八綱弁証をわかりやすく解説!漢方の基本を学ぼう
漢方では、その人が「虚証」か「実証」かによって、漢方薬を使い分けるということを聞いたことがあるかと思います。これは病気を診断するための東洋医学的な物差しの一つで、これ以外にも「表」「裏」、「寒」「熱」、「陰」「陽」といった指標があります。
なんだか難しくて理解しづらいと感じている人も多いのではないでしょうか?
漢方において用いられるこの8つの基準のことを「八綱(はちこう)」といい、病気を考える上で欠かせない概念になります。
今回はその「八綱」を用いた漢方の診断方法である「八綱弁証」について分かりやすく解説していきます。
目次
「八綱弁証」とは何か?
西洋医学では細胞レベルや臓器ごとに注目するなどの方法で病気を捉えますが、漢方(中医学)では体質を含めて体全体の状態を把握することにより病気を捉えます。
漢方での診察は、患者の状態を尋ねたり、外観を観察したり、触れたりする漢方独自の「四診」(ししん)と呼ばれる方法で行われ、患者さんから得た情報をもとに病気が体のどこにあるのか(表か裏か)、病気の勢いに対する抵抗力の状態(虚証か実証か)はどうなのかなどと判断を下していきます。この基本的な尺度となるのが「八綱」です。
どう治療を行なっていくのか方針を立てるために、病院気が入り込んでいる位置、病気の性質、病気の原因となる邪気と抵抗力のバランスを把握するため「表裏・寒熱・虚実・陰陽」の8つの基準を用います。この8つを「八綱」、それを元に診断結果である証(しょう)を決定することを「八綱弁証」といいます。
このうち裏・寒・虚は「陰」の性質、表・熱・実は「陽」の性質を持っています。では、八綱について詳しくみていきましょう。
病気の位置を決定する「表」と「裏」
表と裏とは、病気が体のどの位置にあるのか、その深さを意味します。身体の表面にある場合を「表」、内面にある場合を「裏」と言います。
漢方に独特な考え方になりますが、自然環境など外的なものが病因となる外邪は体表から入ってくると考えます。
例えば、風邪の時には風邪(ふうじゃ)と共に寒邪(かんじゃ)などの外邪が体表から侵入します。寒邪が体表に留まっている場合には、頭痛や首筋のこりなどの症状となって現れます。抵抗力がある場合には、体表から外邪を跳ね返す力があるので、それ以上深いところへ侵入することを許しません。しかし、跳ね返す力が弱く、より深く寒邪が入り込むと、痰や咳が出てきたり、さらに消化器など内部へと侵入すると下痢や胃痛などの深いところの症状に変化します。
病気は浅いところ(表)から始まって深いところ(裏)へ移動すると考えるのが一般的です。
病気の性質を表す「寒」と「熱」
病気の症状から「寒性」の症状なのか「熱性」の症状なのかといった病気の性質を判断する指標です。わかりやすくいうと全身や手足などに冷えを感じる状態か、熱感を感じる状態かなどを表します。
例えば、同じ風邪であっても顔色が悪く、全身が冷えているような状態では「寒性」、熱っぽく赤ら顔で喉が乾くような場合には「熱性」となります。ただし、必ずしも熱のある無しが、「寒」「熱」の判断基準とはなりません。
また慢性疾患の場合、例えばある機能が異常に亢進している状態であれば「熱性」、反対に機能が衰えている場合には「寒性」となります。
体質を判断する指標にもなり、夏場でもクーラーを好まない、熱いものを飲みたがる人は「寒性」、暖房でのぼせやすい人は「熱性」と判断できます。
抵抗力と邪気の強さのバランスを示す「虚」と「実」
漢方薬を選ぶ時に、「実証向け」「虚証向け」という言葉を目にすることがあるかもしれません。虚証は虚弱な体質の人、実証はがっちり体力があるタイプの人と思っている人もいるかもしれませんが、本来は抵抗力と邪気の強さのバランスのことを示している指標です。
「虚証」とは生まれつき体が弱い、慢性的な疾患を持っている、抵抗力が弱まっていることが原因で、病気にかかりやすい状態になっている状態を意味します。体に必要な気血水などが不足していることも多く、体格はどちらかというと華奢であったり、風邪をひきやすい、食欲がない、疲れやすいなどのタイプに多い傾向があります。
一方、抵抗力は十分にあるにも関わらず、邪気のパワーが過剰なために病気になっている状態を「実証」といいます。体格がよく、骨格が大きい、筋肉質である、声が太く大きいようなタイプの人には実証が多い傾向があります。
しかし、虚証と実証が同時に見られるケースでは、抵抗力が弱まり、邪気も過剰になっている場合もあります。
生命体の状態や患者の体調を総括して示す「陰陽」
診察によって集められた「表裏・寒熱・虚実」の情報を元に、患者さんの生命力や体調の状態を判断するときに「陰」「陽」の概念を用います。
「表・熱・実」を総括的に判断すると「陽」、「裏・寒・虚」については「陰」となります。
漢方では、人間の体を含む万物は「陰」と「陽」の性質からなると捉えています。
イメージとしては「陰」の場合は、地、下降、内向きの属性があり、身体では体の内側や下部、生理機能は抑制的で衰退した状態です。症状の発症が緩やかなのも「陰」の特性です。逆に、「陽」は天、上昇、外向きの属性があり、体の外側や上部、生理機能は興奮・亢進した状態です。症状が突発的であったり、激しいのは「陽」の特性です。しかし、万物は陰性、陽性のどちらか一方ということはなく、どちらも併せ持っていると考えます。陰陽は絶えずバランスを取りながら調和を保っていますが、その大小関係が大きく崩れると病気になると考えます。
自分の体を知るために「八綱弁証」を役立ててみよう!
八綱弁証について説明しましたが、理解は深まったでしょうか?最初は理解するのが難しいかもしれませんが、少しずつ普段の生活の中で応用していくと理解が深まってくるはずです。八綱弁証は漢方を基礎から理解し、自分の健康維持に役立てていくためには欠かせない理論になります。
八綱弁証を元に自分の状態が把握できるようになれば、漢方選びや養生なども行いやすくなるでしょう。ぜひ学びを深めてみてくださいね。