弁証論治って何?漢方の基本的な考え方の理解を深めよう

漢方基礎知識

漢方の考え方には西洋医学にはない特有の理論があります。最初はなかなか理解が難しく、取っつきにくいと感じる人も多いことでしょう。

その中でも「弁証論治」については普段あまり耳にすることもなく、よく知らない人がほとんどのはずです。今回は漢方において治療方針を立てる上では欠かせない「弁証論治」について学んでみましょう。

「弁証論治」とは何か?

弁証論治(べんしょうろんち)とは、漢方(中医学)における診断および治療法を決める上での方法論のことです。西洋医学では問診や血液検査、X線などさまざまな検査を組み合わせて病気を決定付けていきます。

一方、漢方においては「四診」という診察方法を用いて情報を収集していきます。「四診」は望、聞、問、切の4つからなり、中医学的な情報を集めていきます。その集めた情報を「八網弁証」などの診断の基準を用いて、どのような病状(証)であるのかを決定していきます。

四診による弁証とは?

西洋医学でいう問診、検査にあたるのが「四診」で、患者さんの状態を把握するために欠かせません。具体的にどんな方法で診察を行うのか見てみましょう。

望診(ぼうしん)

患者の状態を外観から観察して目視で情報を集めることです。体型、顔色、舌、毛髪や肌の状態なども観察します。西洋医学では悪い部分だけに注目して観察することが多いのに対して、漢方では全身のバランスや変化を確認することが特徴です。特に舌を観察する方法は重要で、「舌診(ぜっしん)」といいます。

切診(せっしん)

患者に触れることで状態を確認する方法です。特にお腹を触ったり、脈に触れて観察します。お腹は「腹診」と呼ばれ、みぞおちや脇腹、下腹部などのどこに張りや緩みがあるのかを観察します。脈は「脈診」と呼ばれて、脈拍だけではなく脈が強いのか沈んでいるのかなど観察します。

聞診(ぶんしん)

患者の発する声やにおいを感じて情報を集める方法です。聞診では聴力と嗅覚を利用して診察を行います。声の強弱は体質を判断するのに役立ちます。また、口臭や体臭なども体の状態を判断する上で大切な情報です。

問診(もんしん)

問診は患者に会話の中でどのような症状か、いつからあるのか、アレルギー歴、他の既往症などの情報を聞き取る方法です。私たちが普段お医者さんにかかった時に、色々と聞かれては答えるのと同じような方法になります。病歴以外にも、食事の傾向や性格、家族関係、仕事の内容、住環境なども聞き取って診断に役立てます。

弁証論治の「弁証」には種類がある?

「四診」だけで診察が終わっているように思えるかもしれませんが、それではまだ情報を集めただけに過ぎません。大事なのはこれからで、四診の情報をもとに患者さんの体質、病状を判断して漢方における病名である「証」を決定します。この証を決定づける方法を「弁証法」といいます。

「八網弁証(はちこうべんしょう)」

「弁証法」にはいくつかの種類があり、有名なのは「八網弁証」です。「虚実」「陰陽」「裏表」「寒熱」の8つの基準を用いて診断を行います。「虚」と「実」は、病気の勢い(病勢)を示します。「虚」とは病邪に対して抵抗力がなく病気にかかりやすいい状態、「実」は逆に邪気が過剰になっている状態で、それが原因となって病気を引き起こしています。

「表」と「裏」は病気の位置を意味します。「表」は体表などの浅い部分に邪気がある状態で、「裏」は病気が内部に入り込み慢性化したり、悪化している状態です。「寒」と「熱」は病気の性質を示し、自覚症状的に冷えを感じる場合には「寒」、熱感を感じる場合は「熱」となります。

「気血津液弁証(きけつしんえきべんしょう)」

気(き)・血(けつ)・津液(しんえき)の不足や滞りなどを分析する方法です。例えば、気が足りていない「気虚」、血の滞りがある「血瘀」、水(津液)の滞りのある「痰湿」などを判断するのが気血津弁証です。病気の原因などを深く追求する方法でもあるため、漢方薬の決定に大きく影響します。

「臓腑弁証(ぞうふべんしょう)」

病気が臓腑のどこに入り込んでいるのか分析する方法です。八網弁証により病気が「表」より深く「裏」まで入り込んでいると判断された場合に行われます。弁証の結果としては「肝血虚」「腎虚」などのように、どこの臓腑の不調によるものかを分析します。

「六経弁証(ろっけいべんしょう)」

主に寒邪や風邪などの外からの邪気に襲われた場合に、病気が表から裏へと伝変していく過程に基づいた弁証法です。例えば、風邪に襲われたとき初期に多いのが「太陽病(たいようびょう)」です。寒邪や風邪に襲われた直後で邪気が体表にあり、発汗させることで邪気を追い出します。他にも、陽明病(ようめいびょう)・少陽病(しょうようびょう)・太陰病(たいいんびょう)・少陰病(しょういんびょう)・厥陰病(けっちんびょう)の全部で6つの段階に分けられます。

漢方の弁証論治を理解すれば病気が見えてくる!?

弁証論治について解説しましたが、理解は深まったでしょうか?最初は難しい用語が多くて混乱するかもしれませんが、自然の摂理にかなった論理に基づいているので難しく考えることはありません。

自分の状態に適した漢方薬を見つけるためには、正しく弁証論治を行うことが不可欠です。ただし、弁証論治を行うには知識だけではなく、多くの経験も必要です。自分ではもちろん難しいので、漢方の専門家に相談することをおすすめします。

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