加味逍遙散(かみしょうようさん)

漢方事典

「加味逍遙散はこころのトラブルによく使われます」

処方のポイント

精神安定に働く柴胡・当帰・芍薬の組合せを中心に、消化器の働きを補強する白朮(あるいは蒼朮)・茯苓、熱症状に対応する山梔子・牡丹皮・薄荷、消化器保護の甘草・生姜で構成。臓腑活動を健やかにし、こころをのびのびさせ、不安感やいらいら等の心気症に性別を問わず適応します。甘辛味で、温服が効果的です。

加味逍遙散が適用となる病名・病態

保険適応病名・病態

効果または効能

体質虚弱な婦人で肩がこり、疲れやすく、精神不安などの精神神経症状、ときに便秘の傾向のある次の諸症:冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症(一般的に男性にも保険上の適用が認められている。病名は不定愁訴などで可である)。

漢方的適応病態

逍遙散は肝気鬱結・血虚・脾虚に適応されます。加味逍遙散は、これに牡丹皮、山梔子の適応状態が加わったものです。

加味逍遙散の組成や効能について

組成

柴胡6白朮6茯苓6当帰6芍薬6甘草3生姜1薄荷1山梔子3牡丹皮3

効能

疏肝清熱・健脾養血

主治

肝鬱化熱・脾虚血虚

〇肝鬱化熱:肝の疏泄機能の失調によって生じた、胸脇脹満、イライラ、ため息、脈弦などの肝気鬱結の症状が、次第に熱に変化することをいいます。

解説

加味逍遙散は疏肝作用によって気鬱血滞の病状を治す「逍遥散」に、清熱薬である牡丹皮、山梔子を加えた処方で、微熱、のぼせなどをともなう肝鬱化熱症状に適しています。逍遥散の「逍」は消すの意で、気の鬱滞を消去することを現し、「遥」は揺カすの意で、血の鬱滞を改善する効能を示します。

適応症状

胸脇脹痛・乳房脹痛

肝経の巡行する胸脇部の気滞によって、「不通則痛」の症状が現れます。疼 痛は遊走性、発作性を呈することが特徴です。

疲労倦怠感・食欲不振

「肝気が鬱結すると横逆して脾を犯す」(木乗土)ため、肝鬱は脾の運化 機能に影響し、脾虛症状が現れます。

月経不順

「肝は血の海」であるため、肝気が鬱結すると血行障害がおこります。脾は「気血を生化する源」であり、脾虚になると血が不足します。

微熱・のぼせ・頭痛

肝鬱が化熱して、経絡に沿って上昇すると微熱、のぼせ、頭痛が生じます。血・虚により、陰陽の平衡が失調すると虚火力上昇して諸症状を憎悪することとなります。

舌淡あるいは尖紅

舌淡は血虚、舌尖紅は熱を示します。

脈弦数あるいは虚

弦脈は肝病を示し、数脈は熱を示します。虛脈は脾虛、血虚を示します。弦脈はぴんとまっすぐに張った琴の弦を押さえるような脈を言います。

柴胡と薄荷は薬量を多めに用いると発散解表の作用があり、少量用いると疏肝理気の作用があります。柴胡は肝鬱治療の主要薬で、酢炒柴胡(酢で炒って散性を減少させ、酸味によって肝への作用を増強する)を用いることが多いです。薄荷は芳香性によって柴胡の疏肝作用を増強します。柴胡より少なめに使用します。白芍薬と当帰はともに肝の陰血を滋養します。白芍薬は寒性で肝陰を補い、当帰は温性で肝血を補います。2味の配合によって肝の蔵血機能を調節できます。(白芍薬は補益陰血の作用があり、柔肝することができ赤芍薬は涼血活血の作用があり、清肝することができます。本方では白芍薬を使用ます)。

白朮は健脾燥湿の作用によって脾虚による水湿の停滞を治療します。朮には白朮と蒼朮の2種があり、白朮は補益性が強く、蒼朮は薬味が辛で燥湿力に優れ補益力は弱いです。生姜は発汗解表の作用が強く、よく表証に用いらます。生姜皮は利水消腫の作用を有し、浮腫、小便不利に用いられます。本来の逍遥散では炮姜を用いて、脾胃を温め嘔吐、下痢を治療します。山梔子は全身の熱、特に心熱を清します。生山梔子は清熱作翔が強く、炒山梔子は止血作用が強く、生姜汁で炒ったものは止嘔作用が強くなります。牡丹皮は血分に作用する生薬で凉性活血薬に属するため、妊婦には慎重に用いる必要があります。

臨床応用

肝胆疾患

肝胆疾患(慢性肝炎、黄疸型肝炎、胆囊炎、慢性膵臓炎など)に用います。

〇黄疸のあるとき+「茵陳蒿湯」(清熱利湿)

〇目の充血、頭痛があるとき+「竜胆瀉肝湯」(淸肝瀉火)

〇便秘するとき+「大柴胡湯」(清熱通便)

〇脇痛があるとき+「金鈴子散」(延胡索、川楝子)(理気止痛)

または+「冠元顆粒」(活血化瘀、止痛)

胃腸疾患

加味逍遙散中に、白朮、茯苓などの健脾利湿薬が配合されているので、肝鬱の影響によって生じた脾胃症状(神経性胃腸炎、慢性胃炎、胃潰瘍十二指腸潰瘍、過敏性大腸炎など)に用いることができます。

〇下痢するとき+「六君子湯」(健脾利湿)

または+「胃苓湯」(利水、理気、和中)

〇胃痛のとき+「小建中湯」(和中止痛)

〇悪心嘔吐するとき+「小半夏湯」(和胃止嘔)

精神疾患

加味逍遙散は解鬱作用が優れ、肝気鬱結による諸症状(両脇脹痛、憂鬱状態、イライラなど)に広く使用されます。

〇憂鬱状態が強いとき+合歓皮、鬱金(疏肝解鬱)

〇動悸があるとき+「天王補心丹」(養血安神)

または+柏刋ー、遠志(養心女神)

〇不眠のとき+「酸棗仁湯」(清熱除煩、安神)

〇汗が多いとき+「桂枝加竜骨牡蛎湯」(固表止汗)

婦人科疾患

婦人科疾患は肝鬱、気滞、血瘀によるものが多く、月経不順をはじめ、生理痛、子宮内膜症、子宮筋腫などに広く用いられます。

〇月経不順:慎頻発月経のとき+「加味帰脾湯」(益気摂血)

〇稀発月経のとき+「十全大補湯」(益養血)

〇生理痛があるとき+「温経湯」(散寒活血止痛)

〇子宮筋腫があるとき+「桂枝茯苓丸」(活血消塊)

〇乳房にしこりがあるとき+陳皮、青皮、川芎、夏枯草、牡蛎、貝母、昆布(理気・化痰・散結)

または+「二陳湯」(燥湿化痰)

  • 肝·脾の失調や血の不足、熱証を改善

更年期障害や月経不順、胃炎などに使用

加味逍遙散は、更年期障害などに頻用される処方です。医療用エキス剤の効能には、体質虚弱な婦人で、月経不順、更年期障害、血の道症などの症状がある場合と記載されています。

加味逍遙散と言えば、神経質で訴えの多い女性を連想しがちですが、実際にはもっと応用範囲が広いです。文字通り逍遙散の加減方なので元の逍遙散を知ることで活用の幅を広げたいです。

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