肺炎の診断方法…血液検査の数値と重症度の判定方法

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肺炎は非常にありふれた疾患といえます。高齢者で熱が出たり咳や痰が出たりした場合はまず疑って検査を行います。

ここでは肺炎の診断方法や血液検査の数値の考え方、重症度の判定方法について解説します。

肺炎の種類

肺は肺胞というちいさな袋がたくさん集まった臓器です。肺炎は肺に炎症が起こる病気ですが、大きく分けて2つに分かれます。

1つ目は、肺胞の中に起こる肺炎です。多くの場合、細菌やウイルスなどの微生物や、その他の異物が肺の中に入り込み、それを排除しようとして自分自身の免疫を司る細胞や物質が肺胞の中にしみ出してきて炎症が起こるものです。

炎症は、微生物や異物を排除するための反応です。炎症が起こることで、肺胞の中に水分がしみ出してきて、また熱が出ます。水分や粘液、免疫成分、異物などが混ざって痰となり、咳によって体の外に吐き出されます。ですので、このような肺炎の場合は症状として咳、痰、発熱が見られます。

もう1つの肺炎は、肺胞の壁そのものに起こる肺炎です。この肺炎のことを間質性肺炎といいます。肺の壁の中には毛細血管と弾性線維という線維がありますが、そこに炎症が起こります。この場所を肺の間質といい、そこに起こる肺炎のことを間質性肺炎といいます。間質肺炎の場合、基本的に肺胞の中には影響がありません。

ですので、原因は空気中からやってくるのではなく、自分の体の中からやってきます。自分自身の免疫異常や、薬剤によって引き起こされます。症状としては酸素の取り込みが低下することによる息切れや、咳などで、痰はあまり出ません。じわじわと悪化することが多く、呼吸苦が強くなって救急車で運ばれるというより、息苦しさがだんだん悪くなっていくことが多いです。

以下では特に注釈が無い限り、肺胞の中で炎症が起こる肺炎の診断について解説します。

肺炎の検査

肺炎の検査には主に血液検査、画像検査、呼吸機能検査があります。

血液検査の種類と数値

肺炎の場合、血液検査を行うと肺での炎症を反映して炎症反応が上昇します。

肺炎が疑われる白血球の数値

白血球は免疫の根幹をなす細胞で、好中球や好酸球、リンパ球などがあります。

白血球の値は、基準値として3500~9700/μlぐらいの値が一般的に用いられます。病院や診療所などの施設によって値は変わります。肺炎になるとこの基準を超えて上昇します。

ただし、肺炎を疑うときには白血球の値そのものも確認しますが、それ以上に白血球の割合を確認することが多くあります。

一般的な肺炎の場合、白血球の中でも 好中球という成分が上がってくることが多くあります。 そのため、 白血球の中でも 好中球の値が著明に上昇していると、肺炎である可能性が高いという風に考えることが多くあります。

ただし注意しなければならないのは、白血球や、その中でも好中球な値が上昇してくるのは、 肺炎だけではないということです。肺炎以外にも、様々な細菌の感染症が全身のどこかで起こっていると上昇してきますし、 ストレスによっても上昇してきます。他にも薬によっても上昇してくることもありますので、白血球が増加しているすなわち肺炎である、といった診断はできないことになります。

肺炎が疑われるCRP(C反応性蛋白)の数値

CRPというのは、アミノ酸206個からなる物質で、体の中で何らかの炎症や組織の破壊が起こった時に血液中に漏れ出てくるタンパク質になります。何もない時に比べて、炎症が激しい時には、最大で1万倍近くまで上昇してくるため、様々な炎症や組織障害、悪性腫瘍の場合に状況を確認するために検査をされます。

白血球の上昇に比べて、CRPの上昇は比較的ゆっくりですから、肺炎が起こったすぐの時にはあまり上昇していないことが多いですが、1日以上経つと急激に増加してきます。 

そして炎症や組織障害などの、CRP上昇をきたす原因となる疾患がなくなったら、血中濃度は比較的速やかに低下してくるため、その時々の炎症の程度を示す指標としてよく利用されます。

CRPの値は、何もない状態であれば0.2~0.5mg/dL 程度を超えることはありません。しかし、何らかの異常が起こると、この値を超えてきます。

炎症が非常に激しいと20mg/dLを超えてくるようなこともありますが、値が低いからと言って、炎症の程度が少ないというわけではありません。その値の大きさが、炎症の程度を直接 反映しないということには注意しなければなりません。

また、白血球と同じように、CRP自体は様々な疾患で上昇してきますから、これが上昇しているから肺炎であるということは確定はできません。

肺炎が疑われるSpO2(経皮的酸素飽和度)の数値

SpO2とは、動脈の血液に酸素がどれだけ含まれているかを示す値になります。酸素は赤血球の中のヘモグロビンに結合して運ばれますから、動脈を流れているヘモグロビンのうち何パーセントに酸素が結合しているかというものを値として表示します。

測定するのは、指先にセンサーをつけるだけで簡単にできます。赤い光を当てて、拍動がある部分を動脈と検知し、その中を通るヘモグロビンの吸光度を測定することによって値を導き出します。 

子供の頃には100%となることも多いですが、成長し老化していくにつれて、だんだんと値は下がっていきます。それでも概ね 96%以上は保たれているはずです。その状態で、喘息や慢性閉塞性肺疾患など様々な呼吸器疾患や、心不全などの循環器疾患などがあると、普段から低い値で過ごすことになります。

特に病気のない状態で、普段から96%以上ある人が96%を下回ってくると何らかの異常が考えられます。普段の値から急に下がることがあれば異常があると考えて原因を探します。原因としては様々な疾患が考えられ、肺炎もそのうちの1つですから見落としがないように血液検査や尿検査、レントゲンやCTなどの検査が予定されていくことになるでしょう。

他に炎症を示す検査所見としては赤沈という血液検査があります。赤沈とは赤血球沈降速度の略で、その名の通り血液を放置したときに赤血球が沈んでいく速度を測ります。体内で炎症が起こるとこの速度が速くなります。

いずれも、肺炎にかかわらず体内で何らかの炎症が起こったときに上昇します。しかし、炎症があれば必ずこのように反応するわけではなく、例えば白血球は炎症以外の原因で上昇することもありますし、非常に強い炎症の場合には炎症を起こす白血球が枯渇してむしろ減少してしまうことがあります。

つまり、血液検査でこれらの値を測定しても、「体内で炎症が起こっている可能性が高い」ということが分かるだけで、どこに炎症があるかは分かりませんし、確実に炎症があるといい切ることもできないのです。

一応、一部の細菌の場合は細菌が同定できる特殊な検査があります。しかし、過去に感染していた場合でも検査値が上昇しますから、今現在の肺炎で上昇しているか分かりません。もちろん他の原因で肺炎が起こっているのであれば検査結果は陰性になってしまいます。

このように、肺炎の場合は血液検査だけで肺炎と確定することはできません。

画像検査

胸部レントゲン検査やCT検査などの画像検査を行います。

肺炎では、炎症の影響で肺胞の中に水がしみ出してくると説明しました。レントゲンやCT検査で空気は黒っぽく映り、水分は白っぽく映ります。そのため、普通の肺は空気がいっぱい含まれていますから、黒く映ります。肺炎が起こると、水分が肺胞の中に多くなりますから、白っぽく映ります。

ただし、肺炎も初期にはまだ水がしみ出してきていない時期がありますから、その時期には画像撮影をしてもあまり所見が認められない場合があります。

また、肺胞の中に水がしみ出してきていれば、炎症がなくても肺が白く写ります。心不全や腎不全で水分が肺にたまってしまう場合も同じようにレントゲンやCTで肺が白くなります。ただし、それらの病気の場合は肺炎とは白い影の分布が異なることがあり、ある程度の鑑別は可能です。

呼吸機能検査

肺炎は呼吸器の病気だから、呼吸機能検査を行うべきだと思うかもしれません。

呼吸機能検査は思いっきり息を吸い込んで、そこから一気に息を吐き出すことで検査を行います。しかし、肺炎の際には咳や痰が出ていますから、しっかりと吸って吐いてをすることができず、正確なデータを取ることができません。

ただし、2種類の肺炎のうち、間質性肺炎については呼吸機能検査が行われます。間質性肺炎になると、肺が硬くなってしまい、なかなか膨らむことができなくなってしまいます。そのため、思いっきり吸って吐いてとしたときの肺活量が大きく下がります。

年齢や体格から求められる、推定の肺活量に比べて、間質性肺炎が重症化してくると7割以下にまで肺活量が低下してしまいます。

この呼吸機能検査は重症度の判定や治療効果の判定にも使用されます。

重症度の判定

肺炎の重症度は血液検査やA-DROPと呼ばれる方法で行われます。

先ほど述べたとおり、血液検査の中でも炎症反応は肺炎になると基本的には上昇します。しかし、非常に重症になると白血球が逆に減少することもありますし、CRPに関しては重症でもなかなか上昇しない肺炎もあります。

また、肺炎以外の全身状態によっても検査値は変化しづらくなります。非常に衰弱している場合はCRPや白血球を産生する能力が低下しており、肺炎が重症化していても大きな変化が見られないことがあるのです。

血液検査だけでは軽症かどうかを正確に判定できないため、医師は肺炎を診療するとき、重症かもしれないと常に思いながら診療を行っています。

A-DROPとは

肺炎の重症度は、ひとつの所見だけで判定をする事は困難です。そのためさまざまな重症度判定法があります。

A-DROPは最も有名な肺炎の重症度判定法です。以下の検査項目の頭文字を取って、そう名付けられています。

A:Age(年齢) 男性 70 歳以上、女性 75 歳以上

D:Dehydration(脱水) BUN21 ㎎/dL 以上または脱水あり

R:Respiration(呼吸状態)SpO2≦90%(PaO2 60Torr 以下)

O:Orientation(意識障害) 意識障害有り

P:Pressure(収縮期血圧) 収縮期血圧 90 ㎜Hg 以下

これらの項目をひとつひとつチェックし、合計いくつの項目が当てはまったかという数で評価をします。

いずれも当てはまらなければ軽症です。1つか2つが当てはまるものが中等症、3つが当てはまると重症、4つか5つ当てはまると超重症とされます。ただし、意識障害と血圧低下については1項目しか当てはまらなくても超重症と判定されます。

これによって重症度判定をした後、基本的には中等症以上の場合は入院で治療を行います。ただし、家庭の状況や合併症の有無によっては入院を選択しないこともあります。

A-DROPの他にも、CURB-65や、Pneumonia Severity Index(PSI)という評価法がありますが、項目がやや違うだけで、いずれも同じような評価になります。

病原体の同定

病原体を同定するためには、痰の塗抹検査、培養検査、そして血液培養検査が行われます。

痰の塗抹検査というのは、痰をプレパラートにとり、染色を行って顕微鏡で観察を行います。痰は微生物を排出するための生体反応ですから、痰の中には微生物が含まれています。それを顕微鏡で確認してやろうという事です。

痰の中には、口の中に普通の人でもいる細菌が混じってきます。しかし、感染を起こしている病原体となっている細菌は、白血球の中に捉えられている像が認められますから、感染の原因だと推定することができるのです。

細菌は染色をしてやると、それぞれ特徴的な色や形に染まり、ある程度どのような菌なのかが推定できます。しかし、似たような形の細菌もいますから、最終的には痰の中の細菌を培養して種類を同定します。

肺炎が重症化すると、血液中にも菌が混ざり、全身に行き渡ります。血液中に菌が混じってしまっていないか、さらには血液中に混じっている菌が何なのかを判定するために、血液培養検査が行われます。これも痰の培養と同じように、血液中の細菌を培養することで細菌の種類を同定したり、どのような抗生剤が効果的なのかを調べたりすることができます。

ただし、この痰や血液の培養検査は数日かかりますから、一番細菌の情報が欲しい最初の時期に検査結果を得られません。また、肺の中で炎症が起こっていても血液中に菌がいなければ血液培養を行っても菌は増殖しません。高齢者の場合、なかなか痰が出せないことも多く、痰を採取できず痰の検査が困難なケースもあります。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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