つらい耳鳴りに効く漢方薬とは?

漢方基礎知識

実際には周囲で音は鳴っていないのに、耳の中で音が聞こえる。急にキーンと高い音がなったり、低音や蝉の鳴き声のような雑音が聞こえたり。中にはめまいを伴うものも…。

実は、日本人の4人に1人は耳鳴りに悩んでいるとも言われています。気になって眠れなくなってしまうこともあり、ストレスの原因にもなりますよね。薬で治療しても、なかなか治りにくいと言われている耳鳴りですが、漢方が効果的な場合もあります。今回は、耳鳴りの原因や体質ごとに効果が期待できる漢方薬をご紹介していきます。参考にしながら自分に合った漢方を見つけてみましょう。

耳鳴りの原因は?

メニエール病(リンパ液が内耳に溜まり、むくんでいる状態)や副鼻腔炎などの病気や貧血、高血圧などに伴っておこるものもありますが、実際に病院を受診される患者さんの症状には原因がはっきりしない場合が多いです。

耳鳴りは、一般に、聞こえに関係する神経の働きが悪くなる、内耳の血流やリンパの流れが滞る、筋肉がけいれんを起こすなどが直接の原因となって引き起こされることが多いとされています。ストレスや過労、寝不足、あるいは、加齢などが遠因として挙げられます。

症状の幅も広く、静かなところで少し気になる程度のものや、普段から気になって、日常生活に支障が出るような重度のものまで様々です。慢性のものは治りにくく、あきらめてしまっている方も多いのではないでしょうか。

しかし、西洋医学的な治療をしても効果が出ない耳鳴りでも、身体に合った漢方薬の服用と日々の心がけで、殆ど気にならない程度まで抑えることができる場合もあります。

漢方と耳鳴り

漢方学的には、耳鳴りは「気」「血」「水」の異変に深く関わりがあると考えます。

体内に代謝しきれない余分な水が溜まると、内耳のリンパ液や脳の脊髄液の循環に影響を及ぼし、めまいや耳鳴りを起こしやすくなるのです。また、ストレスや慢性の疲労などにより「気」や「血」が滞ると症状が出やすくなります。他には五臓の一つである「腎」の働きが悪くなる「腎虚=じんきょ」、「肝」や「脾胃=ひい」の不調も関係している場合があると言われています。

特に、高齢の方は「腎」の不調、若い方は「気」の滞りによる影響が大きいとされています。様々な不調に起因する耳鳴りの症状を改善するためには、しっかりとその原因を見極め、目的や体質に合った漢方薬を使用することが大切になります。

耳鳴りに効果のある漢方薬は?

不調の素因や体質ごとに処方されている漢方の例を以下にまとめてみました。

「水」によって引き起こされるもの

五苓散(ごれいさん)

  • 口が渇きやすい
  • 吐き気がある
  • 尿量が少なく、むくみやすい

苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)

  • 体力が中等度未満
  • めまい、ふらつきを伴う
  • 動悸やのぼせが気になる

真武湯(しんぶとう)

  • 虚弱体質で疲れやすい
  • めまい、ふらつきを伴う
  • 冷えが気になる

半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)

  • 胃腸が弱っている
  • 下半身が冷えやすい
  • めまいや頭痛を伴う

水の滞りが原因で起こる耳鳴りは、更年期によく見られます。

粘り気のある水が停滞することで耳の詰まりやめまい、頭痛、むくみ、排尿の異常、胃の不調などを伴うことがあります。さらに、長期間続くと血流も悪くなり、症状が悪化してしまう危険があります。このような症状がある場合は、体内に余分に溜まっている水分を尿として対外に出す利尿作用のある漢方薬が効果的です。

例えば、五苓散は代表的な利尿剤で、湿度など天候によって症状が悪化する場合、頭痛や吐き気を伴う場合に用いられます。また半夏白朮天麻湯は胃腸機能の低下がみられ、冷えが気になる方に向いています。

「血」が原因となって起こるもの

黄連解毒湯(おうれんげどくとう)

  • 体力が中等度以上
  • のぼせ気味で顔が赤っぽい
  • イライラしやすい

四物湯(しもつとう)

  • 胃腸に障害がない
  • 皮膚がカサカサして、肌の色つやが良くない

七物降下湯(しちもつこうかとう)

  • 虚弱体質
  • 高血圧気味

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

  • 体格がしっかりしている
  • 顔が赤っぽく、のぼせ気味
  • 下半身は冷えやすい

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

  • 虚弱体質
  • 足腰が冷えやすい
  • むくみが気になる

加味逍遥散(かみしょうようさん)

  • 体力が中等度未満
  • 疲れやすく、イライラしやすい
  • 肩こり体質

内耳の血流が滞ったり(瘀血=おけつ)、貧血などで血流量が不足したりしても耳鳴りの症状が出やすくなります。

体内に余分な水が溜まった状態が続くと血流も悪くなります。そのような場合は利尿剤に加えて、血流を改善する作用のある漢方薬を用いると効果的です。特に、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、加味逍遥散は瘀血に対する代表的な処方で、婦人科系の疾患にもよく用いられます。

一般に、虚弱な体質で疲れやすく冷えやすい方には当帰芍薬散、肩こりや精神不安によるイライラ・便秘の傾向がある方には加味逍遥散、体格ががっしりしているタイプで、のぼせ傾向がある方には桂枝茯苓丸といったように使い分けます。また、高血圧に伴って現れる耳鳴りには七物降下湯が適しています。

「腎虚」に対する処方

牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)

  • 疲れやすい
  • 手足が冷えやすい
  • 下半身のむくみが気になる

八味地黄丸(はちみじおうがん)

  • 体力が中等度未満
  • 手足が冷えやすい
  • 多尿でトイレが近い

六味丸(ろくみがん)

  • 疲れやすい
  • 尿力が少ない
  • 口が渇きやすい

加齢によって腎の機能が低下すると、耳鳴りや聴力、記憶力などの低下が現れるようになります。このような場合は腎を養うような漢方薬が適しています。

腎虚には、冷えを伴う「腎陽虚=じんようきょ」と熱感がある「腎陰虚=じんいんきょ」があります。体内のエネルギーが不足し身体が冷えやすい体質の「腎陽虚」タイプの方には、八味地黄丸や牛車腎気丸が適しています。夜間の耳鳴りが気になって眠れない、手足が冷えやすい、多尿や残尿感など夜間の尿の悩みがあるときに。特に、下半身がむくみやすく、腰痛がある方には、牛車腎気丸が効果的です。

乾燥やのぼせが気になる「腎陰虚」タイプの方には、脱水による体液の不足を補い、熱を冷ます作用がある六味丸がおすすめです。利尿作用もあるので、もちろんむくみや耳鳴りに効果が期待できます。皮膚が乾燥する、顔が火照ってのぼせた感じがする、などの症状がある場合に。

ストレスに起因するもの

柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

  • 体力が中等度以上
  • 動悸や不眠、イライラが気になる

釣藤散(ちょうとうさん)

  • 体力が中等度以上
  • 頭痛や肩こりが気になる
  • 高血圧傾向の人

大柴胡湯(だいさいことう)

  • 体力が中等度以上
  • 頭痛や肩こりが気になる
  • 便秘がちの人

四逆散(しぎゃくさん)

  • 体力が中等度以上
  • ストレスや不眠、うつ傾向がある

抑肝散(よくかんさん)

  • 体力が中等度
  • イライラしやすく、怒りっぽい
  • 不眠が気になる

抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)

  • 体力が中等度未満
  • イライラしやすく、怒りっぽい
  • ストレスによる食欲不振

黄連解毒湯(おうれんげどくとう)

  • 顔色が赤く、のぼせ気味
  • イライラしやすい

「気」の異常も耳鳴りの症状が出やすくなる大きな原因の一つで、若い方の耳鳴りに多いと言われています。「気」とは漢方学では生命活動に不可欠な目に見えないエネルギーのことを指しています。このエネルギーが体中を巡り、精神や自律神経の調子を整える働きをしています。

「気」の流れが滞ったり不足したりすると、精神の活動も停滞し、憂鬱さや胃腸の不調などを感じるようになります。耳の詰まりや耳鳴り、頭重感といった症状も出てくることがあります。過度なストレスを長期間受けることで、このような不調が現れやすくなります。自律神経失調症や突発性難聴に伴って起こる耳鳴りもこのタイプに当てはまります。

日常生活のストレスを完全に取り除くことはとても難しいものですが、「気」の流れを良くして、精神をリラックスさせてくれる漢方薬を取り入れることで緩和できる場合もあります。キーンという高音の耳鳴りや頭痛、不安感といった症状がある方には柴胡加竜骨牡蠣湯がおすすめです。精神活動を安定させる竜骨(りゅうこつ)や牡蠣(ぼれい)、茯苓(ぶくりょう)が含まれ、気分をリラックスさせる効果があり、不安感を取り除き不眠にも用いられます。血圧が高めの方には釣藤散もおすすめ。便秘や肩こりがひどい場合は大柴胡湯も良いです。

胃の不調が影響しているもの

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

  • 虚弱体質で元気がない
  • 消化機能が衰えている
  • ぼーっとして倦怠感がある

黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)

  • 虚弱体質で元気がない
  • 消化機能が衰えている
  • 寝汗をかきやすい

半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)

  • 消化機能が衰えている
  • 下半身が冷えやすい
  • めまいや頭痛を伴う

疲労が続く場合や、産後や病み上がりで体力が低下していると胃腸の機能も弱くなります。栄養を十分に供給できなくなると耳の機能も低下し、聴力の低下や耳鳴りが起こります。疲れると症状が悪化し、倦怠感や食欲不振、下痢といった症状を伴う場合は、しっかりと休養を取り、胃腸機能を高める漢方薬を用いると改善することがあります。

虚弱体質で気力がなく、だるさが続く方には補中益気湯が効果的です。夏バテや仕事の疲れなど一時的な疲労、不安感がある方にもおすすめです。

漢方薬の効果を更に高めるために、生活習慣を整えましょう

一般的に改善が難しいと言われている耳鳴りですが、体質から改善していく漢方治療が有効な場合は多いです。

しかし、一度良くなっても繰り返し再発しやすく、睡眠不足や偏った食事、過度なストレスが続くと症状が悪くなってしまうことがあります。薬での治療と同時に生活習慣を改善し、症状を悪化させないように心がけていくことが大切です。

関連記事