸が押さえつけられるような重い感じがあるのであれば心臓由来の痛みである可能性を示唆します。皮疹があれば皮膚に原因があると考える事ができます。

このような情報を元に、どのような臓器にどのような異常が起こっているために痛みが起こっているのかを推定していくのです。

深呼吸で胸が痛くなる原因

では、深呼吸をして胸が痛い場合、どのような病気が考えられるのでしょうか。それぞれ解説します。

胸膜炎

胸膜炎とは、胸膜に炎症が起こっている状態を言います。様々な原因で炎症は起こりえますが、痛みを伴う場合はほとんどは細菌などの感染症によって発症します。

もともと胸膜は無菌ですから、何らかの原因で胸膜にまで原因微生物が到達しなければ胸膜炎になることはありません。多くの場合は肺炎に合併して起こってきます。そのため、咳や痰などの症状に加えて、炎症を反映した発熱や悪寒を伴っていることがほとんどになります。

胸膜は肺側の胸膜と胸壁側の胸膜が呼吸によってなめらかに動くと説明しましたが、炎症が起こるとこの運動に伴って痛みが生じます。すなわち、呼吸に応じて痛みが強くなったり弱くなったりするのが特徴となります。

なお、癌などが肺の表面にできた場合にも癌性胸膜炎と言って胸膜炎が起こる事があります。しかしこの場合には痛みがあまりなく、熱もほとんどありません。

自然気胸

気胸というのは、肺が破れることを言います。肺の表面に穴が空くことでそこから空気が漏れて肺がしぼんでしまいます。肺がしぼむと胸膜が引っ張られ、痛みを感じます。呼吸をすることによって引っ張られたり伸ばされたりを繰り返しますから、やはり呼吸に従って痛みを感じることがほとんどです。最初に突然の強い痛みを感じ、その後呼吸に伴った痛みがあると言うのが典型的な気胸の痛みになります。

自然気胸が起こりやすいのは若年男性と高齢者です。

まず若年男性、特に痩せたひとに多いです。通常の場合、成長に従って胸壁が大きくなるのですが、それに伴って肺も大きくなり、胸膜に負担がかかることはありません。しかし痩せた人で特に身長が高く成長した場合、胸壁の成長に対して肺の成長が不十分となり、肺の胸膜が引っ張られてしまいます。それによって肺が損傷して気胸になるのです。

もう一つ多い年代が、高齢者です。特に喫煙などをして肺がダメージを受けている場合、肺の表面にブラという嚢胞が作られます。この嚢胞は非常に破れやすく、ある時突然破れます。結果としてその破れたところから空気が漏れて気胸になってしまいます。

気胸を起こした場合は、胸膜と胸膜の間にドレーンという管を入れて空気を逃がし、しばらく様子を見て穴が塞がるのを待ちます。穴が塞がらなければ手術を必要とする場合があります。

心膜炎

心膜炎は心臓を包む膜に炎症が起こることをいいます。心臓を包む膜は2枚あり、1枚目が心臓の表面にぴったりと張り付いている心膜で、もう1枚は心臓の外側にある肺との境目に存在する心膜です。一般に心膜と言うと、肺との境目に存在する膜のことを言います。

2枚の心膜の間には、正常でも少量の心膜液が存在しています。心膜液によって、心膜と心膜が摩擦がほとんどなくスムーズに動くことができています。

心膜に炎症が起こってくると、心膜が分厚くなったり、心膜液が増加したりします。原因として多いのは感染症です。ウイルスの感染によって起こってくることが多くなります。他には心筋梗塞や、何らかの腫瘍、外傷、一部の膠原病などによって起こってきます。

主な症状としては炎症を反映して胸の痛みが生じます。痛みは深呼吸や咳、体を動かした時などの胸の動きによって痛みが増します。仰向けで寝ている時や、左向きに横になって寝ている時に痛みが増すのが特徴です。

軽症の場合には風邪と一緒で経過を見ていれば直っていきます。細菌感染症が原因と考えられる場合には、抗菌薬を使用します。他には、抗炎症薬などを使用することによって痛みを抑えることになります。

心膜炎が重症化し、筋膜が分厚くなって心臓の動きを阻害しているような状態の場合には、様子を見たり薬を投与したりしても改善してくることはなかなかありません。このような場合には手術をする必要があります。

肋間神経痛

呼吸に合わせて胸が痛む時に、特に背中にも痛みがある場合には肋間神経痛を疑います。

肋間神経というのは、脊髄から出た神経が、肋骨の下縁に沿って走行しているものです。この神経に、何らかの原因によって炎症が起こったものが肋間神経痛となります。

痛みを伝える神経そのものが炎症を起こして痛みに敏感になっている状態ですから、少し動いただけでも痛みを感じるようになります。安静にしていても呼吸によって肋骨が動きますから、それに伴って痛みを感じるのです。

もちろん深呼吸をすると、それだけ大きく肋骨が動き、肋間神経も動かされることからさらに痛みが強まります。痛みのせいで横向きに寝ることができないという症状も見られるでしょう。

肋間神経痛は、ストレスや疲労、姿勢の悪さなどが原因で発症することが多く、一度炎症が起こると日常生活に支障をきたすほど強い痛みを感じることがあります。

肋間神経痛の治療は、原因によって様々です。基本的には安静にして経過を見ることで改善してきますから、痛みに対する対処として消炎鎮痛薬の内服をすることが多いです。それに加えて、筋肉の緊張などが原因などであればリハビリテーションやストレッチなどの運動療法が追加されます。

肋軟骨炎

肋骨や軟骨に起こってくる炎症の事を言います。特に起こりやすいのは肋骨と軟骨を繋いでいる肋軟骨接合部や胸骨と肋骨を繋いでいる胸肋関節などです。これらの関節が激しい痛みによって損傷し、修復のために炎症が起こってくることで肋軟骨炎を発症します。

肋軟骨炎の症状は咳や腕を動かしたときに起こる事が多く、鋭い痛みや押されるような痛みになります。また、一つの関節だけがダメージを受けることは少なく、複数箇所に痛みが出る場合があります。

体表から触れる事ができる場所の炎症ですから、痛い場所を触ることで痛みが強くなるのを確認する事ができます。

基本的には数週間で自然に軽快してきますから、痛み止めを内服して経過を見ることになります。

帯状疱疹

帯状疱疹というのは、水痘帯状疱疹ウイルスによる感染症です。水痘は、小さい頃にかかっている事がほとんどですが、症状が落ち着いた後も体内にはウイルスが潜伏したままになっています。潜伏する場所は、脊髄や脳の神経細胞の中です。この潜伏したウイルスは身体の免疫によって抑え込まれているため、通常の場合は症状が出てくる事はありません。しかし疲労をはじめとして何らかの原因で免疫力が低下すると、ウイルスが急に増殖を始めて神経に沿って広がってくるのです。

神経に沿って広がりますから、身体の体表上に帯状に皮疹が見られます。また、皮疹に先行して神経がダメージを受ける結果、痛みを伴います。痛みは神経が傷害された痛みですから、ジンジンビリビリした痛みとなります。また、皮膚の表面に神経が走っていますから、身体を動かすのに合わせて痛みが強くなったり弱くなったりする事があります。

ある程度期間が経つと、感染は落ち着いて皮疹も消えていきます。痛みも収まる場合もありますが、帯状疱疹後神経痛として痛みが残ることも少なくなりません。

今ではワクチンで帯状疱疹を抑える事もできます。なるべく予防をしておくと良いでしょう。

心臓の病気

心臓の病気は呼吸によって変動する事はあまりないため、深呼吸で痛みを感じる場合にはあまり考えません。しかし、稀に深呼吸に合わせて痛みが強くなったり弱くなったりする場合がありますから、完全に否定することはできないです。

心臓の症状の特徴としては、胸を押されるような重苦しい痛みです。痛みと言うよりも息苦しさを訴える人もいるものです。冷や汗を伴うことも多く、非常に重症な印象を受けます。

また、血管の病気によっても痛みを生じる場合があります。痛みが突然起こる場合、痛みが移動する場合にはすぐに救急車を呼んで病院を受診しましょう。

病院は何科を受診すればいい?

前述のように、胸が痛いという症状はさまざまな病気で起こってきます。どの診療科を受診すればよいのか判断がつきにくいものです。

まず考えなければならないのが、大急ぎで治療する必要があるかどうかです。急性心筋梗塞や大動脈解離であれば、1分1秒の治療を争うことになります。動けないほどの強い痛みや、強い胸の圧迫感など、特におかしいと感じた時には救急車を呼んで救急外来を受診してください。

我慢できないほどではないけども治療を受けたいような痛みの場合も、心臓が原因である可能性は否定ができませんから、循環器内科を受診しておいた方がよいでしょう。

もし、呼吸に伴って症状があるのであれば、呼吸器科を受診するといいでしょう。いずれを受診しても、必要に応じて適切な診療科を紹介してくれます。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

プロフィール

関連記事