腫れ物やおでき、歯肉炎に用いられる排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)の効果と副作用

漢方事典

排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)は、中国の古典医学書で漢方の原典の金匱要略(きんきようりゃく)に収載されている排膿散(はいのうさん)と排膿湯(はいのうとう)を組み合わせた処方です。膿のある腫れや痛みによく使われます。

排膿散及湯を構成する生薬

膿を排出する作用がある桔梗(ききょう)を中心に、炎症や痛みを抑える枳実(きじつ)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)、その他には大棗(たいそう)、生姜(しょうきょう)といった計6種類の生薬が含まれています。

膿が出る?粉瘤には効き目がある?排膿散及湯の効果

排膿散及湯は、その名の通り「膿を排出」する働きがあり、化膿を改善する効果を持ちます。応用できる疾患・症状や、飲み方のポイントを紹介します。

排膿散及湯は化膿性の腫れ物・おできによく使用される

西洋医学の治療では切開して抗生物質を処方するような腫れ物・おできでも、排膿散及湯を処方すれば切らずに治療できる場合があります。患部がじゅくじゅくと湿っているようなニキビには排膿散及湯ではなく、十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)が処方されることもあります。

排膿散及湯は粉瘤に用いられる場合もある

粉瘤(アテローム、もしくはアテローマ)は、皮下組織に袋状の構造物ができ、皮脂や角質などが溜まる腫瘍のことです。良性疾患なので放置しても問題ありませんが、細菌感染により炎症が発生している場合は抗生物質などを投与のうち、切開し摘出します。この粉瘤の治療に排膿散及湯が使われる場合があります。

排膿散及湯は歯肉炎や歯槽膿漏に有効な場合も

排膿散及湯は化膿性の皮膚疾患に対処できるほか、歯肉炎や歯槽膿漏といった口腔内の症状にも用いられます。アレルギーなどが原因で抗生物質を使えない場合に、抗菌作用のある排膿散及湯が活躍します。

排膿散及湯の副作用

排膿散及湯で起こりうる副作用としては、胃の不快感や軽めの吐き気、食欲不振で、重大なものに関しては偽アルドステロン症による血圧上昇、むくみ、体重増加や、低カリウム血症による四肢痙攣・麻痺などのミオパチーなどがあります。

偽アルドステロン症やミオパチーはめったに起こる副作用ではないものの、異常を感じた場合はただちに医師や薬剤師に相談してください。

処方のポイント

排膿作用の桔梗や甘草を中心に、消化器を保護し賦活する生姜や大棗、甘草と止痛効果の芍薬甘草湯の構成を合わせもちます。
膿のある腫れや痛み等に適応します。
甘苦味です。

排膿散及湯が適応となる病名・病態

保険適応病名・病態

効能または効果

患部が発赤、腫脹して疼痛を伴った化膿症、毛包炎、癤腫症、毛嚢炎などの細菌性の皮膚疾患。

漢方的適応病態

化膿性疾患。

排膿散及湯の組成や効能について

組成

桔梗5 枳実3 芍薬3 生甘草3 大棗3 生姜1

効能

理気和血・排膿

主治

化膿不通

◎化膿不通:化膿物が充分に排出されない状態を示します。

解説

排膿散及湯は吉益東洞が『險匱要略』の「排膿故」と「排膿湯」を合方した処方です。
排膿作用によって、膿を外に排出することができます。

適応症状

◇皮膚腫痛

熱毒の邪気が侵入して局部の気血の流れを阻滞すると、肉が腐り壅滞して膿が形成されます。
局部が腫れて「不通則痛」となり痛みがおこります。

◇苔薄

全身症状は進行していないので、苔質に変化はみられません。

◇脈滑

膿が存在するときは滑脈が現れることがあります。
脈の変化がないときもあるでしょう。

排膿散及湯はすべて穏やかな生薬によって組成されています。

桔梗は「排膿散」にも「排膿湯」にも配合されている排膿薬で、本方の主薬です。
薬性は平で排膿作用が優れ、内癰(臓腑の癰証)と外癰(皮膚の癰証)の双方に用いることができます。
枳実の作用は理気よりむしろ破気(気滞を強く破る)に近く、局部の腫れた症状を治療します。
また化痰作用によって桔梗を補佐し、膿をすみやかに外へ排除するでしょう。
芍薬は性質の穏やかな養血和血薬で、緩急止痛作用によって局部の疼痛を鎮めます。
皮膚腫脹(気滞・血瘀)の症状に対しては理気薬(枳実)と、血分薬(芍薬)の配合が効果的です。
生甘草は清熱解毒し、胃気を保護する作用があります。
大棗は陰薬であり生姜は陽薬で、2つの薬の配合によって陰陽・気血を調和し、正気を助けることができます。

臨味応用

◇皮膚の化膿疾患

各種の皮膚の化膿疾患に用いられます。
例えば癱、癤、にきび、淋巴腺炎、蜂窩織炎、扁桃腺炎、歯槽膿漏、麦粒腫などの初期に用いられます。
全身症状が軽く、皮膚がやや赤く腫れる、疼痛をともなう場合に適しています。
本処方の主作用は排膿にあり、清熱解毒作用は弱いでしょう。

◎局部の熱感や腫れがひどいなど、熱毒が強いとき+「黄連解毒湯」(清熱解毒)

◇臟腑癰証

肺癰(肺膿瘍)、腸癰(虫垂炎など)、乳癰(乳腺炎)などの補助治療に用います。作用が軽いので初期症状に用います。

◎発熱舌紅、苔黄のとき+「黄連解毒湯」(清熱解毒)

◎腹痛発熱、便秘のとき+「大黄牡丹皮湯」(清熱涼血・排膿通便)

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